忍び寄る「ドローンの脅威」―東芝が挑む防空の最前線

2026/02/27 Toshiba Clip編集部

この記事の要点は...

  • 既存事業により培ったセンサ統合技術で、ドローンの「検出・識別・対処」を多層的に実現
  • 米スタートアップとの共創により、高い品質と開発スピードの両立に挑む
  • ドローンの捕獲で二次被害を防ぎ、空の安心・安全を目指す
忍び寄る「ドローンの脅威」―東芝が挑む防空の最前線

ここ数年、ドローン(無人航空機)が持つ可能性に大きな注目が集まっている。ラストワンマイルの効率化を目指す物流・配送分野での利用をはじめ、危険が伴う高所作業の自動化、災害発生時の迅速な被害状況確認や救援物資の搬送など、活用の幅はアイデア次第でどこまでも広がっていく。

しかし、技術の進化は常に、意図せざる「脅威」という側面を併せ持つ。重要施設への不法侵入、プライバシーの侵害、さらには空からの攻撃――。安全保障上のリスクも無視できない昨今、低コストで容易に入手できるようになったドローンが、時として社会を揺るがす深刻なリスクへと変貌する可能性を忘れてはならない。この新たな脅威から、私たちの当たり前の日常を守り抜くために、東芝が総力を挙げて取り組んでいるのが「カウンタードローンシステム(対ドローン セキュリティシステム)」である。

変化する「脅威の質」。目に見えない侵入者への危機感

「かつてのセキュリティは、地面に足をつけた『人』や『車』を止めることが主眼でした。しかし今、脅威は『空』からやってくるのです」 開発担当の安達一斗氏は、カウンタードローンが必要とされる背景をそう語る。

株式会社東芝 防衛・電波システム事業部 小向工場 統合防衛システム技術部 GMプロジェクト担当 安達一斗氏
株式会社東芝 防衛・電波システム事業部 小向工場 統合防衛システム技術部 GMプロジェクト担当 安達一斗氏

2015年、首相官邸の屋上にドローンが着陸するという事件が起きた。これを皮切りに、国内でもドローンにまつわる事件や事故が相次いで発生する。また、制御不能になった機体の落下事故なども報告され続けている。

現在、日本国内で発生している事案の多くは、法の認識不足や操作ミス、故障などが原因であり、人命やインフラを狙ったテロ行為は少数だ。しかし、海外の紛争地ではドローンが通常の戦力として利用されている現実がある。低コストで入手可能だが、使い方を誤れば社会機能に甚大な影響を与え得る。これに対し、東芝は長年培ってきた防衛・セキュリティ事業の知見を動員し、「カウンタードローンシステム」という形で対策に乗り出した。

カウンタードローンシステムとは、不審なドローンに対して様々なセンサなどを統合して、いわゆる「対抗」するシステムである。

例えば防衛施設や発電所においては、施設内部の盗撮や攻撃目的の侵入があった場合、機密情報の漏洩や電力供給の一時的な停止が想定される。ドローンという小型で低コストな無人航空機は活用が広がる一方で、被害も拡大する懸念があるのだ。そういったリスクに、カウンタ―ドローンシステムは対処する。

国の重要施設に対するドローンの攻撃・事故は、私たちの生活にも大きな影響を与えうる
国の重要施設に対するドローンの攻撃・事故は、私たちの生活にも大きな影響を与えうる

「ドローンによる対策が必要なシーンは様々あるが、特に東芝が強みを持っているのは、防衛や空港、発電所など重要施設における活用です。東芝は、国の安全保障を司る防衛施設や、国民の生活を支える発電所と長きにわたり関係を築いてきました。特に防衛事業において培ってきた、対象物の位置を特定するためのレーダ技術開発には強みがあります。技術における知見はもちろん、業界に精通しているという点も、お客様の信頼感に繋がっていると思います」と安達氏は語る。

では実際にこのような脅威があった際、どのように動作するのか。システムの説明について、さらにこう続ける。

「本システムは単一の製品ではありません。不審なドローンを『検出(見つけ)』『識別(見分け)』『対処(止める)』という一連のプロセスを、環境に合わせて最適化するトータルソリューションです。最大の強みは、自社開発による『目』の精度の高さにあります」(安達氏)

不審なドローンを『検出(見つけ)』『識別(見分け)』『対処(止める)』という一連のプロセスを、環境に合わせて最適化するトータルソリューション

カウンタードローンシステムで「目」にあたるのが、「レーダ技術」だ。安達氏の説明の通り、レーダ技術は長年国防を支えてきた東芝が強みを持つ技術だ。遠方より接近するドローンを捕捉する「長距離探知レーダ」、ドローンが発する電波を検知する「RFセンサ」、目標物の方位・距離・高度を正確に把握する「短・中距離探知レーダ」を多層的に組み合わせることで、早く正確により遠くからのドローン飛来を検知する。

「他社の多くは海外製の機器を買い集めてシステムを組みますが、東芝はハードウエアからアルゴリズムまで自社で深く関わっています。鳥とドローンをどう見分けるか。こうした微細なチューニングを日本の複雑な地形に合わせて行えるのは、レーダ技術のバックボーンを持つ東芝だからこその優位性です」(安達氏)

