東芝の二次電池が切り開くサステナブルな海上輸送の未来(前編)

2021/08/25 Toshiba Clip編集部

この記事の要点は...

  • 期待大!海運業界における脱炭素化に向けた動き
  • 東芝のリチウムイオン二次電池SCiB™が、海運の脱炭素化に貢献!?
  • 欧州パートナーとグローバルに推進するサステナブルな海上輸送
東芝の二次電池が切り開くサステナブルな海上輸送の未来(前編)

より良い未来に向かって前進する世界

世界各国の政府は、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、すなわちカーボンニュートラルという壮大だが達成可能な目標の実現を約束し、よりサステナブルな未来を創造するために努力を重ねている。Energy and Climate Intelligence Unitによると、130を超える国々がこのような約束を掲げており、目標期限はドイツが2045年、日本が2050年、中国が2060年など国によって異なるものの、大多数が今後30年ほどでの達成を目指している。カーボンニュートラルな未来をグローバルで実現するためには、政府、産業界、市民、それぞれが支え合いながら努力をしていく必要がある。

 

グローバルな産業セクターの脱炭素化において、毎年110億トンの物品―1人当たりにすると1.5トン相当―を輸送する海運業は、経済的、社会的な視点から見ても間違いなく重要な業界の一つにあたる。国際海運会議所(ICS)によると、海上輸送は「世界の国々が経済発展に必要な原材料にアクセスできる」ようにし、「手頃な価格の製品・サービスを製造、輸出する」ことも可能にし、また、「輸送セグメントの中で、トンベースで環境負荷が小さい」とも主張している。その一方、国際海事機関(IMO)の2020 Greenhouse Gas Study(2021年発行)によると、海運業全体の二酸化炭素排出量は2012~2018年に10%近く増加し、世界全体の人為的排出量の2.9%を占めている。これは実質的に相当な排出量であるため、IMOは2030年までの大幅に排出量を削減する独自目標を設定して、この流れを反転させようとしてきた。

 

サステナブルな海運の未来を支える ―東芝のリチウムイオン二次電池SCiB™

世界的な情勢に動かされ、最近になってようやくサステナビリティを意識した企業が多いかもしれない。しかし、東芝は「人と、地球の、明日のために。」を経営理念の主文に掲げ、長年持続可能な社会の実現を目指し取り組んできている。今やそれが企業文化として根づいており、東芝の環境未来ビジョン2050にも明示しているように、社会の脱炭素化や循環経済の達成に向けて注力している。

 

将来のエネルギー課題の解決を起点として開発された、東芝のリチウムイオン二次電池SCiB™。これは、2019年にノーベル化学賞を受賞したジョン・グッドイナフ教授のチーム員として研究に従事した、東芝のエグゼクティブフェロー 水島公一氏の成果を礎に開発が進められた。2008年の製品化以降、さらなる性能向上を目指し技術開発が続けられ、高い安全性、長寿命、低温性能、急速充電といった特性を実現している。サステナビリティに優れ、長寿命による総保有コスト(TCO)という点で極めて大きな利点のあるSCiB™は、現在に至るまで様々な産業をサポートしており、その一つに海運業がある。

 

SCiB™ の優れた6つの特長

SCiBの優れた6つの特

ここであえて言及しておきたいのは、充電をすることにより繰り返し使用出来る二次電池だからといって、すべてが一般的に期待されるほどクリーンな製品であるとは限らない点だ。東芝エレクトロニクス・ヨーロッパ社のTorkel Mallminは次のように説明する。

 

「もちろん従来の化石燃料に比べれば、二次電池は非常に環境に優しいです。しかし、すべての二次電池は、原料の採掘から始まる製造プロセスでCO2を発生させています。これを理解しておくことが重要で、搭載すべき電池容量を大きくせざるを得なかったり、船舶の寿命期間内に何度も交換する必要があると、環境的なメリットは損なわれてしまいます。SCiB™は小型化かつ長寿命を実現し、それによって船舶の寿命期間内のCO2排出量の大幅な削減に貢献できます。このことは、サステナビリティ目標の達成を目指す企業にとって明らかなアドバンテージです」

