東芝の若き技術者たち ~共創の先に、技術と個人の成長がある~
2023/04/10 Toshiba Clip編集部
この記事の要点は...
- ソフトウェア開発では、皆で作り上げるオープンソースソフトウェア(OSS)活用が効果的
- 社外・社内の両面で共創を進める先に新たな価値の創出がある!
- 共創するには違いを理解すること、言いやすい環境を作ることが大事!
データを活用して、価値を最大化することへの期待が高まっている。例えば、店舗の購買データを仕入れに役立てて不良在庫を減らしたり、工場での生産管理を効率化して欠品をなくし、電力の需給を予測して発電ロスをなくしたり。データの力が注目される中、データの活用でますます重要性を増しているのが、データを処理・分析するソフトウェアだ。
若き技術者の取り組みと、熱き思いに迫る本シリーズ。今回は、東芝 ソフトウェア技術センターで社内外と“共創”を進める濵功樹氏にフォーカスする。開発を加速し、より良き社会を目指すソフトウェア共創の現在進行形とは。
「競争」ではなく「共創」。オープンソースソフトウェア(OSS)は皆で育んでいくもの
現代のソフトウェア開発で存在感を増しているのが、オープンソースソフトウェア(OSS)の活用だ。OSSは、ソフトウェアの開発や改良に必要なソースコードをオープンにし、世界中のエンジニアが共同で開発、改良を進めるソフトウェアだ。主にはLinux🄬 *などがある。継続的に機能が追加されていくため、高品質でかつ短期間の開発が実現する。今まさにその開発に携わっているのが、東芝 ソフトウェア技術センターの濵功樹氏だ。
株式会社東芝 ソフトウェア技術センター 共創ソフトウェア開発技術部 濵 功樹氏
そもそもOSSはどのような特徴を持っているのだろうか?それを理解するには、Proprietary Softwareと呼ばれる私有ソフトウェアと比較すると分かりやすいだろう。Proprietary Softwareは権利が個人や企業に属しているためソースコードは非公開で、使用が制限されている。その一方でOSSは、ソースコードが広く公開されており、誰でも自由に改変、複製が可能なため、柔軟性や信頼性が高いのが特長だ。
迅速かつ自由にソースコードが改変できることと、透明性の高さでOSSが注目されている
OSSの開発は、社内外関わらず様々なメンバーとの連携が必須だ。一つのゴールを定め、さらなる効率化と品質向上のために企業の枠を越えて英知を結集する。濵氏は社内外で「共創」をキーワードに活動しているうちの一人だ。では具体的にどんな取り組みをしているのだろうか?
まず言及すべきは、OSS開発でコンプライアンスを担保するOpenChainプロジェクト。The Linux Foundationの傘下でOSSの適正な活用を支援する目的で設立された。ここでは、OSSライセンスやセキュリティの管理に関する技術標準(ISO)が検討される。
東芝は2018年から本プロジェクトに参加しており、濵氏も標準化を推進する活動に携わってきた。
「OSSのコンプライアンスは実は明確に定義されておらず、抽象的な面があります。そこで、プロジェクトで仕様を検討し、世界標準を定めていきます。各企業が個別に仕様を定めるより、グローバルで合意を取って決めたほうが良いのは当然のことです。
OSSのコンプライアンスをいかにして守り、具体的な仕様を定めていくのか。世の中が活発にかつ適切にOSSを活用できる状況を目指すため、プロジェクトが活発化しています」
さらにOSS開発では、ライセンス情報やバージョンなどソフトウェア開発に必須な管理情報が膨大になり、時には数千~数万件に及ぶこともある。そこで情報管理を円滑にし、コンプライアンスも支えるツールが「Eclipse SW360」だ。ここで濵氏は、Eclipse SW360プロジェクトの共同リーダーを務めている。
「Eclipse SW360を活用することで、OSSライセンスや脆弱性情報と一緒にソフトウェアの構成管理表(Software Bill of Material)を社内に集約することができます。このような役割のツールは、1社が自社のためだけに作るのではなく、コミュニティで作ることが望ましい。携わる人が増え、多くのエンジニアが取り組むほどツールの質は上がりますし、不具合への対応も早くなるでしょう。」
共創を通して洗練されてゆく技術と、アップデートされる知識
