CO₂を資源に! ~CO₂由来の燃料で飛行機を飛ばす

2023/11/07 Toshiba Clip編集部

この記事の要点は...

  • 温暖化対策が進む中、CO₂を資源化する技術「P2C」に注目!
  • CO₂由来のジェット燃料で、商用フライトを6社共創で実現へ!
  • 一人ひとりの挑戦がプロジェクトを動かし、社会課題を解決する!
CO₂を資源に! ~CO₂由来の燃料で飛行機を飛ばす

「地球温暖化の時代は終わり、地球沸騰の時代が到来した」――国連のアントニオ・グテーレス事務総長が、相次ぐ異常気象に警鐘を鳴らした言葉だ。地球温暖化がもたらす気候変動への危機感が高まる中、敵とされるCO2の排出量を減らすだけでなくゼロにする、いわゆるカーボンニュートラルの達成が求められている。世界でCO2を減らす活動や研究が日夜行われているが、さらに踏み込んで「CO2を逆に利用して資源にしてしまおう」という驚きのプロジェクトをご存じだろうか。

 

それが、「P2C(Power to Chemicals)」だ。簡単に言えば、再生可能エネルギーを利用してCO2を電気分解してCO(一酸化炭素)に変え、燃料や化学品などに利用する。CO2を資源に活用する持続可能型のビジネスモデルは、いかにして社会に実装され、価値を創出するのか。2030年、CO2由来のジェット燃料で商用フライトを実現するためには――。東芝のキーパーソンが、力強く語り始めた。

CO2を資源に――カーボンリサイクルの切り札となる技術の真価

東芝は、地球温暖化の原因の一つであるCO2を資源に捉えてリサイクルする、いわゆる「カーボンリサイクル(炭素循環型)社会」の実現に向け、研究と事業開発を進めている。その中で期待されるのがP2C(Power to Chemicals)だ。工場などから回収したCO2を電気分解してCOに変え、燃料や洋服の原料として利用するP2Cについて、東芝でプロジェクトを率いるメンバーの一人、長野敬太氏が解説する。

 

東芝エネルギーシステムズ株式会社 エネルギーアグリゲーション事業部 水素エネルギー技術部  スペシャリスト 長野 敬太氏

東芝エネルギーシステムズ株式会社 エネルギーアグリゲーション事業部 水素エネルギー技術部  スペシャリスト 長野 敬太氏

 

世界中で、カーボンニュートラルに向けて様々な研究や事業が開発されています。再生可能エネルギーを主力電源にしたり、エネルギー効率を上げたり、水素利用を拡大したり、CO2を分離・貯留したりと様々な方法があります。

 

私たち東芝の取り組みの一つが『CO2の電気分解』、すなわちP2Cです。気候変動への対処は人類の課題であり、P2C によるCO2の資源化は、CO2の削減と有効活用という一石二鳥の期待がこめられているのです

 

 CO2の削減に向け、あらゆる業界で取り組みが進む。例えば、航空業界ではICAO(国際民間航空機関)が、達成すべきCO2排出削減の目標を定めた。その主要な策の一つが、「SAF(サフ)」の利用である。SAFとは持続可能なジェット燃料であり、化石燃料を使わず、生物由来の原料などから合成され、生産・収集から燃焼までの過程でCO2排出が少ない。これからの航空業界では、SAFを安定して確保・利用することが前提になる。

 

この課題に対し、東芝は炭素循環に基づくSAFサプライチェーンを提案している。下の図の通り、CO2を回収してSAFを合成し、ジェット燃料として航空機を運用するまで一連の流れで構成される。この連環が円滑に回ればSAFを安定的に供給でき、その先にはP2Cを活用した炭素循環型社会も見えてくる。

 

P2Cによるカーボンリサイクルのイメージ図

P2Cによるカーボンリサイクルのイメージ図

 

この取り組みは環境省の委託事業に採択され、東芝をはじめとする6社が共同で取り組んでいます。私は、国内外での事業化に向けて戦略立案を進めています。

 

 参画企業と連携したり、コストを分析したり、世界の技術動向を見定めたりと、社会実装に必要なことは多様です。カーボンニュートラルの実現へ、大規模なP2Cプラントを投入していくので、東芝が培ってきたものづくりの力を発揮できます。プロジェクトに携わり、未来に向けて進めていくことに大きなやりがいを感じますね

 

東芝エネルギーシステムズ株式会社 エネルギーアグリゲーション事業部 水素エネルギー技術部  スペシャリスト 長野 敬太氏2

 

