誠実であり続ける:うそのない仕事が未来の基幹を支える。マレーシア出身リーダーが貫く東芝の魂 ~理念ストーリー We are Toshiba~
2026/06/29 Toshiba Clip編集部
この記事の要点は...
- 「郷に入っては郷に従え」の精神が生んだ、東芝への深い愛着
- 緻密なマネジメントと「ワンチーム」の構築による、困難なミッションの完遂
- お客様にも社員にも家族にも、「誠実であり続ける(Do the right thing)」
東芝アジア・パシフィック社(TAPL)のエネルギー・インフラシステム部門(EIS)を率いる卓良明(Chok Liongmeng)氏は、マレーシアに生まれ、現在はシンガポール国籍を持つ。1992年にグローバル採用2期生として入社してから三十余年。日本、ドイツ、フィリピン、そしてシンガポールと舞台を変えながら彼が守り抜いてきた「誠実」の価値観は、今や東南アジア全域のインフラを支える礎となった。一人の挑戦者が、いかにして国境を越えた信頼を築き、次世代の未来を始動させたのか。その真実に迫る。
言葉の壁を越え、青梅で育まれた「家族」の絆
卓氏のキャリアの原点は、台湾の大学でITを学んでいた学生時代にある。当時、ノートパソコンとして世界的な人気を誇っていた東芝の「ダイナブック」に強い関心を抱き、「最先端の技術を学び、将来の糧にしたい」という情熱から日本での就職を決意した。
1992年の入社後、最初に配属されたのは東京の青梅工場だった。入社当時、卓氏は日本語を全く話せなかったが、「郷に入っては郷に従え」の精神で猛勉強を開始。川崎のトレーニングセンターでの集中研修後、府中工場で開講されていた日本語クラスを受講するため青梅から府中に半年間通ったという。そこでは、アメリカ、イギリス、韓国、カナダ、台湾など様々な国籍の同期生と切磋琢磨し、土曜日には互いの寮に集まってピザを囲むような、にぎやかで楽しい日々を送ったと卓氏は語る。

青梅工場での7年間、卓氏は生産管理システムや組み立てラインの制御ソフトウェア開発に従事した。言葉の壁にぶつかりながらも、現場の作業員やエンジニアたちが誠実に製品と向き合う姿勢、そして家族のように温かく迎え入れてくれる職場の雰囲気に触れ、東芝という会社に深い愛着を持つようになったという。
「職場の皆さんは、私のことを親しみを込めて『タクさん』と呼び、家族のように温かく迎え入れてくれました。誰かの家に招かれて食事を共にしたり、逆に私がマレーシアのカレーを作って振る舞ったり。そんな温かなチームワークがあったからこそ、言葉の壁を越えて成長できたのだと思っています」

2000年に一度東芝を退職した卓氏は、外資系IT企業でのコンサルタント経験を経て、2003年に家族の事情で日本を離れ、シンガポールを拠点とするTAPLへ入社する。
「かつての上司から『東芝をよく知る君の力が必要だ』と声をかけられました。外資系での経験を東芝で生かしたいという思いもあり、迷いはありませんでした」と卓氏は振り返る。
熱帯の課題に挑む:南洋理工大学との省エネ検証プロジェクト
TAPL入社後はビジネスプランニング部門で地域全体の経営支援に携わり、2010年からは営業の最前線へ。スマートコミュニティ(スマコミ)部隊の立ち上げに関わり、政府機関や大学とのコラボレーションを通じて、国の基幹インフラに関わるプロジェクトを推進していった。
その代表例が、南洋理工大学(NTU)との共同研究による「モジュール型データセンター」の検証プロジェクトである。熱帯気候のシンガポールにおいて、データセンターの冷却に要する膨大なエネルギーの削減は国家的な課題であった。卓氏はシンガポール政府からの助成金を活用し、東芝の高度な空調制御システムを組み込んだモジュール型センターの構築を主導した。

