インドのライフライン 「母なるガンジス川」が蘇るテクノロジー

2019/07/03 Toshiba Clip編集部

この記事の要点は...

  • インドの「聖なる川」が直面する深刻な水質汚染の実態
  • 東芝が挑む、ガンジス川浄化に向けた国家プロジェクトへの貢献
  • IoTを取り入れた東芝の最先端水処理技術とは
インドのライフライン 「母なるガンジス川」が蘇るテクノロジー

インドのライフライン

古代文明と現代社会の共通点のひとつは、人は水と密接な関係にあるということだろう。チグリス・ユーフラテス川周辺に繁栄したメソポタミアからナイル川両岸沿いに栄えたエジプトまで、川は常に文明の命綱だった。インドにおいて、流域の境界をはるかに越えて経済、文化、精神的に重要とされるのはガンジス川だ。

 

ガンジス川はヒマラヤを水源とし、インドの中心部を約2,700kmにわたって流れ、北部平原地帯の5つの州を横切ってベンガル湾に注ぐ。川の流域は11の州にまたがり、860,000㎢と広大だ。6億人以上が住み、同国全体の地表水の3分の1以上を占める。数億の国民の飲用、家事、灌漑に不可欠な存在である。

 

ところが人口の急増をはじめ、都市・産業計画の未整備、都市下水や産業排水を確実に処理する施設が十分に整備されていないことなどから、ガンジス川は流出物と有害排水にさらされているのだ。

ガンジス川の様子

現在の排水処理場の能力では、毎日ガンジス川に放出される数百万キロリットルの排水のうち、完全にあるいは一部処理されるのは数%に過ぎず、固形廃棄物のうち処理されるのは3分の1に満たないと推定される。

 

ナマミ・ガンジス・プログラムの後援によるインド政府のガンジス川浄化計画では、これまで約3,800億円を投じて254のプロジェクトを認可した。そのうち131のプロジェクトを通じて、 3,076MLD(MLD:1日当たり100万リットル)のキャパシティをもつ下水処理場の新設、887MLDの既存設備の更新・改築と、約4,942kmの下水道網の更新を実施する計画だ。

 

しかし、政府の努力とは裏腹に、ガンジス川沿いの多くの地域では生活排水と産業水の分別がなされず、家庭の下水だけに合わせて設計された処理技術では対応不能になることも。目下、インドの川の約14%は極度に、18%は中程度に汚染されており、川の水の約30%は人間の使用に適さない。

テーラーメイドの技術とソリューションでガンジス川の浄化に挑む

東芝のグループ企業でインドの現地法人である東芝ウォーターソリューションズ社は、2014年以降ガンジス川浄化計画でインド政府と提携している。

 

東芝ウォーターソリューションズの責任者の松井公一氏は、「我々はインド政府と提携し、ガンジス川浄化計画に積極的に貢献しています。インドで最も工業化が進んだ州の一つであるウッタル・プラデーシュ州に2つの下水処理場を建設し、55kmにわたる下水網を敷設しました。その処理能力は合わせて1日当たり1,800万リットルを上回ります。もう一つの主な州であるビハール州では、60MLDの処理能力をもつ下水処理場と55kmの下水網を整備しました」と語る。

東芝ウォーターソリューションズ社 チェアパーソン兼マネージングディレクター 松井公一氏

東芝ウォーターソリューションズ社 チェアパーソン兼マネージングディレクター 松井公一氏

東芝ウォーターソリューションズはガンジス川の各所にこれまでに合わせて110 kmに上る下水網を敷設し、排水処理能力が合わせて78MLDにのぼる3つの下水処理場を整備している。

 

東芝ウォーターソリューションズが目指すのは、インドや世界各地の水と環境に関する多様な問題を解決することである。そのためにお客様にニーズに対応した、水・排水・一般廃棄物処理施設を世界各地で建設・設置するべく、エンジニアリングから設計まで包括的なサービスを一括提供している。創立44年にして30余りの国で400件以上のプロジェクトを実施して成功させており、水と排水の回収・処理・廃棄におけるターンキー(一括請負契約)サービスの提供を専門とする国際企業である。

アラハーバードのサロリに建設した下水処理場

アラハーバードのサロリに建設した下水処理場

松井氏は次のように語る。「水質汚染や水不足などの問題を引き起こすのは気候変動、消費者需要の伸び、水の使い過ぎかもしれません。しかしほとんどの場合は、我々が利用できる水資源を十分に管理できていないことが原因です」

 

「水の再利用や効果的な水処理技術によって、水問題は緩和することができるはずです。水の管理は、資源や環境面、経済面での長期の水政策とともに、人や様々な自然現象の影響を受けます。そのため、水を再利用したり、古い施設を更新して排水処理施設を運営していくことが、水の問題を解決することつながるのです」

 

東芝ウォーターソリューションズでは、東芝グループと連携して、初期コストと運営コストの最適な組み合わせでライフサイクルコストを抑えるソリューションの開発に取り組んでいる。さらに、 効率性を高めてライフサイクルコストを引き下げる取り組みとして、下水処理場や共同排水処理場、浄水場の水質をリアルタイムで監視できるクラウドベースの遠隔管理ソリューションを、業界に先駆けて開発・展開している。IoTを活用したこの自動化技術を使うと、水処理の効果を評価できるため、事業者は重複や見落としの可能性を把握して対処することができる。

 

松井氏は、「誰もが安全で清潔な水を手にできる世界を実現するために、世界中で水環境のインフラ整備と運営に取り組んできました。インドのみならず5つの大陸でプロジェクトを実行しており、中南米、独立国家共同体加盟国、東南アジア、アフリカ諸国など世界の成長市場が舞台です」と語る。

ガンジス川を渡るボート

地球がほかの惑星と違うのは、地球には水があることだ。あらゆる命は水から生まれ、水のおかげで存在する。それゆえ水は神聖だ。しかし地球の表面の70%もが水に覆われているため、水が貴重であることをついつい忘れてしまう。川、湖、海は企業や住民が投げ捨てる化学物質、廃棄物、その他の汚染物質であふれている。限りある飲用水の水源は縮小し続ける一方で、2050年には淡水への世界的需要は現在より30%高くなると言われているため、手をこまねいていたら水不足は深刻化するばかりだ。それを認識し、行動を起こすことでしか水、ひいては我々の存在を守ることはできない。

関連サイト

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https://www.toshiba.co.jp/cs/topics/back-number/20190219.htm

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