基礎研究と製品開発、二人の技術者が拓く、待望の自動運転の未来

2019/11/27 Toshiba Clip編集部

この記事の要点は...

  • 天才技術者、田中久重の名を冠した賞を受けた二人
  • 求められるのはお客様ニーズを見据え、かゆい所に手が届く開発力
  • 未来を想像し、開発を楽しむ気持ちが、モノ作りの原動力
基礎研究と製品開発、二人の技術者が拓く、待望の自動運転の未来

東芝には、田中久重と藤岡市助という二人の創業者の名を冠した社内表彰がある。1799年生まれで“からくり儀右衛門”の異名を持つ田中久重は、9歳にして「開かずの硯箱」を作り、後年には万年時計を発明した天才技術者として近代技術史に名を刻んでいる。
その田中久重の名を冠した「田中久重賞」は、例年1名に授与されるが、今年は一つの開発テーマで、2名の技術者に授与されることとなった。

基礎研究と製品開発の二人三脚で世に送り出した車載向け画像認識プロセッサー

超高齢化社会など、自動運転による安全な社会へのニーズが急速に高まっている。今回、田中久重賞を受賞したVisconti™は、そんな自動運転実現のための中心となる技術を提供する製品である。最新のVisconti™5は、人間の代わりに「見て・理解して・判断する」という自動運転実現に必須となる高度な画像認識を当社従来製品と比較して低消費電力で行うことに成功している。

Visconti™による画像認識のイメージ

Visconti™による画像認識のイメージ

Visconti™を構成する技術は、大きく二つに分けられる。一つは、画像認識技術。自動運転実現のためには、走行中の車の周囲に位置する他の車、歩行者、信号機など、車載カメラの画像から、昼夜を問わず瞬時に認識・検知し、衝突防止や回避行動をとることが求められる。
東芝は、半世紀も前から画像認識技術の基礎研究を行ってきた。研究開始当初は、AIも自動運転も夢物語に過ぎなかった。それでも、画像認識技術の可能性を信じて、多くの先人が技術に磨きをかけ、進化させてきた歴史がある。

 

「Visconti™は諸先輩の努力の結晶であり、今も多くのメンバーが研究開発に携わっています。私たちは、その代表として賞をいただいたのだと思っています」
そう語るのは、田中久重賞を受賞した東芝研究開発センター メディアAIラボラトリー室長の岡田隆三氏だ。

株式会社東芝 研究開発センター メディアAIラボラトリー室長 岡田隆三氏

株式会社東芝 研究開発センター メディアAIラボラトリー室長 岡田隆三氏

「しかし、画像認識技術がどれほど優れていても、それだけで事業になるわけではありません。その技術をプロセッサーという「形」に具現化することで初めて事業になり、製品になるのです」(岡田氏)

 

岡田氏の言う、「形」の具現化を担当したのが、もう一人の受賞者である、東芝デバイス&ストレージ株式会社 デバイス&ストレージ研究開発センター長の宮森高氏だ。そして、この具現化こそが、Visconti™を構成する、もう一つの技術なのである。

東芝デバイス&ストレージ株式会社 デバイス&ストレージ研究開発センター長 宮森高氏

東芝デバイス&ストレージ株式会社 デバイス&ストレージ研究開発センター長 宮森高氏

「そもそも基礎研究に良い企画がないと何も始まりませんし、せっかく企画があっても、それを我々が製品に落とし込むことができなければ、ビジネスにはつながりません。ですので、我々が同時に受賞したことに意味があると思っています。」(宮森氏)

 

基礎研究を行う研究開発部門、それを製品化する事業サイドの研究開発部門。この両者の共創によって、Visconti™は誕生したのだ。

途絶えかけた研究開発を救った1本の問い合わせ

自動運転が現実のものとなりつつあるなか、Visconti™は、今でこそ大きな期待のかけられる製品へと成長を遂げることができた。しかし、開発初期の2008年ごろは、決して順風満帆とは言えなかった。初代のVisconti™はビジネスとして成立する販売実績を残すことができず、結果として、Visconti™開発チームは解散を余儀なくされてしまう。

