IoT×SDGsがもたらす変革 デジタルソリューションに宿るモノづくりのスピリット

2018/04/18 Toshiba Clip編集部

この記事の要点は...

  • 東芝のIoTの原点は1970年代に始まったプラントの遠隔監視にあった
  • デジタルソリューションの要はユーザーの真のニーズをつかむこと
  • CSR経営とデジタルソリューションの共通点とは?
IoT×SDGsがもたらす変革 デジタルソリューションに宿るモノづくりのスピリット

モノづくりの現場はもちろん、私たちの暮らしにもIoTやAIが浸透し始めている現代。デジタル分野でイノベーションが進めば、資源エネルギーの有効活用や働き方改革など、様々な社会課題を解決する可能性が生まれる。私たち人類を取り巻く課題について、国連が掲げる「SDGs(持続可能な開発目標)」は世界標準のガイドラインになるだろう。

 

東芝が手掛けるデジタルソリューションは社会課題の解決にどのように貢献してきたのか。そして、SDGsが示す課題に対してどのようなアプローチができるのか――。東芝でSDGsを推進するCSR経営推進室長・相馬季子氏と、東芝デジタルソリューションズグループでIoT事業を推進する沖谷宜保氏の対談を通し、東芝のデジタルソリューション×SDGsの可能性を探る。

1970年代に見るIoTの源流、東芝のデジタル技術が果たした役割

相馬:東芝は2003年にCSRを推進する専任部署を設置し、豊かな価値を創造し、社会の発展に貢献するための経営を推進してきました。社会の期待や時代の要請を捉えつつ、「人と、地球の、明日のために。」というグループスローガンのもと、事業を通じて社会課題を解決するあり方はSDGsの精神に通じるものがあります。CSR経営という考えに基づいて、東芝が中長期的な目線でビジネスの舵を切っていく上でもSDGsは大変重要な指標になると考えています。

 

東芝はこれまでも、様々な分野で社会課題の解決に取り組んできました。社会を支えるソリューションにおいて、ICTなどのデジタル技術はいつ頃から活用されているのでしょうか?

株式会社東芝 CSR経営推進室長 相馬 季子氏

株式会社東芝 CSR経営推進室長 相馬 季子氏

沖谷:東芝は高度なICTをベースに長きにわたって社会インフラの分野を中心に課題解決に努めてきました。現在のIoTに通じる工場やプラントの遠隔監視に取り組み始めたのは1970年代です。私が東芝グループに入社した1980年代にはファクトリーオートメーションやプラント統括管理が進められ、既に機器・センサーと情報を連携させて自動化、省エネに取り組んでいました。

東芝デジタル&コンサルティング株式会社 取締役社長 沖谷 宜保 氏

東芝デジタル&コンサルティング株式会社
取締役社長 沖谷 宜保 氏

相馬:IoTはつい最近のキーワードのように思われますが、40年以上前から同じコンセプトで工場やプラントにおける情報連携を進めてきたわけですね。どんなソリューションが社会に貢献してきたのか、最新の取り組みも含めて詳しくお聞きしていきたいと思います。

1日20億件のビックデータを解析し、工場の生産性をアップ

沖谷:最新のケースとして、東芝メモリ株式会社の製造拠点である四日市工場の例をご紹介しましょう。工場では製造装置や検査装置から1日約20億件ものデータが集まります。AI技術を用いることで、これまで熟練の技術者が担ってきたデータ解析の精度やスピードを大幅に向上することができました

 

例えば、工程間で欠陥をチェックするための検査において、目覚ましい向上が見られました。従来の技術では49%だった検査画像に対する自動分類が、AIによる画像処理により83%もの高効率で自動分類できるようになったのです。この生産性改善は「2016年度人工知能学会 現場イノベーション賞・金賞」として表彰されました。

東芝メモリ株式会社 四日市工場

東芝メモリ株式会社 四日市工場

相馬:モノづくりの「現場」と日々進化するAI技術との融合ですね。東芝のIoTソリューションで大切にしていることは何でしょうか?

