地熱発電所のトラブル発生率を減らせ! ~再エネ普及へ、東芝の挑戦

2024/01/17 Toshiba Clip編集部

この記事の要点は...

  • カーボンニュートラルに向けて、再エネの地熱発電に期待が高まる!
  • デジタルの力で、地熱発電所のトラブル予兆を診断する!?
  • ハードウェアとソフトウェア、両方の知見が導いた再エネDXとは?
地熱発電所のトラブル発生率を減らせ! ~再エネ普及へ、東芝の挑戦

地球温暖化が要因とされる豪雨などの異常気象により、日々の生活が脅かされている。そのため、社会全体としてCO2などの温室効果ガスの排出を減らし、カーボンニュートラルを目指そうとなって久しい。こうした中で私たちの暮らしがどう変わっていくのか、いまいちピンと来ない読者も多いのではないだろうか。

 

たとえば、どのように作られた電気を使うか。カーボンニュートラル実現には、自然由来の再生可能エネルギー(再エネ)を増やす必要がある。なぜなら、再エネは発電時にCO2を出さないためだ。しかしながら、この再エネには弱点があり、ただ増やせば良いという話ではない。一番の弱点は、不安定であるという事に尽きる。太陽光や、風力といったいわゆる変動再エネはその時々の自然状況で発電量が左右され、安定的に供給しづらいというわけだ。そうなると、予期せぬ停電が発生するなど我々の暮らしに当然影響する。

 

そこで重要になるのが、「エネルギーミックス」の考え方である。水力、太陽光、風力、地熱、火力、原子力といった様々な発電方法を組み合わせ、電力を供給する方法だ。それぞれが持つ長所を生かし短所を補うことで、CO2排出を削減しつつ電力を安定供給する。日本政府の2021年の「第6次エネルギー基本計画」においてもエネルギーミックスが謳われ、再エネを全体の4割近くまで増やすという野心的な計画を打ち出している。

 

2019年度2030年度の日本のエネルギー構成

日本政府のエネルギー基本計画では、2030年に再エネが約40%を占める

 

今回、再エネの中で地熱発電に注目する。米国、インドネシア、日本といった火山帯に位置する国々で開発が進むが、本格的な導入と普及にはいくつかの課題がある。その課題を解くために、発電機器などハードウェアの知見と、デジタルの力を生かしたプロジェクトを、技術者と営業の目線から語ってもらった。

期待の再生可能エネルギー「地熱発電」のポテンシャルとは?

 地熱発電――その名の通り、地球が持つ熱を利用する再エネだ。地中に浸透した雨水は地下深くのマグマで熱せられ、蒸気になる。地熱発電は、その蒸気でタービン発電機を回して電気を作る。マグマの熱はほぼ永久的といっていい。また、降雨も同じく繰り返される。これが、地熱が永続的に供給可能なエネルギーとして期待される理由である。加えて化石燃料を使わないのでCO2排出量が極めて少なく、カーボンニュートラルに貢献できる発電方法でもあるのだ。

 

電源別平均ライフサイクルCO2排出量

他の再エネと同様に、地熱発電はCO2排出量が極めて少ない

カーボンニュートラルに向けて再エネ導入が進む中、コストが安く、昼夜を問わず安定的に発電できる電力源が大きな存在感を持つ。地熱発電もそのひとつであるが、地熱発電にどれだけの期待があり、現状どのような課題があるのか。東芝エネルギーシステムズで営業を担う茂木氏に聞いた。

 

「環太平洋火山帯にある国々で、地熱発電が開発されています。地熱は火山帯で表出し、その資源量は米国、インドネシア、日本が上位を占めます。しかし、地熱資源が地下にあって目に見えないため掘削失敗のリスクや地熱資源探査に時間とコストがかかったり、温泉法や自然公園法などの各種保護規制によって発電所の建設が難しいといった課題があることから、そのポテンシャルを生かしきれていません 

 

さらに、既にある地熱発電所にも課題はあります。地中から発生する地熱蒸気量の確保・維持が困難で減衰・劣化する傾向にあることや、蒸気成分には硫黄など機器の腐食や付着を生じさせる成分を含むので、タービン発電機など主要機器の劣化が生じます。このため、機器をメンテナンスする度に発電を止めることになり、暦日利用率 ※1は60%程度にとどまっています。地熱発電所の利用率をいかに向上させるか、これも喫緊の課題です」(茂木氏)

