高まるリチウムイオン電池への期待と、東芝の回答[前編]

2020/11/27 Toshiba Clip編集部

この記事の要点は...

  • 2019年ノーベル化学賞にみる、リチウムイオン電池への高まる期待
  • リチウムイオン電池に求められる性能の変化と、技術上の課題
  • 高まる期待と技術課題に応え、地球温暖化対策などに貢献する東芝のSCiB™
高まるリチウムイオン電池への期待と、東芝の回答[前編]

2019年のノーベル化学賞は、吉野彰氏(旭化成)とジョン・グッドイナフ氏(テキサス大学)、スタンリー・ウィッティンガム氏(ニューヨーク州立大学)ら日米の研究者が受賞した。三氏の受賞理由が「リチウムイオン電池開発」であったことは記憶に新しい。

このうち、ジョン・グッドイナフ氏の下で、高容量リチウムイオン二次電池の正極材料の研究に従事し、コバルト酸リチウムが優れていることを見出したのが、当時東京大学の助手であった東芝 エグゼクティブフェローの水島公一氏である。この発見は、今日実用化されているリチウムイオン二次電池の基本構成に寄与しており、東芝では、この水島氏の功績を称え特別賞を授与した。

 

株式会社東芝 代表執行役会長(当時) CEO車谷暢昭氏(写真右)から特別賞を授与される、東芝 エグゼクティブフェローの水島公一氏(写真左)

株式会社東芝 代表執行役会長(当時) CEO車谷暢昭氏(写真右)から特別賞を授与される、
東芝 エグゼクティブフェローの水島公一氏(写真左)

そして現在、SDGs達成のためにも、リチウムイオン電池の展開に大きな期待がかけられていることは、前述のノーベル化学賞から推し量ることができるだろう。たとえば、世界規模で進む地球温暖化への対策として車の電動化が急務であり、そこに搭載される電池にはエネルギーの高入出力に優れ、長寿命であることなどが求められ、CO2削減への貢献が期待されている。

 

変化するリチウムイオン電池への性能要求とその実現に向けて

リチウムイオン電池は、そのエネルギー密度の高さから小型軽量ながら高い電圧と容量を実現し、500回以上の充放電サイクルに耐えるという優位性から、スマートフォンなどの進歩と普及に貢献してきた。自然な流れとして、電気自動車などへとつながる、さらに高容量・高エネルギー密度のリチウムイオン電池を作る革新的技術が期待されている。だが、こうしたリチウムイオン電池への要求の実現には、安全性や耐用年数の向上といった大きな課題がある。

 

リチウムイオン電池に求められる性能は、その用途ともに変化している

リチウムイオン電池に求められる性能は、その用途とともに変化している

たとえば、高容量化と高エネルギー密度化においては、大きなエネルギーを蓄える分、異常時には大きな事故の可能性が増してくる。そのため、製造時の異物混入の防止など、厳格な品質管理が必要となる。また、産業分野への応用には、過酷な環境下での使用を想定した性能の確保が必要となるほか、交換の難しい機器への採用では、長期間にわたる安定した性能と安全性が要求される。

 

大容量化/高エネルギー密度化が進むほど安全性は低下傾向

 

東芝が提案する新しいリチウムイオン電池の形

電気自動車や定置・産業用の電池として求められるリチウムイオン電池の大容量化や高エネルギー密度化に対して、東芝は負極にチタン酸リチウム(LTO)を採用したリチウムイオン電池SCiB™をもって応えている。SCiB™は、負極にLTOを使うことで、安全性、長寿命、低温性能、広い実効SOC※1レンジ、急速充電、高入出力といった多くのメリットにより多様な技術的課題を解決している。

 

SCiBTMの特長

※1 SOC(State of Charge:充電状態),SCiBTMは、SOCの広い範囲に亘って高い入出力特性を持つため、SOC 0~100%で使用可能。

 