 

沖谷:東芝はこれまでも、郵便区分機での文字読み取りに利用されるOCR技術をはじめ、航空会社向けの運行情報システムや総合案内表示システム、高速道路の渋滞状況を表示する高度交通システムなどを提供し、社会インフラをICTで支えてきました。いわゆる「情報系の技術」がICTと言われますが、私たちは、機器をネットワークにうまくつなげることで、現場の保守要員やオペレーターの負荷をいかに軽減し効率よく作業してもらえるかということを考え続け、ソリューションを提供してきました。

 

私たちはメーカーとしてモノを作って納めるだけでなく、お客様がその製品を使い切るまで、製品のライフサイクル全般にわたってサポートをします。そこには二つの側面があります。ひとつは機器が壊れる前に故障予知をして工場やプラントを止めないようにすること。もうひとつは機器の上手い使い方を提案し、その機器を通して作られる製品の品質や生産性を高めることです。IoTやAIなどの技術を導入して、これらの取り組みを進めています。

 

情報テクノロジーを「IT」、現場のオペレーションテクノロジーを「OT」と呼び、これを融合する技術がIoTです。以前は「この機器を壊れないようにしよう」という局所的なものでした。しかし今は、工場やプラント全体の最適化を図ることで生産性を上げるということにIoT技術が使われています。部分最適から全体最適へ、局所的から広域的に、視点が変わってきています。

 

相馬:先ほどおっしゃったように、単なるビッグデータ解析ではなく、モノづくりとしっかり紐づいたイノベーションは「IT」と「OT」のベースがあってこそ、ですね。

 

沖谷:はい。工場という製造現場を持ち、機器を供給しているからこそ、納めた機器に起こりうる物理現象を把握できる。ここにメーカーとして歴史を重ねてきた東芝の強みがあると言えます。最近の取り組みとして「デジタルツイン」と呼ばれる、リアルな空間とバーチャルな空間で双子を作ろうという考え方があります。例えば、モーターという製品をバーチャル空間にも作る。もしそれが何らかの要因で停止した場合、現場から収集した時系列データがあるので異常な動きがあった時点に遡ることができ、モーターのどの部分で何が起きたのかが分かります。また、予めシミュレーションもできるので、今の状態だと例えば3日後にどうなるかが予想できるようにもなります。製品を作っている東芝だからこそ、機器のデジタルツインが作れ、より高度な診断や予測ができるようになるのです。

デジタルツイン(イメージ)

デジタルツイン(イメージ)

明日を変える、東芝流「デジタルトランスフォーメーション」

相馬:先端のIoT技術にも東芝の歴史がしっかり息づいていることが分かりました。そこで伺いたいのが、産業構造やビジネスモデルにも大きな影響を及ぼすと言われる「デジタルトランスフォーメーション」への対応です。

 

沖谷:「デジタルトランスフォーメーション」とは、スウェーデンのウメオ大学のエリック・ストルターマン教授が2004年に提唱したもので、「ICTの浸透が人々の生活をあらゆる面でよりよい方向に変化させる」という概念のことです。

 

相馬:ICTが私たちの暮らしを変化、変革させるという意味ですね。

 

沖谷:「ICTがもたらす変革」は2種類あると考えています。様々なデータを結合させることで事業を効率化したり、コストを減らしたりする「デジタルインテグレーション」。一方、ICTによって新しい市場を作り、新しい価値を創出していく「デジタルトランスフォーメーション」の2種類です

 

デジタルトランスフォーメーションの本質は「変革」にあります。求められる課題、ニーズを見通して新たなビジネスモデルを提案し、結果としてお客様のバリューアップにつながるものでなければいけません。

 

例えば、車です。自動運転が注目を集めていますが、今後はクラウドとつながる「コネクテッドカー」としてさらに進化していくでしょう。それは、車それぞれがネットワークにつながることで、ビッグデータがよりリアルな渋滞情報や走行アシストとして提供されていくようなイメージです。私たちは、そういったデジタルトランスフォーメーションが顕在化するポイントに東芝の技術を提供していければと考えています。

 

相馬:お客様の意向をバックキャストして実現していこうという視点はSDGsの思想そのものだと感じました。そこにある課題は何でしょうか?

 

沖谷:お客様の真の課題、本質をつかむことではないでしょうか。メーカーは製品の機能を訴求しがちですが、「製品を使う人、サービスを享受する人にとって何がうれしいのか」という真のニーズを常に考えながら、場合によってはお客様に「本当にそれが課題でしょうか?」と問いかけることもあります。お客様の課題の本質をつかむためにも、コミュニケーションが欠かせないのです。

 

相馬:CSR経営もお客様を始めとする様々なステークホルダーが何を求めているのかを考えなければ進められません。社会から信頼され、社会に貢献する企業であり続けるためのCSR経営とお客様に新しい価値を提供するためのデジタルソリューションがコアなところで一致することが分かりました。これはそのまま、東芝グループのあるべき姿にもつながるでしょう。次は、SDGsの17の開発目標と東芝のデジタルソリューションがどう関連していくのか、さらに深掘りして話し合っていきたいと思います。(対談 後編へ続く)

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