東芝の若き技術者たち ~リチウムイオン電池が未来を創る~

2021/01/13 Toshiba Clip編集部

この記事の要点は...

  • リチウムイオン電池で目指す、持続可能な社会の実現
  • 東芝で身につけた、技術者としての視座
  • 変革の今こそ、創造性を発揮するチャンス
東芝の若き技術者たち ~リチウムイオン電池が未来を創る~

電池の進歩は、20世紀に人々が思い描いた21世紀を実現する原動力の一つとなってきた。効率よく充放電できるリチウムイオン電池の登場によって、自動車などのモビリティ、非常用バックアップ電源などの産業機器といった、電力によって動くものを次々と変えてきた。今回は、そんな次世代のリチウムイオン電池を大学で研究し、その知見を東芝で発揮しながら、様々な経験を通して成長を続ける若手技術者の素顔に迫った。

最先端の科学に触れたことが、世界を変えるきっかけ

地球温暖化への対策として自動車の電動化などが進んでおり、そこに搭載されるリチウムイオン電池には優れたエネルギーの入出力、長寿命などが求められている。そんなリチウムイオン電池への期待にどう応えるのか、株式会社東芝 電池事業部 セル開発部の中村夏希氏が語った。

 

「東芝は、電池の負極にチタン酸リチウムを採用したSCiB™によって、安全性、長寿命、低温性能、急速充電、高入出力、広い実効SOC※1レンジといったメリットを提供しています。SCiB™は様々な場面で活用されていて、今、その可能性をさらに広げるための開発に従事しています」

※1 SOC(State of Charge:充電状態),SCiBTMは、SOCの広い範囲に亘って高い入出力特性を持つため、SOC 0~100%で使用可能。

株式会社東芝 電池事業部 セル開発部 セル開発第二担当 中村夏希氏

株式会社東芝 電池事業部 セル開発部 セル開発第二担当 中村夏希氏

中村氏は、持続可能な社会の実現に貢献することを志して、日々の仕事を進めている。例えば、再生可能エネルギーを導入する際、電力の需要と供給の不一致による周波数変動が問題になる。周波数を数秒単位で調整するために使われるリチウムイオン電池は必然と充放電回数が多くなるが、一般的な電池に比べて安全性・信頼性が高く、長寿命のSCiB™であれば対応できる。このSCiB™の実力をさらに伸ばした次世代製品の開発が、中村氏のミッションだ。

 

中村氏は、電池の材料選定から構造設計、そしてプロセス開発に携わっている。電池というと小型軽量のイメージがあるが、現場では大規模な実験が行われるので、資材が数十kgから数百kgといった量になることもある。製品に近いサイズの電池のほうがデータの信頼性が高いため、目的に合わせて適正な実験を組むことが重要になるからだ。

 

「触れると危険な材料を扱うことも多いため、防護服を着て、耐溶剤・防塵のフェイスマスクに手袋を二重に着けて資材を運びます。電池には本当に複雑な反応があり、まだ解明されていない現象もたくさんあります。わずかな不純物や電極の差が大きな反応の違いをもたらしたり、想定していなかった材料の組み合わせが飛躍的に特性を向上させたりします。そのため、数多くの検証が必要になります」

電池材料の選定では、体力が要求される作業も多い

電池材料の選定では、体力が要求される作業も多い

入社当初、大学での研究と比べて扱う材料の規模が大きく、求められるデータの厳密性などに驚いたが、製品が社会に実装される充実感を楽しんでいるという。そんな中村氏は、学生時代に量子力学や宇宙物理学といった幅広い科学に触れるなかで世界の見え方が大きく変わり、社会の発展につながる仕事がしたいと考えるようになった。そして、自分に向いている領域での社会貢献を志して、応用物理化学を専攻した。

 

「次世代のリチウムイオン電池が世界的に注目されていて、最先端の分野でもまれることで研究する力を付けたいと思い、大学院で正極に硫黄を使ったリチウム二次電池をテーマにしました。高いハードルに挑戦することはとても楽しく、通常では得られない貴重な経験を積めました」

