世界最高水準の発電効率!五井火力発電所更新工事プロジェクト
2025/12/22 Toshiba Clip編集部
この記事の要点は...
- 世界最高水準の発電効率を実現し、電力安定供給とCO2排出量の大幅削減を両立
- デザインの力で現場の安全と持続性を追求
- コロナ禍を乗り越え、10年超の超大型PJを完遂。次世代へ情熱と誇りを継承
現代社会は、地球温暖化対策としての脱炭素化の加速、AI技術の普及による電力需要の急増、そして太陽光や風力など天候に左右されやすい再生可能エネルギーの不安定性という、複合的なエネルギー課題に直面している。このような状況下で、電力の安定供給を確保するための基幹電源として、CO2排出量が比較的少ない液化天然ガス(LNG)を燃料とする火力発電所の重要性が改めて認識されている。
東芝グループが受注した五井火力発電所更新工事は、まさにこの喫緊の社会課題に応える超大型プロジェクトである。旧五井火力発電所は、1963年(昭和38年)の1号機運転開始以来、半世紀以上にわたり東京近郊の電力系統を支え、日本の経済発展に大きく貢献してきた。しかし、設備の老朽化に伴い、より高い発電効率、より少ない環境負荷、そして揺るぎない電力安定供給の実現が求められた。
本プロジェクトの目的は、単に設備を置き換えることではなく、カーボンニュートラル社会の実現に向けたロードマップの中で、環境負荷の極小化と電力安定供給の両立を高い次元で実現し、将来にわたって日本のエネルギーインフラを支える持続可能な施設を創造することであった。この挑戦を通じて、東芝グループは安全性・効率・環境配慮で実績を持つ信頼できるパートナーとしての役割を果たすことを目指している。
世界最高水準の発電効率を実現したガスタービン・コンバインドサイクル発電
五井火力発電所更新工事プロジェクトは、五井ユナイテッドジェネレーション合同会社(GIUG)を事業者とし、東芝グループがEPC(設計・調達・建設)を担当した。発電規模は合計2,340MW(約780MW×3基)、東京ドーム約8.5個分の広さを持つ。これは、約580万世帯分の電力を賄える規模である。
このプロジェクトの核となるのが、ガスタービン・コンバインドサイクル発電方式(GTCC)の採用である。この方式は、ガスタービンで発電した後、その排熱を利用して蒸気タービンでも発電を行うことで、エネルギーを二重に利用する高効率なシステムである。

五井火力発電所では、GEベルノバ社製の最新鋭ガスタービンと、東芝グループ製の高効率蒸気タービンおよび発電機が組み合わされた。東芝グループは、このハイブリッドシステムを最大限に活かす発電システム全体の最適設計を担当し、その結果、発電効率約64%(※低位発熱量基準)という世界最高水準の数値を達成した。この高い発電効率は、使用燃料あたりのCO₂排出量を大幅に削減し、カーボンニュートラル社会の実現に大きく貢献する。
環境性能の向上は発電効率だけに留まらない。燃料には温室効果ガス排出量が最も少ない化石燃料であるLNGを使用し、硫黄酸化物や煤塵(ばいじん)の排出をゼロにする。さらに、最新鋭の低NOx燃焼器や排煙脱硝装置の導入により、大気汚染物質である窒素酸化物(NOx)の排出量は、旧設備時代と比較して約1/6程度に低減された。これにより旧設備では高さ180mの煙突が、80mにまで低煙突化され、地域の景観改善にも寄与している。
※注「低位発熱量基準」:燃料を燃焼させた時に発生する水蒸気の蒸発熱を発熱量に含まない計算方法。なお、蒸発熱を発熱量に含む方法は「高位発熱量基準」という。(出典:https://www.global.toshiba/jp/news/energy/2024/08/news-20240805-02.html)
現場と未来を見据えた「デザインの力」
五井火力発電所更新工事プロジェクトが特徴的なのは、単なる技術力の結集に終わらず、火力発電所に「デザインの力」を導入した点にある。日本のエネルギーを支える社会インフラとして、将来にわたり環境負荷の低減と首都圏の電力安定供給に貢献すべく設備を維持・管理するため、安全性や作業環境の最適化など現場視点に立った施設デザインが求められた。
そこで、東芝のデザイン部門が本プロジェクトに参画し、開発初期段階から建設・運用に関わる多くの人々と対話型のワークショップを重ね、そこで挙げられた現場が抱える課題や要望、そして社会課題解決への強い想いから、「見やすい・理解しやすい・心地よい・運用しやすい」というグランドコンセプトが共創された。

このコンセプトは、ヒューマンエラーを未然に防ぐための機能的なデザインに結実している。例えば、従来の発電所ではユニット番号のみで区別していたタービン建屋は、本プロジェクトにおいて、1号機をグリーン(G)、2号機をオレンジ(O)、3号機をインディゴブルー(I)と、ユニットごとにカラーで明確に識別した※1。取水口などの関連設備もユニットごとのカラーで統一し、直感的な判別性を大幅に向上させた。
※1「五井火力発電所」の“五井(ごい)”の頭文字を、各号機の色に当てはめ、1号機を緑(Green)、2号機をオレンジ(Orange)、3号機を藍色(Indigo Blue)としている。


