東芝の若き技術者たち ~ソフトウェアで社会的責任を果たすしくみづくりとは~

2023/01/18 Toshiba Clip編集部

この記事の要点は...

  • ソフトウェアは、私たちが生活していく上で欠かせないもの。
  • オープン・ソース・ソフトウェア開発で社外と連携し、機能を拡張、進化させる!
  • 社会の役に立つときが一番の喜び。社会基盤を支えるため、研鑽を重ね、成長する!
東芝の若き技術者たち ~ソフトウェアで社会的責任を果たすしくみづくりとは~

私たちが日ごろ不自由なく使用している、電気や鉄道などのインフラ。それらは、基本的に止まることはない。一方で発電所も鉄道も、私たちが常に操作をしているわけではなく、自動的に動き制御されている。それは、ソフトウェアが電子機器にプログラミングされているからだ。ソフトウェアは、まさに電子機器の「脳」にあたる。東芝 ソフトウェア技術センターの若き技術者 林和宏氏に、世界のインフラ事情を鑑みながらソフトウェアを改良していく取り組み、そこにかける思いを聞いた。

リアルを支えるソフトウェアの開発に携わりたい

最近、産業機器や自動車などの制御、スマート家電など様々な機器にソフトウェアが組み込まれており、ユーザーの思い通りに自動で制御、操作するために欠かせないものとなっている。ソフトウェアの中でも、開発短縮などのメリットから今存在感を増しているのが、Linux® をはじめとしたOSS(オープン・ソース・ソフトウェア)だ。ソースコードが公開されており、定められたライセンスの範囲内で、誰でも自由に複製・改良・再配布できる。この特性から、OSSは世界中の技術者によって高度で複雑な機能開発が行われ、様々な業界において、機器やサービスを支えるソフトウェアの開発や保守に無くてはならないものになっている。

ソフトウェアにはソースコードが公開されているものがある。

東芝のソフトウェア技術センターは、東芝グループ各社や各研究部門と連携し、製品・サービスを支えるソフトウェアの研究開発を行っている。同センターの共創ソフトウェア開発技術部に籍を置き、Linuxに関連するソフトウェア技術を開発するのが林氏だ。大学、そして大学院で情報工学を専攻し、ソフトウェア領域に関心を持っていたが、技術者としてのモチベーションの原点は「リアルを支えるソフトウェアの開発」だったという。

「大学で本格的にソフトウェアに触れ、ハードウェアはどのように動作するのか? そのプロセスは? といった仕組みに興味を持ちました。東芝の事業領域は広く、現実世界とつながった製品、サービスを支えるソフトウェアが重要な位置を占めています研究を重ねてきたソフトウェアをより幅広い視点から強化・改善し、その先にある製品やサービスで世の中に貢献していきたい。これが入社時の思いでした。

ソフトウェア技術センターは、ソフトウェアの研究開発を通じてグループを横断的に支援していく役割を持っています。グループで共通のソフトウェアを開発したり、同時に組織や製品・サービスごとに合った機能を追加・調整したりします。自分が学んできた技術をさらに高めながら、幅広い現場に貢献できるのであれば、技術者として広がりを持った成長ができる。これも入社の大きな決め手でした。」

株式会社東芝 ソフトウェア技術センター 共創ソフトウェア開発技術部 林 和宏氏

株式会社東芝 ソフトウェア技術センター 共創ソフトウェア開発技術部 林 和宏氏

社内外の技術循環によってオープン・ソース・ソフトウェアが進化していく

突然だが、料理においてはレシピが重要になる。この基本的な「レシピ」にアレンジを加えて、私たちは自分たち好みの料理を作ることができる。製品開発においても同様に、「どんな料理にも使える基本レシピを作ること」が、「共通基盤ソフトウェアの提供」である。

