コネクテッドインダストリーズ バイオ技術×デジタルが創る未来!
2017/09/13 Toshiba Clip編集部
この記事の要点は...
- 「コネクテッドインダストリーズ」でバイオ分野が期待される理由
- 30億ドルが100ドル台に!? ゲノム(全遺伝子情報)解析も身近な存在に
- 「賢い細胞」は未来に向けて何を思う?
モノづくりの現場から、大量消費社会における消費者の行動変容、自動運転による新たなクルマ社会など、あらゆる分野でデータをつなげ、新たな付加価値を創出していくことが追求される時代。こうした産業社会の動きを支援・促進する政府の振興戦略が「コネクテッドインダストリーズ」だ。
世界に目を向けると、ドイツが掲げる「インダストリー4.0」、アメリカで提唱されている「インダストリアルインターネット」など、ICTの浸透によって社会を変革させようという動きが活発になっている。日本でも産学官の連携により、「ソサエティー5.0」という包括的な取り組みが進められている。
「コネクテッドインダストリーズ」は、「ソサエティー5.0」を背景に、モノづくりでの日本の強み、そして産業の新たな未来像を示すコンセプトなのである。政府は日本が今後強化すべき分野として、「スマートものづくり」「自動走行」「ロボット、ドローン」「バイオ、ヘルスケア」の4つを挙げている。
出典:経済産業省 METI Journalコネクテッド インダストリーズ
ここでは、分野別課題の一つとして挙げられている「バイオ」分野の取り組み、未来像を見ていこう。
システムと生物(バイオ)とICTが融合し、協調する未来とは?
「コネクテッドインダストリーズ」が追求する産業社会には、「さまざまなつながり」が存在し、それに対しては各分野で多様なアプローチがある。
- ・モノとモノがつながる(IoT)
- ・人と機械・システムが協働・共創する
- ・人と技術がつながり、人の知恵・創意を更に引き出す
- ・国境を越えて企業と企業がつながる
- ・世代を超えて人と人がつながり、技能や知恵を継承する
- ・生産者と消費者がつながり、ものづくりだけでなく社会課題の解決を図ることにより付加価値が生まれる
出典:経済産業省 “Connected Industries” ~我が国産業が目指す姿(コンセプト)~
バイオ分野でクローズアップされるのは「人・生物」と「機械・システム」のつながりだ。これまで対義的に語られていたこれらが対立するのではなく、融合し、そして協調することで新たな付加価値を生む。
バイオテクノロジーが新ビジネスの期待をはらんだのは80年代にさかのぼる。これまでバイオ分野でも日本産業の強みである高度な技術力、継続的なカイゼン活動、脈々と受け継がれる現場力は培われてきた。そして、そこには活動を通じて蓄積されたデータが存在する。これらを効果的に融合することで新たな価値を創造することができ、そしてそこにビジネスモデルが生まれる可能性がある。「コネクテッドインダストリーズ」でバイオ分野が期待を集めるゆえんである。
30億ドルが100ドルに!? ゲノム解析の価格革命が示すもの
近年、ICTのフル活用によってバイオ技術は格段の進化を遂げている。これもAI、ビッグデータ分析、IoTなどとの、バイオの「つながり」がもたらしたものだ。
例えばゲノム解析である。ゲノム(全遺伝情報)の解読には費用、時間の両面で膨大なコストがかかる。ゲノム解析が始まった90年代には、「DNAの1塩基を読むために1ドル」、つまりヒトが持っている約30億もの塩基対の解析には30億ドルがかかる計算だ。
しかし、ICTの進化がビッグデータの高速解析を可能にした。最近では、日本人ゲノム解析ツールなどの開発が進み、100ドル台(1万円台)でのゲノム解読が可能になってきている。特定疾患へのかかりやすさや薬効、副作用を予測するといった、個人向けの予防・治療計画を立てられるゲノム医療は、デジタル技術との「つながり」で一気に身近な存在になった。私たちがカジュアルに利用できる時代はすぐそこまで来ているのだ。
「コネクテッドインダストリーズ」のバイオ分野では、「スマートセル(賢い細胞)」も見逃せない。DNAなどの生物情報をITやAIなどの技術を活用し分析・データ化することで生物機能をデザインし、遺伝子技術を用いて機能発現能力を高めることで、新たな生物細胞(スマートセル)を創り出すのだ。これまで眠っていた生物の潜在的な機能をデジタル技術によって引き出す。まさにアナログな生物細胞とデジタル技術の融合のたまものである。このスマートセルは、医療、工業、資源、農畜水産業など、さまざまな分野で変革もたらす可能性を秘めている。
参考:経済産業省 METI Journalコネクテッド インダストリーズ-バイオ技術をモノづくりに生かす取り組みが進む
政府は公的機関が持つ生物資源情報(ゲノム配列や生産物など)の利活用に向け、2018年度中にデータベース化する見込みだ。
NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)もスマートセル関連のプロジェクトを立ち上げており、産学官で全40機関が参加。従来の合成法では生産が難しかった有用物質の開発、生産プロセスの効率化・低コスト化を目指しているという。
出典:NEDO ニュースリリース-図1.スマートセル構築による高機能品生産技術開発
民間企業でも活発な取り組みが進んでおり、植物由来のバイオプラスチック、鋼鉄の300倍以上もの強靭性を誇る人工合成クモ糸繊維、バイオマスからの合成ゴム生成など、意欲的なプロジェクトが目白押しだ。
官民が協調して、日本がグローバルに次世代のモノづくりをリードするポジションを目指す。カイゼン活動や品質管理など、日本のモノづくりで培ってきた強みと現場で蓄積された正確で膨大なデータとの融合で産業に変革をもたらす。そのためには、企業間のみならず産官学で相互のデータを円滑に活用するための仕組みづくりがキーになる。これは「コネクテッドインタストリーズ」の重要な課題の一つであり、政府のリーダーシップが期待される。
今回、バイオ分野が「コネクテッドインダストリーズ」において重点分野に位置づけられることで、既存産業にダイナミックなパラダイムシフトが起こる可能性もある。生物と機械が「つながる」ことで見える未来、変革する産業社会――バイオ技術とデジタルの融合が、新たなモノづくりの世界を見せてくれるに違いない。
関連サイト
※ 関連サイトには、(株)東芝以外の企業・団体が運営するウェブサイトへのリンクが含まれています。
https://meti-journal.jp/p/2/
https://meti-journal.jp/p/28/
https://www.nedo.go.jp/news/press/AA5_100595.html