東芝の若き技術者たち ~信頼の鉄道技術を世界に広げる~
2020/10/21 Toshiba Clip編集部
この記事の要点は...
- 初めての海外は、就職のために訪れた日本
- 真摯な対応で信頼を育む営業スタイルは世界共通
- 地球規模の活躍の先に目指すのは、故郷への貢献

日本への就職が、初めての海外渡航
20世紀後半、日本では「国際化」という言葉が社会や文化だけでなく人々の生き方にまで影響を及ぼしていた。21世紀に入り「ボーダーレス」という言葉とともに、国境を越えた人や物の流れは当たり前のこととなった。そして現在、「多様性」という言葉は、人間が地球規模で考えられるほどに成熟した文化を獲得しつつあることを表しているのかもしれない。
東芝は、数十年前から広く世界を見つめ、大きく羽ばたいてきた。そして、今や世界中のインフラをその技術によって支えている。
フィリピン出身のイルデサ マリア レジーナ氏(以下、レジーナ氏)は、東芝インフラシステムズ株式会社 鉄道システム事業部 鉄道システム技術部で、セールスエンジニアとして働いている。
東芝インフラシステムズ株式会社 鉄道システム事業部 鉄道システム技術部イルデサ マリア レジーナ氏
「東芝に興味をもったきっかけは、大学で行われるリクルートプログラムで、東芝のプログラムに参加したことでした」
東芝は、次世代を担う若者、国境に縛られない多様性に富んだ人材を求めて、世界各国でリクルート活動を行っている。レジーナ氏も、そんなグローバル採用者の一人だ。
「入社のために日本に来るまで、一度もフィリピンを出たことはありませんでした」
初めての海外が日本での就職だったというレジーナ氏の大学時代の専攻は材料工学。ホテイアオイという植物を使った繊維強化プラスチックの製造法について研究をしていたという。
「ホテイアオイは、南米原産の水草です。きれいな花が咲くのですが、フィリピンを始め世界各地で侵略的外来種として問題になっています。多様性を認め合うことが求められる時代、ただ駆除されて捨てられるだけの植物が、なにかに利用することができないか研究していました」
ホテイアオイは繁殖力が強く、水面を覆い尽くすことで漁業や水上運輸の妨げとなることがある
そんなレジーナ氏は現在、鉄道システム技術部門の海外担当として、主に鉄道用の変電所向けの設備機器を取り扱っているという。そして、現在の仕事の話になったとたん、レジーナ氏は、満面の笑みを浮かべながら言った。
「最近、力を入れていた回生電力貯蔵装置の海外での受注に成功したんです!」
この回生電力貯蔵装置は、TESS(Traction Energy Storage System)と呼ばれ、電車が減速する際にモーターが発電機となり、発生するエネルギーを電力として地上に設置した設備で回収するシステムだ。
SCiBTMを使ったTESSの仕組み
ハイブリッドカーや電気自動車で知られることとなった、回生ブレーキの鉄道版と言えるだろう。鉄道における回生電力は、近くを走る他の電車に、架線を通じて送電されて消費されるという。しかし、近くにエネルギーを必要とする電車がなければ回生ブレーキから機械式ブレーキに切り替わり、熱として捨てられてしまうのが今までのシステムだった。
「東芝インフラシステムズでは、この回生電力を地上にある施設に送って蓄電し、必要なときに必要な車両が使うことができるシステムTESSを開発しました」
レジーナ氏のチームは、蓄電池に東芝が開発した長寿命のリチウムイオン二次電池「SCiB™」を搭載したTESSを、バングラデシュのダッカ都市高速鉄道向けに受注できたという。
「TESSは、お客様にとっても新しいシステムのため、なかなか内容を理解してもらうことができませんでした。しかし、バングラデシュでの受注獲得で、丁寧に説明を尽くせば、理解し、信頼していただけることがわかりました」
自分のアイデンティティーを見失わないことが、知らない国での成功につながる
「日本での社会人生活のスタートは、何もかもが初めてで、何度もあきらめてしまいそうになりました」
今では日本語に不自由することもなく、日本での生活を楽しんでいるというレジーナ氏だが、入社当時に苦労した思い出について話してくれた。
「配属先では、大学時代にあまり詳しく勉強していなかった電気工学の知識が必要だったため、入社後の研修では、電気工学をゼロに近い状態から勉強しました。もちろん、日本語は完全にゼロの状態からスタートしましたので、最初の頃は非常に大変でしたが、東芝での日本語教育やたくさんの同僚や先輩に助けてもらうことで、乗り切れたと思っています」
東芝グループには、30名近いフィリピン出身者が就業しており、彼ら同士のコミュニティも盛んに活動している。
「日本に来た当初は、東芝で働くフィリピン人のコミュニティに、あらゆる面で助けてもらいました。母国語で話せることに大きな安心感を得られたのを今でも覚えています」
食べ物や音楽から好きなテレビ番組まで、同じ記憶を共有する人々との会話には、同じことを疑問に思い、同じことに悩んだ先人たちが、既に出した回答が豊富にあったのだ。
「疑問に思っていることがうまく伝えられなくても『あのことね』とすぐにわかってもらえるだけで、半分解決したような感じがしました。今は、そのときの経験を、先輩への恩返しのつもりで後輩たちに伝えています」
同じ鉄道システム技術部の同僚である、ヘロニモ アントニー アイヴァン氏も、そんな後輩の一人だ。
「アイヴァンさんが困っていることや悩んでいることの一部は、以前の私を見るようにわかるときがあります。きっと、私のことを助けてくれた先輩もそうだったんだと思っています」
東芝インフラシステムズ株式会社 鉄道システム事業部 鉄道システム技術部 ヘロニモ アントニー アイヴァン氏(写真右)
入社したばかりのアイヴァン氏にとって、レジーナ氏は頼れる同郷の先輩なのだ。そして、いつの日かアイヴァン氏が、後輩を応援する立場になるのだろう。こうした同郷の後輩を応援するシステムは、東芝社内に昔から連綿と続いているのだという。もちろん、それはフィリピン出身者だけでなく、他の国の出身者も同様であり、人類が目指す多様性の中、日本も含めた国境を越えた互助の輪となっている。
フィリピン出身の技術者が、日本企業の一員としてバングラデシュのインフラ整備に貢献する。文字にするだけでも、地球規模のスケールを感じることができる例である。しかし、その中心にいるレジーナ氏は、自らのフィリピン人としてアイデンティティーが、常に自分の進むべき道を示しているという。
「私が担当する鉄道電力システムでは、非常に幅広い製品を扱っています。ですので、もっと多くの製品にかかわって、より深く、より幅広い技術を身につけ、世界で通用する鉄道変電技術のエキスパートになりたいと思っています」
もちろん、レジーナ氏は故郷のことも忘れていない。
「フィリピンは、慢性的な交通渋滞により、鉄道の重要性が非常に高まっています。鉄道技術をはじめとする東芝のソリューションでフィリピンに貢献するのが、近い将来の私の夢です。これは入社時から変わらない気持ちであり、先の世代のことを見据えてそういう未来を思い描いています」
侵略的外来植物からフィリピンを守るための研究に取り組んだ学生時代から、内容は変わっても思い描いている未来は変わらないのだ。
「入社前には、一度も海外に出たことのなかった私でしたが、今では、海外案件の対応で名実ともに世界を広げることができました。これからも地球のどこにでも、東芝の技術を必要とする人がいる限り、私はそれを届けていこうと思っています。東芝グループの理念体系にもあるように、変革への情熱を抱いて、人と地球のために貢献したいです」