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環境変化に負けないモノづくり。東芝のAI技術による、人と機械の役割分担。


環境変化に負けないモノづくり。東芝のAI技術による、人と機械の役割分担。

この記事の要点は…

モノづくりの最適化・自動化を進め、人は創造的な仕事に集中

人間が感覚で製品の品質を判定していた『官能検査』を、AIが担当

現実空間とサイバー空間をつなぎ、自律型の溶接システムを開発中

ヒトやモノのデータが即座に共有され、つながる世界。企業が競争力を確保し、新型コロナウィルス感染症等による環境変化においても、社会インフラを中心とした価値を継続して提供するためには、現実世界のデータをどう収集・解析して、再び現実世界へとフィードバックするか、その巧拙が問われる。

東芝は、データとAI技術の組み合わせによる自動化で機械に任せられるプロセスは機械に行わせ、人は人にしかできない創造性を発揮することで、環境変化に強い体制を構築し、140年以上の歴史を持つモノづくりを革新しようとしている。その最前線の動きを追った。

匠の技を、データを介してAIに実装

ヒトやモノが生み出すデータは増え続けており、企業のあり方や、競争原理を変えている。膨大なデータをどう活用し、価値へと結びつけるのか。今、企業にはイノベーションが求められている。具体的には、多様かつ大量のデータを収集し、それを人工知能(Artificial Intelligence: AI)で解析し、いかに社会課題の解決へつなげられるかが問われている。

AIについては、2016年に「AlphaGo(アルファ碁)」がプロ棋士に勝利するなど、深層学習の技術が注目されている。深層学習では、何層も積み上げられたネットワークに多くのデータを機械学習させることで、複雑な事象の解析が可能になる。では、社会の主要プレーヤーである企業は、データとAIの組み合わせでどのような価値を生んでいるのだろうか。

例えば、製造業。東芝では、モノづくりの企画・営業、開発・設計のプロセスから、据付や保守というプロセスまでをデータで一気通貫につなぎ、AIによる解析を通じて品質・納期・コストのバランス最適化などの価値を生もうとしている。製造業の競争領域は、今や完成した製品だけではなく、そのバリューチェーン全体に及んでいるのだ。モノづくりの最適化・自動化が進めば、人は創造的な仕事に集中でき、次の新たな価値を生める。

また、モノづくりの最適化・自動化は、新型コロナウィルス感染症等による環境変化においても、モノづくりを止めずに安定供給を守り、同時に人は緊急対応等に集中することを可能にする。東芝は、新型コロナウィルス感染症拡大防止のための緊急事態宣言(2020年4月)を受け、保守や社会活動の維持に必要な業務等を維持しつつ、基本的には製造現場を含めて出社制限をかけたが特に混乱はない。これには、人と同等以上の判断が可能なAI技術等もいちはやく実用化し、生産ラインの自動化を進めていることが大きく影響している。今後、人と機械の役割分担をさらに加速する研究を、二人の若手エンジニアに聞いた。

「工場の製造ラインで不良品を見つけて除外する検査工程において、視覚など人間の感覚に頼って製品の品質を判定する『官能検査』をAIに担わせることで、常に同じ基準で検査をし、見逃しも無くそうとしています。また、官能検査の現場でも働き手が不足していて、熟練者の技をどう継承するかが課題です。そこで、AIの深層学習を活用して、匠の暗黙知を機械に実装させることを研究しています。貴重な人材は、機械が検出した不良品の分析や、品質の安定化に向けた改善策やその運用を練ることに集中してほしいと思っています」

そう語るのは、チームで研究を進めている、株式会社東芝 生産技術センターの廣瀬佑介氏だ。

株式会社東芝 生産技術センター 製造プロセス・検査技術領域 光学技術研究部 研究主務 廣瀬佑介氏

株式会社東芝 生産技術センター 製造プロセス・検査技術領域 光学技術研究部

研究主務 廣瀬 佑介氏

人間が行う官能検査は、人によってスキルや感覚が異なるため、どうしても良品・不良品の判定基準にぶれが生じる。特に溶接や成型などの加工では、熟練者でないと出来ばえの良し悪しを判定することが難しい。そこで、熟練の技術者たちが良品と判定した加工品の画像データから、基準となる良品モデルを抽出したAIを使うことで、ぶれの少ない安定した検査を実現できるという。だが、この良品モデルを作成するためのデータもやみくもに収集するだけではうまく行かない。なぜなら、加工品の形状や外観は、加工に使用した装置の個体ごとに微妙に異なったり、材料のロットの違いによる影響を受けたりして、複雑なバラツキを持つからだ。組み立て品であれば良品の外観はどれもよく似ており、平均的な外観そのものが良品モデルとなるが、加工品では単純に全ての製品の外観の平均をとるだけでは意味のあるモデルにならない。廣瀬氏のチームはこの問題を解決するため、様々な条件での良品データを網羅的に収集して、それに深層学習を適用することによって、加工品でも良品モデルを適切に構築できるように研究中だ。

画像データ分布に応じた良品のモデル化

画像データ分布に応じた良品のモデル化

このデータ収集で、東芝のモノづくりの歴史が生きた。東芝の熟練の技術者は、この機械、この材料、この条件なら、こういう出来ばえで加工できる、ということを肌感覚で知っている。廣瀬氏たちチームメンバーは、何度も工場に足を運んで技術者にヒアリングを重ねて、泥臭く必要なデータを集めた。また、安定して良質な画像を撮影するためには「製造ラインのどの場所で、どういう条件で撮影すれば良いのか?」といったノウハウも、東芝のモノづくりの実績の中で培われたという。そして、AIが導き出した良品モデルが、本当に適切な加工品か否かを、技術者たちと丁寧に摺り合わせて確認していった。

さらに、廣瀬氏たちのチームは、深層学習を使う際に生じるブラックボックスという課題も克服しようとしている。深層学習を用いたアプローチでは、入力された良品画像のデータを何層も積み上げられたネットワークに通すことによって、良品の特徴を自動的に学習する。そのため、「なぜ、これが良品・不良品と判断されたのか」という検査結果の説明が難しく、使う人にとっては根拠不明(ブラックボックス)になってしまう。廣瀬氏たちは、深層学習が判断の際に画像のどこに注目したかを可視化する技術を応用することでAIの説明力を上げ、このソリューションを活用する人たちの納得感を高めようとしている。

欠陥品を効率的かつ安定的に検出できれば、企業の生産性が上がるだけでなく、製品出荷後のクレームや、さらには欠陥製品の回収・修理(リコール)など問題も解消することができる。それは、まさにAI技術を活用したモノづくりのイノベーションといえるだろう。

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