未電化地域で、新たな経済圏を共創 ~電気製品のシェアリングサービスで島嶼国の生産性向上に貢献

2023/11/09 Toshiba Clip編集部

この記事の要点は...

  • 世界には未だ「未電化地域」が多く存在し、課題となっている。
  • 東芝は再生可能エネルギーを利用し、電気製品のシェアリングに挑戦!
  • 真の社会課題の解決を目指し、パートナーとの共創が力を発揮!
未電化地域で、新たな経済圏を共創 ~電気製品のシェアリングサービスで島嶼国の生産性向上に貢献

地球上には、電気を自由に使えない「未電化地域」が数多く存在する。バヌアツ共和国――オーストラリアの東方約1,800kmに位置し、80あまりの島々が1,200km以上に渡って広がる群島国にも、電化が途上の地域がある。

(出典:総務省統計局 世界の統計2023 世界地図)

(出典:総務省統計局 世界の統計2023 世界地図)

国連の持続可能な開発目標SDGsの目標 7でも掲げられている通り、世界の未電化地域を含めたすべての人々にクリーンなエネルギーを提供し、その恩恵を享受できる世の中にする事は、グローバルで解決していくべき大きな課題の一つである。このことは、「貧困をなくそう」など他の開発目標にも貢献する。この社会課題に対し、東芝は「再生可能エネルギー×シェアリングサービス」という一つの解答を出す。バヌアツのマランパ州でサービスの実証を経て、いよいよ実装に向けて進むメンバーたち。豊かな自然に恵まれ、自給自足で幸福度の高い生活をおくる住民に、環境にやさしい電気を届けるための挑戦が始まった。

青年海外協力隊として活動した過去を持ち、プロジェクトを自分事としてリードする鈴木将男氏。デジタルやデザイン面で支援する佐藤一樹氏が、試行錯誤と今後のビジョンを語る。「もの×デジタル・デザイン」の共創は、未電化地域の生活をいかに照らすのか。

SDGs17のアイコン

未電化地域に向けた、自律型のソリューション

私たちが暮らす日本社会では発電所や電力網が整備され、電気が安定して供給される。一方、世界ではまだ多くの人々が、電気の届かない環境に暮らす。そこでは、必然的に電気製品の使用も困難だ。

そこで東芝は、「再生可能エネルギーで充電する電気製品のシェアリングサービス」に取り組む。リーダーの鈴木氏が、「Delighting Everyone Project(以下 DEP)」と名づけたプロジェクトの原点を語る。

世界には今もなお多くの未電化地域があり、青年海外協力隊員としてバヌアツに赴任した経験から、その解決は喫緊の課題と実感しています。私たち東芝はエネルギー事業に力を入れ、電力の安定供給に努めています。未電化の克服に、エネルギー企業としてできることはないか……そんな想いが、私の中に強くあったのです」(鈴木氏)

東芝エネルギーシステムズ株式会社 DX統括部 戦略企画部 エキスパート 鈴木 将男氏(所属は取材当時のもの)

東芝エネルギーシステムズ株式会社 DX統括部 戦略企画部 エキスパート 鈴木 将男氏(所属は取材当時のもの)

鈴木氏が目を向けるのは島嶼国だ。島が点々と広がり、送電線を張り巡らせることは困難だ。たとえばパプアニューギニアでは約900万人の未電化人口がいると推定されており、今回の舞台バヌアツでも約20万人。鈴木氏を課題解決に走らせたのは何か?

「2002年から2004年まで、青年海外協力隊員としてバヌアツの村落開発に携わりました。バヌアツの電化は以前から課題として認識され、今の環境でどうやって電気を届けられるかが検討されていました。

当時、太陽光発電の活用が考えられましたが、その時代の製品では利用者が負担する料金がかさみ、自給自足で自然の恩恵を享受しながら暮らす文化になじみませんでした。さらに、設備のメンテナンスも負荷がかかりました。この状況を目の当たりにし、『持続的に電力供給できる、自律的なソリューション』を宿題として考え続けてきたのです」(鈴木氏)

その後、デジタルの力を生かして新規事業を開発し、推進するDX統括部が発足した。ここに鈴木氏は所属し、「ものづくり」を基盤として、デジタルを活用した事業、オープンイノベーションを進めることになる。DXで価値を創出していこう。そんな機運が社内に満ちる中、鈴木氏はバヌアツを思った──。東芝が磨き上げてきたエネルギーというインフラの構築を、現地に沿ったかたちで提案できないか。鈴木氏の想いにDXがかけ合わされ、Delighting Everyone (すべての人を喜ばせる)Project、DEPが始動した。

「電化」から立ち上がる、新たな経済圏の鼓動

 ここでDEPのビジネスモデルを解説しよう。まず、充電式LEDランタンなどの電気製品と、太陽光発電パネルやバッテリーといった発電・充電機器が現地に提供される。こうした電気製品の貸出や返却を担うのは、現地で生活資材などを取り扱う小規模商店だ。この商店が住民とサービスの接点になり、スマートフォンの決済アプリを活用して、機器の貸出・返却などを管理する。住民は商店で利用料金を支払えば、製品にかけられたロックを解除し、様々な電気製品を使えるようになる。

