火力発電所の上手な使い方、指南

2020/01/29 Toshiba Clip編集部

この記事の要点は...

  • サイバー空間に、発電プラントを再現!
  • 将来のトラブルを予測して、最適なメンテナンスタイミングを知る
  • CPSは、サイバーとフィジカルの共同作業だ
火力発電所の上手な使い方、指南

どんなモノでも上手に使えば長持ちする。身の回りにある道具や電気製品など、愛着のある品々を、大切に使い続けている人も多いだろう。これは、火力発電所にも同じことが言える。
東芝は、サイバー・フィジカル・システム(CPS)テクノロジーからのアプローチによって、火力発電所の発電効率を向上させる使い方や、最大の稼働率を実現する適切なメンテナンスタイミングを提案するビジネス展開をにらんでいる。そのための実証実験を、2019年11月にメキシコの火力発電所を舞台に開始した。

他社製プラントもメンドウ見ます

火力発電プラント(設備)は、運転開始から30年を超えて使い続けられることも珍しくない。工業製品としては、非常に耐用年数の長いモノに分類される。
どんな製品でも運転開始以降、少しずつ性能が低下する。もちろん、この低下率は設計時に想定されているが、一般論として、中にはその想定された理論値に達していない場合もある。

設計時に想定された効率と実際の効率の差が、改善の可能性となる

設計時に想定された効率と実際の効率の差が、改善の可能性となる

東芝は、運転開始からある程度の期間を経過した火力発電所の効率向上を新しいビジネスとして考えている。そのための実証実験を、三井物産株式会社と共同でメキシコの「サルティージョ火力発電所」を舞台に2019年11月から行っている。「サルティージョ火力発電所」は運用・メンテナンスがしっかり行われており、大きな改善効果を出すには難しい環境だが、その難しい環境で技術面での実現性を検証することによって、将来どの程度のプラントでビジネスとしての実現性があるかの目途もつけたいと考えている。

サルティージョ火力発電所全景

サルティージョ火力発電所は、三井物産株式会社が40%を出資するエムティーファルコンホールディングス社が所有する発電所である

効率低下には、様々な原因がある。これを改善するためには、発電プラントごとに診断・解析し、改善への施策を打っていく必要がある。

 

「将来ビジネスのターゲットとして考えているのは、実証実験を行うサルティージョ火力発電所とは異なり、効率が設計時の理論値に達していないプラントです。効率が理論値に達していないということは、逆に考えれば効率向上の余地があるとも言え、我々のビジネスとしてはそういった状況にあるプラントが魅力的なターゲットになります。環境負荷低減のためにも、火力発電の効率向上は、やりがいがあります」
そう語るのは、この実証実験を主管する東芝エネルギーシステムズ株式会社 磯 景之氏だ。

東芝エネルギーシステムズ株式会社 DXビジネスデザインプロジェクトチーム サブプロジェクトマネージャー 磯 景之氏

東芝エネルギーシステムズ株式会社 DXビジネスデザインプロジェクトチーム サブプロジェクトマネージャー 磯 景之氏
(東芝デジタル&コンサルティング株式会社 発電デジタルトランスフォーメーション推進部 部長 兼務)

改善提案を行うための、発電プラントの診断・解析には、東芝が得意とする二つの分野の技術・知見を用いる。
一つは、サイバー空間に発電プラントをシミュレーション再現するデジタルツイン技術。実際の火力発電プラントの情報を基に、文字通りツイン(双子)のプラントをサイバー空間に再現して診断・解析を行う。こうした、原因個所の特定には、東芝が得意とするもう一つの得意分野である火力発電プラントに関する知見が重要な要素となる。

 

「具体的には、デジタルツインの火力発電プラントを、実運転のデータと同じ条件でシミュレーション運転した結果を機器ごとに比較して、効率低下の原因となっている問題個所の特定をしていきます」(バシェール氏)

 

アルーフバ バシェール氏は、火力発電プラント診断のスペシャリストとして、東芝グループと三井物産の合弁企業である、東芝デジタル&コンサルティング株式会社から、今回の実証実験に参画している。

東芝デジタル&コンサルティング株式会社 アルーフバ バシェール氏

東芝デジタル&コンサルティング株式会社 アルーフバ バシェール氏

「東芝には、世界中に多くの火力発電プラントを納入してきた実績と、長年の運用による蓄積データがあります」(バシェール氏)
この二つの得意分野の技術と知見を駆使して、デジタルツイン上の発電プラントから、ROI(Return On Investment:費用対効果)の最も高い熱効率の改善施策を探り出し提案する。

プラントのデータを基に再現されたデジタルツインから、様々な情報を読み取ることができる

プラントのデータを基に再現されたデジタルツインから、様々な情報を読み取ることができる

デジタル技術と、火力発電プラントへの豊富な知見。サイバーとフィジカルを融合させた、CPSテクノロジー企業を標榜する新時代の東芝ならではの取り組みと言えるだろう。

 

「デジタルツインの作成に必要な情報が得られるのであれば、他社製のプラントでも有効な施策の提案が可能です」(バシェール氏)

