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5Gを技術で支えたい 未踏の分野を拓く一歩


5Gを技術で支えたい 未踏の分野を拓く一歩

この記事の要点は…

誰もやったことのない5G技術の開発に踏み出す

イギリスへ渡り、フィールド実験に挑戦

ポスト5Gを見据え、変革への情熱を抱く

私たちのライフスタイルを変え、モビリティや医療・健康、製造業など多くの産業にインパクトを与える新世代通信規格「5G」。東芝もこの技術で新たな価値を創出するため、様々な研究を進めている。

5Gネットワークを高速無線で支える「バックホール通信技術」は「5Gの縁の下の力持ち 高速無線を実現する東芝の技術とは」で解説したが、本編では、次世代通信規格を支える「まだ見ぬ技術」を模索する試みにクローズアップ。「変革への情熱を抱く」技術者の思いに迫る。

株式会社東芝 研究開発センター 情報通信プラットフォーム研究所 ワイヤレスシステムラボラトリー 内田大輔氏

株式会社東芝 研究開発センター 情報通信プラットフォーム研究所 ワイヤレスシステムラボラトリー 内田大輔氏

「誰もやったことのない」5G技術の開発に踏み出す

5Gの通信システムの有線部分を無線化し、コスト削減も視野に入れながら、高速・大容量なネットワークを実現する新技術を開発する――このプロジェクトを進めたのが、株式会社東芝 研究開発センター 情報通信プラットフォーム研究所 ワイヤレスシステムラボラトリー 内田大輔氏だ。内田氏は2012年の入社以来、研究開発センターに在籍。生体センシング、MRI装置(磁気共鳴画像診断装置)、パワーエレクトロニクス、そして5Gと先端技術の研究開発に従事してきた。

「大学在学時から研究者を志してきました。私にとって、研究者とは新たなものを生み出していくイメージです。研究開発センターでは、その原点の思いを大事にしながら新たな技術の研究開発に取り組んできました。入社直後に取り組んだ生体センシングをはじめ、斬新な取り組みに関わらせてもらっています。この5G技術もその一つに他なりません」(内田氏)

5Gという技術の先進性について、内田氏は「ミリ波を使う」点に大きな魅力を感じたという。ミリ波は28GHz以上という高周波数帯。5Gで初めて携帯通信に用いられる周波数帯であり、5Gならではの高速大容量通信に最適とされる。一方、伝送距離が伸ばせないといった弱点も抱えていた。内田氏も「以前から興味を持ってミリ波について学んできましたが、何しろ『飛ばない』というイメージが強い周波数帯で、電波は1km以内のエリアにも飛ばすのが難しいのです」と語る。5Gでミリ波を活用するためには、4Gよりもさらに多くの基地局を設置し、通信網を密にしなければならない。結果として工事費など設備投資に多大なコストを要するのだ。

内田氏らが取り組んだ「5G向け超高速無線バックホール通信技術」は、超高速・大容量通信を担うミリ波帯を使いつつ、実際の通信距離に換算して5kmにあたる長距離通信も同時に実現する。5Gを快適に使いやすく、そして広範な普及へ導くものだ。

「商用サービスを開始している5Gですが、ミリ波帯はまだ使いこなせていないのが現状です。つまり、通信を支える技術者にとっては未知の領域。だったら、このミリ波を飛ばせたら面白いのではないか? 新たなチャレンジができるはずだ――そんな思いでプロジェクトに参画しました」(内田氏)

5G通信システムは携帯端末と基地局を結ぶ「アクセスリンク」、基地局とコアネットワークをつなぐ「バックホールリンク」で構成されている。東芝が5Gの高速化に取り組み始めた2016年当時、多くの通信技術者はアクセスリンクの高速化に注目していた。しかし、5Gの特長である超高速化はアクセスリンク・バックホールリンクの整備を両輪で進めなければ達成できない。

まだスポットライトが当たっていないバックホールリンクで無線化が実現できれば、5Gの技術開発では大きなアドバンテージになる。20年以上に渡るデジタル放送、無線LANの研究開発を通して東芝は放送通信インフラの技術を蓄積してきた。内田氏はこの技術基盤を足掛かりに、さらなる高みを目指していく。

「有線が前提だったバックホールリンクの無線化を目指す。これは確かに私たちの差別化につながりますが、それだけではありません。技術的には非常に難易度が高い。だからこそ、チャレンジのしがいがあるというものです」と、内田氏は当時を振り返る。こうして、5Gの通信を縁の下の力持ちとして支える研究がスタートした。

