誠実であり続け、全力投球することで生み出した調達業務プロセス革新 ~理念ストーリー We are Toshiba~
2023/01/27 Toshiba Clip編集部
この記事の要点は...
- 新人であっても対等に扱われる組織で、調達業務の改革が進む!
- 得意のデータ分析と、新たな着想から始めた改革は全社規模へ?!
- 誠実に調達業務に向き合い続けることが、変革への情熱にもつながった!
適切な仕様、価格、納期で資材を購入し、コンプライアンスも徹底する。ものづくりの現場に遅滞なく部材を届けるのが、製造業に欠かせない「調達」業務だ。突然のコロナ禍による資材高騰やサプライヤーの事業停止など、昨今の混沌として不確実性を増すなかでサプライチェーンは複雑化している。当然ながら、部材の適正な価格を見いだすのは容易ではない。東芝グループの理念を体現する仲間に迫る理念ストーリーシリーズ。今回は、東芝インフラシステムズで調達業務に携わる清水誠太氏に、自分の強みを生かして業務プロセスを変革するチャレンジ、その志を語ってもらった。
ものづくりを支える「調達」に、データ分析の力を生かす
東芝インフラシステムズが手がける領域の一つが、通信ソリューションだ。ローカル5Gや、電波の届きにくいエリアでも携帯電話などの利用を可能にする中継装置など、現代社会に欠かせないモバイル通信ネットワークを技術で支えている。清水氏は、そのモバイル向け通信機器に用いられるケーブルハーネス*の調達業務に携わっている。
*電源供給や信号通信に用いられる複数の電線を束にして集合部品としたもので、その末端をあらかじめ半田処理やコネクター処理などを行い他の機器に接続しやすくしたもの。
東芝インフラシステムズ株式会社 調達部 府中調達部 調達第一担当 清水誠太氏
「入社から一貫して担当しているのが、製品製造に必要な部材を買う業務です。具体的には、製品部から『この部材が必要なので調達してほしい』という依頼を受け、手配した取引先からの回答を精査。その部材の仕様と価格が適切かどうかを判断して、初めて発注するという流れです。スケジュールにあわせて部材が揃わなければ製造はできませんので、納期の調整も必須です。価格の確認をし、納期調整をして決済をする――私の入社1年目は、このバイヤー業務に体当たりで臨み、無我夢中で過ごしました」
バイヤーとして2年目を迎え、調達業務を改めて見直した清水氏は、一連のフローが属人的で、担当者によって価格判断に差が生じることに気づく。
「担当者の経験により、価格が判断されていました。そこでは、私のような経験の浅いバイヤーでは判断のしにくいケースも出てきます。これまでにない新規の仕様で発注するときでも、過去のデータを駆使し、価格の妥当性を判断する仕組みを作れないか――? そんな着想が生まれたのです」
清水氏の気づきは、いわゆるAIの機械学習を活用した「価格査定ツール」の開発、そして現場への応用につながっていく。画期的な業務プロセス改善への一歩を踏み出すことができたのは、大学時代の学びが基盤にある。統計学を研究するゼミに所属し、データ分析に知的好奇心を燃やした。東芝へ入社を決めたのも、学生時代に積み上げた「データ分析」を生かせる仕事に就きたい、という思いがあったからだ。
「私は岐阜県の出身で、愛知県の大学に進みました。自動車産業が集積し、ものづくりの基盤がある東海エリアで育ってきたこともあり、製造業に親しみを感じていたのです。また、子どもの頃からCMなどで東芝という企業、ブランドになじんでいました。そうした背景もあり、大学3年生で東芝の夏季インターンに参加。これが大きな転機になったのです。
インターンでは生産管理の業務に携わり、そこで接した調達担当者との対話が強く印象に残りました。社内外をブリッジし、豊かなコミュニケーションで支えていく『調達』に強く魅力を感じたのです。ダイナミックな調達という業務で、いずれは私が武器とするデータ分析が生かせたら……そんな思いから、東芝への入社を志望しました。濃密な2週間のインターンが、私の人生の大きな転換点になりました」
業務プロセスの改善を後押しした、問題意識と得意分野を活かした発想
清水氏が調達業務を担当するインフラ製品は受注生産が多いため、以前と同じ仕様のものを調達することは稀で、従前の部材サイズを微調整して発注することが多い。当然ながら、そこでは豊富な調達経験が物を言う。ただ、そこで懸念されるのが判断の属人化だ。前任者が5年、10年と知見を培っても担当者が変われば、またゼロからの積み上げになってしまう。
「それはもったいなさすぎるでしょう。価格判断を共通の指標で下せれば、会社全体にとって大きな資産になるはずです。ケーブルハーネスの長さやコネクターの種類、個数といった要素を変数とし、各種の条件を入力すると推定価格が出せる。私が開発を目指したのは、そんな『価格査定システム』です」
バイヤー1年目は目の前の業務に集中し、2年目で業務プロセスの改善を着想。清水氏は、データ分析を活用したツールの開発、現場での実装に取り組んだ。根底には、現場の知見、経験を資産として形式知化し、調達業務を高質化したい、という思いがあった。若手ならではの伸びやかな発想を、変革への情熱を歓迎する企業風土が育てていく。それが、前述の機械学習による価格査定ツールにつながった。
