バーチャルパワープラントから見えた 新時代ビジネスの鼓動

2019/05/22 Toshiba Clip編集部

この記事の要点は...

  • VPP(バーチャルパワープラント)は次世代の電力流通プラットフォーム
  • インフラ構築の知見、先端IoTを駆使してVPP事業を創造する東芝の姿
  • 若い力が結集し、スピード感あふれる事業開発を目指す
バーチャルパワープラントから見えた 新時代ビジネスの鼓動

VPPというエネルギーフロンティアの先に

近年、エネルギー業界のキーワードとして注目を集めている「VPP」。バーチャルパワープラント(仮想発電所)という名前のとおり、蓄電池、分散電源など散在するエネルギー源をIoT機器によって遠隔で制御し、あたかも一つの発電所のように機能させるというものだ。

 

世界、そして日本でも、化石燃料による大規模発電からの脱却を模索する動きが広がってきた。クローズアップされるのは太陽光発電、風力発電といった再生可能エネルギーである。しかし、再生可能エネルギーは天候などの自然条件によって発電量が大きく左右されるのがネガティブファクター。普及が進むにつれ、エネルギー供給が不安定になるのは避けられない。

 

そこで、大規模発電と分散型電源をスマートに制御し、電力網の需要・供給バランスを調整するソリューションとしてVPPに期待がかかる。もちろん、メリットはそれだけではない。新エネルギー時代のインフラは化石燃料に依存しない脱炭素社会への切り札になる。様々なプレイヤーが参入するプラットフォーム創出は経済の活性化にも好影響をもたらすし、エネルギーコストの削減は私たち消費者、家計への還元にもつながるだろう。

VPPがもたらすメリット

東芝グループでは、東芝エネルギーシステムズ株式会社がVPPにフォーカスする「エネルギーIoT推進部」を立ち上げ、事業化に向けた取り組みを多角的に進めている。VPPというフィールドでどのように優位性を発揮し、次世代エネルギーサービスをどう具現化していくのか。東芝エネルギーシステムズ株式会社 エネルギーIoT推進部の3人にご登場いただこう。

東芝エネルギーシステムズ株式会社 グリッド・アグリゲーション事業部 エネルギーIoT推進部(左から)木村功太朗氏、新貝英己氏、丸山ほなみ氏

実証実験から事業化へ! すぐそこにあるVPP

2016年度から2年間、東芝エネルギーシステムズはIoTを活用して複数の蓄電池を制御する実証実験を実施。その後、2019年より、実証事業の実績や取り組みが評価され、東京電力エナジーパートナー株式会社と組み、横浜市内の小学校11校に設置された蓄電池を「群」として遠隔で制御するVPP運用サービスを開始。非常時に必要な電力は確保しつつ、電力系統や蓄電池の状況に応じた効率的な運用にトライした。

出典:東芝エネルギーシステムズ株式会社プレスリリース

出典:東芝エネルギーシステムズ株式会社プレスリリース
https://www.global.toshiba/jp/news/energy/2018/12/news-20181217-01.html

「私たちは複数の蓄電池を効率的に制御する技術を開発し、分散電源に対応できるシステム、仕組みを構築してきました。エネルギーIoT推進部では、複数の実証実験が並行して行われています。私は蓄電池および太陽光発電設備を第三者(小売電気事業者)が保有し、蓄電池を活用しながら需要家の敷地内で発電した電力を施設に提供する、オンサイト発電サービス実証の運用を担当しました。」(丸山氏)

東芝エネルギーシステムズ株式会社 グリッド・アグリゲーション事業部エネルギーIoT推進部 丸山ほなみ氏

東芝エネルギーシステムズ株式会社 グリッド・アグリゲーション事業部
エネルギーIoT推進部 丸山ほなみ氏

「蓄電池を太陽光の余剰吸収に活用するだけでなく、ピークカットや小売電気事業者の電源の仕入れコスト改善に活用するなど、マルチユースを考慮し制御することが東芝の役割です。本実証実験において、パートナーの小売電気事業者と緊密にやり取りしながら、不具合などを開発チームにフィードバックし、システムをより良いものにしていったのです。VPP運用サービスの事業化に向け、大きな意義があった実証実験でした」(丸山氏)

VPP運用イメージ

横浜の事例は事業として運用サービスをスタートしたが、現在進行形の取り組みはどうだろうか。折しも、2019年は住宅用太陽光発電の余剰電力を国が買い取る「固定価格買取制度」の保証期間が終了し始めるタイミング。余剰電力の行き先はどうなるのか?ここに新たなビジネスチャンスがある。

 

「余剰電力を需要家どうしで取り引きし合う「ピア・ツー・ピア取引」のプラットフォーム事業ができないかと考え、海外の事例などを参照しながら、事業の可能性を模索しています。このプラットフォーム事業では、例えば仮想通貨やポイントなどを活用することで、エネルギーの枠を越えた、スケールの大きなプラットフォームも構想できます。モノ、サービスを売るだけではなく電力というフィールドを越えたビジネスが視野に入る。大きなチャンスがVPPにはあると感じています」(木村氏)

