サイバー空間に工場をつくる?! シミュレーションで創る、最適な製造現場

2019/10/02 Toshiba Clip編集部

この記事の要点は...

  • 製造現場をサイバー空間に再現する製造プロセスシミュレーション
  • 技術者を突き動かしたのは、「変えてやる」という強い意志
  • シミュレーションで開く未来の共創
サイバー空間に工場をつくる?! シミュレーションで創る、最適な製造現場

東芝の礎を築いた創業者、田中久重と藤岡市助。東芝では、この日本近代科学技術史に大きな足跡を残すふたりの巨人の名を冠した社内表彰を設けている。その一つ、「藤岡市助賞」は、“日本のエジソン”と称された藤岡にちなみ、人々の豊かな暮らしと社会への貢献に多大な貢献のあった従業員に贈られている。「製造プロセスのシミュレーション技術開発」で2019年の同賞を受賞した生産技術センターの中川泰忠氏に、技術開発にかける思いを聞いた。

最適解を求めて苦闘することがシミュレーションの醍醐味

中川氏が取り組む「製造プロセスシミュレーション技術開発」は、電子デバイスや重電機器などの製造プロセスで、材料が変化していく様子をデジタル技術で可視化することで問題点を解決し、製造現場の効率を改善するための技術だ。

製造現場の様々なパートをシミュレーションで再現し、分析できる

製造現場の様々なパートをシミュレーションで再現し、分析できる

「製造現場で起きている現象をモデル化し、自ら制作したツールも用いてシミュレート(コンピューター上に再現)するのが我々の主な仕事です」(中川氏)

 

現実の製造プロセスで起こっている現象を、サイバー空間でモデル化してシミュレートする製造プロセスシミュレーション技術は、まさに中期経営計画「東芝Nextプラン」の核であるCPS(サイバー・フィジカル・システム)を体現する技術と言えるだろう。

 

モデル化の過程では、物理現象が互いにどのように影響しあっているのかわからない場合が多々ある。そんなときは、実際に製造現場に張り付いて、現象を徹底的に観察・分析する。
「製造プロセスに関するシミュレーションには教科書がありません。だから現場から得られる情報を含めた様々な情報をもとに、最適解を求めて苦闘するのが、この仕事の面白さであり醍醐味です」中川氏は、少し微笑みながら言った。

株式会社東芝 生産技術センター 首席技監 中川泰忠氏

株式会社東芝 生産技術センター 首席技監 中川泰忠氏

「変革」を目指す、静かなる情熱

中川氏が東芝に入社した頃、このシミュレーション技術は大きな期待をかけられている分野ではなかった。実際、生産技術センター内でも、実験や設計・製図以外は認めないという雰囲気があったという。だが、中川氏はシミュレーション技術の可能性を信じて打ち込んだ。

 

なかなか工場からの理解が得られなかったり、短納期を要求されたりすることもあり苦労しました。しかし、我々がしっかり結果を出せば、自ずと協力が得られるようになりますし、志の高い人が集まってくるものです。いずれにしても、我々の目的は製造現場に喜んでもらい、事業部に貢献することですから、そうした実績を一つひとつ積み重ねていくことしかない」と中川氏は語る。

インタビュー後の中川氏

また、現場でのデータ収集の過程で、製造現場が持っている知恵や知見が、文書として明文化されていない場合があるという。そうした「暗黙知(個人的な知識)」を「形式知(伝達可能な知識)」に変えたり、現場に眠っているデータを収集・分析したりすることも、彼らにしかできない重要な作業なのだ。

 

見える化することで、他の事業にも応用が利き、結果として東芝グループ全体のモノづくり力の底上げにつながると考えています」(中川氏)

 

生産技術センターの仕事は、いわゆる縁の下の力持ちだと中川氏は考えている。だから、あまり表舞台に立とうとしない。自分で手がけた現場の完成セレモニーより、彼の頭の中にはあるのは、次の現場のシミュレーションなのだという。

 

「華やかな表舞台で注目を浴びる部門ではありませんから。それだけに、若い人には早いうちから工場をはじめいろいろな人に会い、結果を出して喜んでもらうという成功体験を重ねていくことが大切だと思っています

 

また、製造プロセスのシミュレーション技術開発は、そのプロセスに関わる様々な分野の専門的な知識が求められるという。
関連する様々な分野の技術者と連携し、ともに生み出すという姿勢が技術者としての成長にもつながると思っています」(中川氏)

 

あらゆる分野の現象や作業を、サイバー空間で再現することができるシミュレーションは、今や欠かせない技術となっている。若い技術者には、今は注目されていない技術であっても、のちには大きな花が咲くことを信じ、変革への情熱を抱いて突き進んでほしいと中川氏は願っている。

 

生産技術センターは2020年4月に設立50周年を迎える。この間に培ってきた、シミュレーションをはじめとする様々な生産技術によって事業貢献するという姿勢は、今ではDNAとなって一人ひとりの技術者の中に脈々と流れている。

 

中川氏は、思いを込めるように言った。
「このDNAをしっかりと継承しながらも、これまでにない発想やチャレンジによって、東芝グループの成長に貢献していきたいと思います」

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