ただし障壁はあり、機械学習に必要なデータの収集が課題だった。仕様書などがデータベース化されておらず、また設計者によって仕様書のあり方が異なる。バイヤー2年目から3年目にかけてコツコツとデータを入力していき、ツールの精度を上げていった。そして調達現場で検証を繰り返し、最適な価格査定となるよう変数を調整していく。その不断の繰り返しだ。
ただ、決して孤独な取り組みではなかった。調達部門の個人の得意分野をいかした発想や挑戦を歓迎するという風土のもと、周囲のバックアップや他部署との連携が清水氏の奮闘を支えた。現在は、東芝のデータの力を生かす経営戦略にのっとった教育チームとの連携も進み、清水氏の挑戦は幅広い展開が期待されている。
「事業所の調達部門では機械学習を取り入れた前例がなく、ケーブル類での参照できるAIモデルはありません。しかし、上長が理解を示してくれ、目の前のバイヤー業務に集中しながら、AIモデルの開発にも取り組めたのです。転機は、調達部での活動発表会でした。私の発表に多くの方が興味を示してくれ、価格査定ツールの検討が一気に活発化しました。調達部を越え、さらなる連携も視野に入っています」
変革への情熱を抱く――その先に組織の変革、自身の成長がある
今後は査定にとどまらず、調達業務の自動化にもツールを役立てていきたい、と前を向く。ルーティンの業務はAIに任せ、人は価格交渉など人でなければできない業務に注力する。これこそ、調達業務における「選択と集中」の理想的な在り方だ。
清水氏は、世界をコロナ禍が直撃した2020年4月に入社した。激動の世界情勢の中で調達業務に従事し、不安定なサプライチェーンやエネルギー事情を目の当たりにしてきた。不確実な時代だからこそ、「人間の感覚だけに頼らず、客観的なデータによる分析に目を向けるべき」と考えている。そんな清水氏が大切にしているのは『変革への情熱を抱く』という東芝の価値観。状況は常に変わるということを肌で感じているからこそ、今までのやり方で本当に良いのか、もっと良い方法はないのか、常に疑いを持ちながら挑戦していきたい、と清水氏は力強く語る。
「根拠のある判断を――それがビジネスパーソンとしての私の指針です。なぜその判断を下し、なぜその発言をしたのか? 理由をきちんと説明できるように心がけています。それは、東芝の価値観『誠実であり続ける』につながると考えています。
根拠のある判断で取引先との交渉を、と語る清水氏
価格査定ツールの活用は、その価値観から生まれたもの。部材価格をあらかじめ算定しておくことで、サプライヤーとの見積もりのやり取りを節減できるとともに、今まで必須とされていた相見積もりの依頼も減らせます。業務の効率化はもちろん、取引先の負荷を低減することにもなるでしょう」
以前の属人的な交渉では、人間関係に頼って「今回はちょっと安くしてほしい」という局面があり得る。しかし、企業対企業の関係では適切な判断を下すのが正しい姿。その正しい姿を貫くためには、自身が客観的に評価しなければならない。そのために、価格査定ツールを活用し、根拠に基づいて取引先に対して誠実に向き合い交渉する。そんな、「調達のプロ」でありたいという思いから、今回の改革は始まった。『誠実であり続ける』という揺るぎない信念から、『変革への情熱を抱く』という次の行動へと移っていったのだ。
上述のように、清水氏の取り組みは東芝グループ各社との情報共有や技術交流に広がっており、「価格査定ツール」はプレゼンスを着実に発揮しつつある。バイヤー業務でさらなる経験、知見を積みつつ、「業務改善」全般への取り組みにも力を入れていきたい、と力強く語る。それがバイヤー3年目・清水誠太の現在進行形だ。
「価格査定ツールの開発では、大学で学んだデータ分析を生かせました。地道に手を動かす中で少しずつ認知していただき、情報共有や技術交流で横のつながりができたことも嬉しいですね。もちろん、バイヤーとして学ぶことはまだまだあります。その上で、調達における業務改善、自動化といえば清水誠太、そう思い浮かべてもらえるよう、自分の強みを出していきます」
「人生において、どんな時も、今人生の中心になっているものに誠実でありたい」 それが清水氏の信条だ。高校までは野球に集中し、大学ではデータ分析の研究に没頭。入社後はバイヤー業務に専心しつつ、業務プロセスの改善にも取り組んできた。置かれた場所で目の前の課題に誠実に向き合い、取り組む清水氏。変革への情熱に燃えて始まった業務プロセスの改善だが、その根底には常に「誠実さ」への意識がある。インターンでの経験が今の仕事を選ぶきっかけとなった清水氏が、次に東芝へ入る人たちに向けてメッセージを語ってくれた。
「仕事は、人生における大きな構成要素です。人生を豊かにするためにも、仕事で自分自身の『色』を表現していくのはとても大切です。これから社会人になって行く方々、東芝を選ばれる方も、そんな思いを持って、会社を選び、自分の仕事をぜひ楽しんでほしいと思います」