福島から未来を照らす! 水素エネルギーの最前線

2020/03/25 Toshiba Clip編集部

この記事の要点は...

  • エネルギー問題と環境問題の切り札になる水素エネルギーは国策として導入が進む
  • 水素エネルギーの製造・供給を支える、東芝のエネルギー制御システム
  • 復興の象徴として期待される福島の水素エネルギー
福島から未来を照らす! 水素エネルギーの最前線

環境に優しく、安定的に供給できる新エネルギーの開発・導入が世界的に加速する中、日本が国家戦略として掲げているのが「水素社会」の実現だ。水素社会――それは枯渇の恐れがなく、クリーンな「水素」をエネルギー源にする社会である。燃料電池によるコジェネレーションや、燃料電池自動車・燃料電池バスといった移動体など、様々なインフラを水素が支えていく新しい未来が始動しつつある。

 

政府は2050年に向けたビジョン、そして2030年までのアクションプランをまとめた「水素基本戦略」を策定している。その戦略で重要な位置を占めるのが福島水素エネルギー研究フィールド(以下 FH2R)だ。

 

2020年7月の実証運用を目指すFH2Rは福島県浪江町にあり、面積は東京ドーム約5個分に相当する約22万㎡。世界最大級となる10MW(水素製造用電力)の水素製造装置と20MW(設置容量)の太陽光発電設備を備えた広大なフィールドだ。NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の委託事業として、東芝エネルギーシステムズ株式会社がプロジェクト全体を取りまとめ、東北電力株式会社、岩谷産業株式会社とともに2018年7月に建設工事を開始し、建設を進めてきた。

 

水素エネルギーの研究フィールドにはどのような期待があり、どんな取り組みが行なわれていくのか。そして、未来の水素社会に向けたビジョンとは。プロジェクトの取りまとめを担うメンバーに聞いた。

クリーンで無尽蔵なエネルギー、水素の社会がやってくる!?

次世代の車と目される水素自動車が紹介され、各地で水素ステーションも稼働し始めた。「水素エネルギー」という言葉を耳にする機会も徐々に増えてきた。

 

水素は電気エネルギーに変換される工程でCO₂を排出せず、地球温暖化などの環境問題の改善に大きく貢献するエネルギーだ。地球上に無尽蔵に存在し、生成方法も様々なバリエーションがある。日本では、化石燃料などのエネルギー源を海外に依存する既存サプライチェーンからの脱却が課題であり、その解決策として、水素に注目が集まっている。水素は、貯蔵することができ、長距離輸送にも対応する。まさに新時代のエネルギーとして期待がかかっているのだ。

 

FH2Rは太陽光発電設備による再生可能エネルギー由来の電力と系統からの電力を用いて、水素製造装置によって水素を製造し、貯蔵・供給していく。もちろん、製造から利用に至るまで一貫してCO₂フリーにすることが可能である。環境にやさしい水素供給システムの確立を目指す。

 

東芝エネルギーシステムズは、プロジェクトの取りまとめと水素エネルギーシステム全体を担当している。東北電力は電力系統側の制御システムを、岩谷産業は水素の貯蔵・供給関連と水素需要予測システムを担っている。NEDOの公募段階からプロジェクトに関わってきた、東芝エネルギーシステムズの水素エネルギー事業統括部 山根氏が語る。

 

「FH2Rでは、水素の製造・貯蔵を水素需要予測システムによる水素需要予測に基づいて行い、水素製造装置の水素製造量を調節することで電力系統の需給バランスを調整します。同時に、太陽光発電設備からの再生可能エネルギー由来の電力も有効利用します。この水素の製造・貯蔵、電力系統の需給バランス調整、再生可能エネルギー由来電力の利用の3点の最適な組み合わせを実現するシステム制御技術こそ、本プロジェクトのポイントなのです

 

