うれしい体験をつくり出す UXデザイン視点のモノづくり

2016/10/19 Toshiba Clip編集部

この記事の要点は...

  • モノづくりに欠かせないユーザー体験(UX)
  • 周囲、社会に良い体験を循環させていく視点も重要
  • 本質を突き詰めることで生まれる「うれしい体験」
うれしい体験をつくり出す UXデザイン視点のモノづくり

製品やサービスがユーザーにもたらす「体験」を想定し、適切にデザインしていく。近年、モノづくりの現場で「UX(User Experience ユーザー体験)」の提供が重視されるようになってきた

 

ただ、「ユーザーにとっての体験」を明確に定義し、運用していくのは至難の業だ。結果として「UXとは何か」が曖昧なまま、単なる題目として「UX」「UXデザイン」が掲げられているケースも少なくないだろう。

 

今あらためてUXとは何かを考え、具体的な取り組みからヒントを得ていこう――。

今回、UX視点の製品/サービス開発を多くの企業と進めている千葉工業大学先進工学部知能メディア工学科の山崎和彦教授と、東芝デザインセンターでUXデザインに取り組んできた土肥匡晴氏との対談を行った。最前線の2人が「UXデザインのいま」を語る

千葉工業大学 教授・博士 スマイルエクスペリエンスデザイン研究室 山崎和彦氏

千葉工業大学 教授・博士 スマイルエクスペリエンスデザイン研究室 山崎和彦氏

UXデザインとは何か

千葉工業大学 山崎和彦教授(以下 山崎) UXデザインは、企業がいろんな製品/サービスを通して、ユーザー、お客さまに良い体験を提供する。これが基本です。これには二つの意味があって、一つは企業という視点で良い体験をビジネスと結びつけて考える。もう一つはソーシャルな視点でコミュニティ全体の良い体験につなげていく。どちらもUXデザインの役割です。どちらにしろ「ユーザー、お客さまにいい体験にしていただくこと」がベースになるのは変わらないと思います。

 

株式会社東芝インダストリアルICTソリューション社 土肥匡晴氏(以下 土肥) 今挙げられた2つの定義は、私たち東芝でも同様に考えています。東芝はUXデザインに取り組む中で「うれしさの循環」という理念を据えています。これは単純に製品やサービスがもたらす良い体験によってユーザー自身にうれしくなってもらうだけでなく、ユーザーの周りのコミュニティ、社会にいかに良い効果を循環させていくかを考えるということです。これは、山崎先生が挙げられた「ソーシャルな視点で考え、コミュニティ全体の良い体験につなげていく」に通底するのではないでしょうか。

東芝のUXデザイン理念。東芝のデザインは、「うれしさの循環」の実現を目指す

東芝のUXデザイン理念。東芝のデザインは、「うれしさの循環」の実現を目指す

山崎 そうですね。企業のブランディングという観点でもUXが無視できないと考えています。ブランディングと言いますと、CMを作ったり、ロゴを作ったりといった「コーポレートアイデンティティ」の観点が主でした。しかし、それだけではユーザーの心をつかめなくなっている。ソーシャルな視点でのブランディングを考えても、結局はUXにいきつきます。

株式会社東芝インダストリアルICTソリューション社 IoT&メディアインテリジェンス事業開発室 IoTコンサルティング&事業開発部 IoTビジネスコンサルティング担当 参事 土肥匡晴氏

株式会社東芝インダストリアルICTソリューション社 IoT&メディアインテリジェンス事業開発室 IoTコンサルティング&事業開発部 IoTビジネスコンサルティング担当 参事 土肥匡晴氏

今、なぜUXを考えることが重要なのか

山崎 今、なぜUXデザインなのか。UXを考慮したデザインは別段新しいものではありません。今頃流行るのは遅いくらいですが、ただ、今まで通りの開発ではモノづくりがうまくいかなくなっている現状は明らかです。

 