 

その言葉に違わず、中村氏はJournal of Power Sources(インパクトファクター※2 7.4)などの国際学術誌に筆頭著者として論文を2本投稿した。中村氏が所属していた研究室では、修士課程から国際雑誌に掲載論文が出るのは、実に数10年振りだったという。そんな中村氏は、なぜ東芝を選び、どのようなキャリア・考え方を育んだのだろうか。

※2 インパクトファクター:学術雑誌の影響度の評価指標で、掲載論文の被引用状況を基に計算。

社内交流で磨かれた、技術者としての視座

学生時代の中村氏が東芝に持っていたイメージは、多くの世界初、日本初を生み出してきた会社だった。そして数々の画期的な製品を世に出し続ける裏側に、前例の無いことに挑戦する技術者の存在を想像していたという。

 

「新しいものを生み出すことには、多くの課題と困難があります。それらに対して必ず製品化するという気概を持って多くの技術者、研究者が目を輝かせて励む姿が浮かび、私もその一員になりたいと思いました」

 

そんな中村氏が起こしたイノベーションが、SCiB™ のセル組み立てにかかる工数を1/10に低減し、さらに従来困難であった長期評価の信頼性を向上させる、材料評価手法だ。この方法により、材料サプライヤへの早急な評価結果のフィードバックが可能となり、新製品開発が加速した。この手法を提案した当初はデータの信頼性を疑問視する声もあったが、他の手法による評価結果との相関や、メリット・デメリットを明確化したことで、有力な手法だと認められた。今後は、工場での電極品質の管理にも展開されるという。一人の若手技術者が抱く変革への情熱が、東芝社内、そして社会へと新しい価値を生もうとしている。

実験風景

なぜ、中村氏は、イノベーションを起こせたのか。そこには、社内交流で身につけた技術者としての視座が影響しているという。研究開発センターで業務に従事し、SCiB™の次世代の負極材料であるニオブチタン酸化物に携わったときを思い出し、中村氏は語った。

 

「実験の立案から結果の考察まで、それぞれの研究推進力が高いことに驚きました。また、研究者が製品化の先にある数10年後までを見据えて、譲れないポイントを主張する様子に視野が開かれました。自分も同じようになりたい、長期的な目線で価値を創造したいと思い、今、博士課程に進学して次世代リチウムイオン電池を研究しています」

 

中村氏のチームは新製品の上市に向けて、多忙な毎日を過ごしている。しかし、そんなときだからこそ、談笑するくらいの緩やかなコミュニケーションを大切にし、些細なことでも話しやすい雰囲気を大切にしているという。ここにも、中村氏が東芝で培った経験が生きている。

 

「製品化には、私たちのような開発者だけでなく、工場との協力が大切です。入社したころに試作品のことで工場の方々と連携した際、一緒に汗をかき、その後に懇親も深めたことで、見事に量産化に成功したときのことを思い出します。今でも現場の方々に『久しぶり、夏希ちゃん』と声をかけていただけると、嬉しくなります」

中村氏とともにバッテリーの未来を見つめるチーム

中村氏とともにバッテリーの未来を見つめるチーム

未来を思い描く人がつながり、そこに技術が加わることで、社会に確かな価値を提案できると中村氏は強調する。どういう人と技術を磨き、仕事をしたいか、中村氏の言葉を聞こう。

 

「東芝の経営理念は『人と、地球の、明日のために。』です。この会社には、社会を変える革新的な技術があります。そして私は、社会に広く大きく貢献したいと思う人と働きたいと思っています。入社した当時、東芝は経営危機にありましたが、今そこからインフラサービスカンパニーとして生まれ変わり、前進しています。そんな変革の時期に、若い世代が新しい流れを創れるのはワクワクします」

2021年1月、SCiB™の横浜電池工場が竣工

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