先進技術で社会変革を起こす!環境先進国に新概念「リジェネラティブ」で切り込む

2024/04/26 Toshiba Clip編集部

この記事の要点は...

  • 「リジェネラティブ(再生)」と冠した東芝の新イノベーション拠点をドイツに開設
  • 欧州コミュニティとの連携により、先進技術の社会実装を加速させる
  • 技術をベースに諸学問・領域を融合させ、新たな価値を創出していく
先進技術で社会変革を起こす!環境先進国に新概念「リジェネラティブ」で切り込む

高度経済成長期に日本の製造業はめざましく発展し、「メイド・イン・ジャパン」が高品質な製品の代名詞となった。しかし、時代が進むにつれ、良いものを作っただけでは売れなくなり、近年は日本の製造業はグローバル市場で苦戦を強いられている。新技術の開発や高品質を追求する力は他国に引けを取らないが、それを社会の課題やニーズに合わせて実装し、普及させる点で課題が残っているともいえる。

 

こうした状況において、東芝は約150年にわたる技術開発の歴史を背景に、技術を社会課題やニーズに即して「社会実装」していく方針を強化している。2023年9月に、ドイツのデュッセルドルフに新イノベーション拠点「Regenerative Innovation Centre(リジェネラティブ・イノベーションセンター 以下:RIC)」を開設し、カーボンニュートラルやサーキュラーエコノミーに関連する技術の開発や実証プロジェクトへの参画を加速すべく、欧州本土での活動を本格化させたのもその一環だ。

 

東芝の技術はいかなる価値を創出し、グローバル社会にどのように貢献していくのか。新拠点のゼネラルマネジャーを務める鬼塚浩平氏が、欧州本土に拠点を構えた意義とともに語る。

RIC長の鬼塚浩平氏

Regenerative Innovation Centre (RIC) ゼネラルマネジャー 鬼塚 浩平氏

新概念「リジェネラティブ」を胸に欧州市場に切り込む!

東芝が新たに開設したRICのキーワードは、その名称通り「Regenerative(リジェネラティブ)」――再生である。「サステナブル(持続可能)」を超えたポジティブな取り組み、それがリジェネラティブというキーワードに表されています」と語る鬼塚氏。日本ではまだ聞き馴染みがないこの言葉も、欧州ではビジネス、イノベーション、デザインといった領域と掛け合わされ、次代の社会づくりへと取り組みが進んでいる。

RICが目指す「リジェネラティブ」の概念

RICが目指す「リジェネラティブ」の概念

「気候変動や自然資本の喪失などのリスクが年々顕在化しています。現在に至るまで社会が地球環境に与えてきたマイナスの影響を考えると、サステナブルという考え方では、もはや根本的な解決に十分とは言えません。地球環境や社会にプラスの影響を及ぼして逆転させ、より良い状態にしていく。それがリジェネラティブという考え方です。

 

東芝がものづくりで培ってきた技術やイノベーションでリジェネラティブに寄与できると考え、ここRICという拠点からカーボンニュートラルやサーキュラーエコノミーに貢献する活動を始めます。また、RICのCは“Centre=センター(中心)”です。これは、欧州の顧客やパートナーはもちろん、東芝内からもエンジニアや研究者、デザイナーが国や部門を越えて集まり、緊密につながれる場にしたい。RICという名前には、そんな思いも込めています」

今、欧州市場に挑む意味

2022年、鬼塚氏は東芝のブリストル研究所の副所長として英国に赴任。この渡欧時にRIC立ち上げのミッションを担い、準備を進めてきた。東芝のグローバルな研究開発体制を俯瞰すると、北米やアジア、そして欧州など世界各地にすでに研究開発拠点がある。ではなぜ、新たな拠点を欧州に置くのか――?

東芝グループのグローバル研究開発拠点

東芝グループのグローバル研究開発拠点

「EU諸国は『グローバルスタンダードの発信地』であり、『充実したシステムアップ・エコシステム』『潤沢な資金と手厚い政策の裏づけ』に恵まれている」と鬼塚氏は強調する。グローバルな課題の解決に向けた試行錯誤が続く最前線、且つ、技術開発のインキュベーション(事業の創出支援)に最適な環境が欧州の地にはあるという。

 

この言葉のとおり、欧州ではカーボンニュートラルに関する炭素国境調整メカニズム(CBAM)や、サーキュラーエコノミーを目指したEUバッテリー規則や電池パスポートなど、EU圏外にも波及するルールの規格化を主導しつつ、ハードウェアやデジタル技術の開発・検証に最適なエコシステムも整っており、東芝も英国の研究所で数十年に渡ってIT技術の研究開発を進めてきた実績がある。さらに投資面で見ても、ESG投資に米国と並ぶほど潤沢な資金が投下され、欧州グリーンディール政策の裏づけも手厚い。

 

こうした環境面のメリットに加え、「欧州には共創と協力のマインドセットを強く感じる」と、鬼塚氏は高揚感を持って語る。

 

「欧州発の社会実装モデルは他地域に展開しやすいと言われるように、グローバルビジネスの“学びの場”としてメリットが大きいことは『頭で』理解していたつもりでした。そしてRIC開所までの1年半のコミュニケーションを通して、この地は協力・共創の気風に満ちている事を体感しました。地域・国をまたぎ、企業や機関を問わず、まずは門戸を広く開けて構える――これが欧州の“作法”だと感じたのです。

 

新技術の開発や実装で複数の企業や機関が協力し、リスクを分散する取り組みも活発です。このマインドセットを通して、企業としてどのようなメリットを得るのかという一方的な視点ではなく、私たちはどんなメリットをパートナーや社会に還元できるのか、と自問自答する日々です」

