高速道路の安全走行を東芝のAIがサポート! ~NEXCO中日本と東芝が導く、安心・安全な社会

2024/04/12 Toshiba Clip編集部

この記事の要点は...

  • 老朽化する高速道路の保全において、ポットホールの早期発見が重要!
  • 道路の画像データからポットホールを瞬時に検知し、管制センターに通知するAIシステムを開発!
  • 画像異変検知AIは、幅広い社会インフラの異常検知に応用可能!
高速道路の安全走行を東芝のAIがサポート! ~NEXCO中日本と東芝が導く、安心・安全な社会

道路、橋など日本の社会インフラは、高度経済成長期に集中して建設された。高速道路はその代表的なもので、多くは開通から50年以上が経過し、老朽化が進んでいる。もし路面が荒れていれば事故を招く恐れがあり、その整備は喫緊の課題だ。

中でも、重大事故につながる危険性があるのが「ポットホール」、つまり道路上に空いた穴であり、ハンドルを取られる可能性がある。このポットホールの早期発見、その後の保全に貢献するのが、東芝が開発した「画像異変検知AI」だ。このAIは、どのように誕生したのか。そして、高速道路を含む様々なインフラの保守点検をどう変えていくのか。AIの開発者と、プロジェクトのリーダーの話から紐解いていく。

危険な「高速道路上の穴」、人の手による点検はもう限界!?

日本の高速道路の点検・保守の水準は、世界でもトップクラスだろう。路面の凹凸は少なく、破損を目にすることもまれだ。これは、高速道路の運営企業が早期の発見、保全を行っているからだ。その対応数は膨大で、東名高速道路、中央自動車道など、関東、東海、北陸地域の高速道路を運営するNEXCO中日本の管内だけでも年間約3200件(2019年度)のポットホールが確認されている。ゆえに、今後もその状況を保つのは容易なことではない。

高速道路上のポットホール

高速道路上のポットホール

高速道路の老朽化は進んでおり、『安全な移動』にはメンテナンスが非常に重要です。しかし、少子高齢化で日本の労働人口は減少しており、メンテナンスに携わる人材の確保はこれから難しくなるでしょう。NEXCO中日本様も、点検・保守に問題が発生する危機感を持たれています」(和氣氏)

このように語るのは、プロジェクトのリーダーを務めた、東芝デジタルソリューションズの和氣正秀氏だ。和氣氏は、東芝に入社以来、様々な社会インフラに関わっており、「縁の下の力持ち」として貢献することに誇りと喜びを持っている。穏やかな目の奥に、強い危機感をたたえていた。

東芝デジタルソリューションズ株式会社 ICTソリューション事業部 社会インフラソリューション技術部シニアマネジャー 和氣 正秀氏

東芝デジタルソリューションズ株式会社 ICTソリューション事業部 社会インフラソリューション技術部
シニアマネジャー 和氣 正秀氏

東芝は古くから様々な社会インフラに携わっており、老朽化にも早くから問題意識を持って取り組んできた。インフラの老朽化に対応する様々な研究開発が進んでおり、2020年頃からはAIの活用も始まった。東芝 研究開発センターの野田玲子氏は、AI開発のリーダーとしてわずか数年前のことを次のように振り返る。

「これから10年先、20年先を見据えた時に、東芝として社会インフラの老朽化対策に役立つAIを開発する必要性を強く感じました。あるべき未来からバックキャストして必要な技術を検討し、屋外で撮影した画像からヒビやサビといった異変を検知する研究に着手しました。高速道路の異変検知は、その中の一つです」(野田氏)

株式会社東芝 研究開発センター 知能化システム研究所 メディアAIラボラトリーエキスパート 野田 玲子氏

株式会社東芝 研究開発センター 知能化システム研究所 メディアAIラボラトリー
エキスパート 野田 玲子氏

高速道路の異変の中でも、命の危険に直結するのがポットホールだ。時速100kmという高速で車が走行するため、小さな穴でもハンドルが取られる可能性が高い。二輪車なら転倒に直結する恐れもある。ポットホールの早期発見・保全は、高速道路の安全を保つために非常に重要だ。そのため現在は、専任の点検員がパトロール車で巡回し、道路上の異常を目視や音、車の振動といった五感で確認している。

「緊急保全が必要な箇所を発見すると、パトロール車を安全な場所に停めて写真を撮影し、道路管制センターに連絡を行います」と和氣氏。しかし、これにはいくつかの課題があるという。

まず、目視なので点検品質にばらつきが出る可能性があること。そして、安全に停車できる場所がなければ写真撮影までに時間がかかり、その間にポットホールに起因する事故が発生する危険性があること。何より、写真撮影では車から降りる必要があり、安全面をどんなに考慮しても点検員のリスクをゼロにすることはできない。そして将来的には、点検員の人手不足と技能継承の問題が懸念される。

そういった状況を見越したNEXCO中日本の取り組みが、次世代技術を活用した革新的な高速道路保全マネジメント「i-MOVEMENT(アイムーブメント)」だ。最先端の IT 技術・ロボティクスの導入により、高速道路のモビリティを進化させることを目指している。すでに、交通運用、料金・サービス、メンテナンスなど、高速道路の運営に関する様々な領域で技術開発や実証実験を推進している。NEXCO中日本と東芝が取り組んでいる実証実験、「AIの活用による日常点検の高度化」もその一環だ。

学習のための画像準備の手間を1/100にして、「すぐ使えるAI」の実現へ!

