マレーシアで実証事業スタート! EVバスがもたらす環境都市の未来とは?

2018/01/17 Toshiba Clip編集部

この記事の要点は...

  • マレーシア・プトラジャヤ市で、EVバスの実証事業がスタート
  • 急速充電しても長寿命を維持できる東芝の二次電池SCiB™を活用し、ASEANで初めての超急速充電運行を実現
  • EVバスソリューションの普及が、交通インフラを大きく変える……!
マレーシアで実証事業スタート! EVバスがもたらす環境都市の未来とは?

環境都市計画を推進するマレーシアの行政首都・プトラジャヤ市で2017年夏からEVバスの実証事業がスタートしている。急速充電が特長の東芝の二次電池(※1)SCiB™を採用することで、充電に長時間かかるという課題から解放されたEVバスは、未来型都市の主要交通網の一つとして大いに期待を集める存在だ。

 

本実証事業はプトラジャヤ市と国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(以下、NEDO)が締結した基本協定書に基づき、NEDOから委託を受けた日本企業が現地企業と共同で実施しているもの。二次電池の供給やEVバスの運行を支えるクラウド情報システムの構築、充電ステーションの構築など、東芝が全体コンセプトを構想し、プロジェクトを取りまとめている。
その成果から見えてくるのは、私たちの未来の暮らしに他ならないはずだ。

先駆的な環境都市計画が進められるプトラジャヤ市

マレーシアの行政首都・プトラジャヤ市は、「Putrajaya Green City 2025」と名付けた環境都市計画を推進し、次世代の街づくりに積極的に取り組む自治体である。

 

プトラジャヤ市のダトー・ハシム・イスマイル市長は、「Putrajaya Green City 2025」のビジョンを次のように語る。

「Putrajaya Green City 2025」について語るプトラジャヤ市のダトー・ハシム・イスマイル市長

「Putrajaya Green City 2025」について語るプトラジャヤ市のダトー・ハシム・イスマイル市長

「私たちはプトラジャヤ市を先駆的な環境先進都市にすべく、さまざまな取り組みを行っています。そして、その目的の達成に向けた戦略的な都市計画がPutrajaya Green City Plan 2025なのです。プトラジャヤ市は「自然との共存(Garden City)」というビジョンを掲げて開発されてきた都市で、都市の中に緑があるというよりも、緑の中に都市があるという感じです。私たちは今後もイニシアティブをとり、低炭素社会への取り組みなどを通じて市のビジョンを実現していきたいと考えています」

「自然との共存(Garden City)」を掲げるプトラジャヤ市

「自然との共存(Garden City)」を掲げるプトラジャヤ市

その計画の一環として、市内を走るバスをEVバスに置き換えるプランがまさに今回のプロジェクトである。そのプトラジャヤ市での取り組みに参加する、東芝インフラシステムズ株式会社・鉄道システム事業部の武井忠氏は次のように語る。

 

「プトラジャヤ市はグリーン開発のモデルになるべく作られている行政都市で、マレーシアのほとんどの政府機関が結集し、政策が街づくりに反映されやすい場所です。近隣にある首都クアラルンプールは他のアジアの大都市と同様、渋滞と排ガスに苦しんでいますが、プトラジャヤ市では新しい街づくりに挑戦しています。市内を走る公共交通はバスが中心ですが、ディーゼル車ではなく天然ガス車両が採用されているのです。
 プトラジャヤ市を初めて訪問した時、『ここにEVバスを導入できなかったら、一体どこでできるのだろう』と思ったのを覚えています。環境意識の高い政府の街と新技術のEVバスの相乗効果によって、今後、大きな発信力が期待できるプロジェクトであると感じています」

東芝インフラシステムズ株式会社・鉄道システム事業部 武井忠氏

東芝インフラシステムズ株式会社・鉄道システム事業部 武井忠氏

バスに限らず、自動車のEV化は今後いっそう促進が期待される分野と言える。本実証事業においては、約10年間使用されるというマレーシアでのバスの期待寿命と、充放電を繰り返しても10年間交換不要というSCiB™の特長が合致し、EVバスソリューションの導入を後押しした。

 

「世の中には広告塔として低い稼働率で走っているEVバスが多いのが現状ですが、それは充電に時間がかかるうえ、電池寿命が短いからです。このため運行事業者による本格的な導入には至りません。運行事業者の要求は1日200㎞、年間7万キロ以上の走行で、10年以上電池交換が不要なEVバスです。これは生涯走行距離が10万キロ以下という乗用車EVの要求とは全く異なります。この要求に応えられる二次電池は当分SCiB™しかないという確信がこのソリューションの原点です」(武井氏)

