「空港の顔」、総合案内表示盤リニューアルPJ を支えたANAと東芝の“共創”

2016/04/27 Toshiba Clip編集部

この記事の要点は...

  • 人間工学に基づき、案内盤の視認性を向上
  • お客様だけでなく空港係員も使いやすいように
  • 企業の枠を超え、ひとつのチームとして成し遂げた
「空港の顔」、総合案内表示盤リニューアルPJ を支えたANAと東芝の“共創”

年間7422万人が利用する羽田空港。
羽田空港国内線・国際線旅客ターミナルは、英国のSKYTRAX社が実施する「Global Airport Ranking 2014」で、日本の空港では初めて世界最高水準である「5-Star Airport」を獲得。
また、2015年3月には同じくSKYTRAX社が実施する国際空港評価の「World’s Best Domestic Airport」部門で世界第1位を受賞している。この受賞は国内線旅客ターミナルの使いやすさやアクセスの良さなどが評価されたもので、3年連続の世界1位となる。

 

その羽田空港国内線第2旅客ターミナルでは全日本空輸株式会社(以下ANA)が2015年から新たな搭乗スタイル「ANA FAST TRAVEL」というサービスを導入・展開している。利用者が空港到着から搭乗するまでの流れをよりシンプルでわかりやすくするこのサービスの一環として、総合案内表示システムも完全リニューアル。納入されたのは、東芝が開発したシステム、通称「Canary」だ。
※Comfortable ANA’s Navigation Machineryの略称

総合案内表示盤は日・英・中・韓の4カ国語に対応している

総合案内表示盤は日・英・中・韓の4カ国語に対応している

空港玄関口でも、利用者をスムーズに搭乗手続きまで導く

空港玄関口でも、利用者をスムーズに搭乗手続きまで導く

Canaryは、ANAが就航する国内線の空港50拠点のうち、34空港に納入されている。日・英・中・韓の4カ国語に対応可能になっており、また視認性を向上させることで空港利用客がよりスムーズに搭乗できるようになった。

 

空港の顔ともいえる総合案内表示盤を新しいものにするその取り組みの裏では、どんなやりとりや工夫がなされていたのだろうか。今回は本プロジェクトに携わったANAチームと東芝チームの担当者たちが羽田空港に集結。設置からおよそ半年たった今、当時の様子を振り返ってもらった。

東芝チーム(左4名)とANAチーム(右3名)一同

東芝チーム(左4名)とANAチーム(右3名)一同

人間工学に基づいたデザイン設計

ANA 業務プロセス改革室 黒岩大輔氏【企画構想、開発管理を担当】

ANA 業務プロセス改革室 黒岩大輔氏
【企画構想、開発管理を担当】

黒岩 本プロジェクトでは、お客様により早く、より簡単に飛行機に乗っていただくことをテーマにしていました。今回は現場となる空港センターの意見も多く取り入れられているのですが、従来のシステムでは操作が複雑で、お客様に案内したい時にすぐに案内できていないという声も聞かれました。そのため今回のリニューアルでは、お客様への情報案内をいかにスムーズにするかということに重点を置きたいという想いがありました。

 

そこで重要視されたのが、デザインの部分だ。情報の表示の仕方で、空港利用者への情報の伝わり方は大きく変わる。デザインにおいても、いかに情報を伝わりやすくするかがポイントのひとつとなっていた。デザインを担当した東芝デザインセンターの衣斐氏は、空港全体の経験価値として、サービスがどうあるべきかを考えるユーザーエクスペリエンスデザイン(以下、UXD)のアプローチで、人間工学に基づいた徹底したユニバーサルデザインへの配慮により伝わりやすい情報デザインを実現したという。

東芝 デザインセンター 衣斐秀輝氏【UXD、グラフィックユーザーインターフェースデザインを担当】

東芝 デザインセンター 衣斐秀輝氏
【UXD、グラフィックユーザーインターフェースデザインを担当】

衣斐 空港全体の最適化を図るべく、様々なUXD手法を使って、まずはサービスとしてのあるべき姿を検討しました。そのアプローチのひとつとして現地調査があります。空港で表示盤を使われているお客様を間近で観察させていただいたところ、大型の表示盤では、左右に首を動かす必要があり、身体的な負担が大きいことが判明しました。また、出発時刻、行き先、便名、運航状況と、順に視点を移動する必要があるため、いつの間にか行がずれてしまうことがあることもわかりました。それらを緩和するため、今回のリニューアルでは、人間工学に基づき様々な工夫をしています。文字の大きさやコントラストはもとより、人間工学の考えを取り入れることで、視認性が高まりました。また、さまざまなお客様にご利用いただくことを意識し、色覚障害の方でも情報を正しく認識できるようユニバーサルデザインも導入しています。

