量子時代の幕は開けた!東芝が量子変革を加速する
2023/12/21 Toshiba Clip編集部
この記事の要点は...
- 東芝の30年以上にわたる量子技術の開発が、業界の新境地を切り開く!
- 研究から商用化に進んだ東芝の量子技術。通信や金融など世界の主要企業と提携進む
- 実用化加速のため、英国ケンブリッジ研究所から「量子技術センター」がスピンオフ
「量子技術はもはや未来のものではなく今や実用段階にあり、すぐに使い始めるべきです。量子暗号通信(Quantum Key Distribution: QKD)は、私たちのデータを守る究極の方法で、量子時代において安全な次世代インターネットを構築する中核技術です」
こう語るのは、東芝欧州社で量子技術部門を率いるアンドリュー・シールズ氏。彼は、量子コンピューティングが社会に与える革新的な影響について、30年以上にわたって研究してきた人物だ。
2023年9月、東芝は量子技術の商用化に向け、最先端の中核拠点として「量子技術センター(Quantum Technology Centre)」を英国ケンブリッジに開設。その開所式には、英国や日本の政府高官を始め、事業パートナー、顧客、学術界の代表者など、東芝と共に量子技術の商用化を推進してきた関係者たちが集まった。
量子技術センターの開所式で挨拶する、東芝欧州社アンドリュー・シールズ氏
近年の急速な量子関連技術の発展には、目をみはるものがある。例えば、旧来のスーパーコンピューターが数千年かかる計算を、大規模な量子コンピューターは数分で完了する。その一方で、この驚くべき性能にはリスクが伴う。量子コンピューターは、その高い能力ゆえに現代の暗号化方式を意味のないものにし、世の中で最も重要な「データ」を守る多くのセキュリティシステムを危殆化(漏えい等によって危険な状態になること)させる。このことから、量子コンピューターを使った攻撃への対策を含め、セキュリティを担保する量子暗号が2028年までに30億ドル以上の市場に成長すると予測されている※1のは、驚く話しではないだろう。※1
※1 https://www.marketsandmarkets.com/Market-Reports/quantum-cryptography-market-45857130.html
イノベーションが育まれる地、英国
英国は1兆ドル※2のテクノロジー産業を有し、昨年、世界で3番目の規模の国になった。その中でも、量子技術は重要な位置を占めている。英国は、量子技術や量子セキュア通信の革新的な研究を育むテクノロジー・エコシステムの拠点であり、英国の量子スタートアップへの投資は過去10年間で世界全体の14%以上を占める。また、2023年3月に英国政府は、「世界トップレベルの量子技術経済圏を有する国にする」という目標を掲げた10年ビジョンを発表している※3。
※2 https://www.gov.uk/government/news/uk-tech-sector-retains-1-spot-in-europe-and-3-in-world-as-sector-resilience-brings-continued-growth
※3 https://www.gov.uk/government/publications/national-quantum-strategy
鏡開きの儀式(左から東芝欧州社 量子技術部門 ジェネラル・マネジャー アンドリュー・シールズ氏、英国 ビジネス・通商省 投資担当閣外相 ドミニク・ジョンソン卿、株式会社東芝 代表執行役社⾧ CEO 島田 太郎氏、駐英国日本国特命全権大使 林 肇氏、株式会社東芝 執行役上席常務 CDO、東芝デジタルソリューションズ株式会社 取締役社長 岡田 俊輔氏)
この将来性を捉え、東芝はこれまで英国において2億4,000万ポンド以上を研究開発に投資し、そのうち約1億ポンドを、先進的な量子関連技術の開発と実用化に充てた。その中には、業界をリードする量子セキュアなネットワーキングソリューションが含まれる。しかし東芝は、いかにして量子セキュア通信で最先端のイノベーションと商用化にたどり着いたのだろうか?
