量子由来のアルゴリズムで解く「組合せ最適化問題」!高みを目指す、終わりなき旅。 ~理念ストーリー We are Toshiba~

2023/12/08 Toshiba Clip編集部

この記事の要点は...

  • 量子コンピューターの計算手法をシミュレートするソフトウェア!
  • 「組合せ最適化問題」を解く、新解法に発揮される技術者の力とは?
  • 一人ではなく「ともに生み出す」ことで、新たな解を導き出せる!
量子由来のアルゴリズムで解く「組合せ最適化問題」!高みを目指す、終わりなき旅。 ~理念ストーリー We are Toshiba~

社会を変革するコンピューティング技術に挑む、若き志がある。東芝グループの理念や価値観の下、現場で奮闘する従業員の想いを描く「理念ストーリー」シリーズ。今回は、東芝デジタルソリューションズでソフトウェアを開発する矢島旭氏の理念を追う。量子社会の到来を見据え、「量子インスパイアード最適化ソリューション」に取り組む。社会実装に向けて、未踏の最適化への挑戦と洞察が導く、デジタルソリューションの手がかりとは。

既存のコンピューターを使って大規模な組合せ最適化問題を解く、疑似量子計算技術

近年、注目を集めている量子技術。従来では困難な計算問題などを超高速で計算できるなど、その期待は高まるばかりだ。超高速の計算、高度に安全な通信、超高精度のセンシングなど、量子技術の実用化に向け、研究開発が加速している。

 

その一つが「量子インスパイアード」だ。いわゆる従来型の「古典コンピューター」を活用して、量子コンピューターの計算手法をシミュレートするものだ。この技術はどのような特徴を持ち、どのように社会課題を解決するのか。東芝デジタルソリューションズで開発に携わる矢島氏が解説する。

 

「私たち人間は、最小の時間で最大の成果を求めています。デジタル化が進む今日では、様々な分野でその傾向は強くなっています。例えば製造や物流、金融、創薬など。製造であれば最適な製造工程、物流であれば効率的にお客様に届ける配送経路、金融ではリスクを最小化しながらリターンを得るポートフォリオの最適化、創薬であれば新薬の開発につながる分子設計など。様々な方法から最適なものを選び出す課題があり、これを『組合せ最適化問題』と呼びます。問題の規模が大きくなるほど、組み合わせの数は指数関数的に増え、手作業や既存のコンピューターで解くことは困難です。

 

ここで、従業員の勤務管理を例に挙げてみましょう。空港の地上職の場合、一定の語学力を持った従業員を配置したり、勤務に一定の休憩を置いたり、スキルや労働時間を考慮して勤務シフトを組む必要があります。これに所定の労働時間や本人の希望を組み込むと、数百人単位の勤務シフトを組むのは時間も手間も膨大になります。こうした課題を解くために活躍するのが、量子インスパイアード最適化ソリューションです。領域を限定せず、幅広い課題を解決に導くことができます」

 

組み合わせの数が増えてくると、実用的な時間で計算することが非常に困難になる。 SQBM+TMは、このような課題を素早く解決するのに貢献する。

組み合わせの数が増えてくると、実用的な時間で計算することが非常に困難になる。SQBM+™ は、このような課題を素早く解決するのに貢献する。

 

東芝デジタルソリューションズ株式会社 ソフトウェアシステム技術開発センター ソフトウェア開発部 第三担当 矢島 旭氏

東芝デジタルソリューションズ株式会社 ソフトウェアシステム技術開発センターソフトウェア開発部 第三担当 矢島 旭氏

2023年現在、各国で量子コンピューターの開発が盛んにされているが、社会にあまねく実装するまでには多くの障壁がある。マイナス273.14℃程度の極低温化や、光量子や特殊なチップの使用など、特別な環境や方式に限定されるのが現状だ。

 