学生時代は、AIなどにも利用される最適化アルゴリズムの一つであるニュートン法の研究に励んでいたという濵氏。高速で計算ができるアルゴリズムの研究に没頭しながら、「とにかく新しいことにチャレンジし続けたい、新しい技術に携わりたいと考えていました」と、当時を振り返る。ソフトウェア研究開発で新たな領域を切り拓き、挑み続ける企業として東芝を志望し、入社を決める。
「東芝には電機メーカーの印象がありましたが、ソフトウェアでも手厚い開発体制があり、インドやベトナムでのオフショア開発も活発です。また、開発の現場には、最新の動向を追いつつ、業界を積極的にリードしていく風土もあり、専門性を高めながら新しい技術にチャレンジできそうだと感じました。
製品やサービスを納入して終わりではなく、これからはそこで得られたデータを活用し、どのように役立てていくかという視点が求められます。そこで、データを処理・分析するソフトウェアの力は看過できません。その需要は今後さらに高まっていくでしょう」
OSS開発におけるプロジェクトを通し、濵氏は「共創」の価値観を強く意識するようになった。社外のコミュニティで積極的な交流、情報共有を進めつつ、東芝の中でも共創を積極的に手がけている。共創は社内外の両輪で進められているのだ。
「社外のコミュニティはもちろん、社内でも共創を強く意識しています。例えば、OSSに添付されているライセンスに従った上で使用するルールがあります。このため、知財部門ともOSSの情報を共有し、OSSライセンスの法律的な解釈も踏まえた上で社内に共有しています。社内の知見、専門家の卓見を借りることで、OSSのコンプライアンスが高度に支えられているのです。共創することで新たな知識が増え、活動範囲が広がっていくことも、自分が望んでいた『新しいチャレンジ』につながっています」
理想の「共創」のスタイルとは?
「OSS情報を管理するEclipse SW360のコミュニティ活動は、機能の問い合わせをしたことから始まりました」と、濵氏は第一歩を振り返る。最初は分からないことだらけでしたが、少しずつメンバーと関わって勉強していくうちに、機能の提案をしていくまでになったという。
「良いものを作っていきたい」その一心で改善を重ねていくうちに、いつしかチームの共同リーダーに抜擢。各国のエンジニアとの関わりを通して、「共創は本当に奥が深いんですよ」としみじみと語る。そんな濵氏に、彼が考える「理想の共創」とは何なのか聞いてみた。
「皆さんがためらいもなく、言いたいことを言えるということ。そして受け取る側も、『相手が思うやりやすさ』を理解してあげることが、真の共創につながっていくと思います。例えば、快適だと思う言語やコミュニケーション方法は十人十色です。会議の進め方一つとっても、各国で感覚は異なるもの。ソースコードを介したやり取りも多様です。最初は言いたいことを理解してもらうのに、とても苦労しました。重要なのは、前提の違いを理解することです」
共創は、それぞれの多様性を理解してこそ進められるもの――プロジェクトの活動を通し、共創のセオリーを体得した濵氏だが、社内での共創には伸びしろがあるという。
「東芝は、事業ごとに会社が分かれています。せっかくの強みがあるので、もっと横の連携を促進して相乗効果を生み出していければ良いと考えています。そのためにプラットフォームを作り、イベントを開催すると、新たなビジネスを提案してきてくれる人が増えました。
しかし、提案のための社内承認の段階で諦めてしまう人もいます。このような場合、会社として支援体制を整える必要があるかもしれません。言いやすい雰囲気の要因はどこにあるのか掘り下げて、個人に強要せず、そうした環境を作っていくことが大切です」
濵氏の風土づくりへの考え方は、職場という最小単位へも及ぶ。若手には、新しいことを思いついたら完璧な資料を作るより先に、まずは気軽に相談してほしい。そこから新たな議論が始まり、より良い発見が生まれると言う。
「新しい技術を追い続け、新しいものに携わっていきたい」という想いを抱いて入社した、濵氏らしい願いだ。この想いだけはずっと持ち続けていたい、と語気を強くする。未来を思い描き、現状よりさらに良い方向に向かうために変革への情熱を抱いて変えていく。そしてゴールを達成するために、コンプライアンスを誠実に守りながら社内外のメンバーと共創する。社会を支えるソフトウェアを常にアップデートしていくため、コミュニティの共創と濵氏自身の成長は続いていく。