使用済みプラスチックからエネルギー!? 「水素ホテル」の前例なき挑戦

2020/01/15 Toshiba Clip編集部

この記事の要点は...

  • 使用済みプラスチックをエネルギーとしてリサイクルする「水素ホテル」が川崎市に誕生
  • 川崎市内の昭和電工と東芝による企業間連携で地産地消の水素サプライチェーンをつなぐ
  • 水素社会のモデルケースを世界に広げる挑戦は続く
使用済みプラスチックからエネルギー!? 「水素ホテル」の前例なき挑戦

プラスチックがもたらす海洋汚染は、今や全世界共通の課題だ。2019年度のG20でも主要な議題にのぼり、私たちの身の回りでもプラスチックストローの廃止やレジ袋の有料化など具体的な対策が始まっている。

 

また、2018年5月には「プラスチック資源循環戦略」が策定され、プラスチックを廃棄物にせず、有効活用していく具体的なロードマップが敷かれるなど、官民一体で対策を急ぐ。

 

その一つの答えは意外にも都心から目と鼻の先にあった。神奈川県川崎市が進める先進的な取り組み「川崎水素戦略」だ。今でこそ毎年人口が増加し続ける人気エリアだが、かつては公害に悩まされた苦い過去を持つ。だからこそ、川崎市には公害を克服する過程で蓄積された優れた環境技術を持つ企業が数多く集まっており、川崎市はそれらの企業と共に水素エネルギーの積極的な導入と利活用を進めている。

 

その取り組みの一つとして、使用済みプラスチックから水素を地産地消する、世界でも類を見ない「水素ホテル」が2018年6月に誕生した―――プロジェクトをけん引してきた昭和電工株式会社と、プロジェクトを陰で支えた東芝エネルギーシステムズ株式会社の担当者たちの話を通してその舞台裏に迫ってみよう。

世界に類を見ない「水素ホテル」

川崎市に世界初となる「水素ホテル」川崎キングスカイフロント東急REIホテルが2018年6月1日に誕生したことは当時、大きな話題となった。使用済みプラスチックから水素を作り出し、ホテルの約30%のエネルギーを供給する画期的な取り組みだ。さらに、ホテル開業から1年間、歯ブラシやくしなどホテルで使用したアメニティ類も水素原料としてリサイクルする試験を行っており、利用者からも「自然とエコ意識が高くなる」と好評を博している。啓発にも一役買っているというわけだ。

使用済みプラスチックのリサイクルイメージ

使用済みプラスチックのリサイクルイメージ

水素サプライチェーンのピースをつなげ

この水素ホテルを実現したのは、昭和電工と東芝が持つ技術だった。
「このプロジェクトは、使用済みプラスチックとホテルをつなぐサプライチェーンを一つずつつないでいく作業です。川崎市内における水素サプライチェーンをどうつないでいくかが重要でした」昭和電工株式会社 川崎事業所 企画グループマネージャーの高山翔太郎氏はこう振り返る。

昭和電工株式会社 川崎事業所 企画グループマネージャー 高山翔太郎氏

昭和電工株式会社 川崎事業所 企画グループマネージャー 高山翔太郎氏

昭和電工は、1日あたり195tの使用済みプラスチックをリサイクルし、アンモニアの原料として利用する画期的な製造プロセス「川崎プラスチックリサイクル(KPR)」を導入・稼働している。水素ホテルで使っているのは、この過程で分解・抽出された水素であり、水素社会サプライチェーンを実現するには水素を電力と熱に変える技術が必要だった。

 

一方、川崎市に本社を置く東芝エネルギーシステムズ株式会社では、1960年代から培ってきた燃料電池技術を応用し、CO2を排出することなく水素を電力と熱に変換する純水素燃料電池システム「H2Rex™」を製品化。すでに青果市場やコンビニエンスストアなど100カ所以上での導入事例があった。

 

この二つの技術がマッチングするのにそう時間はかからなかったが、水素サプライチェーン構築への道のりは容易ではなかった。

 

純水素燃料電池システム「H2Rex™」にとって、「水素ホテル」のような大規模なホテルへの導入は初めての事例。試運転の際に、ホテルの電力負荷が想定以上に急激な変動をしていることが分かり、独自の制御を加える必要があった。

 