 

そして車両用途であれ、産業・インフラ用途であれ、二次電池を採用する企業は、環境面のメリットだけでなく、当然のことながら安全性についても重視する。SCiB™は5,000万セル以上を生産しているが、市場でのセルに起因する安全性の問題がこれまで報告されていないことから、製品の安全性と品質に対する信頼性が評価されている。

 

安全性と同様に重要な、二次電池の信頼性の条件では、故障率、ライフサイクル、充電効率が極めて重要だ。特に輸送セクターでは少しの遅れが国内、国外、さらには世界規模でサプライチェーンに影響しうるため、製品の信頼性が鍵となる。この点、1万5,000回の充放電サイクルを実現する東芝のSCiB™には信頼感と安心感がある。そして東芝は現在、オペレーターが電池容量をリアルタイムで追跡監視するためのツールを開発中である。またSCiB™は、一次利用での寿命を迎えた後も、その長寿命と安全性により、二次利用によって価値を提供し続けることができる。

 

以上の要因が、世界屈指の造船企業であるDamen Shipyards社、そして海運ゼロ・エミッション電力システムのパイオニアであるEchandia Marine社と東芝とのパートナーシップ締結を後押しした。

サステナブルな船舶輸送の最前線――DamenとEchandia

1927年、Jan DamenとMarinus Damenの兄弟は、オランダの主要港ロッテルダムに近いハーディンクスフェルト=フィッセンダムという町で、家族の名前を冠した造船会社を立ち上げた。依然として家族経営を続けるDamenだが、豊かな伝統を誇り、6,500隻以上の船舶を自社で製造し、現在では世界36の造船所に1万3,000人の従業員を抱え、年間175隻以上の船舶を新規に製造する正真正銘のグローバル企業である。そのラインナップは海軍関連、スーパーヨット、作業船など多彩である。

 

イノベーションの最先端を走り続けることに対するコミットメントと、変化を続ける顧客のニーズに応えようとする情熱が、Damenを1世紀近く業界トップに君臨させてきた重要な特徴だ。そしてこうした特徴は、同社が船舶の設計から寿命終了に至る環境負荷の最小化を約束することにもつながっている。

 

これとは対照的に、スウェーデンのストックホルムに本社を置くEchandiaはわずか8年前の2013年に創業した企業だが、船舶電動化のパイオニアとなることにコミットし、急速に存在感を上げてきた。同社の軽量で高性能な電池システムは東芝のSCiB™セルを使用し、それによって安全性、信頼性、コスト効率に優れた船舶用途専用のLTO電池システムを構築している。

 

コペンハーゲンで運航するDamenとEchandiaの電動フェリー

コペンハーゲンで運航するDamenとEchandiaの電動フェリー

高度な専門能力を持つEchandiaのチームは、2016年の最初のプロジェクト――EUの資金提供を受けて実行したBBグリーン船――以降、45件の電動船プロジェクトに携わってきた。同社が目指すのは純粋な電池ソリューションの分野でマーケットリーダーになることであり、着実に実績を積み上げながらその道を歩んでいる。例えば同社がDamenと初めて組んだ2020年のプロジェクトでは、両社のコラボレーションによって、コペンハーゲンで運航する定員80人のフェリーが7隻、新たに製造された。

 

このように、DamenとEchandiaはサステナブルな海上輸送の推進という共通の精神を持ち、またコペンハーゲンのプロジェクトの成功実績もあったことから、Damenがニュージーランドのオークランド港から完全電動タグボートの導入支援を求められた際に、再びEchandiaと手を組むことになった。

 

後編では、オークランド港のゼロ・エミッション化という大命題に向け、Damen、Echandia、そして東芝の3社がどのような姿勢と熱意で取り組んでいるのか、本プロジェクトの立役者たちのインタビューを通じて探る。

 

Damen Shipyards社

Echandia Marine社

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