「日本から研究者を招き、現地の大学と密に連携して、過酷な暑さの中でもいかにエネルギーを最小化できるかを証明しました。さらに、シンガポール政府公益事業庁(PUB)と連携した水処理ソリューションの研究など、人々の生活に直結するインフラ課題に対し、東芝の技術をどう適応させるかという『橋渡し』に心血を注ぎました。この経験が、現在のEIS部門における提案の土台となっています」

ワンチームで乗り越えた「シンガポール・ポスト」プロジェクト
卓氏は、自身のキャリアにおいて最大の転換点となったのは、2014年に受注したシンガポール・ポスト向けの郵便物自動処理システム案件だったと語る。これは、長年競合他社が独占していた拠点の設備を、東芝のシステムへと一新する大規模なプロジェクトだった。
最大の課題は、既存の24台の旧型機を稼働させながら、段階的に東芝の14台の新型機へと切り替える「トランジション(移行)」だった。シンガポールの郵便業務には「今日集荷したものは深夜に処理し、翌日には配達する」という厳格なルールがある。システムが止まれば国全体の郵便配達が滞るという極限の状況下で、卓氏のチームは深夜までの作業をいとわず、緻密なリソース管理とスケジュール管理を徹底した。
さらに卓氏が注力したのは、日本の本社・工場との「ギャップゼロ」の連携であった。
「出荷前の検査にはお客様に日本へ同行していただき、工場のエンジニアと共にテストを繰り返しました。メーカーとお客様という垣根を越え、一つのチームとして同じ価値観を共有できたことが成功の鍵でした。トラブルが起きても『東芝のせいだ』と責めるのではなく、共に解決策を探してくださる。そんな信頼関係を築けたことが何よりの誇りです」
結果として、1件の混乱もなく切り替えは完了。顧客からは「東芝のプロジェクトマネジメントのおかげだ」と絶賛され、受注から10年以上が経過した現在でも、良好な関係が続いている。
「Do the right thing」誠実さが生む価値
卓氏が仕事をする上で最も大切にしているのは、顧客との揺るぎない「信頼関係」である。彼は東芝グループの価値観の中でも、特に「誠実であり続ける(Do the right thing)」を重んじている。
「一度でもうそをつけば、それを隠すためにさらに大きなうそが必要になります。それはいつか必ず露呈し、取り返しのつかないリスクとコストになって自分に返ってきます。できないことはできないと正直に伝え、その上で別の解決策を一緒に探す。この姿勢こそが、長きにわたるパートナーシップを支えるのです」

この「誠実」の哲学は、仕事のみならず卓氏の生き方そのものに根付いている。彼は現在も毎週土曜日の早朝に起床し、シンガポールから国境を越えてマレーシアの介護施設に暮らす父のもとへ通い、見守りを続けている。
「両親へのこれまでの感謝を込めて、QOL(生活の質)を少しでも高めるサポートをしたいと考えています。台湾への留学時代から、海外で一人自立して生活し、自分の責任で人生を切り拓いてきた経験が、私の責任感と信念を支えています。大切な家族を守ることも、社会インフラを支えることも、私にとっては同じ『誠実さ』の現れなのです」
現在、卓氏が統括するEIS部門の事業領域は、電力、地下鉄、郵便といった社会インフラの核心を担っている。EIS部門のメンバーや日本の本社チームと一丸となり、「人々の日常に不可欠なものだからこそ、将来にわたって持続可能な価値を提供し続けなければならない。この営みこそが、『人と、地球の、明日のために。』なのだと思っています」と強い使命感とともに語る。
そんな卓氏だが、取材が終わったその日、ぽつりとつぶやいた。
「今日は娘の誕生日だから、お祝いにレストランに行くんだ」
嬉しそうに話す彼が大切にするのは、家族や顧客、東芝の仲間といった「人とのつながり」だ。プライベートでは、休日は健康維持のためにジョギングに励み、いつか「富士山マラソン」に出場のが夢だと語る。生活も仕事も人も、分断することなく誠実に向き合うのが、卓氏流だ。あらゆる「絆」を丁寧につなぐ彼の挑戦は、これからも東南アジアの新しい未来を始動させていく。


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