これまでのソフトウェアは、特定のハードウェア専用に開発されていた。つまり一つの製品に対して一つのソフトウェアを開発していたわけだが、これだと汎用性がない。OSSをベースに、製品に依存しない共通基盤ソフトウェアを開発し、これを様々な用途に合わせて利用できるようにする。この共通基盤ソフトウェアを提供するために、ソフトウェア技術センターは存在する。また東芝では、この共通基盤ソフトウェアをベースに部門間の壁を打破し、連携していく改革も行っている。合理化を図るだけでなく、これまでにない新たな価値を提供する製品・サービスを開発することが狙いだ。林氏は、その重要な役割を担っている。

東芝グループの製品・サービスを開発する部署に対して、ソフトウェアの設計から検証、開発の技術支援を行うほか、先ほど述べた他部門との連携を視野に入れ、グループを横断した共通基盤ソフトウェアを開発・展開を行うこと。これにより、効率的かつ安定した開発ができ、結果的に信頼性の高い製品を生み出せるという。

製品やサービスで利用するソフトウェアを共通化できると、機能強化などの成果を迅速に共有したり、製品導入時の課題や不具合情報を一元管理できたりします。その結果、導入から保守まで一気通貫で行うことができ、結果的に開発効率のアップにつながります。

ただし、やはり事業ごとに個別に調整する部分も出てきます。個別対応に関しては、きちんと動作するための要求分析から設計、テストから最終確認に至るまでチューニングしていく。共通化か個別調整かを見極めて、最適な対応をしないとなりません」

自身の業務を振り返って話す林氏

もう一つ、林氏が携わる重要なプロジェクトがある。組織を超えた共創の取り組みだ。近年、セキュリティの脅威が問題となっているが、公共性の高いインフラにおけるソフトウェアの安全性強化が喫緊の課題だ。また、インフラにおける課題も日々変わるため、ソフトウェアも常にアップデートしていく必要がある。そこで重要となるのがOSS(オープン・ソース・ソフトウェア)の活用と貢献だ。先ほど述べたように、最新のソースコードが無償で公開されているので、課題に合わせた柔軟なソフトウェア機能を追加ができること、セキュリティ上の問題が見つかっても素早く情報が得られることが大きなメリットだ。いま、世界中のソフトウェア技術者が力を合わせ、OSSの開発、機能向上に取り組んでいる。林氏もメンバーの一人だ。

「東芝は、シーメンスとともに2016年にCIP(Civil Infrastructure Platformプロジェクト)というコミュニティを立ち上げました。継続的な機能強化と品質確保が必要なインフラ分野のソフトウェアを、多角的な視点で改善していくためです。現在は他の企業も加わり、グローバルで議論が交わされています。

インフラにおける課題は、一つの企業では解決が困難なことが多いです。そこで課題を共有し、議論を重ねることで効率、品質を上げ、より洗練されたソフトウェアを目指します。インフラにおける豊富な知見を持つ東芝に求められるのは、製品・サービス単体の提供ではなく、こういった仕組みづくりにあります

企業や国を跨いだオープンな開発。コミュニケーションにおいて文化や言語の壁に苦労することがあれば、機能拡張への要求や見解が一致しないこともある。ギャップを埋めるために丁寧で活発な対話を進める中、林氏は技術者として成長を実感できるという。

「CIPは、安心・安全なインフラとなるよう、ソフトウェアを供給し続けることをゴールとしています。そのため、世界有数の技術者の知見に触れられます。議論の中で共通の価値を見いだし、共通のゴールに向かう意義を確認できるのも大きな喜びですね。

現場の製品、サービスに実装するソフトウェアは、10年規模の長期的な保守も見据え、課題と解決策を深掘りしなければなりません。日々新しくなるOSSと、長期的な視点が求められる現場の支援をCIPなどのコミュニティ活動で結び、立ちはだかる課題を解決できる技術者を目指しています」