量子の始まり:30年来の資産
多くの人にとって、量子技術は最近になって注目を集めている印象があるかもしれない。しかしながら、実は量子技術は、東芝のDNAに30年以上前から組み込まれている。東芝は物理学、工学、コンピュータサイエンスの基礎および応用研究による革新を促進するため、初の海外研究開発拠点として英国ケンブリッジに研究所を1991年に開設。その設立当初から、量子技術への投資を続けてきた。
以降、東芝は、量子セキュアな通信技術の開発と社会実装において世界をリードしており、数々の世界初を達成して来た。1999年にはケンブリッジ研究所で量子暗号の研究を開始、2003年には光ファイバーを使って世界で初めて100kmの量子鍵配送に成功した。そして、2008年にEU出資のSECOQC(Secure Communication based on Quantum Cryptography)プロジェクトの中核パートナーとして、ウィーンで行われたヨーロッパ初の量子暗号通信ネットワーク構築に参画した。過去30年間、東芝は量子セキュアな通信の研究開発の最前線に立ち続け、自ら立てた記録だけでなく、業界全体の記録も塗り替え続けてきた。
量子技術の商用化への移行
東芝は、この数年間は純粋な研究開発から舵を切り、量子技術の商用化に向けて、これまでで積み重ねた研究知見の社会実装に注力してきた。強力な量子技術で我々の未来のデータを守れるようになった今、東芝 CDO(Chief Digital Officer)の岡田俊輔氏は、「量子時代は、研究室に閉じた遠い未来の話しではありません。量子時代の幕開けはまさに今始まったところで、量子技術を使って最も重要なデータを守る準備は既にできています」と、量子技術の強い力を活かし、将来のデータを保護する時が到来したことを訴えた。
テレビ取材を受ける、株式会社東芝 執行役上席常務CDO 岡田 俊輔氏
量子技術の商用化と迅速な普及は、既存インフラに量子技術をいかに統合しやすくするかにかかっている。その答えは、通信と技術で世界をリードする企業との協業にあった。東芝は、英国の通信大手BT社と2021年に提携し、英国国立複合材料センター(NCC,ブリストル)とモデリング&シミュレーションセンター(CFMS,フィルトン)の間で、量子暗号通信による量子セキュリティを実装したスマート製造用データの通信に成功した。
このBTとの提携では、ロンドンでの世界初※4の商用向け量子セキュアメトロネットワーク(QSMN:Quantum Secure Metro Network)の試行サービスの提供を2022年に始めるまでに至った。「ブリティッシュ・ビジネス・アワード2022」を受賞したこの実証実験では、ロンドン東部ドックランズ地区、金融拠点シティ、M4高速道沿線(M4コリドー)の拠点を量子暗号通信で接続し、Ernst & Young Global Limitedの機密データを安全に伝送した。このBTとのパートナーシップは、英国での商用量子暗号通信サービス、さらにはその先の礎となるだろう。
また2023年には、世界有数の金融機関であるHSBCが、東芝とBTが先駆けとなったQSMNにおける商用試行サービスの最初の顧客になった。この試行では、クラウドエッジシステムでAmazon Web Services(AWS)と連携することで、量子暗号通信の他地域への展開を容易にしている。HSBCは東ロンドンのカナリー・ワーフにある同社グローバル本社とバークシャーのデータセンターを量子暗号通信で繋ぎ、世界規模のオペレーションを将来のサイバー攻撃の脅威から守るための様々なユースケースを探索している。
※4 東芝グループおよびBTグループ調べ。
商用化へ向けた、次の一手
東芝が英国に置く二つの拠点、ケンブリッジ研究所と量子技術センターは、それぞれの役割は異なるが等しく重要な意味を持つ。ケンブリッジ研究所は研究開発を通じ、世界をリードする技術革新に向けて歩みを続ける。そして量子技術センターは、事業化を加速する拠点として、量子暗号通信をはじめとした量子技術の社会実装を推進する。
この新しい施設がもたらす可能性は、東芝と英国政府の両方に共有されている。岡田氏によれば、「この拠点開設は、東芝が量子社会を実現する重要なマイルストーンです。英国政府が、量子技術の発展に必須の量子技術エコシステムを構築してくれた事と、東芝への支援に感謝しています。量子技術の商用化は、東芝にとって戦略的に重要であるだけでなく、安心・安全な量子セキュア経済圏をさらに広げる意味もあります」
量子コンピューティングが、世の中で広く利用可能になる時期はまだ見えない。しかし、東芝のような先進技術を開発する企業の研究とイノベーションが実を結び、データセキュリティ問題に脅かされない、安心な量子時代を迎えられるようになるだろう。今回開催された量子技術センターの開所式には、東芝の量子事業に関わった多くの関係者が集まり、祝賀ムードが満ちる中、伝統的な「鏡開き」の儀式が行われた。樽酒の蓋が木槌で割れる音は、東芝の量子事業の新しい始まりと未来への希望を象徴している。
関連サイト
※ 関連サイトには、(株)東芝以外の企業・団体が運営するウェブサイトへのリンクが含まれています。
Quantum Key Distribution - Toshiba Europe Website
東芝の量子暗号通信 - ウェブサイト