P2C実証事業における参加企業の主な役割

P2C実証事業における参加企業の主な役割

温暖化対策を一歩前へ。 理想の社会を実現する“共創”のかたち

P2Cに関わる前、長野氏は10年に渡って「CO2を分離して、回収するプラント」の建設・実証に従事してきた。その中でカーボンニュートラルにつながるP2C技術に興味を持ち、プロジェクトに手を挙げる。入社当時から一貫して、「挑戦できる環境に身を置きたい」思いがあったという。

 

大学では電気化学を専攻し、研究室で東芝の機器に触れたことで技術力に注目していました。私は、アカデミアよりも新しい技術を生かしたものづくり、事業に取り組みたいと考えていました。そこで、東芝のCO2の分離回収部門を志望したのです。

 

そこを選んだ決め手は、カーボンニュートラルに関連するプロジェクトであり、そしてこれから伸びていく事業だったから。前例がないこと、正解がないことに取り組んでみたい――それが私の初心であり、職業人としての原点です

 

CO2分離回収の業務に邁進する中、長野氏は「どんなプロジェクトも、一人では決して完遂できない」と痛感したという。プラントの計画、建設、管理と進めるには、ものづくりの技術を学び、業界知識を蓄積するだけではプロジェクトは推し進められない。見積もりから契約までの交渉、社内との連携など、プロジェクトマネージャーがこなすべき役割は多岐に渡る。そして、すべての業務で専門家を目指すのは現実的ではない。業務マニュアルやチームが蓄積してきた知見、そして個人が持っている独自のノウハウまで、メンバーと連携し、共有することの重要さを体感する日々だった。

 

「ビジネスにおいて時間は有限です。その感覚を持てば、既に調べられ発見されたことを、私自身があらためて掘り下げる必要はありません。分からないことは人に聞き、それでも不明なら初めて自分で調べる。教え合い、聞き合うことが課題を解決し、プロジェクトを前に進めます。つまり、誰にとっても貴重な時間を有効に使えるのです。

 

これは、温暖化対策のプロジェクトでは尚更です。1社で完遂できることはありません。P2Cを活用した炭素循環は新しいことであり、その世界を構築するのは東芝だけでは困難です。6社で進めるプロジェクトでは、CO2の回収や電気分解、SAFの合成、SAFを用いたフライトに至るまで、各分野の専門企業との連携が不可欠になります

CO2由来の燃料で、飛行機を飛ばせる未来へ

東芝を含めた、実証事業に参画する6社連携により、2030年代にはCO2由来のジェット燃料でフライトが実現――まさに夢のような未来に向けて、商用化を視野に入れた共創が進んでいる。長野氏は、「多くの関係者を集め、束ねて前に進んでいく存在でありたい」と語る。そのためには課題を共有し、P2CやSAFにビジネス機会を見出す企業を惹きつけていかなければ。ビジョンを語る言葉に熱がこもる。

 

東芝のP2Cは、長年の技術資産を基盤にして、世界でもトップクラスのCO2処理速度の達成と、装置の小型化、低コスト化を実現しました。現在は商用化に向け、耐久性や性能、コストとのバランスを慎重に検討しているところです。技術をさらに磨きつつ、社会への実装も進めていく。持続可能な脱炭素社会を実現するには、技術を支えるプロセス、ビジネスモデルも持続的であるべきです

 

CO2を資源に変換し、多くのビジネス関係者が活躍するが、市民にも広く周知していきたい、と長野氏は前を見据える。

 

「温暖化問題については、みなさんも異常気象などで一端を感じているでしょうが、日々の暮らしの中で自分ごととして捉えにくいと思います。しかし、気候変動による経済的な損失は多大です。

 

将来の地球環境、そして子どもたちの時代を考えれば、人類全体として取り組まなければ……私は入社以来、社会課題を解決するプロジェクトを創り出し、遂行していきたいと考えてきました。業務に臨むことが、事業収益と社会課題の解決につながる。こんな幸せなことはない、と感じています。P2Cの開発と実装のキャリアで得た知見から、さらに新たな領域で価値を創出していければと思います

 

共創で得たものを糧に、長野氏はさらに飛躍していく。社内にも、そして社外の共創企業にも、ビジョンを共有する仲間がいる。P2Cの実装を牽引する立場として、これから東芝に入社してくる人材にも大きな期待がある、と長野氏は目を輝かせた。自らを向上させていく抱負と、そして若き志への期待とは――。

 

CEATECで説明する長野氏

私には、コンサルティングやプロジェクト組成など、貪欲に吸収したいスキルが山積しています。前例のないことに取り組みたい。その初心が常に胸にあるからです。

 

そして、多様な人と関わりながら、後進もどんどん育てたい。自ら動くならば、失敗してもいい。それを糧にして次代の価値を創出してほしい。それが東芝の文化です。挑戦を恐れない気持ちを持った方を仲間に迎え、さらなる社会課題の解決に取り組んでいきたいですね

 

東芝ビル前で笑顔の長野氏

 

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