世の中にまだない製品を クラウドファンディングから生まれた新しいモノづくり

2016/06/22 Toshiba Clip編集部

この記事の要点は...

  • 東芝初のクラウドファンディング
  • 開発の土壌になったのは「Toshiba Startup」
  • 既存商品「FlashAir™」を使った新しいモノづくり
世の中にまだない製品を クラウドファンディングから生まれた新しいモノづくり

ネット上で製品、サービスのアイデアをプレゼンし、支援者から小口の出資を募るクラウドファンディング。身軽なベンチャー、個人の資金調達手段として定着した感がある。このほど東芝もクラウドファンディングを利用し、「TISPY(ティスピー)」を企画した。フットワーク軽く開発し、小ロットで市場に投入する―新しいモノづくりのかたちが、そこにある。

 

まず、「TISPY」について説明しておこう。「TISPY」とは無線LAN搭載SDメモリカード「FlashAir™」を用いた学習型のアルコールガジェット。呼気アルコール濃度を測定するアルコールセンサーとSDメモリカードを組み合わせた設計で、お酒を飲んでいる時でも、気軽に呼気中のアルコール濃度を測定できる仕様だ。

 

ユーザーの飲みっぷりによっては、「今日はペースが速いよ」「そろそろ水を飲んだ方が良いよ」など、有機ELディスプレイ、LED、ブザーなどで、深酒を回避するようにそっとたしなめてくれる。

TISPY

測定データを蓄積していくことで、ユーザーの飲酒ペースを学習し、よりパーソナライズされたアドバイスをくれるようにも。翌日にダメージが残り、ビジネスやプライベートに及ぶであろう悪影響もスマートに回避。大人の振る舞いを手助けしてくれるお役立ちガジェットといえるだろう。

TYSPYがあればスマートにお酒を飲める

企画・開発に携わった東芝メモリ事業部の米澤遼氏によると、「TISPY」の原型は米澤氏が自作した電子工作ガジェット「酔ったー(よったー)」。こちらもFlashAir™とアルコールセンサーを組み合わせたもので、呼気からアルコール値を検出。その値をベースに「酔った」などのつぶやきをTwitterに自動投稿する仕組みだ。

「TISPY」の開発機と、企画のきっかけとなった同人誌
「TISPY」の開発機と、企画のきっかけとなった同人誌

基板作りを趣味にイベント、同人誌などで活動していた米澤氏だが、FlashAir™を起用した「酔ったー」はビジネスでの展開も視野に入れていたという。

 

私が注力していたのはFlashAir™の新たな活用方法の創出です。FlashAir™はSDメモリカードに無線LANの機能が入っているものですが、デジカメで撮ったデータをパソコンなどに自動送信したり、SNSにシェアしたり、といった使用がほとんど。

 

しかし、カメラだけでは市場が限定されてしまいます。何か別の形で活用してもらい、販路を広げることはできないのか―? 模索している時に、社内の新規事業公募制度『Toshiba Startup』を目にし、『酔ったー』を応募してみたのです」(米澤氏)

 

新たな社内公募制度がオープンイノベーションを活発化させた

「Toshiba Startup」に採用され、製品化に向けて動き出した米澤氏は、社内での事業化ではなく、クラウドファンディングの採用を決めた。大量生産・大量販売が既定路線のメーカー内では、実験的モデルを小ロットで製品化するのは至難の業。製品化するまでのスパン、コストが共に膨れ上がってしまうのは避けられない。新しい開発スタイルに舵を切った理由を、米澤氏はこう語る。

株式会社東芝 メモリ事業部 米澤遼氏
株式会社東芝 メモリ事業部 米澤遼氏

「『TISPY』のように、世の中にまだない製品の適正な生産量を見積もるのは極めて困難です。控えめに見積もって即日完売、在庫払底では成功とは言えませんし、作りすぎて余剰在庫を抱えてしまってもいけません。大量生産・大量販売を旨とするスタイルは、このような実験的な製品の販売には向かないのです。

 

その点、クラウドファンディングはファーストロットの数量が1台単位で正確に決められます。余計なコストをかけず、スピード重視で製品化が進められるのです。アイデアが先行した『TISPY』には最適な開発・販売モデルだといえるでしょう。大きなメーカーだからこそ採用するべき仕組みだと思います」

 

さらにクラウドファンディングは、新しいアイデアが市場にどれだけ支持されるか、お客様の声にいち早く耳を傾ける手法であり、同時に、資金の集まり方によって、開発の加速・減速・中止が決まるシビアな世界でもある。だが、米澤氏は敢えて挑戦することを選んだ。

メモリ事業部の自由な風土もチャレンジを後押しする

開発者向けにFlashAir™のアプリ、組み込み機器開発をサポートするサイト「FlashAir™ Developers」を開設したり、自由なアイデアを募る「FlashAir™ハッカソン」を開発したりと、外部のアイデアを意欲的に吸収するのがメモリ事業部の身上。メモリ事業部といえば、世界に先駆けてNAND型フラッシュメモリを開発し、業界をリードしている部門だ。そこには、企業内部と外部のアイデアを組み合わせ、革新的で新しい価値を創り出す「オープンイノベーション」に積極的な風土があったのだ。

 

米澤氏はハッカソンを通じて株式会社サイバーエージェント・クラウドファンディングとパイプを築いており、同社が運営するサービス「Makuake」の活用がスムーズに決まったという。

「TISPY」クラウドファンディング
「TISPY」クラウドファンディング

こうして、満を持してスタートした「TISPY」のクラウドファンディングは、発表当日で目標金額の150万円をクリアし、5日後には支援額は500万円に達した。6月21日現在では1,262人ものサポーターから1,335万円を集めている。東芝初のクラウドファンディングで、予想外の快進撃を見せている。

 

始まりは米澤氏が作った小さなガジェット「酔ったー」。それが「Toshiba Startup」をステップに、「TISPY」に進化してクラウドファンディングへと進んだ。「TISPY」を先駆として、今後もアイデアで勝負する新たな挑戦に期待が持てる。

 

※FlashAir™は株式会社東芝の商標です。

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