クレイアニメーションが魅せる ボーダーレスな世界

2018/01/31 TOSHIBA CLIP編集部

この記事の要点は...

  • 人種や文化・慣習が異なる国々で受け入れられるテレビCMとは?
  • クレイアニメーションで描く東芝の姿
  • アニメーションディレクターの伊藤有壱氏が語るCM制作の舞台裏
クレイアニメーションが魅せる ボーダーレスな世界

企業や団体が、新製品の発売やブランドイメージを新たに展開する際、メディアを通じて世間に認知してもらうための方法としてお馴染みなのがテレビCM。その表現には、共感を呼ぶ著名人やタレントを起用したり、斬新なキャッチコピーを打ち出したりと、さまざまな手法を凝らしている。

 

海外向けのCMでは、放映する国でより好感が得られるよう、ストーリーはもちろん、映像の色遣いや流れる音楽など、さまざまな点に配慮して制作している。しかし、企業イメージを伝えるブランド広告には、そのコンセプトをできるだけ統一して発信するのが理想という考え方もある。

 

企業が伝えたいブランドイメージを人種や文化・慣習が異なる国々で受け入れられるテレビCMにするにはどうすべきか。世界各国で事業を展開する企業の広告担当者は頭を悩ませるところだ。

ボーダーレスなテレビCM制作を目指して

「東芝は現在、日本をはじめとして、中国やASEAN地域、インドでエネルギー事業や水処理施設、ビル施設などの社会インフラ事業に注力していますが、やはり家電などのイメージが強いです。そのイメージを変えるためにも新しいテレビCMを展開することにしました。制作にあたっては、統一した東芝ブランドのイメージとメッセージを訴求するために、各地域や国で共通して受け入れられるCMを想定しました。各国の方々にできるだけ統一した東芝のイメージを持ってもらうにはどうしたらよいか、制作の初期段階から海外の現地法人の広告担当者に参画してもらい、一緒に創り上げていきました。」(東芝広告部・足立芳徳氏)

株式会社東芝 広告部・足立芳徳氏

株式会社東芝 広告部・足立芳徳氏

2017年8月の暑い東京。中国、シンガポール、インドから複数の広告担当者が集められ会議が始まった。

 

インドではボリウッド調の派手な映像、中国では先進技術の訴求等、各地で好まれる表現はさまざま。しかし熱い議論の結果、技術や製品、サービスを通じて社会を「形作る」という意味で「Shape」という言葉をキーメッセージに、東芝が創る快適な社会をクレイアニメーションが創る明るい未来の世界に重ね合わせて表現すれば、各国で受け入れられやすいのではという結論に至った。

 

クレイアニメーションとは、粘土で作られた人形などの造形物(クレイアート)をパラパラ漫画のように動かして動画にしたものだ。古くは1950年代に世界初のクレイアニメーションが制作されている。

 

「これなら、人種や文化・慣習の壁を超え東芝の想いを表現できるCMができるのではと思いました。しかし、一般的にイメージしにくい社会インフラというものをどう表現するかは専門家の助けが必要だと思いました。そこでクレイアニメーションで多くの作品を手掛けている伊藤有壱氏に制作の指揮をお願いすることにしました」(足立氏)

 

伊藤有壱氏はこれまでNHK教育テレビの人気番組である「プチプチ・アニメ」で放送中の「ニャッキ!」をはじめ、映画やCM作品などを数多く手掛ける、この分野をリードするアニメーションディレクターだ。伊藤氏に今回のCMの見どころや制作段階における苦労を伺いながら、テレビには映らないCM制作の舞台裏をのぞく。

伊藤有壱氏に聞く、CM制作の舞台裏とは?

―今回、CM制作の依頼を受けてどういったイメージを持ちましたか?

 

伊藤:
日本以外にも複数の国々で放映されるものだと聞いて、クレイアニメーションはすごく親和性があるものだと感じました。それと同時にすごいハードルが高いなぁというドキドキもありました。

アニメーションディレクター/演出家・伊藤有壱氏

アニメーションディレクター/演出家・伊藤有壱氏

―発電所や水処理など、一般に目に留まりにくい社会インフラのイメージをクレイアニメーションで表現することにハードルを感じましたか?