カウンタ―ドローンシステム各機器の説明

さらに、現場の状況や脅威の種類によって最適な検知手段・対処方法を想定し、現場に合ったシステムを構築できることも強みだ。例えば防衛施設では、瞬時の状況把握と現場での適切な対処ができる環境を整えることが求められ、空港では、各部門と連携し、不審な目標の検出情報を迅速に共有する体制が求められるなど、ニーズが異なる。現場による要望によって各機器を最適に組み合わせられることも、このシステムの大きな強みなのである。

現場のニーズに合わせた各機器の組み合わせが可能(※実在の施設ではなく、イメージです)
現場のニーズに合わせた各機器の組み合わせが可能(※実在の施設ではなく、イメージです)

スタートアップとの「異文化融合」が、事業展開の加速度を上げる

今回のプロジェクトにおいて、東芝は米国のスタートアップ企業、フォーテム社(Fortem Technologies, Inc.)とのパートナーシップを中核に据えた。同社は、設置が容易な小型レーダや、ネット射出型の自律飛行ドローンなど、独自性の高い製品で急成長している企業だ。しかし、この協業は単なる技術導入にとどまらず、東芝という組織に大きな変革をもたらすことになった。

開発担当の荻野義大氏は、協業の経緯をこう明かす。
「ドローンの進化スピードはすさまじく、すべてをゼロから自前で開発していては、刻々と変化する脅威に間に合いません。脅威を凌駕するスピードで解決策を出すためには、特定技術に特化したスタートアップの瞬発力が必要不可欠でした」

株式会社東芝 防衛・電波システム事業部 小向工場 統合防衛システム技術部 GMプロジェクト担当 荻野義大氏
株式会社東芝 防衛・電波システム事業部 小向工場 統合防衛システム技術部 GMプロジェクト担当 荻野義大氏

しかし、その道のりは平坦ではなかった。最も激しく衝突したのは「品質保証」と「スピード」に対する考え方の違いだ。

「東芝は社会インフラを支える企業として『盤石な品質や製品の安全性』を最優先します。一方で彼らは、まずプロトタイプを現場で回し、即座に修正するサイクルで動く『開発スピード』を優先するため、開発に関する時間軸の捉え方が全く異なりました」(荻野氏)

東芝が厳格な試験データを求めると、スタートアップ側からは「なぜこのような細かい検証をしなければならないのだ」と困惑された。だが、東芝側も引かなかった。

「『日本の法令に適合させるためには、この修正は必須だ』『現場で安全に運用するために、検証をしっかりとやらなければいけない』と泥臭く伝え続ける中で、彼らも東芝の基準が『信頼』という価値に直結することを理解してくれました」(安達氏)

安達一斗氏

東芝の「品質重視」という重い錨(いかり)と、スタートアップの「革新スピード」という翼。この二つがかみ合い、プロジェクトは真の加速度を獲得していく。

スタートアップとの共創から生まれたソリューションの進化

共創の結晶といえるのが、東芝が「対処」の切り札とする「自律型捕獲用ドローン」だ。これまでのシステムは、電波妨害(ジャマー)で機能を停止させる手法が主流だった。しかし、「機能を失ったドローンは墜落する恐れがあります。もしも落下位置に人がいたり施設があったりすれば、それらに被害が出る可能性があります」と営業担当の安藤千夏氏は指摘する。

株式会社東芝 防衛・電波システム事業部 電波・セキュリティソリューション営業部 安藤千夏氏
株式会社東芝 防衛・電波システム事業部 電波・セキュリティソリューション営業部 安藤千夏氏

そこで東芝は、フォーテム社が得意とする、目標ドローンを自動追尾してネットを射出して「生け捕り」にする手法を選択した。

「壊さずに捕まえることには、落下事故の防止と、証拠の保持という二つの大きな意味があります。回収機を解析すれば、侵入経路や目的を特定できる。これは日本の厳格なセキュリティニーズに合致させるため、東芝がこだわり抜いたポイントです」(安藤氏)

レーダで危険なドローンを追尾し捕獲する、自律型捕獲用ドローン
レーダで危険なドローンを追尾し捕獲する、自律型捕獲用ドローン

「『何も危険なことが起きず、安心安全な毎日が送れること』。成果は見えにくいですが、世界中の人々が安心して何事もなく暮らしていける社会を実現することが私たちのゴールです」と安藤氏が真っすぐな目でこう続ける。

「空の安全」という新しいインフラを創る

現在、カウンタードローンシステムは、発電所や空港、自衛隊施設など、高いセキュリティが求められる現場での導入検討が進んでいる。しかし、メンバーが見据える未来はさらにその先にある。

「私たちの技術は、決してドローンを排除するためだけのものではありません」と安達氏は力を込める。

「将来、空飛ぶクルマやドローン物流が日常になる中で、私たちは『空の交通管理』という役割を担うことも視野に入れています。ルートを正しく飛ぶ機体を見守り、ルールを逸脱した機体だけを迅速に特定することで、ドローンの正しい利活用につなげていくという役割です」(安藤氏)

スタートアップとの共創で得たものは、単なる製品だけではない。未知の領域に挑む際のスピード感、そして異なる文化を受け入れ、強みを掛け合わせる「共創の作法」だ。技術の面から社会の屋台骨を支えてきた東芝のプライドと、明日を変えるスタートアップの熱意。その融合が、我々の頭上に、目に見えない「安心のインフラ」を築き上げようとしている。

荻野義大氏・安藤千夏氏・安達一斗氏

関連サイト

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対ドローン セキュリティシステム | 防衛・電波システム事業 | 東芝

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