●LTO負極のメリット(1) 原理的に金属リチウムが析出せず、内部短絡リスクが低い

リチウムイオン電池がかかえる課題として、性能の劣化と内部短絡(ショート)による発火などがある。これらの問題の原因は、負極に析出する樹枝状金属リチウムである。これはデンドライドと呼ばれ、このデンドライドが成長しセパレーターを貫通して正極に達することで内部短絡が起き、発火などに至る危険性が高まる。

 

負極から樹枝状金属リチウム(デンドライド)が析出する様子

負極から樹枝状金属リチウム(デンドライド)が析出する様子

デンドライド析出は、負極の電位が過電圧によって0ボルト(V)になると起こる。一般的なリチウムイオン電池の炭素負極では、リチウムイオンを吸蔵※2する電位が0.1Vと0Vに近いため、わずかでも過電圧がかかる状態(急速充電を行ったり、低温環境で充電を行ったりするなど)でデンドライドが析出する可能性が高まる。一方、SCiB™に採用されているLTO負極では、吸蔵放出の電位が1.5Vと0Vに対して十分なマージンが確保できるため、原理的にデンドライドが析出する可能性は少ない。

 

リチウムイオン電池の正負極の各材料のケミカルポテンシャルを表した図

※2 吸蔵:リチウムイオンが固体中に吸収される現象。

 

●LTO負極のメリット(2) 内部短絡に対する独自の自己保護機能

たとえ内部短絡が起こっても、LTOは自己保護機能を有しているため安全性が高い。LTOは絶縁体であるが、リチウムイオンを吸蔵させることで電極材料(電導相)として機能する。しかし、正極と負極の間に誤って金属などの異物が混入した場合、このリチウムイオンが短絡点近傍のLTOから瞬時に抜けて、LTO負極が絶縁体(高抵抗相)に変化する。そのため過大な短絡電流が流れることなく、電池の熱暴走が抑制される。これが自己保護機能である。

電池に釘を刺す実験

内部短絡に対する独自の自己保護機能

 

●LTO負極のメリット(3) 急速充電、低温性能

LTO負極は、急速充電を行っても金属リチウム(デンドライド)が析出する可能性が少ない。このメリットを活かし、SCiB™では急速かつ安全な充電が可能となっており、実に3分間で80%を充電できる。また、-20℃の低温下での充電実験でもLTO負極にデンドライドの析出が起こらないため、繰り返し充電・放電が可能となり、容量劣化もほとんど起こらない。

急速充電、低温性能

 

●LTO負極のメリット(4) 充放電に伴う体積変化が非常に小さく長寿命を実現

一般的なリチウムイオン電池では、リチウムイオンの吸蔵放出に伴って5~15%の体積変化を伴うことが知られている。こうした物理的な体積変化によって、材料の損傷などを招いて容量が低下し、寿命も短くなる。これに対してSCiB™に採用されるLTO負極はスピネル型と呼ばれる非常に安定した構造を持つため、リチウムイオンの吸蔵放出に伴う体積変化はほとんどなく、長寿命を実現している。このことは、環境温度35℃という過酷な条件での実験でも確認されており、2万回以上の充放電を行った後も90%以上の容量が維持された。

充放電に伴う体積変化が非常に小さく長寿命を実現

 

●一般的なリチウムイオン電池との性能比較

ここまでご紹介したとおりSCiB™は様々な特長を持っており、それらを一般的なリチウムイオン電池と比較したのが下の図である。SCiB™は、一般的なリチウムイオン電池に比べてセル電圧は低いが、充放電サイクル寿命、作動温度、充電可能温度に優れるため、総保有コストを小さくすることができる。

 

一般的なリチウムイオン電池との性能比較

地球温暖化への対策として、リチウムイオン電池が電気自動車や産業機器など大型機器へ応用されるなか、急速充電、低温充電ができ、耐久性に優れる、SCiB™はその一つの解決策だと東芝は考えている。中編では、SCiB™の製品ラインアップの紹介と、産業分野への応用、そして未来への展望をご紹介する。

 

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