インドの経済発展のさらなる加速に向かって メイク・イン・インディアの火力発電

2016/12/21 Toshiba Clip編集部

この記事の要点は...

  • 経済成長著しいインドだが電力不足は深刻
  • 東芝の現地法人が、火力発電所向け設備に関し、エンジニアリングからサービスまで一貫して行う事業に着手
  • 現地での生産体制の整備が進められている
インドの経済発展のさらなる加速に向かって メイク・イン・インディアの火力発電

アジア経済の近未来を見据えれば、成長著しいインドの存在が見逃せない。しかし、経済面での活況に反し、電力事情はまだまだ発展途上にあるのがインドの実情。
最先端のIT技術をキャッチアップし、海外ベンチャーも次々に進出する活況の反面、慢性的な電力不足に苛まれ、たびたび大停電が発生するなどインフラ面の課題は深刻だ。

 

そこで、年間発電量で10%の電力が不足しているといわれる同国の発展を支えるべく、東芝が火力発電施設の設計(Engineering)、調達(Procurement)、建設(Construction)のすべてをワンストップで請け負う大型EPC契約を受注。2016年8月には、インド国内において素材調達から加工まで含めて一貫製造された蒸気タービン発電機を初出荷した。

 

地元州政府および日本政府関係者の支援で工場と港を結ぶ幹線道路が整備されるなど、インド国内での期待も高い。これにより、アジア経済にどのような展望が見込まれるのか? プロジェクトの全容を探ってみた。

東芝ジェイエスダブリュー・パワーシステム社(TJPS)

インドで火力発電プロジェクト始動!

インドでは早期の電力インフラ整備が求められており、第12次5カ年計画(2012-2017)では88.5GW(8,850万kW)の発電能力増強を実現する予定で、その80%が火力発電となっている。

 

そこで東芝は2012年に発電用タービンや発電機の製造販売を手がける東芝ジェイエスダブリュータービン・発電機社を設立、古くから貿易・産業の中心として栄え、現在も急速に成長するチェンナイ市を工場立地とした。

 

また、2014年には同社と東芝インド社の火力発電エンジニアリング部門を統合し、新たに東芝ジェイエスダブリュー・パワーシステム社(以下、TJPS)を設立し、プラントの一貫対応=EPC(Engineering, Procurement and Construction)と発電所のキーコンポーネントであるタービン・発電機の自社製造、およびサービス事業を一社で対応できる体制を構築した。

 

東芝ではこれまで、アンパラ、ムンドラなどの各地に電力プラントの納入実績があり、800MW(80万kW)級タービン・発電機ではインドでのトップシェアを誇っています
今後、さらにインドを含めた周辺諸国に対する事業展開のために、製造拠点を確保することが急務となりました。
しかし、文化も環境もまるで異なるインドで、東芝がこれまで培ってきた技術を発揮することは、容易ではありません。これは我々にとり、”遙かなる挑戦”であると考えています」

 

そう語るのは、今回のプロジェクトに携わる東芝・京浜事業所の斉藤陽一氏だ。
その言葉の通り、京浜事業所での高度な製造技術や品質管理のノウハウをインドに移管することは、決して容易ではなかった。

 

「12億を超える人口、800を超える言語、そして多宗教など、多彩な価値観を持つインド人との意思疎通は、やはり大変でした。
たとえば首を横に振る仕草は、インドでは肯定を意味するなど、コミュニケーションの随所に違和感を覚えます。また、時間厳守の感覚も彼らとの間に大きなギャップがありました。
そこでまずは、日本流を押し付けず、インド人の文化を尊重していることを彼らに伝えることから始めたのです」(斉藤氏)

東芝 京浜事業所 品質保証部 主務 斉藤陽一氏

東芝 京浜事業所 品質保証部 主務 斉藤陽一氏

そのうえでTJPSでは、インド人の気質に合った訓練、教育を精力的に展開。
たとえば品質レベルの明快な評価軸を設定した作業標準書を作成したり、スケジュールを可視化することで時間コストの意識を周知させたりと、随所に細かな配慮がなされたという。

