社会を支える超電導技術が、カーボンニュートラルの未来も拓く!
2023/10/31 Toshiba Clip編集部
この記事の要点は...
- 超電導は、電気抵抗がゼロになる現象。様々な領域で応用が進む!
- 超電導開発の黎明期1970年代から、モノづくりの東芝が応用技術を開発!
- 超電導は、カーボンニュートラルに向けた重要な技術として期待される!
上にある紫色のきれいな写真は、「超電導技術」によって電気抵抗がゼロの状態を実現し、円盤状の機器に一度流した電気がずっと流れ続け、機器が電磁力で宙に浮いている様子だ──。
最先端のがん治療に使われる「重粒子線治療装置」や、温室効果ガスを排出しない核融合発電「ITER」のコイル、電気の力で航空機を飛ばすモーターなど、Toshiba Clipでは超電導技術を活用した先進事例、それがもたらす新しい価値を紹介してきた。超電導とはそもそもどのような技術で、どういった試行錯誤を経て開発され、製品化が進むのか。東芝は1970年代から超電導技術に注力しており、様々な領域で私たちの社会を豊かにしていこうとする。この技術や製品の開発・設計に携わる2名に登場してもらい、過去から現在、そしてカーボンニュートラルに貢献する未来へと続く道筋をたどる。
医療から交通、製造業まで広く発展させる「超電導」とは?
マイナス273℃近くの極低温まで冷やした物質(超電導体)に磁石を近づけると、磁石が宙に浮く――「超電導の仕組み」を伝える実験を科学番組で目にしたことがないだろうか。オランダの物理学者カメリン・オンネスが、物理現象として超電導を発見したのは1911年のこと。以後、多くの企業や大学で超電導の研究が進められ、1970年代には超電導体の研究が一気に加速。社会での活用に向けた研究、産業への応用が進められた。製造業の先頭集団を走る企業が、超電導の研究開発に力を注ぐのはなぜか。東芝エネルギーシステムズの来栖 努氏が、超電導一筋のエンジニアとして、この技術の可能性を熱く語る。
「超電導とは、特定の金属や化合物を非常に低い温度に冷却すると、電気抵抗がゼロになる現象のことです。抵抗がある物質に電気を流すと、発熱するのはご存じの通りです。超電導ではそれが生じず、送電線に使えば無駄なく送電することができます」(来栖氏)
超電導状態では電気抵抗がゼロになり、電気が流れやすくなる
超電導材料をワイヤーにしてコイル状に巻き(超電導コイル)、電磁石にしたものが超電導磁石。医療、交通、製造業などで注目を集め、活用されているのはこの磁石である。永久磁石や、銅線で作った電磁石では不可能な、広い空間に非常に強力な磁場を発生できるのが特徴だ。
電気を流すことで、磁力(磁場)が発生する
「永久磁石は2テスラほどの磁力を磁極のそばに出しますが、超電導磁石だと40テスラ以上をより広い空間に出せます。この特徴を生かして、超電導磁石は身体内部を検査するMRI※1や、重粒子線治療装置といった医療機器、核融合発電の実験炉ITER※2、そしてヒッグス粒子を発見するための実験装置などに使われます。私たちの社会には多様な領域で、強力な磁場が必要になるのです。
生活に近いところでは、半導体などの製造装置でも超電導磁石が大きな役割を果たします。みなさんが使う電子機器に使用されている半導体も、超電導磁石を用いて製造されたかもしれません」(来栖氏)
※1 Magnetic Resonance Imaging(磁気共鳴画像)
※2 平和目的で、核融合エネルギーが成立することを実証する為に、人類初の核融合実験炉を目指す超大型国際プロジェクト
東芝エネルギーシステムズ株式会社 パワーシステム事業部 シニアフェロー 来栖 努氏
半導体の製造に使われる超電導磁石は、単結晶シリコンウエハー(薄板)の引き上げ装置用だ。半導体は、純度の高い単結晶シリコンウエハーを加工することで製造される。この過程で、単結晶の品質を上げるために超電導磁石が活躍する。超電導の応用でエネルギーを無駄なく送れ、医療や交通・輸送といった分野でも各種の応用が進んでいる。超電導が、私たちの社会に与えるインパクトは大きい。その他の分野での応用や、さらなる高機能化に期待がかかるゆえんである。
シリコンウエハー(イメージ)
超電導機器の開発で群を抜く、モノづくりの東芝の力とは?
