持続可能なビジネスの土台は人権にあり ~サプライヤーと共に課題を解いていく!
2024/03/04 Toshiba Clip編集部
この記事の要点は...
- 人と地球が持続可能であるために、ビジネスには人権尊重が必須!
- 人権尊重は、サプライチェーン全体を見据えて実践していく必要がある!
- 人権を考えること、それは経営理念「人と、地球の、明日のために。」を考えること!
持続可能な社会を実現するには、すべての人の人権が尊重され、自分らしい生を実感できる必要がある。人権は人が生まれながらにして持っている権利であり、人権が尊重されることで生命が危険にさらされず、差別もされず、幸福を追求できる。しかし残念ながら、児童労働や強制労働、また人身売買など、ビジネスに関わる人権問題が世界には残っている。
だからこそ今、多くの企業が人権方針を策定して、人権尊重を推進している。ビジネスを通じて持続可能な社会を実現する土台は、どのように作られるのか。東芝 サステナビリティ推進部で人権課題に取り組む有馬純子氏、そして調達部でサプライチェーンマネジメントを推進する篠原恵美子氏が指針と具体策、今後の展望を語る。さらに具体例として、サプライヤーを巻き込んで人権尊重を含むサステナビリティ活動を進める、東芝情報機器フィリピン社を取り上げ、グローバルで歩調を揃える取り組みを紹介する。
ビジネスと人権を不可分として考えるために
人権尊重がビジネスでも重要になった起点の一つが、2011年に国連が採択した「ビジネスと人権に関する指導原則」だ。「企業は人権を尊重しなければならない」という大前提のもと、「デューディリジェンス※1を実施する」「人権への負の影響を特定し評価する」などの具体策が示されている。東芝でサステナビリティ活動を進める有馬氏が、人権尊重の潮流と東芝の取り組みの現在地を語る。
※1 責任ある行動を経営方針・システムに組み込み、負の影響を特定・評価し、停止・防止・軽減の上で、情報開示する
グローバル社会において、ビジネスでも人権尊重は必須
「国連の指導原則への対応に加えて、情報開示に関しても、財務情報だけではなく人権を含めた非財務情報の開示がグローバル標準です。持続可能な経営を実現するためにも、ESG※2のS(Social:社会)の重要要素である人権尊重が必須です。東芝はグローバルに事業展開していますので、東芝に関わるすべてのステークホルダーの人権尊重を国際基準に則って実践し、その取り組みを発信していく必要があります。
私たち東芝には、『人と、地球の、明日のために。』という経営理念があります。これが人権を尊重する指針になることは、多くの従業員が理解しているでしょう。しかし、国連の指導原則に準じた人権尊重の認識、実践についてはまだ十分とは言い切れません。今後も東芝全体で、自分ごととして捉えられるように啓発していきます」(有馬氏)
※2 環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)の観点から、投資対象を評価・選別する活動
株式会社東芝 サステナビリティ推進部 エキスパート 有馬 純子氏
有馬氏たちサステナビリティ推進部は、調達、法務、人事部門と定例会議を持ち、世界の動向を共有しながら推進策を議論している。有馬氏は「社内外のステークホルダーと強固に連携し、トップを含め、従業員の理解度や意識を底上げしていく」と、今後を見据えた言葉に力をこめる。
「ビジネスで人権尊重を実践するためには、業務と人権の関わりを自分の言葉で説明できようになることが必要です。だから、従業員が関わる事業と人権がどのように紐づいているのか、社内教育を通じて啓発を行っています。
もちろん、私たちサステナビリティ推進部も学び続ける必要があります。米国非営利団体(NGO)のBSR※3や国連グローバル・コンパクト※4、業界団体のJEITA※5などの勉強会に参加し、他社と意見交換を行っています。世界潮流を追って好事例を学びつつ、自分たちに足りない活動や施策を考え、補っていく。この実直な取り組みが、企業として必要な人権尊重の実践につながると信じています」(有馬氏)
※3 Business for Social Responsibility:ビジネス界に対してサステナビリティ活動を推進するNGO
※4 企業がサステナブルな成長を実現するためのイニシアチブ
※5 一般社団法人電子情報技術産業協会:デジタル産業における、日本を代表する業界団体
サプライヤーと協調して課題に取り組み、持続可能な明日へ
多くのサプライヤーと関わる調達領域でも、人権尊重は重要だ。サプライチェーンマネジメントを推進する篠原氏は、「人権尊重をおろそかにする企業は、グローバルで存在感が低下し選ばれなくなる」という危機感を持ってきた。穏やかな表情の奥に強い思いを湛えながら、次のように語る。
「欧州では人権に関する法制度の整備が進み、対応している企業でないと取引先として競争力を維持できません。ただし、その時々の潮流に左右されるのではなく、意識を常に高めて人権課題を特定して、サプライヤーの皆様との対話を通じて改善していく必要があります」(篠原氏)
株式会社東芝 グループ調達部 調達管理室 調達サプライチェーンマネジメント推進担当
エキスパート 篠原 恵美子氏
企業は、人権尊重を自社に閉じてはならない。バリューチェーン全体で人権を考えて、尊重する施策を打つことが必須だ。人権デューディリジェンスの実施や、課題の特定といった活動が挙げられるが、人権尊重はブランドを守ったり、事業リスクを回避したりするための「手段」というだけではない。企業活動の前提として人権尊重があると認識する必要がある。
