ソフトウェア・ディファインドで、信頼のハードを生かす【後編】 ~社内外での「オープン・ソース活用」が、総合力を上げる!

2022/11/14 Toshiba Clip編集部

この記事の要点は...

  • 時代の潮流は、アイデアや開発のオープン化へ!
  • オープン・ソースを活用した課題解決に向け、東芝は何をする?
  • 自社の総合力を上げるために、社外との連携を進める!
ソフトウェア・ディファインドで、信頼のハードを生かす【後編】 ~社内外での「オープン・ソース活用」が、総合力を上げる!

私たちの身の回りには、機能(ソフト)が追加・更新される物(ハード)が溢れている。例えば、Apple Watch(ハード)では、心電図アプリ(ソフト)によって脳卒中などの原因になる心房細動を検知するという。この不規則な心拍を通知する機能は、機械学習で心房細動を発見するよう改良されているそうだ。このようにソフトの開発・更新を視野に入れて、最初からハードを設計・製造する発想は、「ソフトウェア・ディファインド(Software Defined)」という考え方に基づいており、注目されている。

※実現したい価値や目的に対し、ソフトの柔軟性やハードの信頼性などの特性を最大限生かすため、機能分担を見直して将来に備える。

前編では、ソフトウェア・ディファインドで変革を進める東芝が、その経営戦略における課題として、組織が縦割りで動く「内部硬直性」と、自前主義で社外連携が進まない「外部硬直性」をあげた。これらを打破する「オープン・ソース」構想について、この後編で詳しく解説する。

構想を推進するのは、東芝のソフト開発の中央研究所である「ソフトウェア技術センター」。その所長の小林良岳氏は、「インターネットがインフラ化し、様々なハードとソフトが接続するようになりました。製品が高機能化し、全てのソフトをゼロから自社開発していては、変化の激しい時代に太刀打ちできません」と危機感を募らせる。その理由を紐解く。

ソフトの中央研究所が変える、開発のあり方

「私たちソフトウェア技術センターの原点は、高品質のソフトを開発することで今も変わりません。しかし、クローズドな開発では時代の流れについていけません。ソフトウェア・ディファインドを進めるには、オープンな環境で開発するべきです」と小林氏は強調する。

株式会社東芝ソフトウェア技術センター 所長 小林 良岳氏(1)

株式会社 東芝 ソフトウェア技術センター 所長 小林 良岳氏

ソフトの世界では、世界中の企業や研究機関がオープン・ソース・ソフトウェア(OSS)の恩恵を受けてきた。オープン・ソースの環境では、開発ソースコードが無償で公開され、ソフトの利用や改変、配布を自由にできる。今や、どの分野でもOSSなしに製品やソリューション、サービスを開発することが難しくなっている。

例えば、インターネットやクラウドを支えるサーバから、テレビやスマートフォンに至るまで広く利用されている「Linux」がOSSだ。他にも、スマートフォン用の「Android」、グーグルのブラウザー「Chrome」やマイクロソフトの「Edge」などのエンジンとなっている「Chromium」も、グーグルが開発とメンテナンスを主に行うOSSだ。

複数の共同開発者が、自律分散的にOSSを改良する

複数の共同開発者が、自律分散的にOSSを改良する

多数のプログラマーやエンジニアが、OSSの共同開発者として携わり続けることで、ソフトの不具合やバグを発見したり、修正したりできるのが利点だ。また、OSSの機能を細分化しておくことで、それぞれの機能に知見があり、得意とする開発者によって改良が進むなど、ソフトの利便性や安全性、信頼性が適切に向上することも期待される。

小林氏は、「OSSは、公開されたレシピでの料理づくりに例えられます。誰でも自由にそれを使って料理を作れますし、レシピをさらに良くするためにアレンジもできます。工夫したレシピを公開して受け入れられれば、どんどん進化します。OSSの開発は、世界中の人たちが使えるセントラルキッチン(オープン)という場で、レシピ(ソース)を改良しながら、料理(ソフト)を作るようなものです」と教えてくれた。

「セントラルキッチン」で開発し、東芝の総合力を高める

ここで冒頭に触れた、東芝の経営戦略における課題を思い出していただこう。それは、組織が縦割りで動く「内部硬直性」と、自前主義で社外連携が進まない「外部硬直性」だった。「これらを打破するのに、オープン・ソースの仕組みが生き、“思わぬ出会い”が生まれる」と小林氏は言う。

例えば内部硬直性の打破について、小林氏たちソフトウェア技術センターは、オープン・ソースの開発の仕組みを東芝の“中”に持ち込もうとしている。組織の壁を越えた効率的な開発を目指し、「社内のオープン化」を進めている。社内に根付かせることについて、小林氏は次のように言葉をつないだ。

どの部門も活用できるオープン・ソースが、効率的なソフト開発を可能にする

どの部門も活用できるオープン・ソースが、効率的なソフト開発を可能にする

「東芝は発電、鉄道など、幅広く社会インフラに関わっており、共通の課題を各部門が持っています。こうした共通の課題を一緒に解決することを通して互いを知ることで、本当の意味で東芝の総合力を発揮できます。