歴史あるインフラと最先端IoTの融合がもたらすもの

VPPの生命線は発電・蓄電設備などのインフラと最先端IoT技術のマッチングにある。長年にわたって電力インフラの構築に携わり、再生可能エネルギーの技術を培ってきた東芝は、そのノウハウを最大限VPPに生かしていく。

 

「東芝は日本中の電力会社に電力系統の技術を提供してきました。再生可能エネルギーでは発電量や、需要量などを予測し、制御していく技術が必須です。私たちは太陽光発電、蓄電池の挙動がインフラに与える影響を熟知しています。分散電源からデータを集め、制御していくVPPには、この強みを発揮できるでしょう。

 

また、VPPはこれまでにない新しいエネルギー分野。国が主導して新たな仕組みづくり、制度整備も進められています。東芝は長年にわたって国や電力会社と共にビジネスをしてきました。業界全体を視野に入れたアーキテクチャを描くことができる数少ない企業だと自負しています。エネルギーの歴史を見ながら、系統技術から需要家の生活環境まで網羅してきた東芝だからこそ、できることがあるはずです」(新貝氏)

東芝エネルギーシステムズ株式会社 グリッド・アグリゲーション事業部 エネルギーIoT推進部 部長 新貝英己氏

東芝エネルギーシステムズ株式会社 グリッド・アグリゲーション事業部 エネルギーIoT推進部
部長 新貝英己氏

では、最先端のIoT技術ではどうか。東芝グループの東芝デジタル&コンサルティング株式会社ではデジタルトランスフォーメーション分野での組織構築、人材強化を進めている。

 

東芝グループの強みは、広い業務領域をカバーしていて、フィジカル(実世界)の知見と技術とデジタルを組み合わせられること。これはCPS(サイバーフィジカルシステム)という時代のキーワードそのものです。エネルギーという枠を越えた、フィジカルとデジタルの融合が新たな知見になります」(新貝氏)

20~30代の社員がけん引し、VPPビジネスが生まれる

VPPの事業化に取り組むエネルギーIoT推進部は、20代~30代のメンバーが結集したフレッシュな陣容。実証実験から事業化までを視野に入れた少人数プロジェクトを多数スタートさせ、スピード感をもって取り組んでいる。

 

「VPPの事業化に取り組む上で、発電・系統・小売の各事業内容や、IoTといった情報技術を理解する必要があり、VPPがカバーする範囲は多岐にわたります。我々の部門には、そういった電力業界や情報技術の知見を持った社員がおり、日々勉強をさせてもらっています。また、20代~30代のプロジェクトリーダーが多く、若い社員の声が通りやすい雰囲気があります。新しい分野に取り組める環境に、変革のムードを感じています」(丸山氏)

 

「我々の部門では新たなシステムの開発手法としてアジャイル開発を採用しています。東芝デジタル&コンサルティングと連携し、現場の要望を開発者にフィードバックしてすぐさま反映し、実装を進めているので、スピード感のある開発ができています。この手法は、制度(事業を行う上でのルール)変更によって客先のニーズが変わる本業界には適していると感じています。」(木村氏)

東芝エネルギーシステムズ株式会社 グリッド・アグリゲーション事業部 エネルギーIoT推進部 木村功太朗氏

東芝エネルギーシステムズ株式会社 グリッド・アグリゲーション事業部
エネルギーIoT推進部 木村功太朗氏

同部は、社内公募により、様々な得意分野を持った社員が自分の意志で集まってきた部門。エネルギー分野で奮闘してきたエキスパートや、IoT、デジタル系のエキスパートも揃う。発電機器や送変電機器などの製品供給により蓄積してきたノウハウに加え、IoTの活用による電力需要予測・分析・最適化技術を融合し、積極的にVPP運用サービスの事業開発にチャレンジしていく。

 

「新たな分野の創造に関わったり、自分たちで生み出したりすることができる部門です。今までは考えられなかったような分野のプレイヤーとコラボレーションしながら事業を大きくさせる局面も出てくるでしょう。ただ、VPPは新しい分野なので、これまでの成功パターンだけでは通用しません。まずはトライし、失敗したらフットワーク軽く次のチャレンジに歩を進める。その繰り返しで、新しいビジネスを創造していきたい。そのためにも、若いメンバーが『私はこれをやりたい、取り組みたい』と自由に言える環境を作っていければと思います」(新貝氏)

インタビュー後の3人

スタッフが熱く創造するアイデア、ビジネスの種は引きも切らない。これまで培ってきたインフラのノウハウ、知見と最先端のIoT技術、そして、若手社員の創造力――すべてを融合させ、VPPというフロンティアに新たな一歩が踏み出されようとしている。

関連サイト

※ 関連サイトには、(株)東芝以外の企業・団体が運営するウェブサイトへのリンクが含まれています。

蓄電池をIoTで制御するバーチャル・パワープラント運用サービスを開始 | ニュースリリース | 東芝エネルギーシステムズ

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