技術起点で社会変革を起こすRICの挑戦

人と地球が持続可能であるために、東芝がカーボンニュートラルとサーキュラーエコノミーの実現に貢献していく中で、RICは技術やソリューションの開発、社会実装を進める。その過程では、単独ではなくパートナーと連携して進めていくことを大切にしている。

 

「候補となる技術領域は、「デバイス」「エネルギー」、そして「データ流通」など多岐にわたります。具体的な技術として、再生可能エネルギーの普及と電気の安定供給に必須の「分散型電源」や、電気の効率的な利用に貢献する「パワーエレクトロニクス」、電気自動車のさらなる普及の鍵になる「急速充電電池」、二酸化炭素を資源にする「P2C」や、「省イリジウムの水素製造」などが挙げられます。

 

いずれもカーボンニュートラルやサーキュラーエコノミーに関するコア技術として、世界の関心は高まる一方です。P2Cや水素製造は東芝が優位性を持ち、実証の大規模化や製造ラインの立ち上げ、インフラの整備を進めています。」

 

既にRICでは、欧州委員会に複数件の実証プロジェクトを提案している。技術実証や標準化に向けた発信、共創の動きはすでに活発である。「惜しくも通せなかったプロジェクトもありましたが、今後もいくつかの大学や機関とコンソーシアムを組み、提案していきます。

 

RICの活動はアーヘン工科大学アントネッロ・モンティ教授、公益有限会社ヴッパータール研究所ステファン・ラメソール教授らにも評価いただきながら、技術をベースにした実証プロジェクトの共同応募、実施を続けていきます。両教授をはじめ、欧州の技術コミュニティでも『東芝は、カーボンニュートラル分野の技術に強みがある』と認知される機会も増えてきました」

 RIC開所式にて
RIC開所式にて(左より東芝上席常務執行役員CTO 佐田豊氏、アーヘン工科大学アントネッロ・モンティ教授、公益有限会社ヴッパータール研究所ステファン・ラメソール教授、RIC長 鬼塚浩平氏)

鬼塚氏がパートナーとの対話や提案を通して感じているのは、「リジェネラティブは、技術のみではなく、社会システムのあらゆる構成要素を絡み合わせてしか実現できない」ということだ。社会実装に向けて加速するためには、経済学や社会学など、様々な領域の知見との融合が必須になる。

 

「RICはいわゆる研究開発拠点ではなく、技術を社会実装するイノベーション拠点です。あくまで社会実装・社会変革の起点なのです。リジェネラティブを目指したイノベーションは、技術だけが解ではありません。

 

経済や政策といった社会の仕組み、人々の行動変容といった視点も含め、システム思考やデザイン思考も活用します。イノベーションには技術者に加え、世の中の潮流をリサーチしたり、ビジネスのコンセプトを創り出したり、事業化したりする人材も必要です。試行錯誤しつつ組織を設計し、更新していきます」

RICからグローバルへ、イノベーションの風が吹く

RICは欧州コミュニティと連携しつつ、東芝の多様なスキルを持つ世界各国の人材や技術資産を有機的に連携し、スピード感を持った共創を進めていく。

 

「経営や組織論を駆使し、イノベーションの生み出し方そのものに改革を起こせる人材にも期待があります。トップダウンでもボトムアップでもなく、メンバーがそれぞれに目標を設定しながら進み、それが結果として組織にイノベーションを起こす――自律分散型のまったく新しい形が誕生するかもしれません」

 

カーボンニュートラルやサーキュラーエコノミーに加え、グローバルで取り組むべき課題は山積している。だから、RICはパートナーとコミュニケーションを重ねてアイデアを出し合い、実証に落とし込んでいく。この好循環が回りだした時、ドイツから世界にイノベーションの風が吹くはずだ。RICという運動体が向かう先は――鬼塚氏は視線を未来に向ける。

 

東芝が培ってきた技術やリソースを融合させて、成功を積み上げていく。そして、社会課題の解決によるグローバルへの貢献といった、マクロな視点からバックキャストする。この両輪を回せば、RICのミッションは達成できると信じています。その過程でパートナーやステークホルダーとつながり、対話を重ね、その積み重ねが、RICを正しい方向へと導いてくれるはずです」

RICが入居するドイツのデュッセルドルフにある東芝の拠点

RICが入居するドイツのデュッセルドルフにある東芝の拠点
(写真提供:Toshiba Electronics Europe GmbH (TEE)

持続可能を前提とした取り組みから、リジェネラティブを目指した社会実装へ。前例のない取り組みだけに、時には羅針盤が必要になる局面も訪れるだろう。鬼塚氏は、「そこで立ち返るのが東芝の理念『Committed to People, Committed to the Future――人と、地球の、明日のために。』だ」と力強く言い切った。

 

「RICの立ち上げにあたって、メンバーと幾度となく『人と、地球の、明日のために。』を確認しました。これは私たちのゴールであり、ビジョンそのものです。RICのために創られた言葉ではないか、と感じるほどフィットします。

 

リジェネラティブを考えれば、まずは地球が視野に入るでしょう。しかし、気候変動をもたらす温室効果ガスは人の活動によって排出されるものですし、サーキュラーエコノミーも人がきちんと設計すれば機能します。リジェネラティブは人と地球をセットで考え、実現していくべきものです。私たちは常に理念に立ち返り、実直に共創を続けます。その不断の改革、取り組みの先に、カーボンニュートラルやサーキュラーエコノミーの明日が見えてくると信じています」

 

 

関連サイト

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ドイツに新技術拠点「Regenerative Innovation Centre (リジェネラティブ・イノベーションセンター)」を開所 | ニュース | 東芝

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