ポットホール発見のために東芝が開発したのが「画像異変検知AI」。パトロール車に搭載したカメラで撮影した画像を元に、路面に発生したポットホールを瞬時に検知し、「ポットホールらしさ」にスコアをつける。

 

ポットホールの検知イメージ

「画像異変検知AIでは、撮影した画像を元に、画素毎に異常度合いを示すスコアマップを出力するAIモデルを活用しています。ポットホールがない正常画像とポットホールがある異変画像を比較して、特徴が異なる画素のスコアが高くなるように学習させています。スコアが0ならば正常、1に近づくほどポットホールである可能性が高いと判断し、どこに異変があるかを推定します。

私たちのAIは、『すぐ使える』のが特長です。従来、異変箇所を検知するには、AIが学習する画像で『どこに異変があるかを色塗り』する必要がありました。しかし東芝のAIは、『その画像にポットホールがあるか・ないか』だけを指示すれば大丈夫。その結果、画像準備の手間を1/100に低減しました」(野田氏)

東芝の取り組みは、画像異変検知AIの開発だけではない。AIをパトロール車に積み、発見したポットホールの情報を道路管制センターにリアルタイムで通知する仕組みも構築している。ここが他社にはなかった東芝の特長であり、NEXCO中日本に選ばれた大きな理由の1つだ。プロジェクトのリーダー和氣氏に、具体的に教えてもらおう。

「まず、①野田さんのチームが画像異変検知AIを開発。それをパトロール車で使うために、市販のPCでも使えるようにAIを軽量化しました。次に、②車内でカメラやGPS※1とつなぎ、巡回中に発見したポットホールの位置を特定できる仕組みを構築しています。そのデータは、車両からクラウドにアップロードされます。すると、③道路管制センターにいる社員のPCにポップアップが表示されるので、そこからダウンロードする仕組みです」(和氣氏)

※1:全地球測位システム:地球上の現在位置を把握できる衛星測位システムであり、日時と共に場所を記録する

画像異変検知AIの導入により、時間、コスト、リスクなど様々な低減が図られる

画像異変検知AIの導入により、時間、コスト、リスクなど様々な低減が図られる

そして、リアルタイムでのポットホール検知と道路管制センターへの通知の実証実験が行われた。この実験では、時速80~100kmで走行しながらポットホールの可能性がある箇所をリアルタイムで検知することに成功。実際の高速道路のデータを活用したことで、検知精度は61.25%から84.22%へ向上した。さらに、「ポットホール以外を検知してしまう」過検知は77%から4%へと激減している。「注意するべきポットホールを早く確実に自動検知し、すみやかに保全できるよう」改善を重ねて、実用化に向けて進んでいる。

リアルタイムでのポットホール箇所検知と道路管制センターへの通知が可能となる。

リアルタイムでのポットホール箇所検知と道路管制センターへの通知が可能となる。

橋、ビル、水道設備などインフラの点検業務に広く応用可能!

今回の画像異変検知AIで発揮した東芝の強み。それは、全体を俯瞰した視点での提案ができたことだ。その姿勢を、和氣氏は自信をこめてこう表現した。

開発する上で一番重要視したのは、運用されるお客様がどんなことに困っているか、ということです。私たちは、お客様と一緒に考えていくことを重視し、デジタル・コンサルティングの姿勢で課題解決に注力しています。その中でお客様の本質的なニーズを捉え、必要な技術を考える。AI自体のスペックはもちろん重要ですが、現場で使いにくければ本当の意味で課題の解決には寄与しません。素早くリアルタイムで異常を検知・報告し、環境の変化があっても時間や手間をかけずにお客様自身で追加学習できる。現場ニーズを考え抜くことで、今回の『素早さ・手軽さ』に行きつきました」(和氣氏)

日常点検において発見されるのは、ポットホールだけではない。当然、それ以外の様々な異変をAIが検知できる必要がある。また、天候など環境も変わる。しかし、環境の変化や異変の種類に合わせてAIを開発していては、時間も費用もかかってしまう。それを避けるためには、顧客みずからが、異変に合わせてAIを新たに学習させられる内製化の仕組みが求められる。画像異変検知AIでは、東芝のAI共通基盤「SATLYS」を使うことで、AIに精通していない人でも学習処理ができるように設計されている。

現場の声に寄り添った、東芝独自の開発。

現場の声に寄り添った、東芝独自の開発。

2024年度には路面のひび割れなど、ポットホール以外にもAIの適用が始まる。すなわち、高速道路の日常点検全般に対応するAIへと熟成させていくフェーズに入っていくという。そして、その先には高速道路以外の社会インフラへの活用も見据えている。

東芝の画像異変検知AIは、画像入手が可能な異変については何にでも応用可能です。道路に限らず、橋やビルのヒビ、水道設備のサビなど、様々な社会インフラの異変を検出できます」(野田氏)

画像異変検知AIのこの特長が多方面に伝わり、すでに高速道路の他にも様々な業界から多くの問い合わせが来ている。

最後に、野田氏と和氣氏はこれからの目標を次のように語った。

「東芝では、今回のAIの他にも『正常時との違いを活用して、ごくまれな変状を検知するAI』『1枚の画像だけで、物体を検出するAI』などの開発を進めています。こういったAIを利用して、自動化や省人化を進め、労働力不足という課題に応えられる仕組みを作っていきます」(野田氏)

「入社以来、社会インフラ一筋です。縁の下の力持ちとして、皆さん、そして私自身と家族を含めた社会の安心安全を叶えるために、東芝の技術を使って貢献していきます」(和氣氏)

労働人口が減る日本の未来においても、AIによって社会インフラを安全に保ち、安心して暮らせる社会に――。東芝の挑戦はこれからも続く。

:野田氏(左)と和氣氏(右)のショット

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