世界で研究開発が進み、超電導技術は様々な製品として社会を支えてきた。ここで大事になるのが、超電導状態を安定的に実現することだ。前述のように、製造業の現場では超電導磁石が使われることが多いが、諸刃の剣なのが、強力な電磁力の影響で超電導コイルが機能しなくなることだ。当然ながら、超電導磁石の性能は下がる。超電導技術をどう社会に出すかを考えてきた、東芝エネルギーシステムズの下之園 勉氏は、「開発過程で電磁力を制御できず、電磁石が破損してしまったことは何度もあります。長期間安定した製品として送り出すために、コイルをいかに機能させるかを考え続けました」と、かつての悔しさをにじませた。この壁を超えるきっかけになったのは、エネルギー機器の製造で歴史を重ねる東芝の技術資産だったという。
東芝エネルギーシステムズ株式会社 パワーシステム事業部 京浜事業所 原子力機器装置部 フェロー 下之園 勉氏
「私が所属する京浜事業所は約100年の歴史を持ち、エネルギー機器の製造開発を重ねてきました。超電導磁石の開発に先駆け、大型発電機のコイル、モーターを手がけてきた実績があるのです。超電導磁石のコイルを強力な電磁力の下でも機能させるために、樹脂で固めるなど様々な方法が考えられました。そこに、発電機などで磨いてきた技術が生きました。発電機部門と連携し、蓄積された知見を活用しながら技術を高めてきました。これが超電導開発において、『東芝だからできること』につながります」(下之園氏)
また、超電導の状態を達成するためには「冷却」が不可欠だ。実現すべきは、ただの低温ではなく「極低温」。4.2K(ケルビン)――つまり、温度の下限である絶対零度(-273.15℃)より4度高いだけの約-269℃を維持する必要がある。東芝は、この冷却技術でも積み重ねを続けてきた。
「超電導磁石のコイルを収めるための容器に、私たちの独自の追求が生きています。冷却用の液体ヘリウムは、容器に充填する必要があります。そこで、ヘリウムを蒸発させないように、魔法瓶のような多重の真空断熱容器を開発しました。
さらには、液体ヘリウムを使わずに4Kまで冷却できる『冷凍機直冷方式』の超電導磁石を開発。資源としてのヘリウムを保護しつつ、安全性も向上しました」(下之園氏)
まったく異なった分野の技術を投入し、冷却技術を洗練させていく。これこそ、東芝が持つ総合的な技術資産だ。また、コイルの巻線技術をさらに高度化させ、製造現場の要望に応える動きも活発だ。ここでも、モノづくりにおける製造機器・治具などを開発してきた東芝の強みが生きる。
「私たちは磁場を最適化しながら、効率を極限まで上げる技術も磨いてきました。そして、巻線機をプログラミングで制御することで、お客様が要望する磁場分布に対し、最適形状のコイルを製造できるようになりました。これにより、少ない材料でも同じ強度の磁場を実現し、製造コストを抑えられます。
複雑な磁場に対応するモデルは『異形コイル』と呼ばれますが、もともとは国の研究機関から『曲がったコイルを作れないか』という要請を受けて開発したもの。巻いた状態のコイルを、外から力技で曲げても仕様に耐えられません。東芝 生産技術センターと協力し、巻きながら接着剤で固めていく製造技術を確立。東芝の総合力を発揮し、最前線の要望に応える技術を世に出せたのです」(下之園氏)
東芝のフレキシブル形状異形コイル
超電導技術は、カーボンニュートラルにどう貢献するのか?
ここまで様々な領域における超電導の広がりを見てきたが、伸びしろはさらに大きい。NEDO※3技術戦略レポート(2015年)によると、2030年の超電導機器の世界市場は1.5兆円を超えると予測される。たとえば、輸送分野の磁気浮上式鉄道(リニアモーターカー)や次世代航空機のモーター、エネルギー分野のケーブル、SMES、核融合発電、そして医療分野のMRI、重粒子線治療など、世界を豊かにし、大きな利便性をもたらすことは間違いないだろう。
※3 国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構
さらに大きな視点に立てば、カーボンニュートラル社会を拓く起点にもなる。超電導は、水素エネルギーや再生可能エネルギーと親和性が高いためだ。超電導が脱炭素に果たす役割とは、いかなるものか。
「カーボンニュートラルを実現するために、新しいエネルギーとして水素を用いる構想があります。では、その水素エネルギーはどこから調達するのでしょうか?現在は、液体水素を海外から輸入するとされています。液体水素は、20Kという極低温で運ばれます。この低温は、超電導と非常に相性がいい。
液体水素の低温を有効活用するシナリオが、『水素・超電導コンプレックス』なのです。現在、産業競争力懇談会において、このコンプレックス構想の実現に向け、多角的な検討が始まっています」(来栖氏)
水素・超電導コンプレックスの構想
「2050年にはカーボンニュートラルの実現が期待されています。そこで期待されるのが、電力ロスが少なく、環境にも優しい技術です。国を挙げて温室効果ガスの削減策を模索し続ける中、超電導が重要なピースとして貢献できるよう様々な取組を進めています」(来栖氏)
高い効率と性能を実現する夢の超電導は、持続可能な社会に大きな影響を与える。技術を高度化させ、より円滑に社会に実装していくため、東芝の技術者はどのようなビジョンを描いているのか。日本の超電導の草創期から力を注いできた東芝で、来栖氏と下之園氏から、未来に向けた言葉が紡がれた。
「私たち東芝は、半世紀以上に渡って超電導に取り組んできました。カーボンニュートラル社会への活用は、長期的視点での事業になります。そこで持続的に成長し、技術基盤を強固にしてきた東芝の強みが生かせると確信しています」(来栖氏)
「超電導の材料にも様々な可能性があり、新たな材料を使った製品を社会に送り出していきたいですね。これまでの実績を土台に、どんな依頼がきても対応できる自信がある唯一の企業だ――私たちは、そんな自負を持っています。トップ企業として次代に継承していくべく、さらなる研究開発を進めていきます」(下之園氏)
関連サイト
※ 関連サイトには、(株)東芝以外の企業・団体が運営するウェブサイトへのリンクが含まれています。
実用化に向けて着実に進歩する高温超電導技術:開発秘話:活動事例 | エネルギーシステム技術開発センター | 東芝エネルギーシステムズ