何よりも、『同じ東芝』なのに、こちらのソフトとあちらのアプリやハードが繋がらないという状態は、生産性を求められる現代において非効率です。オープン・ソースの考え方を持ち込んでソフトを開発すれば、このような課題も解決できます。

 

先ほどの例でいえば、私たちがセントラルキッチンという場と、様々な料理人が使えるレシピを提供するイメージです。そのレシピを使って、誰がどのような料理を提供しているか知れば、お互いの料理の組み合わせが最高になるように改良できます。その結果、最高のコース料理として提供でき、それこそが総合力を発揮するということです」

これを実現するためには、最先端の知見が必要だ。ソフトウェア技術センターは社外とOSSを共同開発することで、中央研究所としての地力を磨いているそうだ。その詳細は後述する。

「オープン化で、開発文化を変える」

この思いを胸に、オープン・ソースの提供を通じて開発文化を改革する小林氏。日本企業では前例がほとんどない取り組みだが、挫けることはなかったのか。そんな疑問が浮かび、ぶつけてみた。するとこちらの予想に反して爽やかに、そして軽やかに返された。

株式会社東芝ソフトウェア技術センター 所長 小林 良岳氏(2)

東芝の共通の価値観は、『ともに生み出す』です。きっかけがあれば東芝は変わる、そう思っています。1つ工夫したとすれば、早くから仲間を集めたことです。東芝の開発環境そのものは先進的だと思うのですが、すぐにオープン・ソースの考え方を広めるのは無理筋です。

前例がほとんどない取り組みですから、他社で同じ課題意識を持つ方を探し、勉強会をし、その内容を記事にまとめて情報発信しました。すると、徐々に声をかけられる機会ができ、課題もどんどん解決していきました。これは社外での取り組みですが、社内で同様に部門同士の相乗効果を考えるには、製品や仕組みが完成してからでは遅い。試作品や構想をまとめる段階など、可能な限り早くから共有することが大事です。

また、人材の底上げも必要です。私たちソフトウェア技術センターの主催で、『共創&デジタル人財Boost Program』というワークショップを開催しています。様々な部門から集まった人たちが、『共創』を軸に手を動かし、連携することを体感します」

オープン・ソースの考え方が外部硬直性も打破し、総合力を上げる

ここまでオープン・ソースの仕組みによる東芝社内の変革を説明してきたが、同じ動きは社外に対しても当てはまる。それは、経営戦略のもう1つの課題、社外連携が進みにくい「外部硬直性」の打破だ。東芝は、エネルギーなど社会インフラにおいて信頼性の高いハードを提供してきた。だが、ソフトウェア・ディファインドに基づいて、ハードを動かすソフトの機能拡張・更新を継続的に行うには、多角的な視点が必要だ。そこで、先進企業どうしの連携が必須になる。

高度な信頼性が求められる社会インフラのソフト開発において、東芝1社だけでは解決が困難な課題があります。そこで課題を共有し、議論を重ねることで、本質的な解決策が生まれます。ソフトは年々、大規模化しており、各社が競ってばらばらに開発すると非常に効率が悪い。

 

東芝はシーメンスとCIP(Civil Infrastructure Platform)というコミュニティを立ち上げました。継続的なアップデートが必要な社会インフラのソフトを、多角的な視点で機能拡張していくためです。現在は他の企業も加わり、グローバルな連携が進んでいます。こうした共通の土台の上に企業の独自性を加えると、世界での競争力が増すはずです」(小林氏)

話をまとめるとこうだ。「2階建て構造」を想像していただくと、1階部分は「共通のソフト」になる。そして、2階部分は「企業独自のソフト」となり、状況に合わせて1階と2階を入れ替えるなども考えられる。1階部分では戦略的な動きが必要であり、CIPなどの国際プロジェクトへの参画が重要になる。自社の経営戦略にそった形で、社会インフラに適用可能な高信頼のソフトを開発しやすくなるからだ。このように、東芝は約150年のモノづくりで培ったハードの信頼に加えて、ソフトウェア・ディファインドを進める条件を揃えつつある。

ソフト開発でのOpen/Closeの使い分けが、ソフトウェア・ディファインドに重要

ソフト開発でのOpen/Closeの使い分けが、ソフトウェア・ディファインドに重要

人と、地球の、明日のために。世界をよりよい場所にするために。東芝の強みである高い信頼の社会インフラのデータをソフトに集め、それを分析する。さらにはデータで繋がることで次の価値を生む。その仕組みづくりこそ、ソフトウェア・ディファインドの流れです。

私たちは、これを突き進めていきたい。もちろん、企業として『どこを守るか』『どこを開放するか』ということも含めた、東芝だからできるデザインをしていきます」

今後、デジタルエコノミーが発展していくなかで、様々な領域でオープン化が進むはずだ。小林氏が推進するオープン・ソースによる社内外の硬直性打破は、相性が抜群にいい。東芝の変革の足音は、すぐそこまで聞こえてきている。

共創&デジタル人財 Boost Programの様子(5分)

関連サイト

※ 関連サイトには、(株)東芝以外の企業・団体が運営するウェブサイトへのリンクが含まれています。

デジタルイノベーションテクノロジーセンター | 東芝

Related Contents