 

伊藤:
発電所や浄水場などの具体的な役割を伝えるというところにはファンタジーはないのですが、そういったものを手掛けている企業のスピリットを伝える手法としてクレイアニメーションは最適だと思いました。一方で、大人に伝えたいメッセージをファンタジーや子どもっぽいカラーに流されないようにする温度感のコントロールが難しいと感じました。

 

―社会インフラという現実的なモノとクレイアニメーションが作るファンタジーな世界観の掛け合わせは難しかったですか?

 

伊藤:
だからこそやりがいがありました。そういうところで成功したCMはなかなかないと思います。CMを見る方には幼児も高齢者もいて、それぞれの層が見たときの感じ方は違うと思います。違うものを感じながらも最終的には一つのイメージにつなげるというのは、もっともハードルが高いけどやりがいもありました。そのためにクレイアニメーションという選択がベストだと思い、自信をもってお受けしました。

クレイアニメーションで作る社会インフラのイメージ

―東芝の姿を表現するうえで、ここは難しかったというところは?

 

伊藤:
手で生み出す「Shape」というところがあるのですが、粘土をこねておしまいというということではありません。イメージや情報など、いろいろなものがネットワークでやり取りしながら、これからの未来の社会を良くしようという最後のシーンで、ネットワークを示す光の無数のラインが生き物のように行き交いし、あやとりのような形で手に戻ってくる。そしてそれが最後には蝶になり、クレイで出来た地球をひらひらと舞う。最後はそういった形のファンタジーにしました。

 

大きな未来のイメージを出すにはファンタジーという要素はすごく危険でありデリケートなのですが、成功した時の期待感を持たせるには必要なラストシーンだと思っています。そういったアイデアを出しました。

CMのラストシーン

―こういったストーリーを描くには、クレイアニメーションは最適な手法でしたか?

 

伊藤:
絵で描くアニメより、CGで精度の高いものを技術で見せるより、見る人のそれぞれの立場を超えて届くという意味で、私たちは地球で生まれて地球で出来た物に触れて暮らしているので、土を感じさせるクレイアニメーションというのは誰もが共感できると思います。

クレイアニメ制作工程

―人種・文化・慣習を超えるという点は、もはや意識する必要はありませんでしたか?

 

伊藤:
そこは関係者のみなさんと話を重ねながら、真意の部分を吸収して理解することにまずは全力を使いました。そのうえでクレイアニメーションでしかできない表現を提案し、それが今一つであれば何度でも案を出し合いました。

伝えたい「作品が持つ緊張感」とは?

―映像を見る人に「こう感じてもらいたい」ということはありますか?

 

伊藤:
私自身は演出とアニメーションのクリエートという部分で参加しました。伝えたいメッセージは東芝のスタッフが全力で考えたと思います。アニメーションの部分は私もプロとして、そのテーマを理解して、技やテイストをどう調整していくかに注力しました。

 

最後まで気にしていた部分は、発電所や浄水場などの社会インフラの重要性を理解してもらいたい年齢層の方々は子ども的な要素をみるとそれだけで興味がなくなってしまうというリスクです。そういった方がちゃんと見られる「トーン」という部分は最後まで気を抜きませんでした。

 

「トーン」を日本語に直訳するのは難しいのですが、「作品が持つ緊張感」といった感じでしょうか。リラックスを伴いながらそこに伝えたいものが確かにある。でもそれが前面に出過ぎていない。そこには大前提として「企業としての前向きな姿勢と善意」がある。そういったものをひとつのCMを見ただけで感じられるように努力しました。

 

それぞれの層で受け止め方があると思いますが、一般的に気に留められないインフラというものを身近に感じてもらえるには、クレイアニメーションは最適な手法だったのかなと思います。

 

クレイアニメーション制作における「嘘をつかずに手を動かす」という努力は、分かっていても気が遠くなる作業の集積です。そこに投じるアニメーションを作るためのクリエーターの誠意とCMにおけるメッセージは重なると思っています。その部分を通して、アニメーションの魅力の部分からテーマを感じるための大きな糸口になってもらえたら何よりです。手でアートを形作るという意味での「Shape」と東芝が社会を形作るという意味での「Shape」のコンセプトの親和性も感じてもらえればと思います。

制作現場の伊藤氏

こうして東芝グループでは、クレイアニメーションという手法を用いたテレビCMを制作。1月から順次日本を含むアジア地域を中心にTVCM、デジタル媒体などさまざまなメディアを活用し展開を開始している。

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