低炭素社会実現の鍵となるか 存在感を増す「パワーデバイス」とは?

2018/04/11 Toshiba Clip編集部

この記事の要点は...

  • 低炭素社会の実現に向け、世界は再生可能エネルギーや省エネの拡大に動いている
  • その中で、パワーデバイスは、電気の効率的な使用に欠かせないキーデバイスだ
  • 家電から鉄道車両まで、活躍の場が広がるパワーデバイスについて探る
低炭素社会実現の鍵となるか 存在感を増す「パワーデバイス」とは?

私たちの身近な電気製品に活用されている半導体。その中でも、とりわけ今後、自動車や産業機械などで需要の拡大が見込まれているのがディスクリートの一つであるパワーデバイスだ。

 

その理由は、環境保全に対する世界的な意識の高まりである。低炭素社会を実現するには、電力消費量や二酸化炭素(CO2)排出量を削減する必要がある。しかし、生活の質や利便性は下げたくない。こうした相反するニーズに対し、パワーデバイスがひと役買うわけだ。

 

今回はこのパワーデバイスという半導体の、現在と未来の可能性について探っていきたい。

電気自動車の普及に合わせ、車載向け半導体に注力

「パワーデバイスは主に、電気エネルギーの制御のために組み込まれるもので、例えばパソコンの電源や、冷蔵庫や洗濯機などモーターを回す家電、そして電車や電気自動車といった乗り物、工場などで使われる産業機械などに使われています。いずれも昨今の省エネ化の流れによって、これからますます成長が期待される分野と言っていいでしょう」

 

東芝デバイス&ストレージ株式会社 来島正一郎氏

 

そう語るのは、東芝デバイス&ストレージ株式会社の来島正一郎氏だ。長年、半導体に関する事業を展開してきた同社は、パワーデバイスで世界トップクラスの地位で幅広いラインアップを有し、日頃我々が何気なく使っている様々な製品に、東芝のパワーデバイスが組み込まれている。

 

石川県や兵庫県にパワーデバイスの製造工場を持つ東芝だが、近年の省エネ化のニーズに後押しされ、生産量は大きく増加しているという。

 

「冷蔵庫やエアコンも、パワーデバイスを使わない制御では非常に大きなエネルギーが消費されますが、パワーデバイスを使ったインバーター制御により、きめ細やかな出力調整が可能になるので、 エネルギー効率の向上も可能になるのです」

 

なかでも今後、市場の拡大が期待されているのが、電気自動車だ。電気自動車はパワーデバイスなしでは成立しないからだ。

 

「電気自動車を中心とする環境に配慮した自動車は、今後も増えていくでしょう。そこで東芝としても、車載用のパワーデバイスに一層 力を入れていきます。主要な自動車メーカー各社が電気自動車の車種を増やしていますし、電気自動車の普及はこれからますます進んでいくはずです」

 

では、なぜパワーデバイスを用いると省エネになるのか。実際には高度な構造が働いているが、ここでは来島氏に単純化してそのメカニズムを解説してもらった。

 

「家電などで例えると、スイッチをオンにすればモーターが回り、オフにすればそれが止まるというのが、シンプルな原理です。この回路をアレンジし、オンとオフをkHz(千ヘルツ)という高速で切り替えることで、最適な回転数が得られ 、エネルギーの消費量を抑えることができます。ここでもスイッチングロスと呼ばれる電力消費は発生しますが、それでもオンの状態を保つより、高い省エネ効果が得られるのです」

 

電気自動車は、二次電池に蓄えた電気でモーターを回転させて走行する。駆動用モーターの他にも色々な電子機器が搭載されているが、それぞれの機器にとって最適な電圧や電流に変換してから利用する必要がある。 その役割を担っているのがパワーデバイスなのだ。

東芝のパワーデバイス

東芝のパワーデバイス

パワーデバイスは持続可能な社会の発展を後押しする!

もちろん、パワーデバイスの活躍が見込まれる領域は、電気自動車だけではない。コンセントの向こう側、電力網全体を見ても同様だ。

 

発電所というのはたいてい、都市部から離れた場所に設置される。そのため、作った電気をいかにロスなく使用地へ運ぶかが、世界的な課題となっている。ロスが少なければ少ないほど、エネルギー効率は高まり、環境負荷を抑え、持続可能な社会の発展にも貢献できると考えられるからだ。

 

東芝製のパワーデバイスは、太陽光発電設備でも活躍しており、クリーンエネルギーを効率的に作り出すことにも一役買っている。 太陽光発電設備は、太陽光で発電された直流電流を、電力網の出口である家庭や工場で使うために交流電流に変換するだけではなく、日射量の変動などにより電圧が不安定な発電を、電力網に送る役割を果たす。パワーデバイスにより、太陽光から得られた限られた電力をより高い効率で供給することができる。

石川県にある、東芝の半導体の製造工場のクリーンルーム

石川県にある、東芝の半導体の製造工場のクリーンルーム

パワーデバイスはまだまだ進化を続けている。これまでは素材としてシリコンが主に用いられてきたが、さらなる高機能化を図るため、炭化ケイ素や窒化ガリウムといった新たな素材を使った半導体が開発されている。

 

新素材の活用により、半導体そのものの電力損失が減り、消費電力が抑えられるなど、省エネ化にますます貢献することが期待される。これらの新素材半導体は、現在、一部の電車や新幹線など鉄道車両にも組み込まれているが、今後、コストとのバランスがとれれば、パワーデバイスの主流になっていくかもしれない。そして、こうした進化がさらに、環境負荷の低減や、我々の生活のクオリティを上げていくことが期待されており、東芝もこれらの新素材半導体の研究開発を進めている。

 

パワーデバイスが電気製品の省エネ化を後押しし、低炭素社会をサポートする。一般の消費者にとって、パワーデバイスは日頃あまり注目されることのないジャンルだが、身近な生活の進化に大きく貢献していることを、ぜひ多くの人に知ってもらいたい。

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