 

当時を振り返り岡田氏は言う。
「研究開発センターでも研究チームは解散し、車載向け画像認識の研究継続は風前の灯でした。」

 

そんな苦境のさなか舞い込んできたのが、ある自動車部品メーカーからの問い合わせだった。ちょうど、前を走る車をレーダーやカメラで認識してブレーキを制御することで、追突を避けたり、衝突時の被害を最小限に収めたりできる自動ブレーキ搭載車が話題となっていたころだった。そうした需要の高まりから、Visconti™に期待する問い合わせであった。

 

「そのお声がけがもう少し遅ければ、おそらくVisconti™の開発は途絶えていたでしょう」(岡田氏)

 

これがきっかけとなり社内でのVisconti™の持つ潜在価値が再評価され、経営陣による開発継続へのゴーサインが出されたのだった。

 

しかし開発は困難を極めた。「安全」と「安心」という自動車開発の根幹に関わる技術だけに、お客様が要求するレベルは想像以上に高かったのである。また、消費電力についても、非常に高いレベルを要求された。

 

「限られたリソースの中で、高性能と低消費電力を両立させることは簡単ではありませんでした。岡田さんのチームと議論を重ねつつ、お客様の求めるレベルを実現するため、メンバー全員が必死に開発に取り組みました」(宮森氏)
このようにVisconti™は、社内だけでつくり上げたものではなく、お客様の声を聞きながらともに生み出したものとも言える。東芝独自の技術に、実際にそれを使うお客様のニーズを盛り込んで初めて、技術は「製品」となるのだ。

 

「Visconti™の開発を通して感じたことは、お客様からの要望をただ待っているのではなく、先回りしてお客様が求める性能や機能を想定し、答えをいくつも用意しておくことなのです。そうすれば、東芝の強みを反映した製品仕様にすることが可能となります。その後のビジネスを考えると、こうした提案力こそが必要なのです」(岡田氏)

 

Visconti™として花開いた画像認識技術の未来は、さまざまな可能性に満ちている。しかし、当事者の二人でさえ、スタート地点では現在の姿を予想してはいなかった。

 

宮森氏が東芝に入社したのは、30年以上前。そのころ大規模集積回路(LSI)の開発はようやく始まったところで、配属された部署はできて2~3年、新人ばかりたくさんいるような部門だった。上司が手取り足取り指導してくれるはずもなく、皆が手探りで進めるしかなかった。
「しかし、苦労した半面、いろいろなことにチャレンジできる自由がありました。職場には、『これをやりたい!』『自分はこんなモノがほしい!』という思いが渦巻いていました。Visconti™もそんな熱い思いを持った人たちが引っ張ってきたから、今があるのだと思っています」(宮森氏)

 

実は、岡田氏も同様の経験をしていた。最初に配属されたのは関西の研究所。そこでは、ユニークなキャラクターの先輩たちが、自分のやりたい研究に没頭する自由な風土があったそうだ。

 

「私たちは、自分の研究が成功するかどうかわからない中、仕事をしています。そこで粘り強く研究を続ける最大のコツは、『自分が楽しいと思うことをやる』ことだと思います。たとえ依頼された案件であっても、その中から面白いと思うものを見つける。そんな姿勢を若手には望みたいです。」(岡田氏)

 

基礎研究サイドと事業サイドと、立場の違う二人の研究者。しかし二人の変革への情熱は変わらない。これからの未来、どんなことが起こり、どんなモノが求められるのか。その先の未来を探求し思い描きながら、部署や社内外の垣根を超え、一つのモノをともに生み出していく。社会をよりよい場所へ変えていく、Visconti™を携えた東芝の挑戦は、まだ始まったばかりだ。

岡田氏と宮森氏

Visconti™は、東芝デバイス&ストレージ株式会社の商標です。

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