 

実際、実証実験が行われているサルティージョ火力発電所には、東芝製の設備や機器は使われていない。

 

「必要なデータが得られるのであれば、プラントの設置場所も問いません。現地に赴くことが難しい地域のエネルギー問題にも貢献できる可能性があると、期待しています」(磯氏)

東芝製以外のプラントでも、デジタルツインとして再現し、日本からいつでも分析できる

東芝製以外のプラントでも、デジタルツインとして再現し、日本からいつでも分析できる

デジタルツインとしてサイバー空間に再現された火力発電プラントから得られるのは、熱効率向上のヒントだけではない。
発電所の稼働率を上げるためには、プラントを停止して行われる定期的なメンテナンスは欠かせない。稼働率を最大にするためには、適切なタイミングでのメンテナンスが必要だが、この適切なタイミングの見極めにも、デジタルツインによるプラントの解析が有効だ。

いつ故障するかわかれば、適正なタイミングでのメンテナンスが可能

いつ故障するかわかれば、適正なタイミングでのメンテナンスが可能

「デジタルツインのシミュレーションにより、いつ頃、どんな異常が発生するか予測することができます」(磯氏)

デジタルツインを使って将来の状態を予測し、適切なメンテナンスタイミングを知る

デジタルツインを使って将来の状態を予測し、適切なメンテナンスタイミングを知る

いつ故障するかわかれば、最適なタイミングでメンテナンスを行うことができる。そうなれば、最大の稼働率を得ることができるだろう。また、故障による修繕コストの抑制も期待できる。

 

「再生可能エネルギーが増えてくる流れの中でも、電力の需給バランスをとる重要な役目を担う火力発電をできるだけ効率よく行うために、デジタル技術を利用するのです」(磯氏)

デジタルとフィジカルをつなぐモノ

今回のプロジェクトは、デジタル技術によって、フィジカル技術を向上させるという、二つの異なるジャンルをつなぐ取り組みだ。これは、東芝社内でデジタル分野を専門とする部門と、火力発電プラントというフィジカルの分野を専門とする二つの部門がタッグを組んだ、共創なのだ。
磯氏の当初のミッションは、東芝グループのエネルギー領域におけるデジタルトランスフォーメーション戦略の立案だった。

 

「デジタルとフィジカルの組み合わせで考えられる、様々なストーリーの中から、まずは小さな成功例を一つ作ることを目指しました」(磯氏)

エネルギー領域におけるCPSストーリーの、小さな成功例を作ることを目指した

エネルギー領域におけるCPSストーリーの、小さな成功例を作ることを目指した

そうした中で、デジタル技術による火力発電プラントの効率向上というプランが浮かび上がった。だが、東芝グループ内の火力発電を専門とする部署でも、同じゴールを目指した同様の技術開発が行われていた。ゴールが同じ故に、最初はわかり合えないことも多かったそうだ。

 

「融合のためには、しっかりとした信頼関係が必要だと考え、納得がいくまで、何ヶ月もかけてじっくりと話し合いました。だからこそ、わかり合えた時には、強力なパートナーとなれたのです」(磯氏)

 

デジタルとフィジカルの融合は、意外にも泥臭く、熱い魂のぶつかり合いから始まったのかもしれない。こうして東芝グループの二つの部門が強く結びつき、プロジェクトは進んできた。

 

「我々が次に取り組んだのは、パートナーとの共創でした」(磯氏)

 

今回のプロジェクトのパートナーである三井物産株式会社は、海外での知見と強力なネットワークを持っている。

 

「三井物産様と組んでいることで、広く海外への展開が期待できます。CPSのいいところは、デジタルのチカラで、距離も時間も超えられることですから」(磯氏)

 

1990年代、イギリスに端を発する電力自由化が世界に広がった。各国の大手電力事業者も国境を越えて進出を始めた。日本においても、2000年代以降、三井物産をはじめとする商社と電力会社がパートナーとなり、海外IPP(Independent Power Producer:独立系発電事業者)事業に参画するケースが増加してきた。
メキシコにおいては、2016年に電力制度改革があり、それに伴い事業者のニーズも変化。発電コストの低減と、稼働率の向上が、喫緊の課題となっていた。

電力制度改革により、メキシコの火力発電は、効率・稼働率の向上が新たな課題となった

電力制度改革により、メキシコの火力発電は、効率・稼働率の向上が新たな課題となった

「サルティージョ火力発電所での検証の結果が良いものとなれば、発電事業者様の効率・稼働率向上に、東芝グループのCPS技術が生かせることが実証され、メキシコ及びその他の同様な事業環境におかれている地域において、我々のサービスをお使いいただけると考えています」(磯氏)

 

CPSは、フィジカルのジャンルを問わず展開していくだろう。だが、どの組み合わせでも、お客様と東芝、東芝グループ内、そして人と人との共創が、成功への力となる。

 

「私たちだけではできることは限られています。しかし、様々なフェーズで様々な相手と共創することで、できることは無限に広がります。これからも、いろんな方との共創を楽しんでいきたいと思います」(磯氏)

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