「他の事例から得られた知見を取り入れながら試行錯誤を繰り返し、システムが無事に完成したのはホテルオープンの数日前のことでした。オープンに間に合うかどうか焦りはありましたが、昭和電工さんと当社の営業・技術部隊が一丸となって、ホテルへ安定的に電力を供給する燃料電池システムを作り上げることができました」(東芝 阿部氏)

東芝エネルギーシステムズ株式会社 水素エネルギー事業統括部 システム設計部 主務 阿部孝彦氏

東芝エネルギーシステムズ株式会社 水素エネルギー事業統括部
システム設計部 主務 阿部孝彦氏

しかし、導入に向けてさらなる課題が待ち受けていた。

水素パイプラインをつなぐ難しさ

川崎市の殿町地区は「殿町国際戦略拠点キングスカイフロント」として国家戦略特区に指定され、世界最高水準の研究開発と新産業創出を担うオープンイノベーション拠点として整備が進む高度インフラ地区。

 

「殿町キングスカイフロントは再開発地区ということで建物が建設される前から協議させていただくことができ、条件が恵まれていたのは事実です。しかし、それで全てが解決したわけではありません。ホテルまで水素のパイプラインを接続するには1km延伸する必要があったのです。水素パイプラインを通すことは滅多にない取り組みですので、なかなか前に進まず途方に暮れることもありました」(昭和電工 高山氏)

 

パイプラインによって水素の大量・安定供給が可能になり、輸送時に二酸化炭素を排出しないため、低炭素化にも貢献できる。既存のエネルギー利用に対し、サプライチェーン全体で二酸化炭素の排出量を約8割削減することが可能になる試算というから驚きだ。

 

「ホテルに水素パイプラインをつなげることは極めて珍しい取り組みです。普段は接することのない様々な官公庁、パートナー企業、町内会など関係するあらゆるステークホルダーに説明して回り、何とか実現することができました」(昭和電工 高山氏)

 

関係者間の協議は、足かけ2年間にも及んだ。そして、2018年6月、ついに水素のサプライチェーンがつながった。

左)昭和電工内 水素製造装置 (右)東芝製 川崎キングスカイフロント東急REIホテルに導入された純水素燃料電池 システムH2RexTM

(左)昭和電工内 水素製造装置
(右)東芝製 川崎キングスカイフロント東急REIホテルに導入された純水素燃料電池 システムH2Rex™

世界に発信する「川崎モデル」

両社の今後の目標は何だろうか。

 

「ステークホルダー全員で創り上げたこの取り組みを広げていきたいですね。ホテル以外にもビルなど利用先を増やす、広く見学を受け入れるなどやるべきことはまだまだあります。海外からの見学者も近年増えており、世界中から注目されていると感じます。今や使用済みプラスチックは輸出することも難しく、各国が自分たちで何とかしなくてはならない問題。この課題を解決する水素社会のモデルケースとして様々な形で発信する必要があると考えています。『1対1』を『1対N』に増やし、世界にこういう取り組み方があるということを見せていきたい。これは、かつて公害に苦しんだ川崎市だからこそ発信する意義があると思います」(昭和電工 高山氏)

 

「水素ホテルでは、昭和電工さんと共に『ごみ』から『エネルギー』を作り出すシステムを実現することができました。使用済みプラスチックの処理は、日本だけではなく世界各地で社会問題となっています。そのような課題を抱える地域に、水素ホテルで得られたノウハウを新たなソリューションとしてグローバルに提供していきたいと思います」(東芝 鈴木氏)

東芝エネルギーシステムズ株式会社 水素エネルギー事業統括部 事業開発部主務 鈴木卓也氏

東芝エネルギーシステムズ株式会社 水素エネルギー事業統括部
事業開発部主務 鈴木卓也氏

川崎市から始まったプロジェクトが大きく世界に羽ばたき、日本の技術がプラスチック問題を解決することに期待したい。

左から、東芝エネルギーシステムズ 阿部氏、昭和電工 高山氏、東芝エネルギーシステム 鈴木氏

左から、東芝エネルギーシステムズ 阿部氏、昭和電工 高山氏、東芝エネルギーシステム 鈴木氏

関連サイト

※ 関連サイトには、(株)東芝以外の企業・団体が運営するウェブサイトへのリンクが含まれています。

【公式】川崎キングスカイフロント 東急REIホテル|羽田空港まで10分

【公式】川崎キングスカイフロント 東急REIホテル|羽田空港まで10分

Related Contents