一方、東芝が手掛ける製品は、特殊な環境やハードウェア、プラットフォームに依存しないアルゴリズム(問題解決の計算方法)ベースの製品である。量子コンピューターの研究から生まれ、まったく新しい原理で組合せ最適化問題を解く。これを「シミュレーテッド分岐アルゴリズム」として発表し、ソフトウェア化。量子インスパイアード最適化ソリューション「SQBM+™ (エスキュービーエムプラス)」として社会に公表した。既存のコンピューターを使い、複雑で大規模な組合せ最適化問題を精度高く解くことができる。

 

アルゴリズムベースで大規模な組合せ最適化問題を高速に解くSQBM+™ の特長

ソリューションの機能を左右する「ソルバー」に向き合う日々

矢島氏は、2021年よりSQBM+™ の開発チームに参画。既存機能の改良や新機能の実装を担当している。アイデアを考え、試作し、性能を確認する。性能を吟味し、製品化に向け開発を進めていくという地道な取り組みだ。具体的には「ソルバー機能」に向き合い、処理速度の改善をしたり、計算できる問題規模を拡張したり、更には新たなソルバーを追加するなど、確かな手応えを得ているという。ソルバーとは、最適化問題を解くために最適な値や組み合わせを探索する機能でSQBM+™ の根幹となる機能だ。

 

「ソルバーを一言で表せば、入力すると答えを返してくれるもの――そう考えるとわかりやすいです。SQBM+™ には汎用的なソルバーに加えて、勤務シフトを策定するソルバー、効率的な移動経路を求めるソルバーなど、用途に応じたソルバーを揃えています。SQBM+™ の『+』は、いくつものソルバーが加わり、実装されていくことを意味しています。

 

ただ、これらのソルバーを活用して効果的なアウトプットを導くには使用者のスキルに依存する面もあります。解決したい課題があれば、まず組合せ最適化問題に置き換え、SQBM+™  のソルバーが扱える数式に落とし込まなければなりません。次に各ソルバーで扱える問題の規模には制限があるので、その制限内に収める工夫をします。更に、扱える入力データフォーマットに合わせて入力データを作成する手順もあり、このような広範囲なスキルを駆使することでより良い成果を得ることができます。もちろんSQBM+™ の機能を拡張させるためにも、このようなスキルを必要としていますし、使い勝手の改善も意識しています。入社以来5年に渡って携わったソフトウェア開発の知見、そして学生時代の知識が活用できています。学生時代の取り組みが仕事に結びつくとは思っていなかったので、これはうれしい驚きでした」

 

 

インタビューに答える矢島氏

矢島氏は、大学で物理を学び、統計力学を研究した。コンピューターで数理モデルを組み上げ、シミュレーションをひたすら繰り返す。数理モデルの組み上げに没頭する中、ソフトウェア開発というスキルが身についた。手を動かしてソフトウェアを作り、価値を生み出すことで社会に貢献できないだろうか。コンピューターを駆使した研究に励む中、矢島氏は「自分自身で、何かを創り出せる人になりたい」という想いを育み、東芝への入社を決める。

 

SQBM+™ の開発では、ソフトウェア開発の幅広い知識が求められます。また、ソルバーと数式の関係を考える際には、数理科学の知識も必須。日々勉強することが尽きないと感じています。様々な方面から貢献でき、自主性が求められているところもあると感じています。

 

学生時代や新人時代に蓄積した知識が基盤になって、その上に業務で培った知見が加わりました。それは、ソフトウェアの構成やシステムを全体として見る視点です。全体構造を俯瞰することで、機能の拡張や改良を加速できるのです

 

学ぶべきことは山積し、追求すべき領域も広がる一方だ。しかし、デジタルソリューションの開発において「銀の弾丸はない」が信条とのこと。つまり、難題を一撃で解決するような突破口はない。技術を積み上げて試行し、検証する。地道な作業の果てにこそ、確かな成果が得られる。矢島氏はそう確信している。

 

入社1~2年目で携わった、IoTソフトウェア開発が私の原点です。初めて担当した製品で、設計や実装で数多くの指摘を受け毎日コツコツ修正しつつ、同僚の助けを得ながら開発を遂行できました。課題を解決し、ゴールへ導いてくれるのは地道な作業の積み重ねと、ともに歩み続ける仲間の存在に他なりません