東芝エネルギーシステムズ株式会社 水素エネルギー事業統括部 事業開発部 P2G事業開発担当 グループ長 山根史之氏

東芝エネルギーシステムズ株式会社 水素エネルギー事業統括部 事業開発部 P2G事業開発担当 グループ長 山根史之氏

再生可能エネルギーは全国的にさらなる導入と普及が見込まれている。しかし、気象条件に依存する太陽光発電や風力発電は出力の変動が大きいため、電力の需給バランスの調整が課題となっている。変動の大きい再生可能エネルギーを利用して水素を製造し、貯蔵・輸送するというフローを大規模に回し、さらに、需給バランス調整の実証運用に挑むFH2Rは、来たる水素社会のフラッグシップモデルなのだ。FH2R概念図

「FH2RはPower-to-Gasシステムと呼ばれるもので、このPower-to-Gas分野では、ドイツをはじめとする欧州が先行しており、日本はやや遅れを取ってきたのが現状です。CO₂排出量の削減について、電力セクターだけでは目標値を達成することが出来ないため、交通や産業といった様々なセクターでも同時に対策を行う必要があります。最適な方法が模索されている中、電気分解を利用して、再生可能エネルギー由来の電力を水素というエネルギーに転換できる『Power-to-Gas』が切り札と見込まれています。我が国もこのPower-to-Gasシステムの基盤技術を磨かなければ、CO₂排出量の削減と再生可能エネルギー利用の拡大はできません。また、水素エネルギーシステムで欧州などと伍して戦っていくこともできないでしょう。世界に先駆けたFH2Rへの期待をひしひしと感じています」(山根氏)

 

FH2R は世界最大級のPower-to-Gasシステムとして世界で初めて稼働する。2020年3月に開所した後、7月には実証運用として、水素の製造、輸送をスタートさせる。製造した水素は燃料電池による発電や燃料電池車、工場の燃料などに活用されていく予定である。

精緻な運用システムが水素需要と電力需給のバランスを制御

東芝は創業以来、エネルギーインフラに取り組み、水素の利活用にも実績を重ねてきた。FH2R事業の採択でも、長く培ってきた技術基盤、知見が決め手になったという。

 

「私たちは電力系統の需給バランスの調整と水素の需要を両立させるコンセプトを考案し、今後普及していく大規模なPower-to-Gasにおいて、このコンセプトがいかに重要かということを、エネルギー等に対する環境分析や運用事業モデルの検討などといった多岐にわたる検証により示しました。具体的には、システム要件として、岩谷産業様のシステムでは、どれぐらいの水素がいつ必要になるかという情報を算出することが重要であり、東北電力様のシステムでは、電力系統の需給バランスに関する情報を算出することが重要でした。そこで、この情報を活用し、双方の要求を満たす運用システムが重要であることを示しました。これらの検討結果について、評価を頂けたと考えています」(山根氏)

 

火力発電所、水力発電所など大規模インフラの設計、運用を数多く手掛けた東芝グループの知見も大いに生かされたが、水素エネルギーの大規模プラントは世界でも先駆けのプロジェクトである。

 

「東芝が進めてきた水素事業の中でもスケールは桁外れで、リスクの算定は未知の領域でした。また、これだけの規模の水素エネルギーシステムを用地の造成から据え付けまでワンストップで手掛けるのも社内では初めての事例になります。東北電力様や岩谷産業様との連携はもちろんですが、取引先である鹿島建設様など社外パートナーとの調整、NEDO様・資源エネルギー庁様・福島県様・浪江町様等との連携など、一つひとつクリアしながら進めていきました」(山根氏)。

 

プロジェクトでは、2019年入社の新戦力も存在感を発揮している。建設工事の進捗を管理し、パートナー企業との調整役を担う中嶋氏である。山根氏も「現場での調整、各所との連絡に体当たりで臨む姿は頼もしい」と、その奮闘を見守る。今後も連綿と続く水素事業において、現場で多くを経験し、知見を得た若い人材は、大きなアドバンテージになるだろう。

