100年に一度のクルマの変革を、パワー半導体が支える!

2023/10/04 Toshiba Clip編集部

この記事の要点は...

  • 電動化・電装化が進むクルマで、パワー半導体が鍵を握る!
  • 進化し続けるパワー半導体の最前線!
  • シミュレーション支援技術で、クルマの開発を大幅短縮!
100年に一度のクルマの変革を、パワー半導体が支える!

突然の大雨に遭遇することが増えたり、台風の激化や猛暑が続いたりと、気候変動は私たちの日常を大きく変えている。CO2などの温室効果ガスが増え、それに伴って地球の気温が上がることが原因とされている。そのため、たとえばクルマを動かすために燃やすとCO2を排出するガソリンではなく、電気の力を使う「電動化」が注目されている。さらに、バックミラーの折り畳みや、ハンドル操作を早く軽くするパワーステアリングなど、クルマをより便利にする「電装化」も急速に進んでいる。

これらの電動化と電装化において、絶対に必要となるのがパワー半導体だ。電気の流れを整えるパワー半導体の開発、製造において、先頭集団を走り続ける東芝――。伸びゆくパワー半導体市場を前にして、何に取り組み、どのような価値を届けていくのか。シリコン、次世代といったパワー半導体の最新話題はもちろんのこと、クルマ開発の効率化を支援する取り組みまで紹介する。

クルマの筋肉や心臓、パワー半導体の真価とは?

上述の通り、気候変動の影響が深刻さを増し、CO2などの温室効果ガスの削減が求められる中、クルマのあり方も見直されている。日本のCO2排出量のうち、クルマを含む運輸部門からの排出は17.4%を占めており、その対策は大きな重みを持つ。そこで、100%電気で動く「電気自動車(EV)」、ガソリンと電気を使う「ハイブリッド自動車(HV・HEV)」や「プラグイン・ハイブリッド自動車(PHV・PHEV)」、そして水素で電気を作る「燃料電池自動車(FCV・FCEV)」など、様々な方法でクルマの電動化が進んでおり、これらはまとめて「xEV」と呼ばれる。さらにxEV、ガソリン車にかかわらず、バックミラーの折り畳みや、パワーステアリングなど様々な便利機能を電気でまかなう電装化も進んでいる。電気でクルマを動かし、便利機能を備えていくとき、電気の流れを制御するパワー半導体も進化するべきなのは当然だ。

では、パワー半導体は、クルマのどこに使われ、どのような役割を果たしているのだろうか。クルマを人間の身体に例えると分かりやすく、パワー半導体は「筋肉や心臓」にあたる。そして、計算などを行うCPU、アナログIC、メモリーは「脳」であり、安全のために外部状況や速度、現在地などを把握するセンサーは「目や耳」になる。

クルマにおいて、パワー半導体は「筋肉や心臓」の役割を果たす

クルマにおいて、パワー半導体は「筋肉や心臓」の役割を果たす

電気で動くxEVでは、ガソリンを燃やすエンジンではなくモーターが動力源になる。そして、ガソリンタンクではなくバッテリーや、タイヤの回転で発電するオルタネーターが電力を供給する。このとき、電力の供給や電圧を制御するのがパワー半導体であり、電気の流れをオン・オフしている。市場は大きく伸びており、2022年から2030年にかけてクルマ分野において毎年10%以上の成長が予測されている。現在は便利機能を増やす電装化によって市場が拡大しているが、将来のxEV普及によりパワー半導体の需要が膨らんでいく。

パワー半導体が大きな電流を扱うことができ、その電気の流れ(電流)を高頻度でオン・オフするほどきめ細かな制御が可能になり、私たちはクルマを快適に使える。だが、それは同時にオンとオフを切り替える時にどうしても生じる電気的な損失、いわゆる「スイッチング損失」が増えることを意味する。パワー半導体の開発では、オン状態での損失である「定常損失」も「スイッチング損失」も減らすことが問われる。この定常損失の代表的な指標として、「オン抵抗」の低減がある。東芝は、パワー半導体の製造方法などの工夫により、旧世代の製品と比べて15%の損失低減した第9世代を主力として社会に提供している。さらに、開発段階ではあるが第11世代として40%の損失低減を目指している。

東芝は、世界トップクラスの高性能を発揮し、スイッチング損失を低減している

東芝は、世界トップクラスの高性能を発揮し、スイッチング損失を低減している

進化するモビリティとともに! パワー半導体の最前線

温室効果ガスCO2の排出低減に向けて、東芝が現在最も注力するパワー半導体はSi-MOSFETだ。MOSFETは、クルマの電動化や電装化だけではなく、パソコンや家電、鉄道、データセンターなど様々な場面で私たちの暮らしに貢献している。ちなみに、頭のSiとはシリコンを表しており、Si-MOSFETはシリコン系のパワー半導体ということになる。