画面右側のINFORMATION(ご案内)欄の色を変えたことで行ズレを防ぎ視認性を向上させた

画面右側のINFORMATION(ご案内)欄の色を変えたことで行ズレを防ぎ視認性を向上させた

ANA 空港センター 石丸彩矢香氏【お客様・空港係員の両者にとって分かりやすいシステムを実現すべく開発を担当】

ANA 空港センター 石丸彩矢香氏
【お客様・空港係員の両者にとって分かりやすいシステムを実現すべく開発を担当】

石丸 衣斐さんがおっしゃるように、表示の仕方を工夫していただいたことで、お客様にとってさらに見ていただきやすい表示盤になったと思います。便名が表示されているエリアとご案内のエリアが色別に切り分けて表示されているので、遅延や欠航が発生した場合においても、お客様へいち早く重要な情報をお伝えすることができるようになりました。また、日・英・中・韓の4ヶ国語表示を全画面で採用することで、外国籍のお客様にとってもわかりやすい表示を実現できたと思います。2020年東京オリンピック・パラリンピックに向け、グローバル標準の表示盤になるのではないでしょうか。

クラウドシステムとブラウザ操作の導入

一方システム面では、どのような進化があったのだろうか。本プロジェクトではプロジェクトマネージャーとして活躍した東芝 流通・金融ソリューション事業部の菅野忠氏に話を訊いた。

東芝 インダストリアルICTソリューション社流通・金融ソリューション事業部 菅野忠氏【プロジェクトマネージャーとして全体の指揮をとった】

東芝 インダストリアルICTソリューション社
流通・金融ソリューション事業部 菅野忠氏
【プロジェクトマネージャーとして全体の指揮をとった】

菅野 新しい技術としては、保守性を上げるためにクラウドシステムを導入したことと、ブラウザ上で簡単に操作ができるようになったということです。空港ではすぐ目の前にお客様がいらっしゃるという状況が日常的にあります。操作が複雑だったり、覚えるのに時間がかかったりするシステムでは、なかなか素早く使いこなせません。できるだけシンプルに、初心者の方でもすぐに使えるものを提案したいという想いがあり、ブラウザ上で動くようにしました。

 

青木 菅野さんがおっしゃったクラウドシステムの導入やブラウザ上で操作ができることは非常に魅力的なご提案でした。今回のリニューアルにより、保守性が向上するだけでなく、表示盤の操作がより簡便になりましたね。

ANAシステムズ株式会社 青木康寿氏【企画決定後の分析、工程管理、開発などを担当】

ANAシステムズ株式会社 青木康寿氏
【企画決定後の分析、工程管理、開発などを担当】

石丸 空港の係員からも表示盤の変更操作がスピーディになったという声が聞かれます。日常の業務で使用しているブラウザ上で操作できることで、係員がシステムを使いこなすために時間を割かずに済んだことも空港の係員にとってはうれしいことだと思います。

 

高橋 今回はエンドユーザーであるお客様の利便性を高めることはもちろんですが、操作をする係員の皆さんにとっても扱いやすい製品を目指しました。係員の皆さんにとって使いやすいシステムにすることはインナーブランディング上も重要な意味を持ちます。石丸さんにそう言っていただくと、私どもも大変うれしいですね。

東芝ソリューション株式会社ソリューションセンター 高橋良樹氏【アプリケーション開発リーダーとして技術面をサポート】

東芝ソリューション株式会社
ソリューションセンター 高橋良樹氏
【アプリケーション開発リーダーとして技術面をサポート】

ビジネスパートナーとして共にゴールを目指す

Canaryは通常2年近くかかるところ、約1年という短い期間で納入された。想定よりも短い納期の中、プロジェクトを滞りなく進められたその要因は一体何だったのだろうか。当時を振り返りながら、東芝営業担当の岡本氏が切り出した。

東芝 インダストリアルICTソリューション社流通・金融ソリューション事業部 岡本龍太郎氏【営業担当としてプロジェクト全体をサポート】

東芝 インダストリアルICTソリューション社
流通・金融ソリューション事業部 岡本龍太郎氏
【営業担当としてプロジェクト全体をサポート】

岡本 ANA様と東芝は80年代後半からおつきあいがあり、現在でもともに勉強会を開催するなど非常に親密な間柄です。私どもは、ANA様の航空機の運航統制や、フライトプラン管理を行う基幹となる運航情報システム、航空券の予解約・発券端末システム、さらに大規模震災や障害時の業務継続に備えたディザスタ・リカバリシステム「バックアップ(OPBUP)」開発も担当させていただきました。この永年築き上げてきた関係を大切にし、技術やサービスでANA様を支えていければという思いがあります。お客様のことを一緒に考え、より良くしていくためのご提案をさせていただきたいと常々思っていました。

 

