持続可能で環境に調和した エネルギーへの期待

2019/10/23 Toshiba Clip編集部

この記事の要点は...

  • 地球を守る持続可能な開発目標とは
  • 火力発電の進歩で、温室効果ガスの排出量を削減!
  • エネルギーミックスのための火力発電
持続可能で環境に調和した エネルギーへの期待

環境と調和するエネルギー – 火力発電に求められるもの

2015年9月、国連は持続可能な開発目標 (SDGs: Sustainable Development Goals) を全会一致で採択した。SDGsには17個の目標があり、7番目は「エネルギー:すべての人々の、安価かつ信頼できる持続可能な近代的なエネルギーへのアクセスを確保する」であり、13番目は「気候変動:気候変動及びその影響を軽減するための緊急対策を講じる」となっている。

 

同じ2015年に開催された国連気候変動枠組条約締約国会議においてもパリ協定が合意され、翌年に発効された。パリ協定では、先進国、発展途上国を問わずすべての参加国に温室効果ガスの排出削減の努力を求めている。日本は、2030年の温室効果ガスの排出を2013年比26%減とすることを目標にしている。

 

気候変動に関わる取り組みは、国だけにとどまるものではない。金融安定理事会(*)によって設置された気候変動関連財務情報開示タスクフォース (TCFD: Task Force on Climate-related Financial Disclosures)は、企業に対して、ガバナンス、戦略、リスク管理、指標と目標の4項目において気候変動の影響を開示すように求めている。

 

(*) 主要25か国・地域の中央銀行、財務省、国際通貨基金(IMF)、世界銀行、経済協力開発機構(OECD)等の代表が参加し、金融システムの安定や、脆弱性への対応を担う当局間の協調促進活動等を行っている。
SDGs

世界が温室効果ガスの削減に向けて足並みを揃える一方で、OECDと国際エネルギー機関の見通し「World Energy Outlook」によると、人口増加や経済成長によって世界の電力需要は、中国やインドなどを中心に大幅に伸びると予測されている。そして、これらのエネルギーを必要とする人々の需要に応えることにも言及している。すなわち、増大するエネルギー需要に応えつつ、温室効果ガスである二酸化炭素 (CO₂) の排出量増加も抑える必要があるのだ。

 

この解決法として、太陽光や風力など、再生可能エネルギーへの期待が高まっている。しかし、現状では再生可能エネルギーの中には、エネルギー源としては変動を伴うものもあるため、維持・供給されるべき発電量 (ベースロード) を最低限賄うため、かつ、再生可能エネルギーによる変動を補い調整するために、調整電源としての役割が火力発電に期待されつつある。

 

もちろん火力発電にも、CO₂排出量削減のための進歩が求められている。東芝は、これからの火力発電の在り方として、発電効率を上げることによるCO₂排出量の削減、さらにはCO₂を回収する技術の開発と提案を行っている。

世界最高効率の火力発電でCO₂排出量を削減

CO₂の排出なくしてエネルギーを生産することができない火力発電では、無駄なく効率的に発電することによってCO₂排出量をできるだけ少なくする進歩が求められてきた。このために東芝は、二つの能力の向上を目指している。一つは、できるだけ少量の燃料から、多くのエネルギーを生産するための、発電効率の向上である。

 

東芝が発電設備を受注し、建設工事を行った中部電力の西名古屋火力発電所7-1号では、コンバインドサイクル発電設備として世界最高記録となる、発電効率63.08%(低位発熱量基準)を達成した。2018年3月の時点で、世界で最も環境負荷が少なく、電力の安定供給に貢献する火力発電プラントである。

西名古屋火力発電所7-1号

西名古屋火力発電所7-1号
●コンバインドサイクル発電の仕組み
① 燃料を圧縮空気中で燃やして発生させた高温高圧ガスでガスタービンを回して発電を行う
② ガスタービンを回し終えた排ガスの熱を利用し、排熱回収ボイラで水を蒸気に変え、蒸気タービンを回すことで発電を行う
この二段階の発電サイクルの組み合わせ (コンバイン) で効率を向上させている。
コンバインドサイクル発電の仕組み