EVバスの稼働率を向上させるソリューション

東芝の二次電池SCiB™の特長は長寿命だけではない。急速充電性能に優れ、バスターミナルに実装されたパンタグラフ式充電装置を用いることで、10分間の超急速充電運行を可能にし、EVバスの弱みだった稼働率の向上を実現する。

バスターミナルに実装されたパンタグラフ式充電装置

バスターミナルに実装されたパンタグラフ式充電装置

SCiB™以外にも、プトラジャヤ市で稼働するEVバスソリューションには東芝の最新技術が投入された。東芝が提供するクラウド情報システムは、電池の温度や充電時の電圧、電流の状態をモニタリングしデータを常にクラウド上に保管している。正常に機能していることをリモートモニタリングするとともに故障時には迅速な対応を行うことが出来る。これはメンテナンスを行う事業者にとっても非常にメリットがある。

遠隔地からEVバスをモニタリングするクラウド情報システム

遠隔地からEVバスをモニタリングするクラウド情報システム

こうした技術を武器に6年以上も前からEVバスソリューションの開発を手掛けてきた武井氏でも、今回のプロジェクトには非常に苦労したこともあったのだとか。

 

「技術を事業として成り立たせることが重要です。また東芝はバスメーカーではありませんのでバスメーカーとの協力が重要です。事業リスクを軽減、分散させるために、プロジェクト参画会社の既存事業の範囲で水平分業する方針とし、バスの製造からシステム試験まで4か国で行われました。主要部品の変更や現地で必要な許認可が多く、いろいろな局面で壁にぶち当たりましたが、これらを全て予算内、期間内で乗り越えなければならないソリューション事業の大変さを実感しました。
 ただ、運開までたどり着くと、これまでこちらがお願いする立場だった関係者が、今度は向こうから積極的にアプローチしてくるなど、過去とは違うステージに立ったということを感じています。少し結果が出ると、当初想定していなかったチャンスが訪れることがあります。プロジェクトを計画通りに進める管理能力も重要ですが、新規事業では途中で訪れるチャンスを生かせるか、生かせないかの動的な能力が必要な気がします。」(武井氏)

 

NEDOや日系コンソーシアムと協業することになった現地企業、Putrajaya Public Transport Travel & Tours社のCEO、ハジ・ラヒム氏は、今回のプロジェクトについてどのように考えているのだろうか。

 

「当初からディーゼル車ではなく天然ガス車両を活用してきた我々としては、EVバスは非常に魅力的なアイデアでした。市民からもEVバスに対して、走行中にまったく音がしないことに新鮮な驚きを持ち、歓迎する声が多数寄せられています。ドライバーの育成や車両の扱い方についてはまだまだ教育が必要ですが、今後の安定運行を目指して努力していきたいと思います」

Putrajaya Public Transport Travel & Tours社のCEO*、ハジ・ラヒム氏

Putrajaya Public Transport Travel & Tours社のCEO*、ハジ・ラヒム氏

プトラジャヤ市のダトー・ハシム・イスマイル市長のEVバスソリューションに対する期待も大きい。

 

「こうした超急速充電を採用したEVバスの導入は、ASEAN初の事例と言われています。実際、環境先進都市に向けた取り組みの中でも、EVバスはとりわけ重要なアイテムの1つであると私は考えています。私たちは、2025年までに温室効果ガスの排出量を2015年の60%にまで削減する計画を打ち出していますが、こうした日系コンソーシアムとの協業を通し、今後もチャレンジを続けていきたいと思います」

EVバスシステムの実証事業の運開式の様子

EVバスシステムの実証事業の運開式の様子

この実証事業は2020年まで続けられる予定で、そこで得られた成果やノウハウは、さらに世界中へと拡散していくに違いない。

 

「道にごみを捨ててはいけない、というのは既に根付いた習慣ですが、大気へのエミッションについてはまだ罪悪感が低いままだと感じます。温暖化ガスを出さない、排気ガスを出さないというゼロ・エミッション規制が望ましいのですが、環境技術とのバランスがとれないと実行不可能になります。環境技術ができて始めて規制が実行可能になり、産業界もそれに対応していきます。今はまだ環境技術が普及可能レベルに達していません。この技術があればバスはゼロ・エミッション化できる。だから規制しても大丈夫。そういう転換期を作りたいと思っています。」(武井氏)

 

そう遠くない未来には、日本の技術がゼロ・エミッション社会を強力に後押しする展開がみられるかもしれない。その時、我々が暮らす街がどのように風景を変えるのか、今から心待ちにしておこう。

 

この動画は2017年12月19日に公開されたものです。

※役職については取材日の2017年11月9日現在。

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