“メイク・イン・インディア”のために――インド仕様の教育研修で高精度生産を実現

2014年、インド政府は“メイク・イン・インディア”政策を発表した。規制緩和などにより外資製造業を誘致し、インドを世界の製造拠点とする狙いがある。

 

今回のTJPSの取り組みも、インドで需要の高い火力発電事業のために、部品からインド国内で製造するというものだ

 

それでも、タービンや発電機のような高精度が求められる製品を、現地で生産できるレベルまで持っていくのは、並大抵の事業ではない。
2015年1月から現地工場に赴任し、生産管理を統括するTJPSの工場責任者の坂本太郎氏は次のように語る。

 

「図面などのドキュメントが大事なのはもちろんですが、そうかといって、図面だけでは製品はできません。熟練したスキルやノウハウなどを、インドのローカル従業員にも習得してもらう必要がありました。
そこでまずは、チームリーダークラスのローカル従業員を59人日本に送り、京浜事業所で品質保証、製造などの担当課で6~10カ月の実習を実施しました

東芝ジェイエスダブリュー・パワーシステム社(TJPS)工場責任者 坂本太郎氏

東芝ジェイエスダブリュー・パワーシステム社(TJPS)工場責任者 坂本太郎氏

「『日本の品質をインド価格で実現する』というゴールのためには、メンバー全員が品質に対する要求を理解し、全ての製造プロセスと製造の流れを理解することが大切でした」と語るのは品質管理部長のサンディップギア氏。

 

また、実際にこうした研修を受けた製造部のプラブ氏は、「日本での実習では、安全に関する意識や毎朝のミーティングの習慣などが身につきました」と、手応えを口にする。
インド人スタッフにとっても、東芝の高度な技術に触れることは、今後の発展に向けて大きな刺激となるに違いない。

東芝ジェイエスダブリュー・パワーシステム社(TJPS) 品質管理部のサンディップギア氏

東芝ジェイエスダブリュー・パワーシステム社(TJPS) 製造部 プラブ氏(下)

東芝ジェイエスダブリュー・パワーシステム社(TJPS) 品質管理部のサンディップギア氏(上)と製造部 プラブ氏(下)

メンテナンス、リプレース需要への対応も視野に

前述のようにインド政府では、2012年に「第12次5ヵ年計画」なる政府開発計画を掲げ、およそ88.5GW(8,850万kW)の新規発電が増強されつつある
その80%は火力を見込んでおり、今回の火力発電事業への取り組みへの期待は大きい。

 

もちろん、現地での素材調達には苦労も多いようで、2013年から現地に赴き、設備の立ち上げや発電機の製造指導を担当してきた部長の根田靖久氏は、「サプライヤーからの製品の品質管理は、やはり一朝一夕にはいきません。実際に相手先まで出向き、要所要所の立ち会いを行って、品質を向上していただくことに務めました」と、その苦労を語る。

東芝ジェイエスダブリュー・パワーシステム社(TJPS)技術移転部門部長 根田靖久氏

東芝ジェイエスダブリュー・パワーシステム社(TJPS)技術移転部門部長 根田靖久氏

しかし、TJPS総員にとっても、これがインドの、そして日本の将来に直結する事業であるとの意識は強い。

 

インドには発電所自体は数多く存在していますが、いずれも老朽化しており、メンテナンス、リプレースにも高い需要があります
近い将来、それらのサービスまで含めて、インドの市場に食い込めるようにしたいですね」(根田氏)

 

これからのアジアの発展に直結する、TJPSの”遙かなる挑戦”にぜひご注目いただきたい。

関連サイト

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ニュースリリース (2016-08-22):インド国産 超臨界石炭火力発電所向け大型蒸気タービン発電機を初出荷 | ニュース | 東芝

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