コンバインドサイクルに限らず、火力発電の効率はタービンに入る作動流体の入り口側の温度と、出口側の温度差によって決まってくる。最終的な出口側の温度は、冷却に使用する海水温などによって決まるため、入り口の温度と出口の温度差を高くするためには、入り口側の温度を上げる必要がある。

 

世界最高となる発電効率を実現した西名古屋火力発電所のプラントでは、入り口側の温度を高めることを中心に発電効率の向上を実現した。しかし、既設の発電プラントでは、入り口側の温度を上げるためにはボイラ側の改修が必要となるため、この方法は使えない場合もある。

 

既設プラントの場合には、タービンや発電機部品などの改修や補修などにより対応を行っている。東芝では、ボイラの改造を行わずにプラントとして10%以上の出力向上を達成した例もあるなど、既設プラントの効率向上にも様々なノウハウを持っている。温室効果ガスの排出量削減のためには、こうした既設プラントの効率を向上させる技術も重要な役割を担う。

エネルギーミックスのための火力発電

CO₂排出量を少なくするための火力発電の進歩のもう一つは、エネルギーミックスへの貢献だ。エネルギーミックスとは、火力、原子力、水力、地熱、太陽光、風力などの様々な発電方法を組み合わせて電力を供給するという考え方。それぞれの長所を生かし、短所を補うことで、CO₂の排出量を削減しながら安価なエネルギーを作り出そうという計画だ。

 

エネルギーミックスにおいて、火力に求められる能力は、ベースロード電源および調整電源機能である。天候などの要因によって発電量が左右されてしまう太陽光発電や風力発電といった再生可能エネルギーだけでは、電力の安定供給は難しい。そこで、再生可能エネルギーの変動分を調整する機能が火力発電に求められている。

ベースロード電源の発電量

晴天の日中で太陽光による発電供給量が高いために火力発電による電力需要が低い時と、夜間や荒天時で太陽光や風力による発電供給量が低いために火力発電による電力需要の高い時では、火力発電に求められる発電力には大きな差がある。こうした、エネルギー需要の変化・変動に合わせて、自動車のアクセルを踏むように、できる限り速やかに電力供給の増減をコントロールしなければならない。

電力供給の増減をコントロール

実は、この発電量のコントロールというのは、火力発電にとってまだ課題が多い能力でもある。必要になったからといって、タービンをはじめとするプラント機器に急に高温の熱変化を加えることは、プラント機器の故障の原因となってしまうからだ。また、火力発電プラントには、最も効率のいい運転出力ポイントがある。低出力の運転では、効率が落ちてCO₂排出量の削減される割合が下がってしまうことがある。そこで、東芝では、二つの予測を行うことで、効率のいい火力発電プラントの制御を行っている。

 

一つ目の予測は、電力需要の予測。1~12時間後までの電力需要を予測して発電出力を制御する。また、予測に加えて実際の需要変化にも分単位で対応することで、必要な時に必要な量を、できるだけ効率よく発電することを目指している。

 

二つ目の予測は、発電プラントのリスクを回避するための予測。求められる電力をタイムリーに供給するためには、できるだけ素早く発電プラントを起動する必要がある。しかし、冷たい状態のタービンを急速に温めると、温度差によって電力プラントのトラブルの原因となり、ひいてはプラントの寿命を縮めてしまうことになる。

 

そこで東芝では、リアルタイムにタービンの熱応力データを取り込んで分析することで、タービンに発生する熱応力を予測しながら最適起動させることを可能にする、高度なプラント制御を行っている。また、プラント運転中に収集されたデータは、発電プラントの稼働率を上げることにも活用されている。東芝は、タービンを高度に監視しながらデータを取得し、そのデータを分析することで、起こり得る異常を事前に察知し、効率的なプラント制御を可能にしたのだ。

熱応力予測による最適起動

安定して効率的な運用を行うとともに、トラブルの予兆を検知し、必要な保守作業やメンテナンス計画を顧客とともに生み出す。こうしたソリューションの開発・提案が、効率的な発電にとどまらない価値を顧客に提供することにつながっている。

 

温室効果ガスの排出量削減と、世界的に増大するエネルギー需要への対応。二つの相反する目的の実現のため、火力発電はまだまだ進歩をし続けるだろう。

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