高みへ、そして未来へ昇る エレベーターの最前線
2017/08/23 Toshiba Clip編集部
この記事の要点は...
- 停電にも気づかない? エレベーターの安全管理システム
- 元祖IoTはエレベーター監視システムだった!?
- ミラーの中から映像が浮かびあがる「ミラーサイネージ」とは?
東芝の昇降機事業参入から半世紀。その開発史を振り返る
東芝が昇降機事業に参入してから昨年で半世紀。高度経済成長期から高層ビル、超高層ビルの建築ラッシュに伴い、エレベーターも進化を遂げてきた。
高層階に昇れるのがエレベーターの基本機能だが、広くあまねく普及した日本で求められるのは、さらにその先のファクターだという。東芝エレベータ株式会社の佐野浩司氏は、「安全」「安心」「快適」というキーワードを軸に、東芝のエレベーター開発史を振り返る。
「エレベーターやエスカレーターに対して絶対的に求められるのは安心・安全だというのが私たちの基本的な考えです。使い勝手、快適性など、ワンランク上の付加価値を追求し続けていますが、原点としては、いつでも安心してご利用いただけるエレベーターを目指しています」(東芝エレベータ株式会社 技術本部商品企画部 部長 佐野浩司氏)
東芝エレベータ 技術本部商品企画部 部長 佐野浩司氏
安心・安全を確保する機能には、前編で紹介した「しきい間すきまレス」「スマートドア」など数多くのものがあるが、その一方で地震や停電などに遭遇してもしっかり対応できる緊急時対応機能も着実に進化させてきた。
「地震発生時には利用者がエレベーター内に閉じ込められることが問題になります。現在、地震の初期微動であるP波を感知し、最寄り階にかごを停める機能が建築基準法で義務付けられるなど、地震対策は業界内で足並みをそろえています。当社は停電時でも最大2時間継続運転が可能な『トスムーブNEO』という機能を製品化しています。また、マシンルームレスエレベーターも昇降路頂部に巻上機や制御装置を配置する当社オリジナルのシステム構成を採用しており、台風やゲリラ豪雨などの水害時にも早期復旧が可能となっています」(東芝エレベータ株式会社 技術本部商品企画部 商品戦略担当 グループ長 熊谷将一氏)
トスムーブNEO
「トスムーブNEO」は停電時でもバッテリーに切り替え、最長で2時間程度は運転を継続できる機能。停電時にショックレスで停止する工夫をしており、利用者は停電が起こったことにも気づかず、まさに安心・安全にエレベーターから降りることができる。
「安全面を最大限に考慮しているのはエスカレーターも同じです。当社の最新エスカレーターは踏段の先端部分に、柔らかい緩衝素材を採用しました。これは利用者が転倒した際などのダメージ軽減を考えたものです。手すりをしっかり掴んで乗っていただくアナウンスといったソフト面を含め、総合的な安全対策を進めています。」(佐野氏)
製品の品質を維持し続けるためには、「保守業務」「遠隔監視システム」も見逃せない。
東芝エレベータ 技術本部商品企画部 商品戦略担当 グループ長 熊谷将一氏
「現場へ行き、人の目で行う点検が基本ですが、1980年代より遠隔監視を導入し、人と機械両方による点検を行っています。遠隔監視機能の進化で常時エレベーターを見守り続けることができ、故障が発生した際には迅速に対応する仕組みも整っているので、安心・安全にご利用いただくことができます」(熊谷氏)
佐野氏いわく、エレベーターの監視ネットワークは「IoTの先駆け」。日本の東西に置かれたサービス情報センターでは全国の東芝製エレベーター、エスカレーターを一元的にネットワークで管理。将来的には個々のパーツの稼働時間を管理するなど、耐用年数に到達する前に部品交換を済ませてサービス停止を回避することまで視野に入れているという。
IoT、センシング、ビッグデータ――最先端の取り組みを意欲的に取り入れ、「安心・安全・快適」を目指す開発が不断に続いていく。そして東芝エレベータの二人はこの基本を踏まえつつ、さらなる高みを見据えていた。
安全・安心・快適を徹底追求。そして、エレベーターは未来へ昇る
いざという時でも安心して乗れる東芝製のエレベーター。エレベーターはコモディティ製品と位置付けられる傾向がある。その中でエレベーターの付加価値をいかに顧客へ提案していくかが現在の課題だ。
この課題への挑戦として、東芝エレベータはかご背面にするミラーにモニターを仕込み、ミラーから映像を浮かび上がらせる「ミラーサイネージ」という新機能を製品化した。映像には春夏秋冬の季節感を感じられるコンテンツやお客様要望のメッセージなども盛り込めるため、利用者はエレベーターに乗っている時間を飽きずに楽しく過ごせる。
だが、車いす利用者のために設置された、かご背面のミラーに映像が映ると鏡としての機能が使えなくなってしまうのではないのか――その心配はない。車いす専用操作盤で登録した階に停止した際には映像を消す配慮がされていて、通常のミラーに戻る仕組みだ。
「まだまだ未開拓の分野だけに、エレベーター空間の演出には大きな可能性を秘めています。アミューズメント施設などからのニーズを期待していますが、本製品は導入されるお客さまとコンテンツを作っていく過程で、お客さまとともに製品として作り上げていくものだと考えています」(熊谷氏)
このほかスマートドアに適用されている画像解析も、今後、さらなる応用が考えられているという。独自の製品としてさらなるイノベーションを追求する東芝エレベータ。熊谷氏と佐野氏が追い求める未来のエレベーターとはどのようなものなのか。
※「スマートドア」については前編でもご紹介しています
「エレベーターの枠にとらわれない製品作りも今後は必要だと感じています。エレベーターは建物の中の1つの設備に過ぎませんが、他の設備との連動、他の設備の機能の取り込みなど考える余地は多くあります。実現するには苦労が多く伴うことは予想されますが、今後取り組んでいきたいと考えています」(熊谷氏)
「『人を運ぶ』『上下に移動する』――既存の概念を超えた自由な発想が現実のものになるかもしれません。個人的には、究極のエレベーターは『どこでもドア』じゃないかな、と思っていますけどね。今は空想かもしれませんが、空想は現実になるものです。そんな先進的なアイデアが登場したとき、しっかり動かせるよう、技術の進歩をしっかり捉えつつ、基礎的な研究・開発を進めていきます。それも私たちの役割だと考えています」(佐野氏)