東芝の若き技術者たち ~聞く力と、考える力が新しいイノベーションを生む~
2022/02/02 Toshiba Clip編集部
この記事の要点は...
- 知りたい情報は社内にあった。ものづくりの上流から下流まで手掛ける魅力
- 若い技術者は、「任される」重圧をきっかけにして大きく成長を遂げた!?
- 東芝の新世代HDD開発の鍵となった、発想の転換とは?
コロナ禍によって、リモートワークが普通のこととなった。浮いた通勤時間でプライベートを充実させる人がいれば、未来の自分への投資として勉強をする人もいる。今回登場する技術者は、このコロナ禍でできた時間を利用して念願だったオートバイの免許を取得したという。密を避け静かな海沿いを走りツーリングを楽しんでいるが、到着した目的地で景色を眺めながら考えるのは、彼を取り巻く多くの技術者との、語らいの日々と新たな知見を得て閃いたアイデアだという。
自ら設計できることの喜び
東芝グループは現在、発電用のタービンなどに代表されるエネルギー部門をはじめ、鉄道や照明、半導体、HDD(ハードディスクドライブ)など、様々な分野の製品を手掛けている。それぞれで、設計から製造までを一貫して手掛けている分野が多いことも特徴と言えるだろう。HDDの開発に取り組む東芝デバイス&ストレージ株式会社の川満悠生氏は、そんな東芝のものづくり体制に魅力を感じて入社を決めたという。
東芝デバイス&ストレージ株式会社 ストレージプロダクツ事業部 HDD要素技術部 川満 悠生氏
「東芝は、HDDのPCB CAD※1を内製化している数少ない日本企業なのです。私のように、ものづくりが好きな人間にとって、自ら設計できることは、この上ない楽しみです」
※1 PCB CAD:プリント基板(Printed Circuit Board)の回路設計を行うCAD(Computer Aided Design)システム
コストダウンなどの観点から、様々な分野でアウトソーシングが進んでいる。しかし、設計・製造の各工程がグループの中にあることで知識の交換や相乗効果が促され、東芝は数々のイノベーションを起こしてきた。そして現在も、そうしてグループ内に蓄積された知が東芝の技術力を支え、社会課題の解決に貢献することへつながるのだ。
上流から下流までの製造工程を一貫して手掛けること以外にも、東芝で技術者として働くことには、様々なメリットがあると川満氏は語る。そのうちの一つが、グループ内での交流だ。
「使用する部品の製造元が東芝グループ内の場合、それを作った技術者と直接話ができ、他社制品を導入する時よりもより踏み込んだ情報をいただけます。同じ東芝の技術者同士ということで、皆さん気さくにお話を聞かせてくださいます。そうした情報の中には、自分だけでは思いつくのが難しい技術者として成長するためのヒントが多く含まれています。実際、部品や技術開発の知識が深まることで、自身の回路設計がレベルアップするのを実感しています」
「任せられる」という心地よい重圧が、技術者として成長させる
川満氏の大学時代の専攻は、環境電磁工学。工業製品が発する電磁波が環境に与える影響について考え、プリント基板の配線の工夫などにより電磁波を低減させる研究を行っていたという。入社後半年ほどして、川満氏は初めて大きな仕事を任された。それは、電磁波ノイズの問題が出ているプリント基板の解決であった。大学の研究に近い業務とは言え、「任せるから、勉強がてら思うようにやってみなさい」という上司の言葉、そこに込められた期待や懐の深さに驚いたという。
過去の製品の設計図から垣間見る、技術者の努力を知ることは楽しみでもあり、成長の糧でもあるという
「問題のあるプリント基板の評価を行って、問題点の洗い出しとその解決法の提案から、それをCAD設計に盛り込んで、完成してきた実物のプリント基板を再度評価する。この一連の流れを、スケジュールの作成からすべて自分でやらせてもらいました。
大変な仕事でしたが、分からないことは社内のあちこちに聞いて回り解決しました。おかげで、誰がどんな仕事をしているのか、どういうコミュニケーションを取ればいいのか学べました。何より、プロの技術者としての第一歩を踏み出せたと思っています」