クルマにおいて、パワー半導体の活用場面が増えている

クルマにおいて、パワー半導体の活用場面が増えている

電動化や電装化が進むクルマにおいて、システムを電子回路によって制御する「電子制御ユニット」は2020年には1台あたり35個だった。それが2030年には48個、約1.4倍に増加すると見込まれている。それに伴って、パワー半導体であるMOSFETは169個から267個へと、実に1.6倍の量でクルマに搭載されていく※1

※1 本段落いずれの数値も、当社調べ・推計

このようにクルマに数多く搭載されるパワー半導体だが、走行時の振動や衝撃に強く、寒暖差や湿度の影響があっても変わらず働く安定性が求められる。一般用のパワー半導体なら150度までの温度で稼働すればいいが、クルマとなると時には175度までの高温でも作動し、不良率が限りなくゼロという高い要求に応えることが条件となる。不具合がそのまま人命に関わる車載部品だけに、高い基準を満たした開発・実装が求められるのだ。

東芝は、Si(シリコン)系のパワー半導体で60年以上前から研究を重ね、その技術蓄積を基盤に高性能の製品を開発してきた。たとえば、低耐圧MOSFET「U-MOSシリーズ」が世界トップクラスの性能を実現するなど、ラインナップは500品種以上。さらに、安定した供給に向けて量産能力、生産性のさらなる向上も目指している。

そして東芝は、パワー半導体の中でもより高効率となる次世代パワー半導体にも着目している。それがSiC(炭化ケイ素)だ。SiCはSi(シリコン)に比べて、高い電圧をより低い抵抗で制御できる。この特性により電子機器の高出力、高効率、小型化に貢献している。カーボンニュートラル達成に向け、xEVでは「CO2排出量の低減」「走行距離の延長」が重要になる。したがって、SiCによって消費電力を低減できれば、CO2排出量の低減はもちろんのこと、クルマに搭載される電子機器の小型化、軽量化によって今までより大きなバッテリーを搭載できるようになり、ひいては走行距離の延伸につながる。

SiC以外にも、次世代パワー半導体としてGaN(窒化ガリウム)の活用した半導体の開発も進めており、NEDO GI基金※2のSiC/GaNプロジェクトに採択されている。今後も、パワー半導体はさらなる高出力、高効率が求められていく。その結果、xEV、鉄道、洋上風力発電など、私たちの暮らしを豊かに、そして持続可能にするインフラが整っていく。東芝は、次世代パワー半導体においても、質(高性能)と量(量産能力)の両輪を駆動させていく。

※2 新エネルギー・産業技術総合開発機構が、グリーンイノベーション(GI)基金として重点14分野を支援

カーボンニュートラルへ向け、次世代パワー半導体の活用場面は増えている

カーボンニュートラルへ向け、次世代パワー半導体の活用場面は増えている

カーボンニュートラルへ、いかなる価値を生むのか?

クルマにおいて、「筋肉や心臓」の役割を果たすパワー半導体だけでなく、アナログICにも東芝は注力している。1980年代に製品をリリースして以来、これまで26億個以上のアナログICを量産してきた実績を持つ。特に、電動化に不可欠なモーター用途に強みがある。この領域も「高機能化」「小型化」がより強く求められており、2023年末のリリースを見込む「SmartMCDTM」は小型化、低消費電力化など、カーボンニュートラルを見すえた強みを持つ。

アナログICを、東芝は46年間で26億個を量産

アナログICを、東芝は46年間で26億個を量産

それだけではない。クルマの開発最前線で必須になりつつある、「モデルベース開発」への対応にも触れておこう。モデルベース開発(MBD=Model Based Development)とは、シミュレーションを駆使した開発手法だ。クルマの電装化が進み、多くの装置やセンサーなどを搭載するようになった。これは、車両の開発と並行して、ソフトウェアの開発も進むことを意味する。当然ながらすり合わせの工数は増えて開発期間が長期化し、コストも膨らみがちだ。MBDでは開発の各段階において、シミュレーションにより仕様をタイムリーに確認できる。これによって不必要な手戻りが防げるのだ。

 

この流れの中で東芝は、パワー半導体の熱やノイズのシミュレーションを支援する技術として「Accu-ROMTM」を開発した。これにより、お客様において従来は約33時間かかっていた熱やノイズのシミュレーションが、約3時間30分で完了できる。東芝はMBDへの支援を進め、お客様における開発の効率化に寄与していく。

ここまで述べたように、東芝はパワー半導体を含む車載用半導体において有形無形の技術資産を蓄積してきた。これからも生産能力の増強を図り、社会やお客様のニーズを汲み取ることで、新製品を開発し続けていく。変革期のモビリティに新たな価値を――突き動かすのはカーボンニュートラル社会への眼差し、「新しい未来を始動させる。」という強い意思だ。今後も、野心的な発想を展開し続けていく。

関連サイト

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東芝のパワー半導体

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