東芝の若き技術者たち ~豊かな水資源を力に環境問題に取り組む~
2022/03/02 Toshiba Clip編集部
この記事の要点は...
- 日本の国土の特徴に合わせた、水力という再生可能エネルギー
- 数十年先の、次の世代の技術者に贈る資料作りとは?
- 成長の機会を補うのは、若い力をサポートするグループの輪
うだるような猛暑、驚くほどの豪雨──。こうした異常気象の原因に地球温暖化があり、それを抑えるために温室効果ガスの排出を減らす。今、世界が取り組んでいることだ。また、私たちの生活を豊かにするには電気エネルギーが必要であり、温室効果ガスを直接出さない再生可能エネルギーが注目される。
水が豊富で急峻な山に覆われる日本では、古くから水車などが利用されてきた。再生可能エネルギーである水力発電の歴史も古く、130年以上も日本を支えてきた。東芝は、1894年に日本初の事業用水力発電所に水車発電機を納入し、その歩みは水力発電とともにあった。そこに加わった若き技術者は、蓄積された技術資産を受け継ぎ、何を思いながら成長しているのか、そのリアルを追った。
日本に合った再生可能エネルギーを供給するために
再生可能エネルギーと言えば、太陽光・風力・地熱・水力・バイオマスなどの発電が有力視されている。化石燃料を必要としないことから、国内で生産できるため、安全保障の面からも有益なエネルギー源である。
「数ある再生可能エネルギーの中で水力発電は、水資源が豊富な日本では適地が多く、安定供給性に優れています。また、今ある発電方式の中では長い歴史を有しています」
そう語るのは、東芝エネルギーシステムズ株式会社で水力発電の機械設計を担当する佐々木彩氏だ。佐々木氏は主に、古くなった発電機をリプレース(新しい機器へと交換)するプロジェクトを手がけている。
東芝エネルギーシステムズ株式会社 京浜事業所 設計第二部 水力発電機設計グループ 佐々木 彩氏
大規模な水力発電のシステムは、ダムと水車と発電機で構成される。どれも長い年月使い続けることができるためリプレースは数十年単位の周期で実施され、前回担当した技術者が退職していることも珍しくない。また定期点検も、10年程度の間隔で行われる場合があるという。そんなとき頼りになるのは、前任者が残してくれた資料なのだと佐々木氏は言う。
「資料を見ると、設計者の思考が手に取るように分かります。プレッシャーがかかるのは、自分の次に担当する技術者が迷わずに理解できるような資料を作ることです。『自分が全てを忘れてしまっていても、その資料を見れば質問に答えられるようにしなさい』と先輩に言われたことを心がけて、資料を作り込んでいます」
そして、リプレースは、単に機器を入れ替えるだけではない。21世紀の東芝ならではのデジタル技術を注ぎ込み、数十年先の技術者に誇れるものにできるのではないかと佐々木氏は期待を語る。そうした取り組みの一つが、様々なセンサーとIoT技術で機器の稼働データを取り、それを基にした柔軟なメンテナンスだ。
「再生可能エネルギーの主力電源化のためにも、安定稼働は欠かせないテーマです。また、発電機を止めずに不具合を直せるのが理想です。機器が想定通りに稼働しているかを、データで常に検証できると今後はメンテナンスのあり方が変わるでしょうね。見かけは変わらない水力発電システムも、中身を大きく発展させられます」
山梨県の葛野川発電所に導入された揚水発電システムは、電気の需要変動に合わせて発電量が調整できる
貴重な現場経験と専門家どうしの連携が、成長を最大化する
「自分の作ったものが、社会貢献に直結する仕事がしたかったんです。形があり、規模も大きいものを設計したかったので、東芝でエネルギー、水力発電の仕事をすることは、私にとって想いを行動に移せることに他なりません」
佐々木氏は、東芝への入社を決めた当時の想いを語った。大学では、機械工学を専攻し4大力学と言われる、材料力学・熱力学・流体力学・機械力学を学んだ。それらの知識を土台にして、前述した水力発電の機械詳細設計を行っている。実は、設計を担当する佐々木氏でも、意外にも発電機などの現物を実際に見る機会は、そう多くはないという。どういうことだろうか。
「自分の作るもので社会に貢献したかった」と学生時代の夢を語る佐々木氏
日本のほとんどの水力発電所は、遠隔監視と制御により無人で運転されている。また、機器の組み立ても設計現場ではなく現地で組み立てられることが多いため、組み上がった状態の現物を見る機会は少ないそうだ。さらに、プロジェクトは数年単位で進行するため、数多くの案件をこなす形で経験を積むのは難しいのだ。
「現場で経験を積める機会はとても貴重です。だからか、一人での現地出張や、入社数年後からプロジェクトリーダーを任せてもらえるなど、成長の場を与えてもらっています。技術者として強化したい知識は、どんどん質問しています」
さらに佐々木氏は、多くの部門を持つ東芝ならではのメリットとして、他部門との豊富な連携を上げる。連携の過程で、自分では気がつかなかった視点からの意見がもらえるなど、技術者としての視野を広げ、知識を深められるのだそうだ。
「毎回、多くの制限の中で違う形のものを設計していると、どうしても現場ではどうなっているか知りたくなります。例えば、人が入ってメンテナンスしなければならない機器が、組み上がったときに本当に人が入るスペースを確保できるのかは専門の人しか分かりません。
そんなとき、組み立て部門の方に図面を見せて、お互いの視点をぶつけ合えるのが心強いですし、自分が一段階成長する実感があります。例えば、問題の解決策として専用の工具を新たに作っていただいたことがあり、技術者として取れる選択肢が広がりました。こうした連携がスムーズにできるのが東芝のいいところであり、私の成長を最大化させてくれます」
「東芝の魅力は、様々な部門との連携」と語る
自分の作るもので社会に貢献したいという夢を叶え、膨らませ、成長を続ける佐々木氏。これからも日本の国土に合う水力発電を通じて、サステナブルな社会を造っていきたいと意欲を見せた。