水素エネルギーで完全自給自足 ロボットが働く「変なホテル」とは?

2016/04/13 Toshiba Clip編集部

この記事の要点は...

  • 水素エネルギーで稼動するホテル
  • 水素をつくる・つかう・ためるが可能
  • 再生エネルギーも地産池消に
水素エネルギーで完全自給自足 ロボットが働く「変なホテル」とは?

昨年、長崎県佐世保市のハウステンボスにオープンした「変なホテル」をご存じだろうか。一風変わったネーミングのこのホテルは、「変わり続けることを約束する」をコンセプトに、オープン以来多くのユニークな取り組みを続けている。

お出迎えしてくれるスタッフは恐竜!?
スタッフは恐竜!?

フロントに入ると出迎えてくれるのは、人間のコンシェルジュではなく、3体のフロントロボットだ。「変なホテル」では、チェックインからチェックアウトまですべてロボットが対応する。恐竜ロボットの名前は「未来」くんと「希望」くん。一見怖そうな風貌だが、なんと日本語と英語を話すバイリンガル。とても優秀な恐竜なのだ。真ん中のロボットは笑顔が上品な女性型ロボット「ゆめ子」さん。細やかな動きやリアルな表情が癒しを与えてくれるので、未来くんの個性的な風貌がちょっと怖いという人は、ぜひゆめ子さんにチェックインをしてもらおう。

刺激的な表情で出迎えてくれるバイリンガルの恐竜・希望くん
刺激的な表情で出迎えてくれるバイリンガルの恐竜・希望くん

フロント以外にも、荷物を客室まで運んでくれる「ポーターロボット」や、客室内で会話のできるロボット「ちゅーりー」ちゃんなど、多くの敏腕ロボットたちが業務にあたっている。ちなみにちゅーりーちゃんは、現在時刻や室内温度、今日・明日の天気を教えてくれるだけでなく、電気のオンオフをしてくれたり、朝になれば指定した時間に起こしてくれる。「ありがとう」と感謝の言葉を贈れば、「お安いご用ですよ」と返してくれるのも会話ロボットならではのおもてなしだ。

客室内ロボットのちゅーりーちゃん
客室内ロボットのちゅーりーちゃん

水素エネルギーによる発電もスタート

革新的な取り組みを行うハウステンボスでは、新エネルギーの利用にも積極的で、これまでもメガソーラーやマイクログリッドなどに取り組んできた。「変なホテル」でも、2016年3月にオープンした2期棟(ウェストアーム)の12室で、次世代エネルギーとして期待される水素エネルギーによる電力と温水の提供をスタート。納入されたシステムは東芝が開発した自立型エネルギー供給システム「H2One™」だ。

水素の「つくる」「ためる」「つかう」を完全自給自足する「H₂One™システム」
水素の「つくる」「ためる」「つかう」を完全自給自足する「H₂One™システム」は水と太陽光のみで稼働可能

「変なホテル」では、「エネルギーの地産地消」などを目的に東芝の「H2One™」を導入。「H2One™」が生み出す再生可能エネルギーと水素エネルギーだけで2期棟ホテルの一棟まるごと年間を通して電気と温水を供給することができる。これにより、ホテル内の最新設備に必要な電力や、客室のシャワーに使う温水などを、環境に配慮した形で提供可能になる。また「H2One™」は自立型のエネルギー供給システムであるため、災害時でも電力や温水を提供できる。緊急時の備えとしても心強い存在だ。

 

「H2One™」は以前TOSHIBA CLIPでも取り上げた通り(エネルギー問題を救え 水素社会を実現するH₂One™)2015年4月から川崎市と共同で官民一体となった実証実験を開始しているが、今回ついに一般のお客様に触れる形での実証実験をスタートさせることになる。ホテルで電気がつかなくなったり、温水が出なくなるようなことがあってはならない。インフラとして宿泊客の満足度やホテルの信頼にも関係してくる分、これまでと比べより実践的な環境となるが、そういった中でも問題なく稼働することができれば、水素社会の実現へまた一歩近づくことになる。

 

また、「H2One™」は、晴天の昼間は太陽光で得た電力を使って水素を生成し貯蔵し、夜間や天候の悪いときは水素を燃料電池に与えて電力を供給する、再生可能エネルギーと水素エネルギーのいわばハイブリッドシステムで、エネルギー問題が深刻化している我が国において、問題解決の切り札となる可能性を秘めているといえるだろう。

 

再エネ水素により年間を通じてホテル1棟分の電力を供給

ハウステンボスの「H2One™」はリゾート施設に最適な「リゾートモデル」として構成されている。大量の水素を貯蔵できる水素吸蔵合金を採用しており、タンク式(10気圧)に比べて貯蔵に必要な体積をおよそ1/10に削減。設置スペースの小型化を図り、敷地面積が限られる場所への設置できるのも強みのひとつだ。

自立型エネルギー供給システム「H2One™」
「リゾートモデル」は全長3.6mと従来のタンク式から1/10まで小型化され、省スペース化が可能

また貯蔵可能量が多いため、太陽光での発電量の多い夏に水素を生成して貯蔵しておき、日照が弱くなった冬に水素を取り出して電力を得ることもできるなど、季節を超えた長期の平準化も可能だ。

 

元々「変なホテル」では、各部屋の空調設備に温水や冷水を流して空気調整する最新技術である「輻射パネル」を採用するなど、電力削減や環境への配慮にも力を入れてきた。コストを下げることで宿泊料金も下げており、宿泊客にとってもうれしい取り組みは多い。今回「H2One™」が導入されたことで、地球環境に配慮するとともに宿泊客にも優しいホテルへとさらに進化を遂げることになる。

宿泊客にも優しいホテル
空調システムにも最新技術が使われている

エネルギー問題の解決を目指して

東芝では「つくる」「ためる」「つかう」のそれぞれの技術開発をさらに進めていく。東芝にはこれまでも水素ビジネスに関連したさまざまな技術や製品を開発してきており、その技術力には国内外で高い信頼を得ている。「つくる」「ためる」「つかう」のすべてをワンストップで提供できるのは、水素関連の開発に古い歴史を持つ東芝ならではの強みだ。

 

その強みが活かされているのが、水素を対象としたEMS(Energy Management System)だ。EMSは電力の需給予測に基づいて水素の製造、貯蔵、利用を最適制御する仕組みで、「つくる」「ためる」「つかう」の統合管理を可能にする。
電力の需給予測をすることで、設置する施設の電力需要に合わせ電力のピークシフトやピークカットに貢献し、電気料金の削減はもちろん、無駄な電力を使わないことで環境負荷の低減にもつながる。

 

「H2One™」システムが地域で広域展開すれば、設置施設だけでなく、その地域全体で再生エネルギーによる電力を安定化してピークカット等で使用できるようになる。

H₂One™システムの広域展開によるエネルギーの地産地消や、災害時にはトレーラーでシステム自体を被災地に輸送することも可能
H₂One™システムの広域展開によるエネルギーの地産地消や、災害時にはトレーラーでシステム自体を被災地に輸送することも可能

また、災害時には災害対応重要施設の機能維持や避難者のライフラインの確保にも役立つ。今後さらなる大規模施設への対応も可能にするため、現在は1万人規模の需要に対応した大型の「H2Omega」(エイチツー・オメガ)も開発中だ。

 

水素社会への実現へはいまだ課題は多い。しかし、水素エネルギーの研究は少しずつではあるが着実にその歩みを進めている。今回の「変なホテル」で稼働がスタートした事をきっかけに、またさまざまな点が改善されるはずだ。東芝の技術はこれからも、水素社会の実現に向け業界をリードしていく。

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