青木 今回、東芝様にはCanaryを作ってもらうだけではなく、どのように使われていくべきかといったゴールの設定まで一緒に考えていただきました。イメージを掴みやすいよう早めにモックアップを用意していただいたことも非常に助かりました。多いときには週に2回、3回とミーティングをして、幾度も幾度も検証しました。

 

岡本 そうなんです。口頭で説明するだけでは伝えきれないと思ったので、何度もプロトタイピングを用意し、毎週ブラッシュアップしました。時間がないときは当社まで足を運んでいただいたこともありましたし、リアルタイムにコンテンツを配信するパッケージ「東芝Web-based Signage」をベースに開発して納期に間に合わせ、無事に稼動できたことなども、鮮明に覚えています。

 

黒岩 ありましたね。でもその甲斐もあって、非常に短期間での開発にもかかわらず、安定した品質の表示盤を納入していただくことができました。本当にありがたく思っていますし、東芝様の熱意やクオリティを感じました。

“共創”で、新しいビジネスモデルを提案し続ける

両社が企業の枠を超え、ひとつのチームとして一体となることで、成功に導いた本プロジェクト。Canary以外にも数多くの取引があり、20年以上も親交を続けている両社は、お互いの存在をどのように考えているのだろうか。

当時を振り返る黒岩さん

黒岩 私は前の部署にいたときから東芝様とのお付き合いをさせていただいていますが、当時からずっと熱い会社というイメージがあります。今回のように丁寧かつクオリティの高い仕事をしていただけるだけでなく、お客様としてご搭乗いただいたときの感想をフィードバックしてくださることもあります。

 

石丸 そうなんです。東芝様はこちらの要望に応えてくださるだけでなく、お客様目線のご意見まで寄せてくださいます。私たちにとって本当に重要なパートナーです。

デザインへの思い入れが誰よりも強く、当時を振り返り熱く語りだすデザイナーの衣斐さん

衣斐 ありがとうございます。そのように思っていただけて本当に光栄です。実は私は当プロジェクトが始まったときは大変うれしくて、それから自分がANA様の社員であるかのように考えるようになっていました。ですから、ANA様の取り組みが業界のスタンダードになって欲しいという想いもあったんです。時には、その想いが強すぎて、前衛的すぎるデザインになってしまったこともありました。笑

 

黒岩 でもその熱い想いはしっかり伝わっていましたよ。皆さんのおかげで、悪天候による遅延の際、ニュースでテレビに映し出される表示盤は、ほぼCanaryとなりました。それだけ、一般の方々にわかりやすい表示盤として認知されている証拠とも言えます。

 

岡本 撮影クルーのカメラマンの心さえも捉えているのは、うれしい限りです。私どもは今後もANA様の課題や戦略を一緒に考え、あらゆるところでサポートができればと考えています。そしてこれは完全に個人的な想いではあるのですが、私も衣斐と同じように、ANA様のビジネスモデルがアライアンスメンバーのスタンダードになるよう、ANA様の思いを共有、前向きに取り組んでいきたいと思っています!

 

菅野 タグラインにもなっている「Inspiration of Japan」によって築いたANAらしさ、日本らしさを世界のスタンダードにしていきたいですよね。私はANA様と10年近く一緒にお仕事をさせていただき、さまざまなシステムに携わっていますが、これからも最新技術を取り込み、私たちの技術力をすべて注ぎ込んでANA様がお客様に提供する空の旅、空港の毎日を支えていきたいです。

 

黒岩 当社の目下の課題としては、お客様のニーズを把握するための情報収集が挙げられます。そのために、今後はクラウドやビッグデータを使うシステムの導入を検討しています。ぜひまた東芝様にも一緒に考えていただきたいですね。

 

菅野 もちろんです。今後はさらにお客様が持つスマホやタブレットへのプッシュ機能も開発していきたいですね。遅延が発生しているときなど、「急いで空港に来ていただかなくても大丈夫ですよ。」というメッセージを配信できれば、さらにサービスを向上させられそうです。

 

青木 そうですね。今回も、時間的な制約がある中で、何度もやり直しをしながら進め、最後は関係者全員が納得できるものに仕上がりました。安定感があり、なおかつ親身になって相談にのってくれる東芝様は本当に心強い味方です。東芝様が次に何をしてくれるのか、今から楽しみにしています。

 

いつの日か両社の取り組みが世界のスタンダードをつくっていく日を共に目指しているANAと東芝。両社は、これからも共創パートナーとして挑戦し続け、お互いを高め合っていくだろう。

座談会後、プロジェクトメンバー全員で

関連サイト

※ 関連サイトには、(株)東芝以外の企業・団体が運営するウェブサイトへのリンクが含まれています。

http://www.toshiba.co.jp/cl/case/case2016/ana.htm

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