※1 対象とする発電設備を仮に100%の出力で一定期間発電した時に得られる電力量に対する実際に発電した電力量の割合。

東芝エネルギーシステムズ株式会社 海外営業統括部 海外営業第二部 海外営業第五グループ 課長代理 茂木 千明氏

東芝エネルギーシステムズ株式会社 海外営業統括部 海外営業第二部 海外営業第五グループ 課長代理 茂木 千明氏

東芝は、1966年に日本初の本格的な地熱発電所として稼働した松川地熱発電所にタービン発電機を納入して以来、この領域で技術を蓄積してきた。2023年7月現在、累計出力約4GW(ギガワット)、63ユニットを導入しており世界トップクラスのシェアを保つ。既存の地熱発電の課題は、「いかにタービン発電機の劣化を防ぐか」、そして「いかに発電所の利用率を上げるか」だった。これらの課題をいかに決するか。入社以来、一貫して火力発電・地熱発電の制御技術に携わってきた市川氏が語る。

 

東芝は、タービン発電機の劣化に対して『スーパーローター技術』を開発しました。これは、タービンの材質やコーティングを工夫し、腐食を招く成分に対応するものです。この技術を導入した発電所は、10年以上の長期にわたってメンテナンスなしで運用でき、腐食に起因する重大な性能の低下も見られません。すなわち、タービン発電機というハードウェアの信頼性を向上できているのです。

 

さらにデジタル領域でも、私たちはIoT※2とAIを活用して価値を創造しています。プラント監視ソフトウェアEtaPROTM(エタプロ)により、発電所のさらなる利用率の向上を実現します。ハードウェアとソフトウェアの両方の知見を生かせるのが、私たち東芝です」(市川氏)

※2 従来インターネットに接続されていなかったモノが、サーバーやクラウドサービスに接続され情報交換をする仕組み

 

市川氏の言うEtaPROTMとは、どういうものか?このあと、具体的に見ていこう。

 

東芝エネルギーシステムズ株式会社 パワーシステム事業部 火力電気システム技術部 フェロー 市川 裕之氏

東芝エネルギーシステムズ株式会社 パワーシステム事業部 火力電気システム技術部 フェロー 市川 裕之氏

 IoTとAIを実装し、地熱発電所の利用率を上げる!

EtaPROTMにより、地熱発電所の利用率をさらに上げるとは、いったいどういう事なのか──。東芝は、IoT・AI技術による「発電所のトラブル予兆診断技術」を開発し、NEDO※3の国家プロジェクトにおいて、地熱発電所の利用率向上へ開発を進めてきた。それが、プラント監視ソフトウェアEtaPROTMを活用した、発電設備のトラブルをいち早く検知する取り組みである。

※3 国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構

EtaPROTMは、発電所内の各設備に取り付けられたセンサーから様々なデータを収集します。そのデータ はAI技術によって、正常な運転状態(期待値)と現在(実測値)を比較され、不具合の発生や利用率が低下する兆候を検知します」(市川氏)

 

これまで、地熱発電所のトラブルや性能の低下は、定期的な性能試験によって検知していた。これに対して、EtaPROTM を活用することで微細な変化をリアルタイムに捉えられ、トラブルの予兆を早期に検知できるようになる。その結果、適切なメンテナンスにより発電所の停止が減り、利用率が向上する。その先に見えるのは、地熱発電による安定した電力供給、地熱発電の導入拡大、そしてカーボンニュートラルへの道筋だ。

 

トラブル予兆検知のイメージ

トラブル予兆検知のイメージ

茂木氏、市川氏の活動は、日本を越えて世界に拡がった。2019年にインドネシアでも実証実験が始まり、発電設備のトラブルをEtaPROTMで検知する次世代の発電所へと進化させた。顧客に伴走している、営業の茂木氏に経緯を教えてもらおう。

 

「実証実験は、インドネシアの国営地熱発電会社のPT Geo Dipa Energi(以下 GDE社)のパトハ地熱発電所で行わせていただきました。EtaPROTMを発電設備に搭載し、実際にトラブル予兆を検知できるか、利用率が上がるかを確認しました。結果は見事なもので、トラブル発生率が20%減り、利用率は2%上がりました。これにより電力の安定供給が強化され、GDE社の売電収入も上がり、インドネシア政府からは表彰いただきました。

インドネシアは、パリ協定で2030年までに温室効果ガス排出を29%削減するという目標を掲げており、カーボンニュートラルを目指しています。東芝は、パトハ地熱発電所にタービン発電機を納入しており、プラント運転開始後のメンテンナンス対応もGDE社と継続したコミュニケーションを取っていました。こうした中、『東芝とならやってみよう』とEtaPROTMを活用いただき、今回の成果が実現しました。実証実験後もGDE社はEtaPROTM活用しており、サービス内容に満足いただいているとの評価をいただいています。なお、今回の実績を受けて、他国でも同様の依頼をいただいています」(茂木氏)