イギリスへ渡り、念願のフィールド実験に挑む

「5Gの縁の下の力持ち 高速無線を実現する東芝の技術とは」で解説したように、バックホールリンクの高速無線化を支えたのは「MIMO技術」「広帯域歪補正技術」の二つ。地デジ、無線LAN、Wi-Fiなど放送通信インフラに携わってきた東芝の技術蓄積をベースに、世界初となる高速通信技術が開花した。2016年のプロジェクト参画から2019年12月の技術発表に至る道のりを振り返り、内田氏は「目指した結果が達成できたのはチームプレーの賜物です」と語る。

「技術実験はシミュレーションからシールドルームでの実機試験、そしてフィールド試験へというステップで進みました。私はシールドルームでの試験から主導しましたが、想定する波形がなかなか出てこない……。私が所属するラボには地デジ、無線LANなどに強み、研究実績を持つ先輩が多くいます。ここでとことん聞きまくり、相談したことで地道に伝送速度を伸ばし、フィールドでの試験に進むことができました」

本技術のフィールド試験は2018年夏、2019年春の2度にわたり、イギリス・ブリストル大学周辺で行なわれた。海外で行なわれたのは、東芝欧州研究所との共同実験として企画されたこと、そして日本では実機で電波を飛ばす実験に必要な認証を取ることが難しかったためだ。内田氏はイギリスへ飛び、欧州研究所のメンバーと各1ヶ月間の実験に取り組んだ。

Rx(受信側):キャニンジ ホール(ブリストル メディカル スクール) Tx(送信側):フィジックス ビルディング(ブリストル大学)

Rx(受信側):キャニンジ ホール(ブリストル メディカル スクール) Tx(送信側):フィジックス ビルディング(ブリストル大学)

「事前に電話会議を密に行ないましたが、準備機材の海外搬出から現地でのメンバーとの意思疎通まで、大変なことが山積みでした。だけど、すごく楽しかったですね。フィールドでの実験は一度やってみたいと思っていましたし、これが誰もやったことのない、新たな技術につながる――そんなワクワクした思いしかありませんでしたね」

フィールド実験の様子

フィールド実験の様子

5Gのその先を見据える、研究者の視線

ブリストル大学の屋上に送信機を設置し、900m先に設置した受信機に電波を送る。受信側に減衰を付加する部品をつけることで、実際の通信距離5kmを模擬した。受信側・送信側でスコープをのぞき、目視で方向を調整しなければならない。目指すべき方向に電波を細く絞って発射して実験が成立するのだ。目に見えない電波を、サーチライトのように集中する難作業。朝に機材をセットして、夕方には撤収する毎日の繰り返しだ。調整と波形の測定に追われ、実験の日程はあっという間に過ぎていった。

「私は受信側に陣取り、スコープをのぞきながら『こっちから見て、もうちょっと右にして』『あなたから見て左に調整するよ』など、英語でコミュニケーションするのはなかなか大変でしたが、実際に波形が確認できた時はうれしかったですね。ただ、目指していた伝送速度20Gbpsが、なかなか達成できませんでした。研究開発センターのシールドルームと違い、実機で長距離の実験はこれほど難しいのか……と頭を抱えたこともありました」

東芝欧州研究所のメンバーとは現場で協議を重ねる。データをまとめて日本のメンバーに送り、密に連絡を取って打開策を練る。実験漬けの日々を送り、機器の調整によってシミュレーション通りの伝送速度20Gbpsが達成できたのは、帰国まであと3日というギリギリのタイミングだった。

「正直言って焦りもありました。しかし、フィールド実験の楽しさと、新たな技術がすぐそこまで見えているという興奮が、その焦りを上書きしてくれました。誰もやったことがない研究を何とか完遂したいという想いが、私をかきたてていたのかもしれません」

2019年12月の技術発表を経て、現在は事業化へ向けた可能性を探っている。フィールド実験を経験した内田氏は「風雨などの影響に鑑み、実際の運用に向けた頑強性、安定性も考えていかなければなりません。実用化に向けて、解決すべき課題はまだまだあります」と、実装に向けて意欲を燃やす。

そして、通信インフラは否応なく進化を続けていく。90年代の2G、2000年代の3G、2010年代の4G/LTE、そして5G――移動体無線技術は着実に進化してきた。2030年代のビヨンド5G、6Gを見据えた議論も始まっている。通信技術に携わる研究者として、内田氏は新潮流にどのような思いを抱いているのか。

「2030年代に訪れる6Gの時代は、移動通信がこれまでカバーできなかった宇宙などへもエリアが拡大していくと見られています。通信がつなげる世界が広がるのが楽しみでなりません。研究者として、さらに広がった世界でも安定して長距離高速通信を行なえる技術を開発し、世の中に提供できればと思います」

■関連サイト

研究開発センター

「5G無線バックホール回線(中継回線)向け伝送試験で20Gbpsの伝送速度を達成」

https://www.toshiba.co.jp/rdc/detail/1912_01.htm

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