電力需要予測にAI導入! ディープラーニングで発電所を効率化

2018/11/21 Toshiba Clip編集部

この記事の要点は...

  • 東京電力が開催した「第1回電力需要予測コンテスト」で東芝が最優秀賞を受賞
  • 電力の「同時同量」を保つために不可欠な需要予測
  • 高精度な需要予測を実現したのは、AIによる多地点のデータ解析と予測値のブレンド技術
電力需要予測にAI導入! ディープラーニングで発電所を効率化

東京電力ホールディングス株式会社(以下、東京電力)が2017年に開催した「第1回電力需要予測コンテスト」で、東芝の研究開発センター システム技術ラボラトリーが最優秀賞を受賞した。需要が読みにくい端境期(はざかいき)にあたる9月初旬の9日間を対象に実施され、前日までの電力需要データを受け取り、翌日の電力需要を1時間単位で予測し、その精度を競い合った。

 

今回は、国内外から約100件のエントリーがあったというこのコンテストを勝ち抜いた、東芝の需要予測システムにスポットをあてよう。

新電力、再生可能エネルギーの台頭で需要予測のニーズが拡大

電力需要予測とは、電気事業者が日々の供給計画や取引計画を立てるために行われるもの。電力には「同時同量」という原則があり、需要量と供給量のバランスを常に一致させなければならない。電力はストックができず、過度な発電所の運転は事業者の損失につながるため、需要に応じた無駄のない供給が求められているのだ。2017年、東京電力が「第1回電力需要予測コンテスト」を開催した背景には、2016年の電力自由化に伴い、新電力と呼ばれる小規模事業者の増加や、太陽光発電を中心とする再生可能エネルギーの大量導入が進んだことで、効率的な供給計画の策定が難しくなり、高精度な需要予測技術のニーズが急激に高まっている事情があると考えられる。

 

従来は過去の実績値の蓄積や気象条件、イベント情報などをもとに、人力で需要量の予測作業が行われてきたが、今回の技術では、東芝がかねてより研究開発を進めていた気象予測技術、そして大きな強みであるAI技術を駆使しているのがポイント。東芝 研究開発センターの進(しん)博正氏、高田正彬氏、志賀慶明氏は次のように語る。

左から株式会社東芝 研究開発センター 進博正氏、高田正彬氏、志賀慶明氏

左から株式会社東芝 研究開発センター 進博正氏、高田正彬氏、志賀慶明氏

「需要予測の精度が低いと、余裕を持たせた供給計画を立てなければならず、その分、発電所の待機運転など無駄が生じてしまいます。そうした課題を解決するために、これまでもAIを導入する試みは存在しましたが、オペレーションや業務フローの問題から完全に自動化するには至らず、どうしても予測作業に人手が必要でした。しかし、小規模事業者が増え、予測に十分な人手を割くのが難しい現場が増えてきたことから、AI活用による高精度な自動予測の実現が急務とされてきたのです」(進氏)

 

では、長らく実用レベルに達しなかったAIによる電力需要予測技術は、今回どのようなアップデートを遂げたのか?

精度を上げる要となったデータ抽出「スパースモデリング技術」

「具体的には、過去のデータのほか、気象予測やイベント情報から将来の需要量をAIが分析。その予測値と実績値の関係をフィードバックして機械学習にかけるのが大まかな仕組みになります。そして最大のポイントは、東芝独自の気象予測データのボリューム(地点数)やバラエティ(気象要素)を従来よりも大幅に増やしている点です」(進氏)

 

これまではおよそ4万平方キロに及ぶ東京電力の供給エリアに対し、県庁所在地など6~7地点のデータを材料としていたが、今回はアメダスの観測ポイントである100地点の気象予測値を生成。さらに、スパースモデリング(※1)という機械学習の技法を駆使し、多地点の気象情報の中から電力需要に影響の大きな地点のデータを活用している。

※1:スパースモデリング
大量データの中から有意なデータを抽出するモデリング技術のこと。

多地点の気象予測データを生かすスパースモデリング技術

多地点の気象予測データを生かすスパースモデリング技術
※特許出願中
需要量に影響する重要地点を自動選別(例:時間帯による重要地点の相違)

今回のチームが結成されたのは、コンテストの募集告知を目にした進氏が、AI技術に長けた志賀氏、スパースモデリングのプロフェッショナルである高田氏にそれぞれ知見を求めたことがきっかけだという。

 

「私は、これまで工場の製造過程の中で得られる加工条件やセンサーの値などのビッグデータを用いて、品質低下の要因を特定する技術を研究開発してきました。膨大な要因候補の中から、真の要因を見つけ出すところで、スパースモデリングを用いていますが、その技術が電力需要予測に応用できるというのは、新鮮で面白い試みだと感じました。スパースモデリングはまだまだ大きな可能性を秘めており、本来の業務以外にも横展開できないかと考えていた矢先で、私としても渡りに船のお誘いでした」(高田氏)

カギを握った「アンサンブル学習技術」とは?

続いて開発陣が着目したのは、予測値と実績値の誤差。特に太陽光発電は気象条件によって発電量が変わり、需要量は人間の行動によって細かく変化するため、膨大な誤差が発生する。

 

その膨大な誤差データを、AIによって修正するサイクルを繰り返すわけだが、ここで取り入れられたのが「アンサンブル学習技術」だ。
アンサンブルとは集団のこと。AIとひとくちに言っても様々な手法があり、それらの手法を組み合わせることで予測精度の向上を図る。

 

「今回採用した、予測値と実績値の法則性を学習させる技法には、例えば夜間の精度が高い反面、昼間の気温に敏感に応答し過ぎるなど、一長一短がありました。そこで複数(集団)のAI技法を駆使し、それぞれが得意な時間帯などを分析した上で、最も精度が高くなるようブレンドしています」(進氏)

ディープラーニング予測値をブレンドするアンサンブル学習技術

ディープラーニング予測値をブレンドするアンサンブル学習技術
※特許出願中

その結果、従来方式と比較して予測誤差が0.5~1.0%減少する技法が完成。誤差が1.0%減ると、電力供給コストは約0.1%下がると言われ、仮に供給コストを年間1兆円とすれば、実に10億円もの削減が可能ということになる。

 

そうした成果が評価されての今回の最優秀賞受賞。システム全体を統括した志賀氏は、次のように振り返る。

 

「今回はこれまでの研究開発の結果をシステムにのせるだけでなく、コンテスト主催側のシステムと連携する必要があり、それを定められた期間内にすべて完遂する必要がありました。非常にタイトな進行ではありましたが、このような結果につながってホッとしています」(志賀氏)

 

当然、次の目標は実用化ということになる。開発陣は2020年までの導入を目指し、さらなる調整に励んでいる。次世代の社会づくりのために縁の下で活躍する技術のひとつとして、ぜひ引き続きご注目いただきたい。

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