シンガポールのEC市場が好調 急成長する物流を支える新システム

2016/02/24 Toshiba Clip編集部

シンガポールのEC市場が好調 急成長する物流を支える新システム

観光地としてはもちろん、多くの外国企業が進出していることでも有名なシンガポール。一時期の進出ラッシュはおさまったものの、現在でも多くの企業がシンガポールに進出している。税制や外資の規制に優位な点が多いほか、赤道直下に位置するこの国では自然災害の心配もない。津波や地震などと無縁であることから、金融機関やIT企業が重要施設をシンガポールに設置することも多い。

 

急成長するASEAN諸国の中心として存在感を放っているシンガポールだが、eコマース市場にも注目が集まっている。実際にシンガポールの郵便サービスを担うシンガポール・ポスト社は、手紙などの郵便物が減っていく中で、eコマース事業に舵をきったことで利益を拡大させた。eコマース事業での利益は全体の28%を占めており、アディダスやグルーポンなど200以上の企業が既にこのサービスを利用している。

 

その背景にはASEAN諸国では一人当たりの国民所得の上昇やインターネットの普及により、多くの消費者がPCやスマートフォンを通じてインターネットで買い物をするようになったということがある。現状では圧倒的シェアを占める企業はまだ存在していないものの、成長の初期段階であるにも関わらず、極めて厳しい競争が行われている。東南アジアのeコマース市場は、2013年から2018年にかけて年平均成長率(CAGR)37.6%で成長するともいわれており、同市場において世界で最も速いペースで成長を遂げる地域のひとつとなりそうだ。

 

しかし、その結果シンガポールをはじめとするASEAN諸国では小包量が急激に増加。その影響から、郵便事業でクレームがつくことも少なくない。再配達の場合になかなか商品が届かなかったり、不在通知が入れられていないというケースもあるほか、時には年賀状やクリスマスカードなど、その時期に届かなければ意味をなさない郵便物が遅れて届くこともあるという。今後も小包量がさらに増加していくことを考えれば、配達時間短縮やコスト低減などを実現する新しいシステム機器の導入が不可欠だ。ASEAN諸国において、物流の効率化は大きな課題のひとつとなっている。

郵便物の機械処理へ

この動画は2015年5月10日に公開されたものです。

効率化のためには、郵便物の自動処理が必須となる。東芝では、シンガポールの郵便事業会社であるシンガポール・ポスト社から郵便物自動処理システム一式を受注、2015年1月に納入を完了した。

 

このシステムは従来の郵便区分機に加え、雑誌や小包を処理するフラッツ自動仕分機(Flats Sorting Machine),小包仕分機(Parcel Sorting Machine)や、光学式文字読み取り(OCR)・バーコード認識処理、VCS(Video Coding System)などをひとつにした「統合OCRV(OCR and Video Coding)システム」、そして、運用計画や稼働情報を管理する「ITシステム」からなる。

 

発送された郵便物の表面に記載された宛先住所を自動で読み取り、配送先ごとに郵便物を区別できる。1時間あたり42,000通の高速処理と高い文字認識率が特長で、さらに低騒音・低消費電力・省スペースと環境にも配慮されたシステムだ。

 

本案件はシンガポール・ポスト社が15年前に納入したシステム・機器の一括リプレースであり、従来は26台の機器で運用されていた。本システムではそれをわずか16台の機器で同等以上の性能を達成。シンガポール・ポスト社が国内で取り扱う郵便物量の大部分の機械処理を可能にした。これにより、シンガポールの郵便事業は大きな変革を遂げることとなった。

郵便区分機

 

従来のシステムとの違い

いまやシンガポールの郵便事業を支える存在となっている本システムだが、どんなところが従来のシステムと違うのだろうか。

 

従来のシステムでは、機器が複数台ある場合、それぞれの機器にOCR装置が搭載され 個々での調整が必要だった上、住所・転居住所情報や稼働日報情報などの運用情報も個別に管理しなくてはならず、オペレーション管理は決して効率的とはいえなかった。

 

しかし本システムでは、「統合OCRVシステム」が開発されたことで煩雑だった工程がなくなるとともに、「ITシステム」により運用情報を集中管理することができるようになり、効率的なオペレーション管理を実現した。

郵便物自動処理システム

 

統合OCRVシステムと従来システムの構成比較――統合OCRVシステムでは、OCR・バーコード認識処理とVCRを集中化している。

さらに本案件では、物流という事業の性質上、現行のオペレーションを止めずに現行機器を撤去し新設機器を納入していくという高いハードルがあったが、詳細なシステム移行のトランジションプランを作成の上、コミュニケーションの質を上げサブサプライヤー含めたPJ管理を徹底する事で運用には一切支障を与える事なくスムーズに納入を完了した。

 

また、今回は「押印機能付き郵便自動区分システム」も納入している。このシステムは定形郵便と定形外郵便の区別、切手や料額印の検出、インクジェットプリンタによる押印処理、OCRに因る住所認識等、機能面がより充実したものとなっている。

 

自動選別から押印処理、区分処理までを1回の処理で実現できるうえ、1時間当たり30,000通以上の高速な処理能力を誇る。またOCR部での高い認識率や、半額印や切手の検知も非常に高精度なものとなった。

押印機能付き郵便自動区分システム

押印機能付き郵便自動区分システム

各国の郵便事業を支える存在を目指して

郵便自動処理システムの開発により、機器単体だけでなくITを含めたシステムラインナップが完成した。郵便処理システムは普段表に出てくることはあまりないが、社会への影響は大きい。

 

近年、先進国の郵便事業者は、宅配事業者との競争激化に伴い配達時間短縮やコスト低減に向け、より高性能なシステムの導入による効率化を進めている。一方、新興国の郵便事業者でも、経済発展とともに、郵便物処理の自動化の検討が活発化しており、運用サポートを含むシステム一式の調達ニーズが増加している。

 

シンガポール・ポスト社でも、同国東部でネット取引向けの物流拠点「シングポスト・リージョナルeコマース・ロジスティクス・ハブ」を起工しており、2016年7月以降に操業する予定だ。延べ床面積は55万3000平方フィートという大型施設で、2フロアの倉庫と仕分け設備を備える。物流センターが完全稼働すれば、10~15年間で30~40%の費用削減を実現できる見込みだという。今後はシンガポール以外の新興国でも、こういった物流の効率化を進める動きがますます加速していくだろう。

 

東芝の郵便自動処理システムはそういったニーズに応えるとともに、各国の郵便事業を支える存在として、これからもさらなる性能の向上を目指す。近い将来、多くの国で東芝の郵便自動処理システムが活躍する日が来るかもしれない。世界中の物流を支える最高のシステムの構築へ向け、東芝の技術はこれからも更なる進化を続けていく。

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