蓄電池の健康診断をお手軽に! ~Bluetooth®を活用した、東芝の新技術とは

2024/02/07 Toshiba Clip編集部

この記事の要点は...

  • 持続可能な社会へ、定置用の蓄電池をサステナブルに!
  • 「エラー」の考え方と、周波数ホッピングが突破口に!?
  • EVなど多様な領域へと、無線監視は活用されていく!
蓄電池の健康診断をお手軽に! ~Bluetooth®を活用した、東芝の新技術とは

私にはBluetooth®の知見が少なく、一から学び直したからこそ、これまで誰も気づいていない使い方にたどり着けた──。そう語るのは、東芝 研究開発センターの内田大輔氏。5Gにおける電波の伝わり方などを研究してきた。

 

株式会社東芝 研究開発センター 情報通信プラットフォーム研究所 ワイヤレスシステムラボラトリースペシャリスト 内田 大輔氏

株式会社東芝 研究開発センター 情報通信プラットフォーム研究所 ワイヤレスシステムラボラトリー
スペシャリスト 内田 大輔氏

私たちの生活、エネルギーを支える蓄電池システム。その状態を監視するために、内田氏のチームは、Bluetooth®を使った技術を世界で初めて実証した。現在、蓄電池システムの監視は有線が主流だが、無線が実用化されれば様々な便益が生まれるという。

 

Bluetooth®は、スマートフォンを使う人なら誰もが知るありふれた技術。だからこそ、これまでに無線監視に応用されていて良さそうなもの。なぜ、内田氏は蓄電池システムへの応用に気づけたのか。その答えの一つが、冒頭の「一から学び直したから」だ。世界初の技術はどのように生まれ、課題を克服したのか、内田氏の言葉からひもといていく。

増えていく定置用の蓄電池を、よりサステナブルに!

2035年には、世界で2020年の約4.3倍に拡大する──。これは電池容量を基準に見た、定置用蓄電池市場の予測である。その背景には、カーボンニュートラルに向けた再生可能エネルギー導入加速がある。太陽光や風力などで発電する再生可能エネルギーは、自然条件によって発電量がばらつくという弱点を抱える。そのばらつきを調整するのが、定置用の蓄電池システムだ。

 

ただし課題もある。それは、蓄電池が時間とともに劣化するということ。そこで蓄電池システムを適切、安全に運用するために必須の技術の一つが、異常を監視するシステムとなる。

 

放電を行うと電圧が急激に変化する領域がありトラブル防止には常時監視が必要

放電を行うと電圧が急激に変化する領域がありトラブル防止には常時監視が必要

いくつかの監視技術を持つ東芝が開発に成功したのが、電波の干渉や反射などの厳しい環境における蓄電池の無線監視だ。今回の無線監視で使われるBluetooth®は短距離で無線通信する規格であり、東芝は超低消費電力のBluetooth® Low Energy(通称BLE)を活用した。BLEの特性が、電波の干渉や反射がある環境でも蓄電池の監視システムを実現させたという。

 

「BLEでは、通信において一定時間ごとに周波数を切り替える特性を利用します」と内田氏。この特性がどう生きたのか、これから見ていこう。

「1回の通信エラー」をエラーと見なさない設計?!

内田氏はまず、蓄電池システムを監視する通常の仕組みから教えてくれた。

 

「蓄電池システムは、いくつかの電池セルを集めたモジュールを、複数組み合わせたものです。モジュールにはCMU(Cell Monitoring Unit)が備え付けられており、一つひとつの電池の電圧、温度、充放電を監視します。それらのデータは、いくつかのモジュールを束ねる蓄電池システムに一つ備え付けられているBMU(Battery Management Unit)に送られて、全体を監視する仕組みです。CMUは子機、BMUは親機と考えてください」

 

蓄電池一つひとつをCMUが監視し、モジュール全体をBMUが監視する

蓄電池一つひとつをCMUが監視し、モジュール全体をBMUが監視する

通常、CMUとBMUは通信ケーブル(有線)でつながれているが、今回ここを無線化したことが重要だ。その有用性や必要性は後に触れるとして、そもそも、なぜこれまで無線化できなかったのか。大きな課題は2つあった。

 

1つは、複数台あるCMUから1台のBMUに接続するときの電波干渉、もう1つは、蓄電池モジュールは金属の箱に収まっているので、内部で電波が反射して通信が不安定になる問題です。どちらも、通信状況が安定せず、通信エラーが頻繁に発生するのが課題でした」

 

これらの課題を解決したのがBLEの特性だ。「BLEは、時間経過に伴って電波の周波数が変わる」と前述した。これを言い換えると、「電波の周波数が時間とともに切り替わっていくので、複数の電波があってもぶつかりにくい」となる。これを「周波数ホッピング」と呼び、電波がぴょんぴょんと切り替わることを表す。

 

「監視サイクルを300〜600ミリ秒とした場合、従来はそのサイクル単位で通信を行います。それに対して今回の技術では、サイクルを分割して100~200ミリ秒のサブサイクルとして扱いました。

 

その上で、連続して監視サイクル内に通信が行われなかった場合だけ蓄電池の充放電を止めます。逆に言えば、周波数ホッピングによって、監視サイクルにおいて1回でも通信できれば成功と見なします。この考え方により、電波干渉による通信エラーは10年間で1回以下まで減らせました

 

通常、蓄電池の寿命は10年と言われる。その10年に合わせて、1回以下まで通信エラーを減らす設計ができた。これは、蓄電池が金属の箱に収まっていることで電波が反射し、通信が不安定になる問題も解決した。なぜなら、反射によって周波数特性が不安定になっても、別のサブサイクルで通信できればいいからだ。

 

監視サイクルを分割し、周波数ホッピングの特性をいかすことで無線監視を実現

監視サイクルを分割し、周波数ホッピングの特性をいかすことで無線監視を実現

基礎から研究したからこその気づきとは?

