バンコクの交通に革命を 新鉄道パープルラインの開通へ

2015/11/11 Toshiba Clip編集部

バンコクの交通に革命を 新鉄道パープルラインの開通へ

タイ王国の首都バンコクが、深刻な交通渋滞に悩まされている。首都バンコクに人口が一極集中し交通量が激増したのも大きな要因のひとつだが、鉄道環境が整備されていないことも大きな課題となっている。現在タイ王国では、国有鉄道を中心に約 4,000kmに及ぶ路線を保有しているが、車両老朽化などの原因により効率性や定時性は決してよいものとはいえない。

 

2013年時点で総人口6,745万人のうち1,033万人が、東京の3/4ほどの面積のバンコクに集中しているといわれるタイ王国において、周辺地域とバンコクを結ぶ交通網の整備は国をあげて解決を図る必要がある重要事項となっている。

 

こうした流れを受けて、タイ政府は2016年の8月に運航開始予定の都市鉄道「パープルライン」の建設を決めた。地下鉄ブルーラインの終点バンスーから1km西側にあるタオプーン駅とノンタブリー県のクロンバンパイ駅までの22kmを結ぶことで、人口の増加が続くノンタブリー県とバンコク中心部への移動をスムーズにし、交通渋滞の解消を目指す。

パープルライン路線図

東芝は、丸紅、JR東日本、東芝の三社からなる日本企業連合の一員として、本プロジェクトを受注。パープルラインで必要な車両・信号・運行管理設備・変電設備・通信設備などの鉄道システムを丸紅と共同で行い、10年間のメンテナンス業務をJR東日本、丸紅と共同で行っていく。今回はプロジェクトメンバーへのインタビューを通して、新興国の課題を解決する東芝の技術の秘密に迫った。

日本企業連合が実現するソリューション

「パープルラインは、欧州メーカーの寡占状態にあったバンコク都市交通市場で本邦企業が初めて受注し、また日本のオペレーター、商社、メーカーが共同で海外の鉄道メンテナンス業務にまで参画する初めてのケースとなります」

河野氏
「重要な商談の際にはパープルラインと同色のネクタイを身に付ける」と河野氏

そう語るのは、鉄道・自動車システム事業部の河野力氏だ。河野氏はパープルライン事業の受注時の中心人物の一人として活躍し、工事着工後は東京本社からタイの現地スタッフをサポートしている。

 

本プロジェクトは、タイ国運輸交通局が日本政府の円借款を活用して実現し、同局からタイの鉄道運営会社のBangkok Metro Public Company Limited社が鉄道運営・運行システム一式の納入・建設を受託した。まさに国を挙げての巨大プロジェクトとなっているが、パープルラインは現地にどのようなメリットをもたらすのだろうか。

 

「パープルラインは、1日に20万人もの人々の利用が想定されています。日常生活に欠かせない新しい生活の足として、渋滞緩和に貢献するのはもちろん、定時運行が実現することも大きなメリットとなります。特に現在のタイでは目的地への到着時間が読めないことが多く、ビジネスマンにとってはたいへん不便な環境です。定時運行が実現することで、ビジネスシーンにも非常によい影響を与えると思います」

 

目的地に時間通りにたどり着くという、日本においてはごく当たり前のことが現在のタイでは実現していない。これはタイに赴任した日本のビジネスマンが困窮する事のひとつでもあるという。言うまでもなく、ビジネスにおいて時間の把握は生産性を上げるためには非常に重要な要素だ。パープルラインの完成は、日本人ビジネスマンだけでなく、タイ全体に大きな経済効果を生むことになるだろう。

 

東芝の技術が、鉄道利用者の安全を守る

パープルライン

しかし、本プロジェクトの道のりは決して平坦なものではなかった。まず受注が決まるまでに、タイ側から提案依頼書を受けてから3年近くの月日を要した。価格面や仕様書などの交渉に加え、タイ政府の閣議承認も必要であったため、交渉が長期化したのだ。こうした中で、東芝をはじめとした日本企業連合が受注まで辿り着いた最大の要因は、東芝の「台湾高速鉄道プロジェクト」で培ってきた技術や実績、丸紅のフィリピンなどでの「鉄道フルターンキープロジェクト」の実績、そしてJR東日本が誇る「鉄道総合技術」への信頼感だった。

 

「東芝は日本と海外で約120年培ってきた車両用電気系統システムや変電所、運行システムの実績を活用し、台湾新幹線向けに成果をあげた実績があります。そこに丸紅やJR東日本のプロジェクトの経験や技術が加わり、総合的な技術力に高い信頼をいただけました。今回のプロジェクトでバンコクに派遣されている東芝スタッフの中には台湾高速鉄道に参画したスタッフも3名含まれています。私たちが培ってきた経験を、パープルラインでも生かしていくつもりです」

 

今回、東芝と丸紅は鉄道システム建設を目的にしたSPC(特別目的会社)を設立し、東芝と丸紅、JR東日本の3社では、メンテナンスを目的としたSPCを設立した。この中で東芝は、システムなどの技術面を主に担当。現在、バンコクには鉄道システム建設担当として、6名の技術スタッフと1名の商務スタッフ、そしてメンテナンス担当として2名の商務スタッフが在籍している。その中でプロジェクトメンバーたちが、特に注力しているのはどんな点だろうか。

 

「鉄道において一番大切なのは、やはり安全面です。それを担保し、支えているのが『安全の3種の神器』といわれる車両、信号システム、運行管理システムになります。 東芝は丸紅と共同でこれらのシステム含めた鉄道システムを一括で提供すると同時に車両用の電気品の設計、製造を担当します。利用される方々の安全を守るために、たいへん難しい技術が求められていますが、安全性の問題に直結する分、信頼に応える仕事をしたいと思っています。」

パープルラインと東芝の鉄道事業の未来

現在パープルラインは、2016年8月12日の開業に向けて準備が進んでいる。

 

「今年の8月に、鉄道建設で大きなマイルストーンとなる電力会社から電気を受け取る最初の受電工程が完了しました。また9月には、3編成9両がクロンバンパイにある車両基地に届いています。現在、プロジェクトの60~70%が完了している状況です」

インタビュー

ここまでたどり着くまでには、膨大なドキュメントの作成や現地の方との技術的なやり取りなど、多くの困難があったという。しかし、いくつもの難しい局面を越えて、パープルラインのプロジェクトは着実に完成へと向かっている。

 

「2016年の1月までには、21編成63両の納品が完了する予定です。その後、2016年1月からシステム全体の統合試験を開始し、4月からは開業に向けた試運転を行うことになります。2016年8月12日の開業をモチベーションにして、引き続き尽力していくつもりです」

パープルライン出荷の様子
パープルライン出荷の様子

鉄道の仕事の成果は、実際に目で見ることができる。そのため、パープルラインのプロジェクトへの参画は、世間からの注目も高い。現在、バンコクでは10件もの新路線計画があり、将来的にはパープルラインの延伸を行う可能性もある。タイ社会のさらなる発展に向けて、東芝の技術力に対する期待は大きい。

 

「私たちは、鉄道に必要な技術をトータルパッケージで提供することが可能です。今後は、タイをはじめとしたASEAN諸国はもちろん、グローバルにソリューションを提供していきたいと考えています」

 

東芝の鉄道システム事業は、パープルラインの完成を契機にグローバル展開を加速していくだろう。諸外国の交通問題の解決の切り札として、いま東芝の鉄道技術が世界に羽ばたこうとしている。

 

バンコク-チェンマイ高速鉄道整備計画(外務省資料)
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/files/000095072.pdf

 

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