新しい技術を用いて新しい商品を作れば売れる。そんな時代もありました。しかし、時代は変容し、以前の認識は通用しづらくなっています。部品や設計の共通化や標準化により、製品の差異を生み出しにくくなっているからです。これまでのモノづくり、サービス提供はUXへの視点を欠いていないだろうか? この点を真摯に振り返るためにも、あらためてUXデザインを考え、定義していかなければならないと思うのです。

 

土肥 UXの視点が新しいモノを生み出すヒントになるということですね。

 

山崎 ええ。東芝のモノづくりは、家電などコンシューマーに向けたものから、BtoBに軸足を移しつつありますよね。ビジネスの変化の中で、UXを取り入れたデザイン、モノづくりはどう構想されていくのでしょうか。

 

土肥 それはまさに弊社の課題でもあります。お客さまの要求仕様をただ鵜呑みにして、求められたスペックを満たせば良いのか?それは必ずしも是ではありません。

 

なぜなら、お客様はご自身の潜在的な課題やニーズを把握されているとは限らないからです。ですので、お客さまのおっしゃることをそのまま聞いていただけでは、結局は「お客さまに使われないもの」を作ってしまう可能性が高いのです。

 

私たちはUXを表層的になぞるのではなく、深掘りすることが重要だと考えています。お客さまの要求、仕様をさらに一歩踏み込んでインタビューをする、仕事現場を見せていただく。お客さまが感じている課題の裏に、さらなる課題があるのではないか、という追求をもって製品づくりをしていく。

 

そうやって初めて、お客さまとの信頼関係も強まっていくというのが実感です。これらの『お客さまを理解する』プロセスをプロジェクトチーム全員で体験することで、UXの視点を恣意的に社内に広げていかなければいけないと感じています。

 

山崎先生はいかがでしょうか。現在進められているビジネスを通して得た新たな知見、今後の課題をお聞かせください。

山崎教授

山崎 そうですね。いろいろなことに取り組んでいますが、BtoBでは航空管制のシステムのデザインが面白いところです。

 

航空管制のシステムのデザインでは、行動観察を通していかに複雑な業務を分析し、プロトタイプを制作、検証し、体系立てていくのか。これが現今の大きな課題になっています。BtoBの分野でも、行動観察を重ね、どうやって業務プロセスを理解して構成していくのか。これを考えなければ、設計側もうまい設計ができないのですよ。

 

土肥 分かります。私も以前、輸送計画システムを効率化するソリューション「TrueLine」の開発に携わりました。そこで考えたのは、例えばパズルのピースをドロップ&ドラッグするような直感的な操作。本システムの対象ユーザーは必ずしも専門職の方とは限りません。

 

そこで、ユーザーの業務への造詣によらず、かつ私や開発担当者のように交通システムの専門家ではない人々にも理解できるようにできるだけシンプルな仕様を考える、ということに重点を置きました。

 

使い勝手の良さがデザインから一目瞭然に伝わるよう、徹底してこだわったのです。機能の本質をいかに分かりやすくするか。それを考え抜いたことが、「スジ屋」と呼ばれるような鉄道ダイヤのエキスパートから、鉄道会社の新入社員にも分かるようなユーザーインタフェースにつながったと思います。

輸送計画システムを効率化するソリューション「TrueLineⓇ」の操作画面。パズルのピースをドロップ&ドラッグするような操作をイメージ

輸送計画システムを効率化するソリューション「TrueLine」の操作画面。パズルのピースをドロップ&ドラッグするような操作をイメージ

手書きのようなダイヤのスジの描き心地を目指した操作画面

手書きのようなダイヤのスジの描き心地を目指した操作画面

山崎 私も航空管制のシステムづくりに関わって思うのは、デザインがなかなか入り込めない現状もある、ということです。現場には問題意識、要望があるけれども、予算がないのでなかなかデザイン、ひいてはUXデザインが入っていけないという現状があります。組織が抱える、こうした課題を解決するために、私はUXデザイン研究の一環として「組織のデザイン」を掲げています。次は、このテーマについて話し合っていきましょう。

【UXデザイン対談 後編へ続く】

 

関連サイト

※ 関連サイトには、(株)東芝以外の企業・団体が運営するウェブサイトへのリンクが含まれています。

http://www.toshiba.co.jp/design/

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