そもそも、なぜ蓄電池システムに無線監視が必要なのだろうか?背景には、冒頭で触れた定置用の蓄電池システムの需要増加がある。現在よりも大容量が求められるようになったのだ。

 

「定置用の蓄電池システムの容量を増やすには、電池の数を増やす必要があります。電池が増えるほど、親機のBMUと有線でつなげた時に大電流が起こるので、電気を絶縁しながら信号を伝える絶縁素子という電子部品が必要になります

 

しかし今まで以上の大容量になってくると、耐えられる絶縁素子がないのです。もしあってもコストが見合わない。そこで無線化が必要となるのです

 

無線化について様々な検討の末に、BLEが良いのではないかとなり、開発段階から内田氏も携わることになる。

 

「蓄電池システムは、複数の蓄電池モジュール(引き出し)があるロッカーのようなものです。モジュールの間には棚板が組み込まれていて、その隙間を通しながら電波を伝える必要があります。5Gなど電波伝搬の知見、経験があったので声がかかりました」

 

蓄電池システムの無線監視のイメージ図

蓄電池システムの無線監視のイメージ図

しかし内田氏は、BLEに関しては知見が少ない。そこで内田氏が取った行動は「学び直し」だ。「基礎を知ることで初めてシミュレーションできるので、理論、原理を一から学び直しました」と内田氏。それが功を奏した。

 

「結果として、BLEの調査、研究の過程で、電波干渉の問題を周波数ホッピングで解決できると気づけました。これは、基礎に立ち返り一つひとつの知見を積み重ねていった成果です。一見すると遠回りのようだが、基礎に立ち戻り丁寧に研究するのが東芝流。地道な取り組みが突破口につながるので、苦になりません

世界初の試みだからこそ、おもしろい!

内田氏の地道な積み重ねに加えて、東芝が持つ事業領域の広さや、積み重ねてきた知見や技術もいきている。内田氏は、「他社ですと、原理を考えられても、実際に蓄電池システムの無線監視にBLEを応用するのは難しいのでは」と誇りをのぞかせる。

 

その根拠は何か?東芝には、電波伝搬の内田氏をはじめとして、様々な専門家がそろっている。例えば、小形アンテナを研究している技術者、電気機器の無線監視を研究している技術者、大型プラントで通信実験をしている技術者などがこれまでに本検討に携わった。内田氏は、「様々な領域で、色々な知識を持った専門家が集まる環境は大きかった」と振り返る。さらに、BLEを利用した電波伝搬のシミュレーションを一から構築した際は、「産業向け無線ネットワークを研究している、欧州ブリストル研究所と議論しながらパラメータを決めていきました。ある意味で総力戦です」とのこと。

 

BLEの周波数ホッピングの測定結果の一例

BLEの周波数ホッピングの測定結果の一例

「また、世界初に挑戦しているので、シミュレーションだけでは厳密には妥当性を立証できない。最終的には実地で確かめるしかありません。東芝には電池事業部があり、実際にリチウムイオン二次電池を製造しています。発想をもとにシステムを設計し、パラメータを調整して、実物をつくる。経験と領域知識と実績があるモノづくり企業だからこそ実現できました

蓄電池を超えて、無線監視を拡げていく!

今回の無線監視が実用化されれば、前述のように絶縁素子が必要なくなり、大容量の蓄電池システムが可能になる。それ以外にも配線がないことによる配線ミスの消滅、コスト削減、システム保守の簡素化、設置の自由度向上といった便益も見込まれている。

 

「まずは、蓄電システム企業に活用いただければと思います。標準化されたBLEを使っており、特別な開発は不要です。その点も導入のハードルを下げられるでしょう」

 

そして見据える展望がある。一つはEV(電気自動車)だ。EVに載せる蓄電池の市場は、2035年には2020年の約14.2倍になると予想されている。内田氏は「システム自体はEVも視野に入れていますが、定置用よりも基準が厳しいので、実用化に向けて検討を重ねます」と語る。

 

社外からも注目を集めている。2023年6月イタリア・フィレンツェで開催された通信技術の国際会議「VTC2023-Spring」で発表した際、フィンランドのIoT企業が強い関心を示したという。「彼らは蓄電池以外の製品で、無線を使ったモジュールの監視を模索していると話していました」と内田氏。東芝の無線監視が、様々な領域で標準になる可能性を感じさせる。

 

VTC2023-Springにおける、内田氏たちの発表演題

VTC2023-Springにおける、内田氏たちの発表演題

「例えば、照明の集中制御に応用できるかもしれません。また、工場などで温度、湿度、稼働率を確認する無線センサーネットワークと今回の東芝の技術はかなり近いので、複数のBLEを活用した大規模ネットワークを構築できそうです。このように、活用場面を拡張する未来はあると思います」

 

蓄電池システムの有線監視の不便を排し、配線やメンテナンスの面倒を取り払うことで蓄電池システムの普及に寄与したい。内田氏は、「もじゃもじゃした配線がなくなればスッキリします。そんなスッキリした未来を実現したいですね」と期待を込めた。

 

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