ライフラインが途絶えた被災地へ 水素がもたらす大きな希望
2017/10/04 Toshiba Clip編集部
この記事の要点は...
- 被災地への電力供給の問題点とは?
- ライフラインが寸断された被災地で発電できるのはなぜ?
- 身の回りでも東芝の水素ソリューションが活躍!
東日本大震災、熊本地震、そして近い将来発生するとされる南海トラフ巨大地震――近年、政府や地方自治体は、こうした自然のもたらす脅威に備え、地震や津波のモニタリングや地震を想定した訓練など対策を進めている。
その中で課題となっているのが、災害時の電力供給だ。持ち運び可能な発電機を使用するにも燃料が必要。だが、その肝心の燃料が被災地では往々にして途絶えてしまう。今回、この課題の解消につながる東芝・世界初のシステムH2One™にフォーカスしてみよう。
「一人でも多くの命を助けよう」
災害時の電力供給に最も頭を悩ませている組織の一つが災害派遣医療チーム(Disaster Medical Assistance Team、以下DMAT)だ。DMATとは、大規模災害などの現場で、災害発生後、48時間から72時間の間(急性期)に活動できる機動性を持つ専門的な訓練を受けた医療チームのこと。
阪神・淡路大震災では、初期医療体制の遅れにより、本来ならば救命できたはずの死者が500名存在した可能性があると考えられている。「一人でも多くの命を助けよう」――そうした思いから、2005年4月、厚生労働省主導によるDMATが発足した。都道府県でも、東京や大阪をはじめとする各地でDMATが発足している。
H2One™車載モデル
DMATの活動に欠かせないのが医療活動のための電力。しかもそれは急性期の間をカバーできるものでなければならない。近年、発電用燃料を含むライフラインが寸断された災害地への電力供給源として注目されているのが再生可能エネルギーである。
だが、再生エネルギーの多くは気象条件に左右されることが多く、電力供給が不安定になりやすいという課題がある。系統電力から切り離された状態でも安定的に電力を供給するにはどうすればよいのか――そこで静岡DMATの訓練で使用されたのが東芝のH2One™だ。
DMAT本部テントの機器類に電力を供給
自立したエネルギー供給のために
H2One™とは、再生可能エネルギーから水素を「つくる」、その水素を「ためる」、そして燃料電池で「つかう」ところまでワンストップで行うエネルギー供給システムのこと。
まず、太陽光発電設備で発電し、その電気を用いて水を電気分解、水素を発生させる。そして、水素をタンクに貯蔵し、電気と温水を供給する燃料電池の燃料として活用する仕組みだ。そのため、水と太陽光のみで稼働でき、災害時にライフラインが寸断された場合でも、自立して電気と温水を供給できる。
静岡DMATの訓練では自立型水素エネルギー供給システムを輸送車両と一体化した車載型H2One™モデルが使われた。4トントラック2台で構成されていることからさまざまな場所へ移動しやすいのも特徴だ。
静岡DMATで用いられたH2One™は、従来よりも小型化することで、機動性を高め、被災地で求められる短時間での稼働を可能にした上、応急処置に欠かせない電気と温水も供給できる。またこの訓練で150時間稼働することが証明され、最大72時間、医療活動を行う必要があるという、DMAT必須の課題もクリア。従来のディーゼル電源車で問題視されていた騒音や悪臭もH2One™では克服している。
この動画は2017年10月4日に公開されたものです。
街中の東芝水素ソリューション
静岡DMATのみならず、H2One™はさまざまなところで活躍している。その一つが、川崎市臨海部の公共施設である川崎マリエン。川崎マリエンは周辺地域の帰宅困難者の一時滞在施設に指定されており、H2One™を用いることで、300名に約1週間分の電気と温水を供給することが可能だ。
また、省エネルギーや再生可能エネルギーの導入など環境に配慮した取り組みを進める「エコステ」のモデル駅としてリニューアルされたJR武蔵溝ノ口駅にもH2One™が導入されている。
このほかにもH2One™を核とした水素活用モデルが開始している。例えば、2017年には東芝府中事業所に「水素エネルギー利活用センター」を開所。
このセンターは、太陽光発電により発電した電力から水素を製造し、圧縮・蓄圧して、事業所内で運用する燃料電池フォークリフトに充填する施設である。再生可能エネルギー由来の水素を燃料として水素を製造するオンサイト型の水素ステーションといえば分かりやすいだろうか。
燃料電池フォークリフトは、稼働時にCO2を排出しないほか、再生可能エネルギー由来の水素を燃料にしているため、一貫したCO2フリーを実現している上、水素の充填時間も3分程度と非常に短い。今後、工場や物流拠点、空港といった産業分野への普及が期待される。
災害現場から都市空間まで水素が果たしていく役割は計り知れない。こうした取り組みにより、水素は私たちにとってますます身近なエネルギーとなっていきそうだ。