東芝の調達部門は、人権デューディリジェンスの一環としてアンケートによるリスクアセスメント調査を2021年からサプライヤーに実施している。東芝は、日本やアジア圏の取引先が多いため、それらの取引先を想定して質問を加味し、社会的責任を推進する企業同盟であるRBA※6の自己評価シートや、JEITAの責任ある企業行動ガイドラインとそれに紐づく自己評価シートを参考に、東芝独自の調査として進めている。
※6 Responsible Business Alliance:サプライチェーンにおいて、責任あるビジネスの促進を目的とする非営利団体
東芝は、法令遵守、労働、安全衛生の側面から、サプライヤーの人権対応を評価している
「2022年度には、サプライヤーの皆様にリスクが高い箇所を個別にフィードバックし、是正をご検討いただきました。この結果、それまでの取り組みが十分でなかったことに気づき、労働環境の改善を実践されたサプライヤー様の事例もあり、一歩ずつですが人権尊重に向けた対応が進んでいると感じています。今後も取り組みを続けていきますが、押し付けではなく、人権課題に共に取り組む姿勢を大切にしたいと考えています」(篠原氏)
フィードバックでは、東芝の人権方針や調達方針を述べるだけではなく、グローバル動向などの説明資料も盛り込み、ビジネスにおける人権尊重の必要性がわかるように配慮した。サプライヤーと足並みを揃え、人権尊重を共通の認識とする。それが人権課題を解決する一歩になると考えるからだ。
「サプライヤーの皆様との取り組みは範囲が広くなりますが、その分課題解決に早く近づくはずです。世界各国で法制度が整備されていく中、日本企業もバリューチェーン全体で人権を考え、尊重していくことが必須になるでしょう。
私たちは、その時期をただ待っているわけにはいきません。人権尊重の取り組みがビジネスの重要な要素となる今、その取り組みが遅れないよう、サプライヤーの皆様と認識を合わせ、課題に対応していきます」(篠原氏)
人権を考えること――それは人と地球の明日を考えることだ
サプライヤーと共に人権尊重を進めていく上で、それぞれの現場で意欲的な取り組みが進む。たとえば、約7,500名が働き、データセンターに不可欠な大容量HDDを生産する、東芝情報機器フィリピン社だ。同社は毎年、サプライヤーに向けてサステナビリティ活動の研修を実施してきた。この研修はサステナビリティの本質を伝えつつ、企業の社会的責任を啓発するものだ。調達を率いるNenoca Oquialda氏に概要を聞いた。
左から、東芝情報機器フィリピン社 人事部長 Fernandez Rosiemay氏、総務課長 Ramos Emyr氏、調達部長 Nenoca Oquialda氏
「サプライヤーの皆様に労働、倫理、安全衛生、環境管理の説明会を実施し、継続的に関わりを深めています。東芝の経営理念『人と、地球の、明日のために。』や価値観『誠実であり続ける』に基づいて、社会的責任を果たすための課題を共有し、どう解決していくかを議論し、ベストプラクティスを共有・実践しています。この活動には20年以上の積み重ねがあり、フィリピンを代表する企業として誇りに思います」(Nenoca Oquialda氏)
フィリピンには“Bayanihan(バヤニハン)”という言葉があり、「村落での助け合い」を意味する。この言葉を象徴するような東芝のサステナビリティ活動において、サプライヤーとの協調は緊密だ。たとえば、毎年開催している健康増進を目的にしたランニング大会があり、直近ではサプライヤー59社、1,200名が参加したという。この運営に携わる Ramos Emyr氏によると、「コミュニティ感覚を大事にし、情報共有の透明性を上げること」が重要だという。
「サステナビリティ活動の意義を共有し、従業員がそれぞれ意見交換しながら人権に関する検証、改善のサイクルを回しています。私たちは、長期的な視点と一貫性を持って活動していきたい。この点でマネジメント層と従業員に壁は一切なく、トップダウンとボトムアップの両面から取り組みが進んでいます。その実効性を高めるために必要なのは、互いへの感謝や取り組みの意義を共有し、希望を見出すことです」(Ramos Emyr氏)
サステナビリティ活動を推進する有馬氏は、「東芝の中でも先進的な取り組み。同じ感覚を持って進んでいきたい」と同社の活動に期待を寄せ、「経営理念を自分ごとにし、実践していく」メンバーの志に注目している。児童労働や強制労働、安全衛生、ハラスメント、プライバシー侵害、差別など、人権課題は広く様々だ。これらに粘り強く取り組むには、根っこにある思いが大切になるからだ。
続けて篠原氏と有馬氏は、人権課題の解決にこそ「グローバルで幅広い事業領域を持つ、東芝の基盤と強みが生きる」と指摘する。
東芝の強みと人権尊重について語り合う、篠原氏(左側)と有馬氏(右側)
「様々な事業領域を俯瞰し、世界中の中小規模から大規模のサプライヤーの皆様まで、幅広くサステナビリティ活動に取り組んでいけるのが私たちの強みです。東芝全体の調達活動を通じた社外連携をきっかけとしながら、課題の解決に貢献していく。それが東芝の存在価値だと考えています」(篠原氏)
「世界がなぜ人権を注視しているかを、一人ひとりに理解してもらいたい。多くの従業員の理解が進めば、自ずと人権尊重の取り組みがさらに進むはずです。社内の連携が、ビジネスに関係する様々な人権課題を解き、持続可能な社会づくりに貢献していくと信じています」(有馬氏)
「人と、地球の、明日のために。」という経営理念の根幹には、人権尊重がある。この理念こそ、東芝のサステナビリティ活動の原点であり、従業員の気持ちをかきたてる源泉にもなる。持続可能な社会を実現するために、社会を構成する一人ひとりの人間を大切にする。人権を考えていくこと――それは人と地球の明日を考えていくことなのである。