これは、東芝のものづくりを端的に表している。東芝では、上下関係ではなく対等な立場で、お互いの専門性を持ち寄って製品を生んでいる。そこには年齢に関係なく相手の知見へのリスペクトがあり、同時に自身の専門性への自負もある。こういう環境で働くから、川満氏のように早く成長できるのだろう。
発想の転換が、次世代HDDに結実
川満氏の所属するグループが手掛けるデータセンター用大容量HDDは、情報をもっとも価値のある資源として活用する現代社会において最重要なデバイスである。必要とされる性能は日々高まっていくため、開発の手を緩めることが許されない分野でもある。
「大きさの決まっているケースの中に、どれくらい大きな記憶容量を実現できるかが鍵です。それを世界のメーカーが競い合っています」
そんな開発競争の中で、川満氏が担当するプリント基板の設計は重要な役割を持つ。HDDの容量を決めるのは、回転ディスクへのデータ記録方法や、このディスクをどれだけ配置できるかなどである。そのためには、内部の構造を工夫してディスク以外の部品を小さくしなければならない。しかし、小さくするというのは常に困難であり、しかも今回は前世代と比較して50%のサイズダウンを目指した。
「プリント基板の上に乗る半導体などの部品も年々小さくなっていますが、それでもまだ足りません。そうなると、部品をプリント基板上にいかに効率よく配置するかのパターン設計が重要となってくるのです。
プリント基板の設計でも、なんども行き詰まりました。自分が相手にしなければならないのは、数年前に多くの先輩技術者が最良の技術を詰め込んだプリント基板なのです。『これ以上、自分になにができるのか』考えてしまうことがあります」
だが、そこからが「ものづくり大好き人間」を自称する川満氏の真骨頂だった。部品が小さくできないのならば、それをつなぐ配線を短くすることができないだろうかと考えたのだ。川満氏が着目したのは、プリント基板上の複数個所に配置されているグランド※2だった。これは、必要な部品を効率的に設置するために、グランドはあえて異なる場所に配置していたのだが、あえて川満氏はそこに切り込んだ。
※2 グランド:基準となる電位との電位差が0ボルトとなる個所。
どんな問題にも、必ず解決策があると信じて試し続けることが大切であり、設計の醍醐味でもあると語る
「目の前の課題を越えるためには、それを作った技術者と違うアプローチが必要だと考えました。私は、同じ働きをするグランド配線を一つにまとめることを第一義に、設計を見直しました。このとき、『この配線を引くと、他の場所にこう影響する』など、これまで任されてきた仕事で培った経験と視点が生きましたね」
結果として、プリント基板のサイズを見事前世代と比較して50%にまで大幅に削減することができた。そして、川満氏が手掛けたプリント基板が搭載されたHDDは、東芝の新世代HDDとしてさらなる大容量化へ先鞭を付けることとなったのである。大きな成果を達成した川満氏に、改めて今の想いを聞こう。
「東芝では、一つの製品が出来上がる工程の全体を見渡すことができます。また、製品に搭載される部品を作る技術者の発想、思考、想いも届きます。そうした知識を吸収しつつ、想いに応えるためにも、自分が担当するパート以外も勉強したくなる。そうすると今度は、様々な分野を内包する東芝グループだから、深めた知識を交換し、高め合える同僚に出会える。
これが、技術者としての自分を成長させる最高の土壌だと思います。製品開発プロセスの上流から下流まで、すべて担う東芝なら、『この製品のここを作った』ではなく、『これは自分たちが作った』と胸を張って言えると思います」
最新の製品では、ディスク9枚搭載とFC-MAMR™(磁束制御型マイクロ波アシスト磁気記録)技術により18TBの記憶容量を実現した
関連サイト
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