国際会議においてCIPの活動成果を発表(写真左)、プロジェクトミーティング(写真右)では課題や今後の方針を議論する。

国際会議においてCIPの活動成果を発表(写真左)、プロジェクトミーティング(写真右)では課題や今後の方針を議論する。

OSSは生き物?!ソフトウェアの進化を止めない。それがよりよい社会につながる。

グループ内ではLinuxに関する開発を幅広く支援し、共通基盤の構築・展開に尽力。さらに社外との共創も活発だ。林氏は3つの活動を並行し、どれも現在進行形で注力している。その取り組みには大きなやりがいがあり、技術者としての成長も実感できるという。

「OSSは世界の技術者が力を合わせて取り組むものですから、驚異的なスピードで開発や機能拡張が進みます。技術支援で得た知見、発生した課題は、戦略的にコミュニティの議論の場に持ち込み、解決の糸口を見つけることが重要になります。ときには、自社開発した機能や問題修正などの成果を自らオープン(=OSS)にすることで、コミュニティやユーザの視点を取り入れ、よりブラッシュアップさせることができます。また、社内外両方の視点でのソフトウェアの課題を把握することで、どちらに対しても解決策を示せるのがメリットです。こういった業務は一部だけ携わっていては本質的な解決につながらない場合が多いので、大変ではありますが付加価値の高い取り組みです。

ソフトウェアは、一企業内でとどめていては世界で進む機能拡張、進化を取り入れられません。それは、ソフトウェアの陳腐化につながってしまいます。積極的に議論に参画し、メンバーと課題を共有することで、ソフトウェア技術がさらに洗練され、インフラのソフトウェア向上、さらにはよりよい社会の構築につながります

社外でのオープン・ソース・ソフトウェア開発と社内のソフトウェア開発は知見や成果をシェアするという意味で互恵関係にある。

社外でのオープン・ソース・ソフトウェア開発と社内のソフトウェア開発は知見や成果をシェアするという意味で互恵関係にある。

OSSコミュニティのオープンな議論、課題解決を通して、林氏は「OSSは生き物のようなものだ」という感覚を持つ。世界の技術者が議論し、機能を拡張することで変化し、ある意味では進化を遂げていく。技術者たちは技術的貢献と議論を通してその進化に携わり、得た知見、機能を自社のソフトウェアに還元していく。その現場で得られた課題は、またグローバルな議論の俎上にのぼり、さらなる機能拡張につながる――OSSが生物であれば、OSSのコミュニティはその進化を生む環境になぞらえることができるだろう。

林氏はLinuxを巡る壮大な環境の一角にありながら、東芝の技術者として未来に視線を据える。

「私は多様な製品、サービスをソフトウェア技術で支援できることに魅力を感じ、東芝に入社しました。社内では他部門や海外拠点と連携してLinuxの共通基盤ソフトウェア開発に取り組み、そしてそこへ国際コミュニティで議論したLinuxの技術を実装していく。その製品、サービスが世界中で使われ、多くの社会課題の解決に役立ったとき、技術者として一番醍醐味を感じます。

ソフトウェアはあくまで製品、サービスを下支えするものです。同時に、きめ細やかな制御を支えながら、刻々と変化する環境にも柔軟・迅速に進化し続けるのはソフトウェアにしかできないことでもあります」

さらに林氏は今後目指すべきエンジニア像について、力強く語った。

本質的な課題は何なのか?を常に考えながら、社会がよくなる仕組みを作っていくこと。これが私たちの役割だと思っています東芝が社会に与えるインパクトは大きい。だからこそ、その根本にコミットすることが大切なのです。社会的責任を果たす企業の一員として、今後も最新技術をキャッチアップし続けて、広く社会に貢献できる技術者を目指していきます」

CIPの説明をする林氏。

※ Linux® は、Linus Torvalds 氏の米国およびその他の国における登録商標です。
※ macOS®は、米国およびその他の国で登録されたApple Inc.の商標です。
※ Windowsは米国Microsoft Corporationの米国及びその他の国における登録商標です。
※ Civil Infrastructure Platform™は、米国およびその他の国におけるThe Linux Foundationの商標です。

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