VUCA時代のデジタルソリューションを思い描き、ともに生み出す

矢島氏はSQBM+™ の機能を拡張し、幾多の制限を取り払ってきた。その根底には、新人時代に意識した「開発のこころ」があるという。

 

「大学でソフトウェア開発を専門的に学んだことがなく、新人時代には本当にたくさんの指摘を受けたのですが、それらはソフトウェア開発の基本であり、絶対に押さえておくべき要諦でした。一言に凝縮するなら『使う人がより使いやすく』と言えるでしょう。あの時の経験が、今のソフトウェア開発の礎となっています。

 

今、仕事で楽しいのは、技術や理論の活用を考え、ソルバーに組み込むイメージを巡らせるときです。論文を読んだり、書籍を引っ張り出したりして、あれこれ考えていると時間が経つのを忘れてしまうほどです。そこで新たな活用を思いつけば、ソルバーの改良や新機能の実装が視野に入ります。

 

新しい技術の活用を考えること。それはすなわち、SQBM+™ を使う人が、より使いやすくなること。その先には、社会に資するソリューションの実装があり、あらゆる領域に立ちはだかる組合せ最適化問題の解決がある、と私は考えています

 

SQBM+TMで、社会が内包する様々な分野の課題を解決できる

SQBM+™ で、社会が内包する様々な分野の課題を解決できる

先述の通り、SQBM+™ は、あらゆる数式を受け入れる訳ではありません。例えば最適化問題の中には、三次以上の項を含むこともある。そのような問題を解くには、二次式などへの変換が必要となるのだが、的確な解を導き出す性能を劣化させる要因となってしまう。矢島氏はこの状況を疑問視した。「そもそもこの制限を緩和して、もっと使いやすくできないか」。矢島氏はこの難題に取り組み、アルゴリズムを調整。2次項までの限定だった数式を4次項まで扱えるように改良した。アルゴリズムの特長を活かしてこれら高次項に対応し、現実の組合せ最適化問題に対してより高い性能を実現しようとしたのだ。

 

この拡張により、ユーザーがより使いやすいソルバーを実装できました。ソルバーを円滑に拡張できるのはSQBM+™  が優れたアルゴリズムとソフトウェアでできているからですし、意見が活発に飛び交い、アイデアの創発を受けられる組織風土があるからです。ソルバーに何か加えられることはないだろうか。ユーザーインターフェースをさらに使いやすくできることは?常に考え続けています

 

仕事に取り組む矢島氏

ユーザーの使いやすさに思いを巡らせ、使いやすい機能を取り入れ、改良を進めていく。矢島氏がソフトウェア開発における仕事人として大事にしている心だ。この過程で矢島氏が共鳴し、業務遂行の根幹に置くのは「ともに生み出す」という価値観だ。新たな技術の活用を考えるのは個人作業の面もあるが、実装機能として磨き上げるのはメンバーの真摯な意見だ。新たなものは多くの人の知と技の集積から生まれる。矢島氏が踏み出した、量子コンピューティングの究極を目指す終わりなき旅。その周囲には、頼もしく進む無数の背中がある。

 

SQBM+™ は、様々な社会問題を解決するもの。アルゴリズム追加や変更、機能拡張など、まだまだやれることはたくさんあり、それらを解決することで可能性が広がっていきます。社会をもっと良くしていくには、一人でカバーできる技術の範囲や時間、体力には限界がある。

 

だから私は、『助け合い』を大切にしています。私自身助けてもらうことがたくさんありましたし、私が助けることもありました。そうやって協力していくと、ゴールにぐっと近づきます。仲間のスキルも知見も、組み合わせることで総数は爆発的に増え、大きな推進力になる。『ともに生み出す』価値観の下、カバーし合いながら先に進んでいきます

 

階段から見上げる矢島氏

 

 

関連サイト

※ 関連サイトには、(株)東芝以外の企業・団体が運営するウェブサイトへのリンクが含まれています。

量子インスパイアード最適化ソリューション SQBM+™

Related Contents