厳しい鉱山で活躍するモビリティを変革! ~カーボンニュートラルに貢献する電動化への挑戦

2024/05/10 Toshiba Clip編集部

この記事の要点は...

  • 鉱山開発の分野でも、脱炭素化に向けて電動化が進む!
  • 鉱山機械の電動化には、安全で長寿命の二次電池が最適!
  • オーダーメイドのシミュレーションで、顧客の心をつかむ!
厳しい鉱山で活躍するモビリティを変革! ~カーボンニュートラルに貢献する電動化への挑戦

鉱物資源の需要が世界的に高まるなか、課題となっているのが脱炭素化だ。そのため、ダンプトラックなど鉱山機械の電動化が検討されているが、鉱山機械は過酷な環境で稼働するため、それを支える電動化技術にも高度な安全性や耐久性が必要になる。

 

東芝は、独自の電池技術を活用することで、鉱山開発の脱炭素化に挑んでいる。高い安全性、長寿命、急速充電などの特徴を備えた二次電池「SCiBTM」を、ダンプトラックに搭載することを提案。効率的な充電設備の整備も含めて、鉱山機械の最適な電動化、脱炭素化を推進していく考えだ。

 

なぜ、鉱山開発現場へのSCiB活用を着想したか。この分野の脱炭素化に、どのような貢献が期待できるのか。技術営業担当と営業・マーケティング担当の2名に聞いた。

 

東芝の二次電池「SCiB™」

東芝の二次電池「SCiBTM

鉱山機械に、いまなぜ電池が必要なのか

様々な工業材料に用いる鉄鉱石から、電子機器に必須のレアメタルまで、鉱物資源の需要が世界で拡大している。ゆえに鉱山開発市場も活発化しているが、カーボンニュートラルの潮流のなかで脱炭素化が急務だ。人と地球が持続可能であるために必要であり、あらゆる産業に対し投資家や消費者から脱炭素化の要請が強まっている。

 

こうした中で、鉱山の開発企業、鉱山機械メーカーなどが現在取り組んでいるのが、鉱山機械の電動化、つまり電池の活用である。ただし、鉱山機械は巨大で、強い駆動力と、厳しい路面環境で長時間の連続稼働が求められるため、そこに搭載する電池にも過酷な利用に耐える性能が要求される。従来の乗用車向けリチウムイオン電池では、この厳しい要求水準を満たすのは難しく、鉱山開発の分野で脱炭素化を進める大きなハードルとなっていた。

 

東芝は、長年培ってきた二次電池の技術力を活用することで、鉱山開発における脱炭素化の推進に挑んでいる。その取り組みの中核となるのが、二次電池「SCiBTM」だ。SCiBとは、負極材にチタン酸リチウム(LTO)を採用した、東芝独自のリチウムイオン二次電池である。負極に炭素系材料を用いるリチウムイオン電池と異なり、急速充電や、低温で使用しても金属リチウムが負極表面に堆積することがなく、発火等の電池事故の原因に繋がる内部短絡を起すリスクが低い。また、充放電の際に膨張・収縮がほとんど起こらないため、電池が劣化しにくい。このような特徴から、SCiBは、充放電を繰り返しても安全に運用でき、電池自体の劣化も少なく、高いエネルギー入出力と急速充電を維持できる。

 

SCiBTMの特徴

SCiBTMの特徴

「他の電池より長く使うことができるので、交換サイクルも長くなる。電動化は環境に良いと言われているが、すぐに使えなくなってしまっては意味がない。今後、リユース、リサイクルも検討していきます」と語気を強めるのはプロジェクトへの期待とビジネス展開への自信を抱く、営業・マーケティング担当の後呂草太氏だ。後呂氏はこう続ける。

 

「2008年に製品化されて以降、SCiBはすでにハイブリッド自動車や船舶、鉄道車両などに幅広く導入されています。脱炭素化の潮流が強まる中で、新たな参入領域を探っていました。従来の電池技術では解決できない課題を抱えている分野があれば、SCiBの特性を生かせるはず。そのような視点で調査を進めるなかで出会ったのが『鉱山機械の電動化』でした。過酷な環境で使用される鉱山機械を電動化するには、SCiBはまさにもってこいの電池です。地球規模の社会課題の解決に大きく貢献でき、市場の成長性も高いので、ビジネスチャンスとしても有望だと考えました

 

株式会社東芝 電池事業部 電池営業統括部 海外電池営業部 エキスパート 後呂 草太氏

株式会社東芝 電池事業部 電池営業統括部 海外電池営業部 エキスパート 後呂 草太氏

もう一つ重視したのが、脱炭素化による環境性と、SCiB導入による生産性の改善など事業性の両立だ。

 

電動化を提案する際には、顧客の事業性への配慮が必須です。脱炭素が進み、事業も持続可能であってこそ、価値のあるビジネスになります。その意味でも、鉱山現場はSCiBの力が大いに発揮できる分野だと感じました」

 

とても重要なこととして力を込めて付け加えるのは、同じく電池事業部で技術営業を担当する添田紗耶氏だ。なぜ、SCiBが鉱山機械の電動化にもってこいなのか、技術者として解説する。

 

「電動化の主要な対象として、わたしたちが着目したのは、鉱物を運搬する大型ダンプトラックでした。鉱山での高い生産性を維持するには、24時間365日稼働することが大前提です。乗用車で電池を使う場合、1回の充電で走れる航続距離を伸ばすことが期待されますが、ダンプトラックの場合は、1台にどれだけの鉱物を積めるかが生産性を大きく左右します。つまり、搭載する電池を少なくして、鉱物の積載量をできるだけ増やすことが重要なのです。大きな出力が出せ、長寿命で2万回以上の充放電をしても劣化が少ないSCiBなら搭載数が減り、鉱物を載せるスペースを十分に確保できます」(添田氏)

 

株式会社東芝 電池事業部 電池技術部 電池技術第一担当 添田 紗耶氏

株式会社東芝 電池事業部 電池技術部 電池技術第一担当 添田 紗耶氏

電気自動車は、一般道に充電設備をどう配備するかが課題になるが、鉱山内の限られた範囲を動くダンプトラックの場合は、充電用の設備や架線を配置しやすい。添田氏は、最適な充電システムも含めたダンプトラックの電動化ソリューション全体を構想し、顧客に提案する。

オーダーメイドのシミュレーションが顧客の心をつかむ!