DEPのビジネスモデル

DEPのビジネスモデル

商店が集めた利用料金は、現地のモバイルマネー事業者に送金される。この事業者から、サービス運営事業体(東芝関連)に対価が入り、設備やシステムを維持する費用を賄う。LEDランタンの他にも農機具、家電も扱う予定で、プロジェクトに様々なパートナー企業が参画する。電源を再生可能エネルギーとし、環境に配慮した上で自律的な電化を支えていくのだ。

ここで、デザイナーとしてプロジェクトに参加する佐藤氏に登場いただく。サービス開発や、パートナー企業と連携して現地実証の計画と実行を支援してきた。リーダーの鈴木氏の想いを形にし、事業としての輪郭を明確にする役割を担う。

「鈴木さんの想い、アイデアの種が新たな価値の創出につながりますが、事業として進むには段階を踏む必要があります。私たちはビジネスの実効性を示すため、バヌアツを訪れてニーズを確認しました。

未電化といっても、経済的に余裕のある層にはLED照明が普及し始めています。私たちが開発するサービスは、現金収入が少ない層でも、家庭の照明や仕事に電気が使える仕組みとして非常に意義があると実感しました」(佐藤氏)

株式会社東芝 CPS×デザイン部 戦略デザイン部 エネルギーシステム担当 スペシャリスト 佐藤 一樹氏

株式会社東芝 CPS×デザイン部 戦略デザイン部 エネルギーシステム担当 スペシャリスト 佐藤 一樹氏

バヌアツ政府も電力の整備に注力するが、電化は都市部で先行し、島嶼部への普及には時間がかかる。政府エネルギー省は「送電線なしで電化を進めたい」との意向を持っており、鈴木氏らが立案したDEPは政策とも合致したソリューションであることを確認できた。

そこで、ソリューションの実装を進めるため、東芝のインダストリアルIoTサービス「TOSHIBA SPINEX for Energy」の適用も決まった。このIoTサービスが、個人情報を扱うクラウド環境や、スマホ向け決済アプリを支え、安心・安全な運用を支える。

「大切な製品の貸し出し等の業務や、サービスを利用する住民の情報を取り扱うため、データを安定して保存し、安全に運用できる仕組みは必須です。そこで、TOSHIBA SPINEX for Energyを活用しました。

このソフトウェアは、様々なアプリと接続できることが特徴です。DEPでも電気製品のシェアリングだけではなく、財務的な与信や、医療などのアプリを乗せたプラットフォームとして拡大していきたいと考えています」(鈴木氏)

このプロジェクトでは、前述のように農機具や家電などもメニューに加わる予定だ。そしてTOSHIBA SPINEX for Energyをプラットフォームにして描くのは、取引データや販売網、決済の仕組みなどを備えた複合的なビジネスだ。電化をとっかかりにして、新たな経済圏が姿を表していく。

Delighting Everyone Projectの発展的構想

Delighting Everyone Projectの発展的構想

大洋州にはためく共創、デジタルが結ぶパートナーシップ

未電化地域に築かれる新たな価値は、鈴木氏、佐藤氏たち推進者の想い、現地のニーズに合致したサービス、そして東芝の技術が礎になる。これからのビジネスを育て、持続的に自律自走させるのが「共創」だ。DEPには、新興国向けの開発案件を得意とするコンサルティング企業、太平洋の島嶼国の経済的発展を支援する国際機関、現地のパートナーなど、多様な関係者が集う。

現地のみなさんが利用しやすいよう、少額決済を前提にしたソリューションにしました。様々な企業が提供する機器やソフトウェアは、あくまで手段です。私たちが想い描くのは、『その先の解決策』です」(鈴木氏)

「どうすればバヌアツでサービスが受け入れられるだろうか?新興国特有の事情をよく知るパートナー企業と、サービスのあり方や調査方法等についてディスカッションしつつ、私たちデザインチームも住民の感覚を肌で知るため現地へ行き、その感覚をチームで共有し、現地の環境や価値観に沿うよう議論を重ねました」(佐藤氏)

鈴木 将男氏と現地の方との握手

そして、プロジェクトのリーダー鈴木氏は、多様な関係者が集う意味合いを次のように語る。

バヌアツ政府はもちろんですが、国際機関や企業の協力を得てプロジェクトが進んでいます。LEDランタンからメニューを広げる中で、工具メーカーや家電メーカーもパートナーに挙がっています。多様な製品で共に社会課題を解決し、収益性も見据えて共創できればと思います」(鈴木氏)

鈴木氏、佐藤氏は、「バヌアツを足がかりにオセアニア諸国へも展開し、太平洋の未電化の問題を解決していければ」と次なるステージを展望する。遠く離れた島嶼国の端々にまで電気を届けたい。その想いから一歩が踏み出され、人と地球に優しい未来に接続する。

東芝が培ってきたエネルギー事業とはまた違った進め方ですが、磨き上げた技術が持続可能な明日を拓き、社会に貢献していくことは不変。電気製品というモノを中心にし、生活を支えるサービスへ。どんどん価値を生み出していきたいですね」(鈴木氏)

電力は、現地の生活や産業を支える基盤です。誰もが享受できるインフラを構築し、あらゆる層に電力を届けていくためには、現地の環境や事情を考慮し、大規模な電力系統の整備だけでなく、小規模・分散型の取り組みが力を発揮するでしょう。技術が先行するのではなく、あくまで現地に受け入れられるよう、ビジネスを発展していければと思います」(佐藤氏)

東芝内外から集った、Delighting Everyone Projectの面々

東芝内外から集った、Delighting Everyone Projectの面々

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