さらに、広大なタービン建屋内での位置誤認を防ぐため、主柱や天井トラスにはA~Hのラベリング(座標の概念)が施された。これにより、作業者は建屋内のどの位置にいるかを瞬時に把握できるようになった。安全面では、安全通路にゼブラパターンを採用し、誰もが理解できる横断歩道をイメージした塗装を施すことで、安全性を高めている。

「デザインの最大の役割は、この大規模なプロジェクトに関わる人々の想いをひとつにする力であった」と、プロジェクトマネージャー(プロマネ)は振り返る。
プロジェクトを支えた「人々の想い」とその成果
五井火力発電所更新工事プロジェクトは、計画開始から3号機の営業運転開始まで、実に10年以上の歳月を要する超大型プロジェクトであった。建設工事は2021年に着工し、建設最盛期には、1日1,000人以上、1ヶ月で26,000人を超える作業員が入構した。
2019年に受注したこの大規模プロジェクトは、建設期間中にコロナ禍という予期せぬ困難に直面した。しかし、数千人のメンバーを率いたプロマネの強いリーダーシップのもと、計画通りのスケジュールと予算で総合運転開始を実現した。プロマネは、「個々人が与えられた仕事を100点で終えるだけでなく、みんなで作ったコンセプトに向かって全員が120点を目指せた」と語っている。困難を乗り越え、共に創り上げる発電所とそのデザインは、人々の想いをひとつにする象徴となったのである。

また、2024年11月9日と23日には、建設に携わった従業員の家族を招いた「FAMILY DAY」が、GIUGと東芝JV(東芝エネルギーシステムズ、東芝プラントシステムの2社で組成した共同企業体)の共催で企画された。このイベントは、「大切な家族に会社のこと、仕事のことを知ってもらおう」という目的で行われ、訪れた子どもたちからは「明るくてカッコ良い」と歓声が上がった。発電所の敷地面積が東京ディズニーランドと同じくらい広いこと、煙突の高さが80メートルであることなど、家族にも分かりやすく仕事のスケールを伝えることで、改めて従業員が社会的インパクトの大きい仕事であることを認識し、自社に誇りを持つための場となった。

未来の日常を支える信頼のパートナーへ
五井火力発電所更新工事プロジェクトには、多くの若手エンジニアが従事した。大きなプロジェクトだからこそ、ときには、直面したことのない課題に立ち向かわなければならないこともあった。しかしそのようなときでも、関係者がすぐに集まり対応策を考えるなどのスピーディーさが、プロジェクトを成功に導いたという。

発電所の更新工事は、電気、機械、試験、工程管理、品質管理など、さまざまな専門領域の部門が結集して行われる。したがって、それぞれが要求する仕様をつぶさに確認していきながら組み合わせていくという全体を俯瞰する視点と、きめ細やかな視点の両方が必要だ。この多岐にわたる専門領域を活かしたトータルソリューションこそが、東芝の強みなのだ。
東芝では、大きなプロジェクトであっても権限を委譲して若手の意見を尊重する風土がある。若手の時に培った経験が、エンジニアとしてのキャリアに必ず生きると考えるためだ。最初は大役に戸惑いを感じていた若手エンジニアたちも、年齢やキャリアにとらわれず率直に意見を交わしながら進められたことで、着実な成長を実感できたという。大変でありつつも、面白い。「東芝でしかできない仕事」と、誇りと醍醐味を感じていた。

プロジェクトは着実に進行し、2024年8月に1号機、2024年11月に2号機、そして2025年3月には3号機が営業運転を開始し、工期を遅らせることなくプロジェクトを完遂した。
世界最高水準の発電効率と徹底した環境配慮は、カーボンニュートラルな社会の実現への大きな実績となった。そして、プロジェクトに携わったメンバーたちは、未来の社会インフラを支えるという大きな使命を再認識した。
いま、なぜ火力発電所なのか。現時点では、CO2を排出しない電源に全てを置き換えることは難しい。環境性や経済性、電力安定供給の観点から、エネルギーベストミックスのために火力発電は重要な役割を果たしている。火力発電所を最大限地球にやさしく、効率の良いものに。それを実現したのが、五井火力発電所なのだ。
東芝グループは、この五井火力発電所更新工事プロジェクトで培った技術、知見を活かし、高効率LNG火力として今後も電力の安定供給とカーボンニュートラル社会の実現に貢献し続ける。

関連動画
世界一の発電所を仲間とともに ~五井火力発電所更新工事PJ~(6分27秒)
https://youtu.be/Pdpia0Ckgng?list=TLGGlxyVcDiuLaowNTEyMjAyNQ