SCiBを起点に鉱山機械の電動化を推進するには、SCiBの販売相手であるバッテリーメーカーに加えて、鉱山機械メーカーや鉱山開発企業にもメリットを理解してもらう必要がある。「バリューチェーンの川上から川下まで、あらゆるステークホルダーにアプローチする。そして、電動化の社会的な意義とビジネスインパクト、その中でのSCiBの優位性をお伝えすることが重要」と、後呂氏は事業の発展に携われる喜びを語る。

 

具体的には、オーストラリアで開催された鉱山開発に関する国際展示会に参加し、添田氏が電池技術の専門家としてプレゼンテーションしたり、鉱山企業の担当者の質問に対応したりといった取り組みを行っている。営業・マーケティング担当として、後呂氏が顧客に響くポイントを教えてくれた。

 

「鉱山ごとに開発規模や現場の状況は異なります。どの企業でも、自社の開発現場にSCiBを導入する場合に、どのぐらいの量が必要になるのか、寿命はどれぐらいかが関心事なので、かなり具体的な質問が寄せられます。

 

そこで、添田さんの技術チームに、顧客それぞれの現場条件でSCiBの寿命などを試算してもらい、その結果を紹介しています。ここまで詳細にシミュレーションして、オーダーメイドでデータを提供できるのは、東芝の大きな強み。顧客からはとても好評を得ています」(後呂氏)

 

ダンプトラックの稼働条件をもとに、SCiBTMのシミュレーションを社内で試みた一例

ダンプトラックの稼働条件をもとに、SCiBTMのシミュレーションを社内で試みた一例

技術者として、鉱山開発の様々な関係者と対話することは、添田氏にとっても大いに刺激になったという。

 

「技術者の立場では、電池技術の特徴や魅力を伝えることに注力しがちです。しかし、鉱山開発企業や鉱山機械メーカーが知りたいのは、電動化によってどれだけメリットがあるかです。環境性と事業性の両面で、どのようなアプローチをすると相手に刺さるのかを肌で感じられました。

 

例えば、ディーゼルエンジンを用いた鉱山機械では、数年に一回の頻度でエンジン交換が必要と言われています。これを電動化することで、10年に1回程度の電池交換で済めば、それだけで大きな付加価値になることがわかりました。また、電動化すると騒音が劇的に減って、働く環境の改善にもつながります。そうした点もご評価いただけました」(添田氏)

鉱山開発電動化のロードマップ

SCiBを起点とする鉱山機械の電動化プロジェクトは、ダンプトラックを対象に、2020年代後半から2030年にかけて市場投入が予定されている。それに向けて、運用効率や温室効果ガスの排出削減などのデータを蓄積・検証していく予定だ。

 

世界の鉱山機械の電動化は黎明期にある。「未知の市場を開拓していく上で、成功体験を積み重ねつつ、ステークホルダーからの信頼や評価を得ていくことが大切だ」と、後呂氏と添田氏は言葉を揃えた。

 

鉱山現場でSCiB™が活用されるイメージ

鉱山現場でSCiBTMが活用されるイメージ

そこで突破口になりそうなのが、地下鉱山向けの輸送車両の電動化だ。これは地表で作業するダンプトラックとは異なる。地下で火災が起きれば大災害につながるため、ディーゼルエンジンの車両はリスクが高い。また、地下に排ガスが滞留すると、作業員の健康にも負の影響を及ぼす。さらに排気される熱の換気のために膨大な空調設備が必要となるが、電動化は換気費用を抑制することにも一役買うという。

 

地下輸送車両はダンプトラックと同じ鉱山現場で用いられるモビリティです。国際展示会をきっかけにして、発火リスクが非常に小さく排ガスも生じないというSCiBの特徴を評価いただき、オーストラリアの企業に採用いただきました」(後呂氏)

 

SCiBTMを採用する、豪ZERO Automotive社のトラック

SCiBTMを採用する、豪ZERO Automotive社のトラック

 最後に二人に今後の目標、思いを聞いた。

 

SCiBを鉱山現場で効果的に使っていただくためには、わたしたちも鉱山開発を深く理解し、課題を具体的にイメージし、技術開発を重ねていく必要があります。プロジェクトを機に、ステークホルダーの方々とコミュニケーションする機会が増えました。ほんの小さな課題もいち早く察知して、より実効性の高い提案につなげていきたいです」(添田氏)

 

SCiBは強い特徴を持った技術であり、この電池にしかできないことがたくさんあります。SCiBの導入が進むことは、世の中に残っていた課題を解決できることであり、とても大きな社会的価値があると思っています。鉱山のダンプトラック電動化は、まさに象徴的な例です。SCiBだからこそ実現できる課題解決を提案し、鉱山に加えて様々な領域で活用されるよう努めていきます」(後呂氏)

 

後呂さん添田さんのショット

 

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