 

「新人ながら、これだけ大きなプロジェクトに参画できたのは大きな喜びです。大学院では水素の貯蔵・輸送に関する研究をしてきました。机上の研究ではなく、社会実装に役立てたい。そんな一心から、パートナー企業との交渉、プロジェクトの進捗管理に体当たりで臨んでいます」(中嶋氏)

 

東芝エネルギーシステムズ株式会社 水素エネルギー事業統括部 事業開発部 P2G事業開発担当 中嶋啓太氏

東芝エネルギーシステムズ株式会社 水素エネルギー事業統括部 事業開発部 P2G事業開発担当 中嶋啓太氏

東北の復興を、来たるべき社会を明るく照らす水素の灯

社内のプロジェクトメンバーやパートナー企業が歩みを進め、世界最大級の水素エネルギーシステムが福島県浪江町に姿を現しつつある。プロジェクトマネージャーとしてフィールドを見据える山根氏は、「全ての関係者と共創する。理不尽と思えるような状況になっても常に誠実であり続ける。約束したことは必ず守り、達成する。全ての関係者が、プロジェクトを成功させるという強い意志を持ち続けられる環境づくりをする。関係者の誰よりも強い実行力・決断力・意志力を発揮する」という姿勢が重要だと日々感じているという。

 

「今回のプロジェクトについては、正直、誰も予定通りに実現出来るとは思っていませんでした。直接言われたこともあります。もちろん、国内初である上に、世界最大級規模のPower-to-Gasシステムですので、困難なことは沢山あります。しかし、プロジェクトの全メンバーが、本プロジェクトが持つ意味・意義をしっかりと理解し、困難な状況になっても前に進み続けた結果、予定通りに開所を迎えることが出来ました。互いに尊敬・信頼し、進んで協力し合う関係でなければとても実現できるものではありませんでした」(山根氏)

 

水素エネルギーの社会実装に情熱を燃やす中嶋氏は、水素がもたらす明るい未来を思い描く。社会に与える価値や意義を真摯に考え、普及に心を砕いているという。

 

「水素が、いかにクリーンで安全なエネルギーであるかは、まだ十分に認知されていないのが現実です。FH2Rは2030年、その先の水素社会を見通す実験フィールドです。ここから生まれたエネルギーが社会で実際に使われ、次の世代では当たり前のインフラになっていく――そんな未来を描きつつ、まずは福島から足場を固めていきたいですね」(中嶋氏)

 

FH2Rは、東日本大震災で大ダメージを負った福島から次世代のエネルギーを送り出す。
2020年3月、FH2Rの開所式における安倍首相の挨拶でも「原発事故で大きな被害を受けた福島から、未来の水素社会に向けた新しいページが、今、正に開かれようとしています。街の中でも、自動車やバスが水素で走り、水素を活用した電気が利用されます。2020年、更にはその先の未来に向かって、水素社会を一気に実現していく。FH2Rは、その世界最大のイノベーションの拠点となるはずです」と政府が「水素社会」実現の要の施設として位置づけていることが明示された。本格的な福島の復興を国内外に宣言する意味でも、FH2R発の水素にかかる期待は大きい。

 

福島の復興の一翼を担っているという意識はメンバーの大きなモチベーションにもなっています。加えて、水素が周知され、火力発電などと同列のエネルギーインフラとして認められる。そんな近未来への期待があり、FH2Rは、それを実現するためのフラッグシップです。私たちが磨いてきた制御システムを実証運用することで、さらなる知見の蓄積と、その後の更なる高度な制御システムを備えたPower-to-Gasシステムの実現につなげていきます」(山根氏)

 

水素エネルギーは、未来を照らす灯火になる。震災からたくましく蘇り、目指すべき水素社会へ――FH2Rがすべての始まり、第一歩になるのだ。

関連サイト

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水素エネルギー | 東芝エネルギーシステムズ株式会社

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