 

EtaPROの監視画面

EtaPROTMの監視画面

 

実際に、GDE社のAndisyah Purdanto氏は、東芝の持つ技術について次のように評価している。

「発電プラント機器の信頼性、利用率の向上には、アセットパフォーマンスマネジメントが不可欠です。GDE社はアセットパフォーマンス監視ツールを開発中で、性能監視、データ分析、予兆診断、効率向上などが可能なEtaPROTM を選びました。 EtaPROTM の活用により、プラント利用率の向上、信頼性の維持、コスト削減が可能になると考えています。

経験豊富な東芝の技術者の分析は、当社の意思決定プロセスにおいて重要な要素でした。現場に常駐できるデータ分析に長けた技術者数に制限がある中で、日本から発電所の機器をリアルタイムで監視してもらえる事は、今までにない有益な機能でした。東芝の迅速な対応と分析レポートにより、当社は円滑に問題に対処でき、プラントの利用率と信頼性を向上することができています。東芝は、プラント機器の知識、故障要因分析、予備品の供給、技術支援など多面的に当社をサポートしてくれる存在です

 

GDE社 メンテナンス責任者 Andisyah Purdanto氏

GDE社 メンテナンス責任者 Andisyah Purdanto氏

 ハードウェアとソフトウェア、両方の知見がある東芝のDX

実は、EtaPROTM は火力発電所用に開発されたソフトウェアで、地熱発電所での運用は初めてだった。実験当初トラブル予兆を検知できないことがあり、「新しい開発が必要」という壁に突き当たった。火力発電と地熱発電の両方に精通する市川氏は、自動車の運転になぞらえ、障壁と克服を紐解く。

 

「火力発電は、運転状態が安定しています。自動車であれば、一定速度で高速道路を走っているようなもの。正常な運転状態(期待値)と現在(実測値)の違いは、データでわかりやすいのです。一方で、地熱発電はマグマで熱せられた蒸気の状態に左右されることから火力発電と比べると蒸気の状態が不安定であるため、どこからが異常値か判定しにくい。

 

しかし、私たちには火力発電所や地熱発電所への機器納入、メンテナンスの知見とデータがあります。そのため、地熱発電の“データの揺れ”を前提にしてデータベースやソフトウェアを再構築し、EtaPROTMを進化させました。ハードウェアでの知見があるから、意味のあるソフトウェアを開発できたのです」(市川氏)

 

前述のように、実証実験は成功裏に終了。GDE社の担当者は、「このシステムのトライアルは、私たちにとってNew User Experienceだった」と笑顔を見せた。データからトラブルの予兆を検知し、利用率の向上に寄与する。IoTとAIの活用が、発電所の画期的な進化、すなわちDXをもたらしたのだ。

 

実証実験の成果は、トラブルの予兆検知にとどまらない。現在の遠隔監視から将来発電所を遠隔制御するところまで拡大できれば、運用負荷の低減や、データの高度な分析など、DXによってさらに高効率の運用も見えてくる。市川氏と茂木氏は、技術と営業それぞれの立場から、地熱発電がもたらす明るい未来に視線を向けた。

 

「今回、パトハ地熱発電所で収集したデータは、ジャカルタにあるGDE本社、東京にある東芝の両方で確認、分析できました。これは、温室効果ガスの排出削減に向けて、東芝が発電機器の運用コンサルティングも提供できることを意味します。もちろん、得られたデータは、ハードウェアとしてのタービン機器の改良にも役立てます。ハードウェアとソフトウェアを両輪で回し、カーボンニュートラルに貢献できるでしょう」(市川氏)

 

遠隔地(日本)で技術者がモニタリングする様子(イメージ)

遠隔地(日本)で技術者がモニタリングする様子(イメージ)

地熱発電所の運転を安定させ、利用率を上げることはカーボンニュートラルに直結し、その先には気候変動の解決につながると考えます。自身が母親であるということもあり、子どもたちが生きる次の時代に思いを馳せる中、持続可能な社会をどのように築いていくのか、どのような解決策をお客様にご提供できるか、チームで話し合うことがあります。私たちの取り組みが、その一端を担うことができたらと願っています」(茂木氏)

関連サイト

※ 関連サイトには、(株)東芝以外の企業・団体が運営するウェブサイトへのリンクが含まれています。

再生可能エネルギー・VPP | 東芝エネルギーシステムズ

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